愉悦系外道麻婆神父になりたくて!   作:伊勢うこ

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 毎度読んでいただきありがとうございます!
 リンドブルム編突入です。


聖なる地

 

 アレクシア・ミドガルは、多忙な日々を送っていた。

 

 

 甚大な被害を受けることとなった学園襲撃事件から暫く。

 魔剣士学園は例年より少し早めの夏休みへと突入していた。

 

 学園の生徒の一人であるアレクシアもまた、夏休みの間は学生らしく長期休暇を謳歌──するような暇はない。

 

 彼女はミドガル王国の第二王女である。

 王女としての務めを果たしながら、魔剣士として日々修練を重ね、自身の姉が団長を務める紅の騎士団の一員としての活動。

 忙しないながらも、充実した日々を過ごしていた。

 

 そんな中、今回彼女が赴くことになったのは聖地・リンドブルム。

 ミドガル王国の国教である聖教、その幾つかあるうちの聖地の一つであり、英雄の伝説が眠る地。

 

 アレクシアがリンドブルムに赴く理由は主に2つ。

 そこで行われる「女神の試練」という催しに来賓として加わる、というのが一つ。

 そしてもう一つは、先日聖都で起きた事件についての監査。

 

 

 監査対象であった聖教の大司祭が、何者かに暗殺されたのだ。

 今はまだ公にこそなっていないが、一部の者には既に共有されている情報。

 

 その調査をすべく、紅の騎士団の騎士を連れ監査へと乗り出したのだが──

 

(何が「聖教のことは聖教にお任せあれ」よ! あのハゲ……!)

 

 

(猫を被り)群衆へと愛想よく手を振りながら、アレクシアは内心で口汚く愚痴をこぼしていた。

 

 先日リンドブルムに到着した彼女は、監査を開始しようとした。

 だがその調査の妨げとなったのは、他でもない聖教側だった。

 

 彼女らの応対をしたのは、大司教代理として立ったネルソンという恰幅のよい司教。

 

 全く気に入らない。

 大事件が起きたというのに、まるで慌てるような様子を見せなかったことからあのハg……ネルソン代理大司教が何かを知っているのは明らか。

 口ではこちらを立てながら、所詮は小娘だと馬鹿にしているに違いない。

 

 気に入らないことはまだある。

 ちらりと横を見る。自分と同じく貴賓席に立つ銀髪の女性エルフ。

 

「みなさ〜ん! 一緒に応援しましょうね〜!」

 

 ナツメ・カフカ。

 最近人気を集める女性作家らしいが、アレクシアは一目見た時から彼女が気に入らなかった。

 態度がどうにもあざとい。

 さらにどことは言わないがとても豊満であり、それが気に入らなさに拍車をかけていた。

 決して自分と比較してなどいない。

 

 今も客席に愛想を振り撒いている。

 ご苦労なことだ。最近の作家は人気取りも仕事のうちなのか。

 

 アレクシアが横目で彼女を見ていると、視線に気づかれた。

 ナツメの視線が、アレクシアのモノと自身のモノの間で交互に行き来する。

 そして。

 

 

「フッ」

 

 

(こ、このアマっ……!?)

 

 勝ち誇ったかのように笑われた。

 しかも鼻で! 

 

 決して許してはおけない。

 王女としてではなく、一人の女性として。

 ブツが大きいだけで勝ち誇るような下品な女に、相応の報いを与えなければ気が済まない。

 

 彼女の決断の早さはまさに電撃的だった。反射とも言う。

 

 アレクシアが不埒者に裁きの鉄槌を下そうと脚を動かす──

 

 

「ネルソン司教、準備が完了いたしました」

「────っ!?」

「おぉ、ご苦労」

 

 

 ──その前に、非常に聞き覚えのある声がした。

 10年以上前から顔馴染みの、なんなら最近自分が呼びつけて話をした人物の声が。

 

 失念していた。

 ここは聖地リンドブルム。そして今日は年に一度の女神の試練。

 聖教の神父であるこの男がいても不思議ではない。

 不思議ではない、のだが。

 

「これはこれは。アレクシア王女殿下ではありませんか」

「……まぁ、コトミネ神父さまではありませんか。お久しぶりですね」

「ご無沙汰しております、殿下。殿下に来ていただけるとは、これも女神のご加護でしょうな」

「まぁ、神父さまったら。お上手ですこと」

 

 出来ればこんなところで会いたくはなかった。

 

 キレイ・コトミネ。

 ミドガル王国王都にある教会を管理する(目が死んでる胡散臭い)神父。

 

 互いに愛想笑いをしながら、しかし一方は目が嗤い、一方は鋭く睨みつけていた。

 

「おや、アレクシア王女は彼をご存知でしたか」

「えぇ、昔お会いする機会がありまして」

「そうでしたか、それはそれは。彼は今回の女神の試練の運営委員の一人でしてな。王都から態々来てもらったのですよ」

 

 何せ最近は我が聖教も忙しいもので、と宣うネルソン。

 よくもまぁ、いけしゃあしゃあと語るものだ。

 だったら大人しく監査受けろよとアレクシアは思ったが、それを表に出すことは努めて避ける。

 

「ナツメ先生とローズ王女とは、まだ面識はないでしょう。コトミネ君」

「はい。キレイ・コトミネと申します。以後、お見知りおきを」

「ローズ・オリアナです。よろしくお願いします、コトミネ神父」

「……ナツメ・カフカと申します。よろしくお願いしますね、神父さま」

 

 ……? 

 何故か、ナツメの雰囲気が一瞬おかしかったような気がした。

 違和感、と言うにもあまりに一瞬で僅かなことだが。

 気のせいだろうか。

 

「閣下、そろそろ開催のご挨拶を……」

「おぉ、そうだな。では皆様、私は一度これで」

 

 頭を軽く下げ、ネルソンは壇上へと向かって行く。

 それを機に、神父も去っていった。

 

「……少し外しますね」

「アレクシアさん? もう始まりますよ?」

「えぇ、すぐ戻ります」

 

 そのタイミングで、アレクシアは席を離れた。

 その様子を不思議に思うローズを誤魔化し、向かうのは来賓席を出た会場内部。

 

 今しがた場を去った神父の後を追った。

 

 

 

 

「おや、どうなさいましたか。アレクシア王女殿下」

「ここなら誰もいないわ。もう猫被らなくてもいいわよ」

「お互いに、というわけか」

 

 フッと小さく笑い、神父は態度を王国第二王女への態度から顔見知りの少女へのものへと崩した。

 

 会場にある通路の一角。

 一般客も聖教の関係者もいない。殆どの者はこれから始まる催しを今か今かと待ち侘びているのだから。

 

 静謐な空気の流れる空間で、王女と神父は向き合った。

 

「それで、何か私に用でもあったかね」

「なんでアンタがここにいるのよ」

「先ほど聞いただろう。私は今年の女神の試練の……」

「本当にそれだけなら、ね」

 

 もしこれが例年の通りであれば、アレクシアは何の違和感も感じなかっただろう。

 この目の前の神父が駆り出された件についても、そういうこともあるかと受け止めていたに違いない。

 だが。

 

「大司教暗殺。アンタならもう聞いているでしょう」

「如何にも。私も既にリンドブルムにいたのでな」

「今年に入ってから色んなことが起き過ぎてる。私の誘拐、学園の襲撃、そして今回の暗殺事件」

 

 今年は例年通り、と言うには些か無理があった。

 既に世間を騒がせる事が、こうも連続して起きている。

 一見して関連性はないように見えるが、偶然というにはあまりにも不自然。

 

「立て続けにこれだけのことが起きた。少なくとも内二つに関与したのは」

「シャドウガーデンか」

「……そうよ」

 

 シャドウガーデン。

 今や国際指名手配になり、王国中を騒がせる凶賊……と一般的には認識されている集団。

 確かに彼らは王都で起きた2つの事件に関わりがあるが。

 

「では、今回も彼らの仕業だと?」

「……いいえ、そうは思わない」

 

 勘でしかないが、アレクシアは少なくとも大司教を殺害したのはシャドウガーデンではないと思っている。

 

 証拠はない。根拠も曖昧。

 だが、アレクシアは二度シャドウと直接会っている。

 その経験が、彼女に訴えているのだ。

 むしろ怪しむべきは、自身を誘拐したもう一つの組織の方だと。

 

「ディアボロス教団。アンタなら、何か知っているんじゃないの?」

「君はそちらを疑っている、と。ただの神父にそこまで期待してもらえて光栄だが、生憎な」

 

 ディアボロス教団。

 こちらについても分かっていることは多くない。

 だが少なくとも実在はしている。

 

 誘拐事件では「英雄の血」とやらを求めてアレクシアを攫い、集めた血を悪魔憑きとなった人物に注入。あれは結局何の為の行為だったかは今も分かっていない。

 

 またかつての自分の婚約者(不本意)であり、誘拐事件の主犯であったゼノンもその教団と繋がりがあった。

 魔剣士学園剣術指南役という役職に就いていた彼にもその手が及んでいたことから、教団の手は王国に深く浸透していることは想像に難くない。

 ちなみにゼノンだが、その後の消息は不明なままらしい。

 

「どっちかが、或いはどっちもこの女神の試練にも現れるかもしれない。だから」

「私から情報を聞き出そうと言うわけか。なるほど」

「アンタ言ったわよね。自分はシャドウガーデンの協力者だって」

「ならばこうも言った筈だ。私は彼らに情報を渡しているに過ぎないと。素性も知らなければ、次に彼らが何をするのかなど知り得るはずもない」

 

 シャドウガーデンは、恐らくだが比較的最近になって発足した組織。

 にもかかわらず、今彼らが世間に与える影響は目を見張るものがある。

 そういう意味では、ディアボロス教団よりも不気味な集団である。

 

「なら、予想でいいわ。奴らは何が狙いなのか、それが分かれば──」

 

 わぁっと、大きな歓声が響く。

 どうやら最初の挑戦者が試練に臨むようだ。

 

「もう間も無く女神の試練が始まる。君も早く戻るといい」

「……そうするわ」

 

 アレクシアとしてはこの神父に聞きたいことはまだまだあったが、彼女は王女。

 招かれた以上、来賓としての務めを果たさなくてはならない。

 

 もと来た道を辿る。

 この聖地で、何かが起こる。そんな胸騒ぎがしてならない。

 しかし今この地にいる自分以外の誰もが、今年の女神の試練もつつがなく行われ、無事に終了すると思っているだろう。

 

 もしかしたら、何も起きないのかもしれない。

 

 女神の試練が終幕に近づくつれ、アレクシアもそう思い始めていた。

 

 

 

 女神の試練に、陰の魔人が顕現するまでは。

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 おまけ

 

「これはこれは。最高の上得意ではないか」

「誰が最高の上得意よ」

 

 アレクシアは、三度購買部を訪れていた。

 相変わらず自分以外の客がいない。

 その内潰れるんじゃないだろうか。

 

 先日購入したプレミアムケーキが想像を超えた美味しさだったため、こうして買いに来たのだ。

 

 ロールケーキはミツゴシ商会が卸している品。

 購入するだけならミツゴシの直営店で手に入るが、ここ以外では即完売になるため仕方なくここに足を運んでいる。

 その度にこの男と顔を会わせるのは癪だが、まさかロールケーキ一つのために王女の権力を振りかざす訳にもいかない。

 

「喜べ少女。とっておきの新作が入荷した」

「新作?」

 

 目の前の店員、もとい目の死んだ神父が目に見えて高揚している。

 珍しいこともあるものだ。

 

「期待に応える自信はある。まずはその目で確かめるといい。その後、君に稲妻走る」

「別に最初から期待とかしてないわよ……」

 

 新作とやらが何なのか全く気にならないわけではないが、この神父のことだ。ろくでもないものに違いない。

 アレクシアとしては目当てのブツを手に入れ次第、さっさと退散したい気分なのだ。

 

 そんな彼女の内心を知らない神父は何処からか何かを取り出した。

 

「こ、これは……!?」

「とくと御覧じろ。これが当店の新作──

 

 ──激辛麻婆豆腐だ」

 

 顕れたそれは、ただ赫かった。

 アレクシアの脳裏に何時かの悪夢、フラッシュバック。

 

「ただの麻婆豆腐ではない。紅州宴歳館・泰山監修の──」

「プレミアムロールケーキ1つ」

「……泰山──」

「プレミアムロールケーキ、一つ」

「……あたためますか?」

「結構です」

 

 

 おまけ 完

 




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