デクくんは爆豪くんを何やと思っとるんか、みたいな話。私にとっては。
これ、爆豪くんへの憧れよね。『彼には
同じヒーロー科のライバルとか仲間とかって関係のはずが、視点がフォロワーなんよ。しかも推しのやり方を制限する厄介なタイプの。
……正直なところ、この時点で割とムカついてはいた。クラスメイトをそんな風に見上げるの、あんまり良くないもん──爆豪くんやカリナちゃんやヒミ様が全然気にせんとしても。
でも流石に暴力はアレだから我慢して、個人的にオススメのトレーニングをデクくんにもやってみてもらった。
「うわ、思ったよりシンドいねこの体勢……これで何分くらい?」
「最初の目標は二時間かな」
「二時間!?」
身体作りにはめっちゃええんやで、
でもデクくんの焦りはどうも“個性”にあるみたいで。
むぅん。どうしても拘るならそっちのトレーニングも勧めてみよか。なんだかんだ言いながらカリナちゃんも案だけは出してくれたし。
「せやったらデクくん、努力の方向を逆にしてみない?」
「……逆って?」
「〔フルカウル〕、力を増やす方じゃなくて。今出せる一番小さな力の半分、更に半分、もっと半分……って」
デクくんは拳をぐーぱーしながら「……試したことないけど」と怪訝そう。『そんなの意味あるのか』って思いよるやろ。
「ホントに小さな倍率で安定させたら、それを日常生活でも切らさず続けるんよ」
「日常生活!?」
「もちろん外ではあかんで?」
「いや、そうじゃなくて」
デクくんが驚いた理由の一つは私と同じだろう。つまり『法律違反じゃないか』という。それはもう全面的に真っ当な指摘だ。
カリナちゃん達は──
『そしたらいつどこで訓練するの?』*2
『バレなきゃいーんですよお茶子ちゃん』
『私くらいになると外でも出来るよ!』
──とか言うて開き直るけどね。
あと透ちゃんは自慢することちゃうよ?
……それと、もう一つの理由は。
「いやでも【ワン、〔フルカウル〕を普段使いするっていうのは。いくらなんでも
真っ当に聞こえなくもない、『危険性』から来る驚き。
そこだけ見れば間違いではないかも知れないけど、もーっと大きな間違いの根っこ。
「じゃあ
「ぇ──、」
デクくんは言葉に詰まるけど。
そうやろ。そのはずやろ。
「家の中や自分の部屋では使えんような危なっかしいもんを、ヒーローが現場で使うわけない。せやろ?」
「ぁ、う──」
言葉に詰まって、詰まりっぱなし。
デクくんは何にも言い返せんかった。
──な・の・に。
ぐうの音も出なかったくせに、よ。
これまで通り〔フルカウル〕の出力を上げたり一撃の威力を高めたり、そういうのばっかりやりよる。
站樁も〔極小フルカウル〕も、デクくんは拒んだ。
その上でジメジメジメジメ、上手く行かなくて歯噛みばっかり。
…………ほぉーん。
もう難しいことは脇に置いて、とりあえずぼっこぼこに負かしたろうって。
そしたら爆豪くんがどんだけ凄いことに挑んでるか分かるやろって。
だから格技場だけじゃなく、相澤先生の時間も貸してもらうことにした。
強引に行こう。強引かつ徹底的に。
■九月 末
「どう、なってるんだ! 麗日さん!?」
「どうもこうもないよ。私には【抹消】が向いとるんやから」
デクくんのジャージを掴んだ右手にかかる重さは、【無重力】も〔
──でもカリナちゃんに言わせると、私が感じてる『重さ』は普通ではない、らしい。
『【無重力】のおかげかな、お茶子はバランスの感覚がくっきりはっきりしてるよね。転びそうな人とか、転ぶ前から危ないなって見抜くでしょ』
『みてヌく♥?──いきなりえっちな話せんといてや』
『…………』
『バランス崩れてたら誰でも分かるんとちゃう?』
『流したよこの子……。お茶子ほど早く気付くのは難しいと思う。言葉にできない感覚の話だけど』
「そんな、ならどうし、っが!?」
「体術に決まってるやろ。
立ってる人間ほど不安定なものなんてそうは無いのにね。緑のスパークを纏いながら畳に叩き付けられたデクくんの顔には理解不能と書いてある。
『“個性”なし・打撃なし』な捕縛・制圧系の訓練なら、私はヒミ様とも良い勝負ができる。カリナちゃんにも勝ち越してるんだ──体格が以前のままなら負けそうだけど。
『“個性”あり・打撃あり』でも、冷静さを失ったデクくんくらい。この点は相澤先生も太鼓判を捺してくれて、だからこんな訓練が許されとるんやし。
「く、そぉっ! なら──」
強引に距離を取って仕切り直すデクくん。
もちろん逃げるに任せた。そういう抜け方は訓練の範囲だと抑え込めない──デクくんを
ただどんなパワーになったって、デクくんの体重が増えとるわけやないからなぁ。極端な話やることは同じだ。
「〔フルカウル・
デクくんの身体を覆う稲妻が輝きと激しさを増した。
速い。カリナちゃんやヒミ様よりも。私が殴ったり蹴ったりしてもまず当たらないと思う。
それは間違いないけど──
「っカハッ!?」
「……デクくん、“個性”の練習ばっかしよるんやな」
──カウンターをとって投げるには大して問題じゃなかった。
だって最初の一歩から何をしたいかバレバレ*4 なんやもん。速い
“個性”も含めてなんでもアリで言えば、あの二人は私よりずっと強い。今の私じゃ全然敵わない。
だからできることは全部やる。
なぁデクくん、やれることは幾らでもあるやろ? 選り好みせんと視野広げてたら、“個性”なしの私なんかに転がされることも無かったはず。中国武術の歴史、
緑谷出久の自己評価は低い。
ただし『いつでも常に』ではない。
例えば庇護対象として……“守られるべき価値”の評価は。
確かに低い。かなり低い。『
もっともこれは、爆豪にもオールマイトにも──現役ヒーローのほとんどに大なり小なり当てはまる
逆にヒーローとして……“守るための戦力”で言えば。
緑谷は目標設定がバグっている。あまりに高いところを目指すせいで、それに対する
ただそれは相対評価であって、絶対評価となると変わってくる。
他人と(特にオールマイトと)比べずに緑谷出久という個人を測るなら、彼の自己評価に大きなズレは無い。できることはできる、できないことはできない。事実を正しく認識できている。
良くも悪くも──この場合は良い意味で──自分を特別扱いしないから。過大にも過小にも見積もらない。
だから相対評価の方も、小さな値ではあっても
理想にはまるで届かない微力でも、零ではない。
一般人よりはずっと戦える。誰かの役に立てる。
──それが
“個性”を封じられた同い年に、勝てないどころか負けている。
ならば
ならばヒーローは? ウラビティは、イレイザーヘッドは、“かっちゃん”は。自分を守ろうとしてしまう。だってヒーローなのだから。
ならば“平和の象徴”は。犯罪率の抑止は。一般人の安全は。
人々から
緑谷は事実に基づいて自己評価を改めた。
客観的に、冷徹に、理性を以て。
──
QUIRK個性ERROR
QUIRK倒顚ERROR
「麗日、ひとまずここでのことは誰にも言うな。一切、絶対に、兵怜たちにもだ」
「…………分かりました」
格技場にいたのは三人だけ。元よりお茶子が緑谷を封殺する想定だったから、少年の自尊心に配慮して見学は許可していなかったのだ。
そのおかげで口止めの対象者は少なくて済む。
「お待たせイレイザー。年寄りを急かすんじゃ──なんだい、こりゃあ」
「相澤クン、緊急とのことだ、が……? 緑谷くんは
訓練相手のお茶子、相澤に呼び出されたリカバリーガールと根津。
ひとまずはこの顔触れの間だけに留めるものとする。
【ハイスペック】の持ち主をも絶句させた緑谷の現状は、とても外に漏らせるものではない。
(少し後には根津からオールマイトへ伝えられたが、学内で知らせるのはそこまでとなった)
不幸中の幸いといえば、お茶子の怪我がごく軽いことぐらい。すぐにリカバリーガールによって完治された。
他は……これをただ“不幸”と称して足りるものやら。はっきり“異常”とする方が相応しいだろう。
雄英高校に大型
しかしこうする他に無かったのだ。
護送対象は誰にも見せられない有り様で、しかもいつ暴れ出さないとも限らないから。犯罪者でなくとも牢に仕舞うのが合理的だった。
外から分からないよう偽装された車に積み込み、その牢を運び込む先は──警察ではなく病院。
今の状態で引き渡しても警察を困らせるだけだし、リカバリーガールも自分の領分ではないと匙を投げるしかなかったから。
こんな時に頼るべき相手を、根津は一人しか知らない。
兵怜太郎──未歳根博士に分からなければ、誰にも何も分かるまい。
緑谷出久の異常な現状。
相澤たちが呻くように漏らした言葉は奇しくも一致した。見たままと言えばそれまでだが。
「黒い……“
(前書きの続き)
仮にお茶子から緑谷への友情が無ければ、『ほぉーん』の辺りで見切りをつけてそれ以上のお節介は焼かなかったはずです。
その場合こんな事態は起きてませんが。