【完結】愛慾のヒーローもどき   作:土屋 四方

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※本作のお茶子は緑谷を嫌ってるわけではありません。


4. 零じゃなかった(AFO(Ain't Futility Over))|緑谷出久:リターン

 デクくんは爆豪くんを何やと思っとるんか、みたいな話。私にとっては。

 

できもしねぇクセにしゃしゃって来んじゃねぇよウザってぇなァ!!

 

そんなこと言うな。だったらかっちゃんはもう挑まないっていうのか。

 

 これ、爆豪くんへの憧れよね。『彼には()()(我武者羅な感じ?)であって欲しい』的な、デクくんの願望。

 同じヒーロー科のライバルとか仲間とかって関係のはずが、視点がフォロワーなんよ。しかも推しのやり方を制限する厄介なタイプの。

 

 ……正直なところ、この時点で割とムカついてはいた。クラスメイトをそんな風に見上げるの、あんまり良くないもん──爆豪くんやカリナちゃんやヒミ様が全然気にせんとしても。

 

 でも流石に暴力はアレだから我慢して、個人的にオススメのトレーニングをデクくんにもやってみてもらった。

 

「うわ、思ったよりシンドいねこの体勢……これで何分くらい?」

「最初の目標は二時間かな」

二時間!?

 

 身体作りにはめっちゃええんやで、站樁(たんとう)*1って。デクくん体幹フラつきがちやし。

 

 でもデクくんの焦りはどうも“個性”にあるみたいで。

 むぅん。どうしても拘るならそっちのトレーニングも勧めてみよか。なんだかんだ言いながらカリナちゃんも案だけは出してくれたし。

 

「せやったらデクくん、努力の方向を逆にしてみない?」

「……逆って?」

「〔フルカウル〕、力を増やす方じゃなくて。今出せる一番小さな力の半分、更に半分、もっと半分……って」

 

 デクくんは拳をぐーぱーしながら「……試したことないけど」と怪訝そう。『そんなの意味あるのか』って思いよるやろ。

 

「ホントに小さな倍率で安定させたら、それを日常生活でも切らさず続けるんよ」

「日常生活!?」

「もちろん外ではあかんで?」

「いや、そうじゃなくて」

 

 デクくんが驚いた理由の一つは私と同じだろう。つまり『法律違反じゃないか』という。それはもう全面的に真っ当な指摘だ。

 カリナちゃん達は──

 

『そしたらいつどこで訓練するの?』*2

『バレなきゃいーんですよお茶子ちゃん』

『私くらいになると外でも出来るよ!』

 

──とか言うて開き直るけどね。

 あと透ちゃんは自慢することちゃうよ?

 

 ……それと、もう一つの理由は。

 

「いやでも【ワン、〔フルカウル〕を普段使いするっていうのは。いくらなんでも()()()よ!」

 

 真っ当に聞こえなくもない、『危険性』から来る驚き。

 そこだけ見れば間違いではないかも知れないけど、もーっと大きな間違いの根っこ。

 

 

じゃあ使(つこ)()()()()()やん

「ぇ──、」

 

 

 デクくんは言葉に詰まるけど。

 そうやろ。そのはずやろ。

 

「家の中や自分の部屋では使えんような危なっかしいもんを、ヒーローが現場で使うわけない。せやろ?」

「ぁ、う──」

 

 言葉に詰まって、詰まりっぱなし。

 デクくんは何にも言い返せんかった。

 

 

 ──な・の・に。

 ぐうの音も出なかったくせに、よ。

 

 これまで通り〔フルカウル〕の出力を上げたり一撃の威力を高めたり、そういうのばっかりやりよる。

 站樁も〔極小フルカウル〕も、デクくんは拒んだ。

 その上でジメジメジメジメ、上手く行かなくて歯噛みばっかり。

 

 …………ほぉーん。

 

緑谷くんは私や被身子に()()()()()()()()んだよ。

 

 もう難しいことは脇に置いて、とりあえずぼっこぼこに負かしたろうって。

 そしたら爆豪くんがどんだけ凄いことに挑んでるか分かるやろって。

 

 だから格技場だけじゃなく、相澤先生の時間も貸してもらうことにした。

 強引に行こう。強引かつ徹底的に。

 

 

■九月 末

 

「どう、なってるんだ! 麗日さん!?」

「どうもこうもないよ。私には【抹消】が向いとるんやから」

 

 デクくんのジャージを掴んだ右手にかかる重さは、【無重力】も〔浮重(フロート)力系(フレーム)〕も働いていない自然なもの。

 ──でもカリナちゃんに言わせると、私が感じてる『重さ』は普通ではない、らしい。

 

 

『【無重力】のおかげかな、お茶子はバランスの感覚がくっきりはっきりしてるよね。転びそうな人とか、転ぶ前から危ないなって見抜くでしょ』

みてヌく──いきなりえっちな話せんといてや』

『…………』

『バランス崩れてたら誰でも分かるんとちゃう?』

流したよこの子……。お茶子ほど早く気付くのは難しいと思う。言葉にできない感覚の話だけど』

 

 

「そんな、ならどうし、っが!?」

「体術に決まってるやろ。この距離(クロスレンジ)は得意なんやで」

 

 立ってる人間ほど不安定なものなんてそうは無いのにね。緑のスパークを纏いながら畳に叩き付けられたデクくんの顔には理解不能と書いてある。

 

 『“個性”なし・打撃なし』な捕縛・制圧系の訓練なら、私はヒミ様とも良い勝負ができる。カリナちゃんにも勝ち越してるんだ──体格が以前のままなら負けそうだけど。

 『“個性”あり・打撃あり』でも、冷静さを失ったデクくんくらい。この点は相澤先生も太鼓判を捺してくれて、だからこんな訓練が許されとるんやし。

 

「く、そぉっ! なら──」

 

 強引に距離を取って仕切り直すデクくん。

 もちろん逃げるに任せた。そういう抜け方は訓練の範囲だと抑え込めない──デクくんを()()()()()()()()だけど。

 

 ただどんなパワーになったって、デクくんの体重が増えとるわけやないからなぁ。極端な話やることは同じだ。

 

「〔フルカウル・クォータ(25%)〕!」*3

 

 デクくんの身体を覆う稲妻が輝きと激しさを増した。

 速い。カリナちゃんやヒミ様よりも。私が殴ったり蹴ったりしてもまず当たらないと思う。

 それは間違いないけど──

 

「っカハッ!?」

「……デクくん、“個性”の練習ばっかしよるんやな」

 

──カウンターをとって投げるには大して問題じゃなかった。

 だって最初の一歩から何をしたいかバレバレ*4 なんやもん。速い()()(はしこ)くないし()くもない。足運びを隠す歩法も、体重移動を誤魔化す緩急も、拳の軌道を読ませない陽動も……勝つための功夫(ねりあげ)が見当たらない。

 

 “個性”も含めてなんでもアリで言えば、あの二人は私よりずっと強い。今の私じゃ全然敵わない。

 だからできることは全部やる。

 なぁデクくん、やれることは幾らでもあるやろ? 選り好みせんと視野広げてたら、“個性”なしの私なんかに転がされることも無かったはず。中国武術の歴史、無礼(ナメ)とったらアカンで?

 

 



 

 

 緑谷出久の自己評価は低い。

 ただし『いつでも常に』ではない。

 

 

 例えば庇護対象として……“守られるべき価値”の評価は。

 

 確かに低い。かなり低い。『自分(てめぇ)を勘定に入れてねえ』、数値にすれば(ほぼ)(ぜろ)

 もっともこれは、爆豪にもオールマイトにも──現役ヒーローのほとんどに大なり小なり当てはまる宿痾(しゅくあ)だ。ヒーローが守られるなんて、役目としても気概としても受け入れがたい。緑谷が飛び抜けて低いわけではない。

 

 

 逆にヒーローとして……“守るための戦力”で言えば。

 

 緑谷は目標設定がバグっている。あまりに高いところを目指すせいで、それに対する達成度(パーセンテージ)となると非常に低い値を弾き出すだろう。

 ただそれは相対評価であって、絶対評価となると変わってくる。

 

 他人と(特にオールマイトと)比べずに緑谷出久という個人を測るなら、彼の自己評価に大きなズレは無い。できることはできる、できないことはできない。事実を正しく認識できている。

 良くも悪くも──この場合は良い意味で──自分を特別扱いしないから。過大にも過小にも見積もらない。

 

 だから相対評価の方も、小さな値ではあっても(プラス)の評価をつけている。事実に反して零と見做すことまではなかった。

 

 理想にはまるで届かない微力でも、零ではない。

 一般人よりはずっと戦える。誰かの役に立てる。

 

 

 ──それが()()()()()()()()

 

 

 “個性”を封じられた同い年に、勝てないどころか負けている。

 ならば(ヴィラン)とは戦えない。戦力に数えられない。

 ならばヒーローは? ウラビティは、イレイザーヘッドは、“かっちゃん”は。自分を守ろうとしてしまう。だってヒーローなのだから。

 ならば“平和の象徴”は。犯罪率の抑止は。一般人の安全は。

 

 人々からO()F()A()()()()、オールマイトの光を継げない自分は。

 

 

 緑谷は事実に基づいて自己評価を改めた。

 客観的に、冷徹に、理性を以て。

 

 ──『負』(マイナス)だと。

 

 



 

QUIRKERROR

QUIRKERROR

 



 *5 *6

 

「麗日、ひとまずここでのことは誰にも言うな。一切、絶対に、兵怜たちにもだ」

「…………分かりました」

 

 格技場にいたのは三人だけ。元よりお茶子が緑谷を封殺する想定だったから、少年の自尊心に配慮して見学は許可していなかったのだ。

 そのおかげで口止めの対象者は少なくて済む。

 

「お待たせイレイザー。年寄りを急かすんじゃ──なんだい、こりゃあ」

「相澤クン、緊急とのことだ、が……? 緑谷くんは()()()()()

 

 訓練相手のお茶子、相澤に呼び出されたリカバリーガールと根津。

 

 ひとまずはこの顔触れの間だけに留めるものとする。

 【ハイスペック】の持ち主をも絶句させた緑谷の現状は、とても外に漏らせるものではない。

 

(少し後には根津からオールマイトへ伝えられたが、学内で知らせるのはそこまでとなった)

 

 不幸中の幸いといえば、お茶子の怪我がごく軽いことぐらい。すぐにリカバリーガールによって完治された。

 他は……これをただ“不幸”と称して足りるものやら。はっきり“異常”とする方が相応しいだろう。

 

 

 雄英高校に大型移動式牢(メイデン)が運び込まれるのも稀有なことだが、校内の一部が生徒立ち入り禁止とされ、教師にまで深入り厳禁の箝口令が敷かれるのはますます異常。

 

 しかしこうする他に無かったのだ。

 護送対象は誰にも見せられない有り様で、しかもいつ暴れ出さないとも限らないから。犯罪者でなくとも牢に仕舞うのが合理的だった。

 

 外から分からないよう偽装された車に積み込み、その牢を運び込む先は──警察ではなく病院。

 今の状態で引き渡しても警察を困らせるだけだし、リカバリーガールも自分の領分ではないと匙を投げるしかなかったから。

 

 

 こんな時に頼るべき相手を、根津は一人しか知らない。

 兵怜太郎──未歳根博士に分からなければ、誰にも何も分かるまい。

 

 緑谷出久の異常な現状。

 相澤たちが呻くように漏らした言葉は奇しくも一致した。見たままと言えばそれまでだが。

 

「黒い……(まゆ)……?」

*1
站樁功:太極拳など中国系武術で用いられる烈海王も激推しの鍛錬法。中腰で踵を浮かせ、「地面に打ち込んだ杭(≒樁)」のように「しっかりと立ち続ける(≒站)」こと。なお『(つく)』と『椿(つばき)』は違う漢字である。

*2
特にカリナは訓練開始が遅い。緑谷(どうるい)も当然やるべきと考える。

*3
かなり急ぎ足に倍率を高めているため安定度はイマイチだが、自壊はぎりぎりしない。

*4
カリナがUSJで脳無の攻撃を避けたのと同じ理屈。

*5
QUIRK:直訳すると『くせ』。英語版ヒロアカでは“個性”はこう訳されている。

*6
顚倒(てんとう):ここでは仏教用語の、『真理を見誤る』『本来の順序を違える』などの意。




(前書きの続き)
 仮にお茶子から緑谷への友情が無ければ、『ほぉーん』の辺りで見切りをつけてそれ以上のお節介は焼かなかったはずです。
 その場合こんな事態は起きてませんが
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