【完結】愛慾のヒーローもどき   作:土屋 四方

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5. 新たな(?)恋敵(ライバル)

 私との訓練の()()()デクくんがあんなことになって、でもそのことは誰にも話すなと言われて。

 

 なるべく普通に振る舞ったつもりだ。

 豪邸(アパート)に帰って、食べて寝て、学校へ行く。だけどいっぱい心配されちゃったから、上手くできてはいなかったんだろう。

 

 事件の翌朝、学校についた直後。

 カリナちゃんだけが放送で呼び出されて、授業にも戻ってこなくて、更にお昼前には早退した。

 理由は言っちゃダメってことで……冷静ならこの時点でデクくんの件と結び付けられた気もするけど、思いつきもせんかったわ。

 

 だからその日の夜、カリナちゃんが帰ってきても特に相談とかはせんかった。我ながら視野が狭くなっとったんやね。

 そういえば学校では爆豪くんから睨まれとった気もする。きっとデクくんが消えたことと私の異変とを結び付けられてしまった──もちろん問い詰められたって何も言えへんけど。

 

 更に次の夜。

 カリナちゃんから夜のお散歩に誘われた──二人きりで。

 

 

 

「お茶子のせいじゃないからね」

 

 怒ったように言われて初めて気付いた。カリナちゃんの休学がデクくんに関わるものだと。

 

「原因分かったん!?」

「ごめん、答えられない。でもどっちでも同じこと言うよ」

「……分かってないならただの慰めやん」

「違うね。あんなの誰にも予測できないって話」

 

 きっと私以上に厳しい口止めが課せられとって、でもそういうのの穴──じゃなくてその、ギリギリのラインみたいな所を歩き慣れとるのがカリナちゃん。

 具体的な名前とかは出さんまま、ちゃんと通じるようにはっきりきっぱり言うてくれる。

 

「お茶子だって相手の為にやったわけでしょ」

「…………うーん」

「あれ!? これ悩むんだ!?」

「ムカついとったのもホントやもん」

「……私は怒ってすらあげられなかった。ムカつくのも友情じゃないかな。今、背負い込んじゃってるのも」

 

 ……なんか、なぁ。

 カリナちゃんのこういう割り切り(線引き?)には今さら驚かない。他人の秘密や事情を尊重しよるみたいな面も分かってきたし、霙理ちゃん達や分倍河原さんの件を思えば冷血とか非情とかでもない。

 けどやっぱり……うん。そーゆーこととちゃうやんか。

 

「私は、背負い込むよ」

「お茶子」

「いくらカリナちゃんが止めても。

 気にしないなんて無理だし、そのことを相手のせいにもしたくないから。私が、自分から、気にするの」

 

 これは、どうなんやろ。相澤先生からの口止めを破ることになっちゃうのかな。でもカリナちゃんは“繭”(アレ)がデクくんやって知っとるわけやし。

 

「私が抑え込んどる下で“ふつっ”て、何かが切れたのが分かった。意地とか踏ん張りとかそういう……“最後の一線”、みたいな?

 ……あんなん、忘れられん」

 

 すごい勢いで噴き出した黒いモノに、デクくんがすっかり包まれてしまう直前。私は彼の何かを決定的に損なってしまった。

 力や戦意や緊張感が、急にぐにゃっと融けたみたいな……あの感触(ぬめり)。ついさっきのようで、ちょっと昔みたいでもあって。一昨日の放課後のことなのに。

 

 カリナちゃんの言う通り『あんな結果になること』は誰にも予測できんかった。でも『デクくんの気持ち』については違う。

 私が考えることを()()()()んよ。

 

 

 ──なのにカリナちゃんは、とんっでもないことを言う。

 

 

「……()()()()ね」

「…………なんて?」

「良かった、って。お茶子は善いことをしたんだ」

 

 本気で分からなかった。怪物のようにさえ思えた。

 

「何を、言うて、るの」

「褒めてるんだよ。皮肉とかじゃなくね」

 

 内容に反して表情は苦い。眉を寄せ過ぎてマーサさんみたいな陰影ができている。

 

「仮にお茶子がアレを起こしたんだとしても。作ったとか与えたとか、そういうんじゃないよね」

 

 それは当然。アレは“個性”──それとも“技能”?──だろうから、作るも与えるも無理に決まっとる。あれはデクくんのものだ。

 私は頷いて、そして──

 

「う、うん」

「学生の内に校内で発覚して良かった──デビューした正規ヒーローじゃなくて。もし(ヴィラン)との戦闘や被災者救助の最中だったら?“お茶子の心配”はどうなるかな」

 

──言い返せなくなった。最悪を想定するなら確かにそうなる。

 

「え、う、むぅ……」

 

 “私の心配”──つまりデクくんの心情としても、自分のせいで一般人に被害を出すなんて許せる人じゃない。

 

 それに比べたら…………あれ?

 いやいやいや、こんなこと思うたらアカン、やろ。

 

 だけど飲み込んだ言葉をカリナちゃんが代弁してくれる。

 

「……“ムカつく”?」

「…………う、ん」

 

 迷いながらも頷いた。否定は嘘になってまうから。

 

 デクくんは言うだろう。『麗日さんの怪我が大したことなくて良かった』とか『相澤先生にも校舎にもあんまり迷惑はかけなかった』とか。

 

 なんやねんそれ、と思う。

 デクくん自身の被害はどこにカウントされてんねや、と。腹立つ。

 

「私はね、あんまり腹が立たない方。『勝手にすれば』で流しちゃうから」

 

 カリナちゃんが硬い表情のまま……自嘲、した? 珍しい。

 私は少し力が抜けたことを(しら)せたくて、不器用に笑ってみる。

 

「傲慢やもんね?」

「違ぁーう。自分と大切な人たちで手一杯だから、他人の生き様まで気が回らないだけ」

 

 でも笑ってはくれなかった。

 寂しげに首を振りつつ「私の傲慢さはね──」と続ける。

 

「──“私の大切な”お茶子を哀しませることが、“ムカつく”の。それが一番許せないし、だからどうにかして()()()()()()んだ」

「!──そ、っか」

 

 そうだ、そうじゃないか。また話せる──きっと。

 そういう未来がすっかり頭から抜けてもうてた。縁起でもないわ、死んじゃったわけでもあるまいに。

 

 あの自己犠牲ボーイはきっと戻ってくる。カリナちゃんが──たぶん太郎さんも──頑張ってくれとるんやもん。

 私はきっと強引すぎた。そこは反省しなきゃいけない。でも後悔は……ホントに“時間の無駄”かも。傲慢なこの人なら、彼の意思を無視してでも引っ張り戻してくれるだろうから。

 

 カリナちゃんの意思で。

 てことはきっと、デクくんの為よりも──私の為、に?

 

 

 それってなんだか──

 

 

「お茶子は早めの試練になってあげたんだから。感謝されていい位だよ」

「カリナちゃん……」

 

 流石にそこまでは開き直れないけど。

 それはそれとして。

 

「あのね、もう戻らん?* その、あのね……」

「…………」

「そんな♡ 上目遣いで蔑まれたら♡

 あっもう、垂れてまうやんか♡」

「……まぁ、元気になって良かった。

 帰ろ、()()()()()()()

 

 

 *豪邸の広い玄関を抜けると天国(おしおきパラダイス)であった。慾でソコが白くなつた。

 百ちゃん吸引器(クリキャップ)って何それ待って待っ、ぁ──

 

 



 

 

 十月に入ると、教室は季節以上に冷え込んだような気がいたします。

 クラスメイトが二人欠けたという事実もありますが、雰囲気の硬さ・冷たさという意味でも。

 

 ──カリナさんについてはまだ良いでしょう。クラスの皆さんにもメッセージを送っていましたし、わたくし達は毎朝・毎晩会えますし。

 

『急な休学も事情を話せないのも本当に悪いと思うけど、納得せざるを得なかったというか──ごめんね。当たり前だけど、皆のこと嫌いになったとかじゃないからさ』

 

 わたくしも被身子さんも、明る(いやらし)い振る舞いに無理はなさそうと見ました。何やら気疲れはしておられるようですが。

 被身子さんと透さんの学校生活がモチベーションダウンしているのは確かですが、それだけと言えばそれだけです。

 

 ──対して緑谷さんは、誰一人何も知らされず、連絡も取れていないようなのです。

 

(もしもカリナさんがそのような状況になったら、被身子さんは学校を辞めてしまうかも知れません)

 

 緑谷さんと親しいお茶子さんは二日ほど目も当てられない落ち込みぶりでしたが*……カリナさんがきっかけとなっていつもの淫蕩ぶりを再燃させ、学校での生活にも活気を取り戻しました。

 

 ──元気が出るからといって、縄を施したままなのはどうかと思いますけれど。

 

コスチューム(ぱつぱつ)着る日は我慢するから!』

『体操服での授業時はつけて行かれるのですか!?』

『ジャージ着てまえばバレんやろ?』

『更衣室はどーすんの()()()

『クラスの女子はもう知っとるからええんよ、()

『お茶子ちゃんが良くても梅雨ちゃんが気にしそうですけど……?』

『ヒミ様まで言うんなら……分かった、先に皆の了解取っとくね

 

『……カリナさん……?』

『え、これ私のせいなの……?』

 

 責めるつもりはございませんが。

 お茶子さんを励ましてくると仰ってお散歩に出かけたはずが、恋する乙女に堕として帰っていらしたのは流石に予想外ですわよ。メンバー追加の方がまだ覚悟していました。まさかメンバー内の恋愛模様を上書きするなんて。

 

 ──カリナさんにとっても想定外?*

 そういうとこですわよ全く。

 

 透さんとは……互いを恋のライバルと見なしたようなのである意味バランスが取れていますが。

 被身子さんのメンタルが輪をかけて不安定になっている点は心配です。これまでは時折鬱陶しそうにするほど“ヒミ様”と懐かれていたのが不意に離れられて、寂しく感じたりその感覚に戸惑ったり、改めてカリナさんを独占したくなったりするお気持ちはよく分かりますけれど。

 

 

 ……いっそわたくしも被身子さんを堕としてカリナさんとの緊張(ライバル)関係でバランスを取るべきでしょうか?

 

 


 

 

 こほん。

 教室のムード──わたくし達以外の話に戻りましょう。

 

 緑谷さんの謎の休学による影響が最も分かりやすいのは飯田さん。爆豪さんも多少は気にかけておられるご様子です。

 轟さんについては休み明けの時点から少し様子がおかしかった気もしますが。

 

 

 最後にもう一人、()()()()注目の人物については……他の皆さまとは違うベクトルで、おかしいように思われます。

 

 

 放課後、ホームルームが終わってすぐ。

 

「おいみんな読んだかよ大阪のやつ!」

「やべーよホークスが取り逃がすなんて初めてじゃねぇ?」

 

 お昼過ぎに飛び込んできたニュースを上鳴さんと峰田さんが話題にしました。

 

「む、我が師が?」

「授業中にネットニュースを見ていたのは感心しないぞ! しかしコレは、確かに驚きだ」

 

 常闇さんと飯田さんは今まさに読んでいるようです。

 わたくしは、その……褒められた行いではありませんが、どこかでカリナさんが無茶をするニュースなど流れてこないかと不安なもので(何かあればすぐに報せると約束して、それで被身子さんにも授業を受けてもらっているのです)。

 

 ともかくホークス氏は、移動中──通過するだけの予定だった──大阪で(ヴィラン)に遭遇し、しばらくの戦闘のあと捕縛には失敗したとのこと。

 

「炎使いかぁ。あの【剛翼】が燃えちまったりとか?」

「ケッ、炎系なんざ珍しくもねえ。これまでどうにかしてたんなら今回のは雑魚じゃねえんだろ」

 

 切島さん、爆豪さん。次いで芦戸さんに梅雨ちゃん。それぞれ端末を手に言葉を交わします。

 

「あたし、ホークスって戦う前に捕まえてるイメージだった。かなり大立ち回りがあったんだね」

「ケロ、これで怪我人ゼロなのは流石だわ」

 

 ヴィランはしばらくホークス氏の高速攻撃を凌ぎきり、最後には建物に火を放ったそうです。避難は完了(させ)ていたものの、繁華街の火事はあっという間に広がってしまいますから……複数の消火器を【剛翼】で操って消し止めるしかなく、その間に逃げられてしまったとのこと。

 その繊細な“個性”制御についてや相性差のことなど、思い思いの言葉が交わされます──が。

 

 

「ムッシュ緑谷ならなんて言うかなぁ」

 

 

 投げ込まれた一言で、シンと会話が途絶えました。

 それも当然でしょう。

 

 誰もが気にかけていながら、どれだけ話しても相澤先生にお願いしても、まるで何も分からなかったのです。話題に出すだけ空気が沈むことははっきりしており、しかも大阪の事件とはなんら関係がありませんから。

 お茶子さんなどは少し睨むように彼を見ています。

 

デソレィ(ごめんよ)、でもどうしても彼のことが知りたいんだ」

「気持ちは分かるけどよぉ、誰も知らないこと幾ら話し合っても仕方ねえって。そういう結論になったろ?」

「うん、そうだね、そうだ……ありがとうムッシュ切島」

 

 彼がこうして唐突に緑谷さんの名前を出すのは初めてではありません。

 話の流れもそうですし、これまで緑谷さんとそれほど仲が良かったわけではない点からも、唐突。

 

 

 

 どうしてそんなに緑谷さんのことを知りたがるのでしょう──ねえ、()()()()

 

 いいえ、あるいは。

 

 ()()知りたがっておいでなんです?

*
『“今すぐこの場で”を我慢しとること褒めてくれてもええねんで?』

*
さる4月16日は康成忌──川端康成の命日──だったので

*
お茶子の直接関与は知らないので『仲良しだったから落ち込んだ』と解釈される。

*
『どこが刺さったのマジで。滅茶苦茶ジコチューなこと言ったんだけど』




 以上、第二部エピローグでした。
(百の誕生日(9/27)の話だけ置き場所を検討中で、もしかしたら二部に追加するかも?)

 作品中の十月以降が第三部になってきます。
 次話は本編ではなく、ここまでの時系列まとめ(51話のような)。
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