(この五人が本格的に憎しみ合うとかは無いです)
九月の終わり、何か事件があったらしい。
お茶子ちゃんがどんより沈んでて、でも何も言えないらしくって。
次の日は朝からリナリナが呼び出されて、それも話せないし探らないで欲しいって。
更に次の日の夜、二人きりで話すとリナリナに誘われたお茶子ちゃんは──帰ってきた時には私のライバルになっていた。すぐにぴんと来たよ。
まぁその夜は、裸の上にエロと淫らと猥褻のシロップをどろどろにかけたような……つまり一見いつも通りの夜を過ごしたから分かりづらかったかも。
とはいえ朝まで確信を持てずにいたのはバカリナだけじゃないかな。流石に朝になると気のせいでは流せなくなったみたいだけど。
「ねぇあの、お茶子?」
「ナニカナ?」
「……顔真っ赤だけど熱とか無い?」
「ダイジョウブダヨ」
朝の食卓。
この二日ほど心配だったお茶子ちゃんの食欲は普段通りに戻った様子だけど、口調は全然普通じゃないし何よりリナリナの顔を見れずにいる。何なら声をかけられる度にお
あぁ、分かる。覚えがある。
ひとりに
私もこんな風だった。マスコミ侵入騒ぎの直後──
なんて、もちろん私と同じではないんだけど。
「ごちそうさまでした着替えてくる!」
もう制服なのに*そう言って立ち上がったので、リナリナは驚いて「え、学校休むの?」と声をかけた。
「下着ッ──言わせんでよバカァァァ!!」
「えぇ……?」
うん、私あんな風ではなかったわ。触られてもいないのに慌てて逃げ出すほど下着濡らしたことはない。
「リナちゃん、困ってます?」
「え、う、むーん。困って……そうだね、困ってもいるかな」
そしてこうなると、ガミさんも微妙に──なんというか、尖る。“リナちゃん、傷ついてます?”とは
「カリナさん、原則は『去る者追わず』ですものね」
「否定はしないけど。今のお茶子は──私が追いかけるのもどうなのかなって。……ううん、でも放っとくのは危なっかしいような」
そうは言っても、リナリナは今日から完全に休学*だから学校には行かない。気がかりではあるんだろう。
「学校でもお一人にはさせませんから、その点はご心配いりませんわ」
「ありがと。百がそう言ってくれるなら心配は要らない……うん、
「バカリナ」
「透ここんとこ厳しくない?」
厳しいもんか。めっちゃ優しいよ。
「ヤオモモは──私もガミさんも、お茶子ちゃんが独りにならないようにはする。思い詰めてバカなことしないように護るよ。
でもそれだけ。リナリナの考えた通り、あの子が
「…………」
「どっちが選ばれても、お茶子ちゃんの健康とか安全は心配要らないけどね。それなら構わないって? 本当に?」
そもそもの話、お茶子ちゃんがリナリナから離れてくとか有り得ないんだけど。でもこの人の視点だと違うらしい。自分が頑張って繋ぎ留めておかないと見放されるんじゃないかって、バカリナは真面目に怖がってる。
だからこそ色々と気を回してくれて──私のスーツ用のトリートメントの件とか──すっごく助けられてもいるんだけど。捨てられるかもって不安も、それ自体を責める気は無いんだけど。
でも、『捨てられても健康で居てくれるなら構わない』なんて。
そんなの大嘘じゃんね。
「頼まないの?“お茶子を護るだけじゃなく繋ぎ留めて”って」
「そ、んなの……頼めないでしょ。私がやることだし、ましてや皆に頼むのは」
「んー、まー、んー……それもそっか」
リナリナの立場からは確かに頼みづらいかな。
それに今、私の動機は私の怒りだ。
自分だって大好きな“カリナちゃん”を、今のあの子は困らせてて。私はそれに腹を立てている。
だから──
「今日のお昼にでも、ぶつけたいことは言っとくよ」
「……透の言いたいことなら
「? 分かった」
“追い詰めないように”って、なんだか唐突*なような?
ともかく。
「リナリナも秘密のお仕事頑張ってね? 行ってらっしゃい」
「うん、行ってきます行ってらっしゃい」
「「「行ってきます!」」」
『行ってきます行ってらっしゃい』だって。
別々のところへ向かうのは少し寂しいけど、これはこれでなんだか素敵な気がする。共働きの夫婦みたいでさ。
さて、お昼休み。
私たちはいつも通り食堂へ向かおうと──
「ぅぅん、食欲無いです……」
──あや。ガミさんが気分落ちると食事抜きがちになるってホントだったんだ。
「いけませんわよ被身子さん。夜の吸血が増えたらお嫌でしょう?」
「むう。むーん、食べますかぁ」
「偉いですわね、きちんと食べたらわたくしのデザートも分けて差し上げます」
「食欲無いのに増やされるの未だにナゾなんですけど」
そしてヤオモモはすっかり扱いに慣れてる、と。
「まぁここはお姉さん
「そういえば被身子さん歳上でしたわね?」
「にゃにをー!?」
きゃいきゃい
私はヤオモモに【創造】を頼もうと──したら、先回りして用意してくれていた。さっすが。そのクッションを隅っこの壁際席に置いて、なんだか分かってないお茶子ちゃんをそこに座らせたら、私はその対面に。
二人も逃げ場を塞いでくれて、更に〔
「? 透ちゃん?」
「ちょっと内緒話しよっか」
じわりと【透明化】を解いた。実はこの顔、結構な威圧感を与える武器にもなるらしいので。
午前中はまぁまぁ普通に過ごせてたけど、多分これ現実逃避なんだよね。リナリナのこと、頭から追い出してるでしょ。
それは一種の真面目さでもある。そうでもしなきゃ授業とか受けてられなかったんだろう。
現に今、リナリナの話はじめた途端に真っ赤になって──もしクッションに座らせてなかったら食堂の椅子を汚してた。
「安心していいよ、ヤオモモが成人向けのオムツも用意してくれてるから」
「そういう問題かなぁ!?」
「今さらそんなジョーシキ語られても……」
「外でオムツは未経験なのにぃ」
室内での経験ある時点で今さらだし、必要なんだから感謝して欲しい。
あと今は性癖のこと割とどーでもいい。
「ホントは水差したくないんだよ、ほわほわーってなるのも分かるし、人を好きになるのって素敵な気持ちだし──」
「なんで分かったん!?」
「隠してるつもりだったの!?」
冗談でしょあんなあからさまな反応しといて。
「大方、リナリナから優しくされてコロッと落ちたんだろうけど」
「そ、そんなことまで……?」
「あーいや、今のは私の体験談」
思い返すとなんだかなぁって話だけど、リナリナって良く言えば一瞬一瞬を大事にしてて、悪く言うとまぁまぁ行き当たりばったりなんだよね。
私が頭を打った時は本当に真剣に心配してくれてたし、昨夜だって『お茶子の為』とかそんな感じのことを言ったのだろう。それはちっとも嘘じゃない、けど。
ここはちょっと意地悪く教えてあげようと思う。あの人は割と誰にでも優しい*し、それでころっといったのは一人じゃないんだぞって。
「分かってるだろうけど、リナリナを独り占めなんかさせないから」
「むっ」
返ってきたのは敵意に似ていた。お馴染みの愛執と独占慾。それは私もガミさんも持っていて、ヤオモモだってきっと秘めているもの。
だから欲しがるのは欲しがればいいけどさ。
「特に今朝のは良くなかったよ。リナリナ、捨てられたーとか嫌われたーみたいな顔してた」
「うぇっ」
「わざとではないんだろうけど。そういう顔をさせたのは
「と、透ちゃ──」
「私は怒ってる。それを……教えてあげた方が良いと思って」
本当に気付いてなかったみたいで、目を白黒させたお茶子は──やっと、本当にやっと、真っ青になって震えた。
よくもまぁ今までガミさんからの静かなロックオンをスルーできてたものだ。
ガミさんは私のことまで睨んでたんだよ。余計なことするな、好きにさせとけって。
いやまぁ、お茶子がリナリナから離れる可能性なんてガミさんからもゼロに見えてそうだけどね。だから遠慮なく敵意を──むしろ害意を──向けている。
仮に離れていくとしても、それはそれで仕方が無いってスタンスで、だから積極的に繋ぎ留めようとする私は邪魔なんだろう。
だけど私だって、睨まれて引き下がるほどもう弱くない。今ならガミさんとだって喧嘩できる*んだから。
万が一億が一、無いとは思うけど本当にお茶子が出ていくようなことがあったらリナリナは絶対凹むし──よく考えたらガミさんも間違いなく曇るじゃん? なのにこっち睨んでくるとか手のかかる歳上さんだなぁもう!
「んでどうする? 今朝みたいの繰り返すなら、私たちもお茶子のこと──」
「しないよ、もう絶対。
……教えてくれたのは、ありがとうやけど」
「──ありがとうやけど?」
「自分で気付けへんと思われたみたいで、ちょっとムッときたわ。生まれたのも初恋も、半年ばかり
あぁ、そういう風に向き合うんだね。私とキャラ被りするのを承知でガチ恋勢ポジなんだ。まぁ事実なんだから仕方ない──上等じゃないか。
ところでそれはそれとして。
「お茶子は色々気付けてないんじゃない……?」
煽りとかじゃなくて実際にさ。そんなことを言うとガミさんもヤオモモも頷いてくれて、お茶子一人が狼狽える。
「今朝のリナリナの反応も驚いてたし」
「いやだって、それじゃまるでカリナちゃんが自信無いみたいやん?」
「『私たちが離れて行かないこと』についての自信なら、
「それ、上手く伝わらないんですよねぇ」
「一対一でないことを一番気にしておられるのはカリナさんですものね」
「え、え、え」
三対一で畳み掛けられて言葉を失っている。ほらぁお茶子が一番分かってない。
「『私から離れたければ好きにしろ、離れられるもんなら』くらい言いそうやのに」
「言えないよそんなこと。そのスーパー攻め
「スーパー攻め様?」
おっと通じない言葉を使ってしまった。強気・傲慢・オレ様系、ぐらいの雑さで置き換えておく。
「……透が言うような意味なら、カリナちゃんけっこう攻め様やないん?」
「「解釈違い!」」
あや、ガミさんと台詞が被った。というかガミさんの方がずっと舌鋒鋭い。
「どこの誰ですかそれ、妄想に恋しちゃってません? 目に見えるリナちゃんの自信は“鎧”で、罪悪感を隠すための“建前”で、──」
う、わ。
鋭いどころじゃなくヤバい。まるで纏わりつく熱病のよう。かなり怒ってたのかな。
「──あの子を癒やして休ませてあげるには、邪魔で仕方がない“障害物”。……私が子供過ぎたばっかりに、リナちゃんに先取りさせてしまった“
ちょ、ちょっと言い過ぎじゃないのかな。ガミさんここまでヤンデレ系だったっけ!?*
「被身子さん、その辺りで」
「百ちゃん…………デザートください」
「どうぞ」
ヤオモモはそれをやんわりと宥めて。
そして、なんだか変な説得を始めた。
「お茶子さん。カリナさんの恋愛面での自信については一旦脇におかせて下さい」
「う、うん」
「代わりに性欲は如何でしょうか」
「めっちゃ強い」
お茶子の即答には私も頷く。でも突飛すぎてこの話がどっちに転がるかは全然想像つかない。
「では内容的には? カリナさん、あまり自分からは決めずにお茶子さんのやりたいことを合わせて下さるのでは?」
「でへへ……」
この流れでだらしなく照れられるお茶子に、思わずジト目を向けてしまったけれど──
「お歓びのようですがお茶子さんだけではありませんわよ。あまり過激で破廉恥な要求をなさらない透さん相手にはいつも優しい睦み合いをしておられますし」
──この辺りでガミさんは、その呆れるような視線をお茶子ではなくヤオモモに向けていた。……なんかトンチキな話ってこと?
「あれほど性欲の強い人があそこまで自己主張が弱いというのは。愛されている自信の薄さの表れとは考えられませんか?」
……ヤオモモはリナリナの性欲に絶対の信頼を置きすぎでは。
「それはそうかも!」
「でしょう?」
お茶子なら頷くだろうけどさぁ。その為の方便と取れなくもないけど。
どうもヤオモモは本心で言ってそうなんだよね。
──ところで、最後の一幕はきっと私が煽ったせいだ。普段の、これまでのお茶子ならこんな挑発的な言い回しはしなかったと思う。ガミさんにも私にも。
「んー、でもなぁ。カリナちゃん、えっちの時はけっこう剥き出しになると思うんやけど」
「そんなことないですぅー」
「お茶子は強がり自体見えてなかったじゃん」
「んー? 言うてあの七月の……三人が補習行っとった日*はそんな余裕取り除いたったしね」
「「……はぁ?」」
ちょっと敗北感だから素直に認めたくないけど、お茶子の言うことも嘘ではなかった。
これまでの私なら遠慮して手を緩めちゃうような『泣き』の入ったリナリナを、それでも容赦なく
「もっと♥もっと♥ねぇどしたの,やめなぃで?
「──」
まさかこれほどだなんて。
私の中にもこんな嗜虐心があったなんて。
「ぅぎゅうっ♡♡」
「わ、きゅうきゅうして嬉しそう。本当にお尻もいけるんだ」
「と、おる……興味、無かったんじゃ」
「それほど無かったけどさーぁ?」
マゾリナとガミさん、二人のおつゆをローションにしてお尻の指を増やしていく。二本、三本……入るもんだなぁ。
そしてその指を、ぐぱりと開きながら──解除していた【透明化】をかけると?
「や、待って透それは……!!」
嫌だよね、見られたくないよね穴の中なんて。実を言えば私もそこまで見たくはないんだ。
でも、だって。このぐらいしないと分かってくれないじゃない。リナリナの本性がどんなに汚くたって、私たちは気にしないんだってことを。
「抵抗しちゃダメ。隠しちゃダメ。我慢しちゃダメ」
「ひ、ぐ、う」
首から上だけ【透明化】を解いて、リナリナからも見える状態でおでこを軽くごっつんして。
私にはやっぱりサドは難しい。つい『らしくない』ことを言ってしまう。
「……絶対に、全部愛してあげるから。信じて」
「とおるさま」
愛しい人には悦しんでもらえたから、それはそれで幸せだけど。お茶子に負けてたみたいで複雑だ。
負けるもんかー!!
【悲報】Sが増えた。