【完結】愛慾のヒーローもどき   作:土屋 四方

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※タイトルの【AFO】は所有者じゃなく“個性”のこと
前半:バカエロシモ注意 / 後半:エグい話注意


【AFO】で猥談

 秘密を守る上では単純に口数を減らすのが最も確実だと分かっている。

 しかし分かってはいても、自分の休学理由を一切明かせないとなると──恋人たちとのどうでもいいお喋りに出せるネタが無いという意味で──兵怜カリナにとっては強いストレスだ。

 それに幾ら父親のことを尊敬し慕っていても、一日の大半を二人きりで過ごせば息も詰まる。

 

 この負担を少しでも和らげようと、漏らしても構わない雑談のネタは意識的に集めることにした。太郎としても応じない理由はない。

 

「これは話しても大丈夫って確認してきたから話すんだけどさ、──」

 

 但しネタ元は主に太郎に限られるので、中々に特殊な話題になってしまうのだが。

 

「都市伝説とかに出てくる『人の“個性”を奪ったり移したりする“個性”』ってやつ、実在はしたらしいんだよね」

「え……そのようなこと、ありえるんですの?」

「ありえない、と思ってたよ。私もお父さんも」

 

 なお太郎は、それが『いつまで』実在したかを語っていない。むしろ意図的に勘違いするように話し聞かせた。電承(ネットロア)では超常黎明期ということになっているから、近くはない昔の話だとカリナは解釈し(だまされ)ている。

 

 

 だから現実的な話とは全く考えない。

 気の赴くままネタにだってする──猥談の。

 

 

「えー、そんなのあったらえっちなことし放題じゃないですか」

「ね。私もそう言っちゃったよ」

「え、太郎さんに!?」

「“正直でエラい”って褒められちゃったぜ」

「それお義父(とう)さん呆れてんねやろ……」*

 

 お茶子が義父呼ばわりを始めたことでなんやかんやと揉めたものの。話はすぐに最大の関心事へと戻ってくる。

 つまりえっちな使い道に。

 

「漫画でよく見る【服だけ溶かす酸】とかもできちゃう?」

「クラスメイトはやめとこ?」

「せやで透。カリナちゃんが三奈ちゃんに興味持ってまうやん」

「そんな意図で止めたわけじゃないから」

 

 倫理の話である。のっけから不倫理な話題だが。

 この手の慾は身内に限るか、あるいは程よく遠い他人の方が後を引かない。

 

「百ちゃんのどぱーんをあの【タコ焼き】の人みたいに……?」

「タコ焼きの方、ですの?」

「大阪の丸くて黄色い人です」

「ファットガムさんですか。そういえば先日テレビで食べ歩きを──いえ“個性”は【タコ焼き】ではございませんからね?」

「なんでしたっけ、あのずぶずぶするヤツ」

 

 BMIヒーロー・ファットガム、“個性”は【脂肪吸着】。柔らかな脂肪の鎧で自身を守りつつ、ヴィランを捕まえて窒息させたり一般市民を護りながら運んだりもできる。なお好物はタコ焼き。

 

「え、百のどぱーいで窒息できるの? なら私ヴィランなるわ」

「ヤオモモのでっぱいがヴィラン増やしちゃうじゃん」

「鼻血もどぽーんやねえ」

「好き放題言い過ぎですわよ!?」

 

 どぱーん胸を隠すように抗議する百。しかし同時に「あれでしたら使った部位から痩せられますかしら……?」などとこぼす。

 【創造】も脂肪分は消費するが乳房のサイズはまるで減らない。命の危機に瀕するほど使い続ければ別として。

 百は(さほど深刻ではないものの)大き過ぎて邪魔だと考えており、【脂肪吸着】で部位痩せが叶うならそれもアリ?などと考えた──が。

 

 当然ながら猛抗議である。我々の癒やしを奪うな、とかなんとか。

 

「わたくしのどぱーんですのに……」

「百までどぱーん言い出したよ」

 

 ちなみに“我々”の中にカリナは含まれない。本当に百の胸が縮んだところで『育て直そう』と奮起するだけなので。

 

 ……もっとも、発想のバカさ加減では負けていない。

 

「【脂肪吸着】だけじゃなくて【巨大化】もしてもらったら無限に窒息できるのでは……ほむん」

「おバカですの!?」

はもはみ(たしかに)むまろ(いまの)られる(サイズ)──(でも)

「──っ、ちょ、と♡」

 

 百が口と鼻を塞ぐが、劣化版【先物代謝】のおかげで窒息まではかなり余裕がある。そもそもこれは百が弱点を差し出したに等しく、攻撃どころかじゃれ合いに他ならなかった。

 なので周りもスルーである。

 

「【巨大化】ってさぁ、こう……」

「えっちよね! 分かるで透!」

「えぇ〜?」

 

 何やら分かり合う二人と除け者の被身子。

 想像するのは巨大化したカリナ。それ自体は楽しいかも知れない。でもあんまり大きくなられると。

 

「噛み付きにくいじゃないですか」

「ガミさん的にはそこなんだね」

「場所次第やと思うでヒミ様」

 

 言いながらお茶子が示したのは、元々薄くて柔らかな、女性の下腹部に特有の、(ひだ)状の組織。

 そんなところに噛み付いて良いはずはないが、カリナに限っては大悦び確実である。

 

()()()に頭から突っ込んだら締め付けが苦しくて幸せそ……♡」

「お茶子……まぁでも、リナリナの反応は気になるかも?」

「二人とも急に変態さんになりましたね?」

「「ガミさんヒミさまに言われたくないよ!?」」

 

 巨大化した女性器に(もぐ)りたい二人と口内で舐め回されたい被身子の、果てしてどちらが変態的かという争いは──少なくともこの場に公平なジャッジは居ないので白黒のつきようがなかった。

 

 あれこれ語ったものの、カリナが夢想するのは定番中の定番である。

 

「とりあえず【絶頂禁止】【感度倍化】【淫紋付与】あたりは基本セットだよね」

「どう見ても【淫魔(サキュバス)】じゃんその欲張りセット」

「別に翼とか角とかはあってもなくても? 尻尾はちょっと欲しいかな」

 

 

 ──そこへ、お茶子が何気なく訊ねた。

 

「あれ、そいえばカリナちゃんて尻尾は生やせへんの?」

「生やすだけなら生やせるよー、ただねぇ」

 

 隠すことでもないので正直に答える。

 

「元々ありもしない筋肉とか関節とかって、動かし方が分かんないというか。物理的に神経繋ぐのは簡単だけど、それだけじゃ上手く動かせなくてさ」

 

 つまりカリナは原則として人型(ひとがた)から離れられない。障子のように腕を増やしたり尾白のように尻尾を生やしたり、やったところで見た目だけの張りぼてに終わる。

 使いこなすにはかなりの練習が必要で、高校入学前に身に着けたのは聴覚・嗅覚・視覚くらいのもの──それとて感覚器だからなんとかなったものの、運動器となるとより難しい。

 

「〔快楽の根(ラストルーツ)〕には関節たくさんあったような」

「入学後にめっちゃ頑張ったのがコレだね。被身子のお尻は私が育てた」

「もぉ♡ 育てられちゃいました♡」

 

 通称〔快楽の根〕、実際のところは〔身体変造〕のバリエーションだ。指を細く延ばすと共に四つほど関節を増やしているので、単なる『長い指』ではできない触手の如き繊細な愛撫が可能である。

 筋力は幼稚園児並みなので、もっぱら性的な役割にしか出番が無いが。最近は足の指でも雑な刺激くらいはできるようになっていて、お茶子のお気に入りなのだとか。

 

 

 ──さらに、今度は透が訊ねる。

 

「じゃあリナリナは、例えば尻尾を生やすぞって練習したら尾白くんみたいにもなれる?」

「技術で追いつくのは大変だけど、原理的には出来るって感じだね──どしたの、難しい顔して」

「むーん? あのさ、それだと『“個性”は一人に一つ』って原則はどうなるんだろ」

「んん?」

 

 カリナは大いに首を傾げて、まず前提から答える。

 仮に尻尾を生やして使いこなしても、それは〔身体変造〕のバリエーションであって【パワーテイル】ではない。というか“個性”ですらない。

 だからそれによって“個性”が増えると考えるのは誤りだ、と。

 

 これについては透たちも頷いた。しかしその先で振り落とされる。

 

「──で、それはそれとして。『“個性”は一人一つ』って()()()()()()()

「「「「え?」」」」

「……え?」

 

 なお、常識から外れているのはカリナの方だ。

 

 


 

 

 最初は“超常”と呼ばれた。明らかに平常ではなかったから。

 かつて“異能”と呼ばれた。色濃い恐怖がそうさせた──内心では異常と蔑んでいても、怒りを買うのは怖ろしくて。

 

 やがて“個性”と()()()()始める。

 これなら一人の持つ力は全て引っくるめて“個性”と言えるから、言葉の上でだけは、複数持ちなどありえない。行政上もそう決まっている。

 

 しかし──

 

「いやだって、轟くんとかどう見ても二つ以上でしょ」

「アレは複数ってことになるの?」

「数え方次第、としか。個性届って()()()()一人一つしか()()()()()()から、両方をまとめて【半冷半燃】にしてるんだろうけど。提出した個性届で実際の“個性”が変わるわけじゃないし」

「そりゃ、そうだけど……」

 

 カリナはAFOのような存在を『創作(フィクション)の産物』と思っていたが、“複数持ち”の実在を疑ったことなどない。そもそも太郎の著書には山ほど例が載っている。

 

「複数持ちなんてありえへんてなんかで言ってなかったっけ……?」

「え、もし言ってたらごめん。*

 『後天的に“個性”を移すなんてありえない』的なことなら言った覚えあるけど、先天的な複数持ちなら沢山いるし」

 

 だからギガントマキアのありようにもそこまで疑問を持たなかった。確率的には極めて低いが、先天的なものと仮定すれば複数持ち自体は問題ではなかったからだ。

 

「ですがカリナさん、中学生の頃の保健体育の教科書には……」

「え、一人一つって書いてあった?」

「……“原則的には”とか“基本的には”とかついていた気がしますわね……?」

「ん、そのはず。それが先入観の元みたいだね、ふぅむ」

 

 慎重に記憶を辿る百と頷き合って、どうしたものかと考える。少なくとも中学生向けの教科書には事実をありのまま書きにくいとカリナにも感じられた。

 

「リナちゃん、なんかエグい感じの話です?」

「そうだね。割と、かなり。でも……皆には知っといてもらいたいかな。エグいけど構わない?」

 

 四人がほんの少し考えてから頷き合って。

 教科書には載せづらい事実をぶっちゃける──所々言葉に詰まりながら。

 

 

 

「結論から言っちゃうとね、超常ってやつは生き物の都合を全然考えてくれない。無視できない割合で、産まれる前の子供を……()()()()()()んだ。

 ──驚くよね、うん。でも私たちが目にするのは()()()()()()()子供だけ、だから。

 ねぇ百、妊娠が分かった後で流産しちゃう割合ってどれ位か知ってる?──そう、()()()。でも超常以前はもっとずっと低かったらしくて。

 ……三割? 外れ。

 二割を切ってた*らしいよ。今の医療がその頃より遅れてるわけじゃないはずなのに。

 胚の……赤ん坊の。身体がきちんと分化す(つくられ)*のを、超常は邪魔しちゃうことがある。

 ……産科医がね、ご両親に遺児を見せない場合もあるんだ──」

 

 どうして、とは誰も聞かなかった。答えは想像がついたから。続くカリナの言葉は、普段に比べやや婉曲(ぼや)的では(かして)あっ(くれ)たものの、予想から外れるものではない。

 

「──とても見せられない、って」

 

 

 この時代の人間のほとんどは知らない言葉だが、かつて反復説という考え*があった。『動物の受精卵が新生児へと成長していく過程は、原始生命からその動物まで進化してきた過程の反復(くりかえし)だ』という。

 初期には魚類に似た形で中枢神経系ができ、両生類のように尻尾が消失して不要な器官が整理され……といった段階を経てヒトの赤子になるわけだ。不要にも思えるが一度は尾が作られる。

 この順序やタイミングが編み出されるには億年単位の試行錯誤が費やされたのだろう。

 

 

 ──超常はその伝承をぶち壊す。

 無個性の人間が少数派になった現在、反復説はほとんど現実にそぐわない空論になってしまった。

 

 

 この世に現れてからまだほんの千年も経っていない──何世代目だろうと進化のタイムスケールでいえば短すぎる時間経過。今のところ超常と天然のバランスはほとんど運に任されている。

 妊娠判明数の六割が生誕に漕ぎ着けているだけでも、人体の類まれなる粘り強さの発露なのだ。

 

「複数の“個性”……ううん、超常持ちはね。居ないんじゃなくて滅多に()()()()()()。一つでもバランスを崩す超常が複数あったら、もっと高い確率で……悲しいことになるから」

 

 逆に言えば、生命としての機能獲得が()()()()邪魔されなければ、超常が一つでも複数でも普通に産まれてくる。現に轟がそうであるように。

 

 

 

 

 ──そして。

 口には出さないまま、カリナは考える。

 

 無事誕生にまで漕ぎ着けた子供、つまり一度出来上がった呼吸器系や循環器系といった恒常化(ホメオス)作用(タシス)は、それなりに頑強だ。

 四歳前後に“個性”が目覚めるタイミングで亡くなる例は事故を除けば珍しい。“個性”が“生命”を、後天的に上回ることはない──()()()()()()

 

 “個性”の側が並外れて強力なら、人体の恒常性を捻じ伏せて、()()()するようなことも可能かも知れない。

 ──いや、間違いなくできる。

 

 

 【AFO】がそうしてきたように。

 ──そして今、()()()()もそうしつつあるように。

 

*
大正解

*
言っていない(はず)

*
現実の現代日本では十五%ほど

*
分化:受精卵/胚の細胞塊から、皮膚や筋肉や臓器といった機能組織に特化していくこと。

*
1866年にヘッケルがまとめたものが著名。




緑谷〈力が欲しいか……?
緑谷『力が! 必要なんだ!
与一『待って(BB)ストップ(BBB)駄目だよ(BBBB)

※後書きは事実と異なる可能性があります。
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