緑谷が引きこもるより前です。
0. 実施の是非
■九月
仮免試験の結果が出た後のことです。
「……皆さん、インターンについて具体的なプランはおありですか?」
「今度はリナちゃんと一緒がいいです」
「うーん、皆の因子補充がし易い地方とか?」
このお二人はまた適当なことを……。とはいえ今回はありがたいと言うべきでしょう。
「お二人は如何ですか?」
「まだ迷っとるー。デクくんと爆豪くんのことも気になるし」
「私は……せっかく
お茶子さんも未定で、透さんは……その方向でお願いすることになるでしょうか。
「まずは透さんと被身子さんにお願いが。
その結果によってはカリナさんとお茶子さんも……インターン先を、わたくしに決めさせて欲しいのです」
差し出口を申しているのは分かっております。本来は各自で決めるものですからね。ですが皆さんは少し驚いただけで、きっと表情を引き締めて頷いて下さいました。
この優しさに──笑顔はありません。わたくしは
「わたくしの杞憂に過ぎず、立ち消えになってくれれば良いのですが……〈
「「「「…………」」」」
どうされました、なぜ黙るのです?
「何か不満があるなら仰って頂けませんこと?」
「ごめんごめん、作戦名なんてなんでもいいよね」
「ですです、必要無いなんて思ってませんよ」
「ヤオモモの味だよね、うん」
「ど、どんまいやで百ちゃんっ」
納得いきません!
■翌日
放課後のホームルームが終わると同時。
「葉隠、今ちょっといいか」
「轟くん? 平気だよ、なーに?」
教室にはまだ全員いるが、周りの視線を気にするような轟ではない。席が縦並びなこともあって椅子に座ったまま振り返り、幾つかの注目を浴びながら話し始める。
「クソ親父からインターンの連絡いってるだろ。できれば返事聞いて来いって言われてよ」
「あーうん、メールは読んだけど。びっくりして詐欺かもって疑っちゃった」
「すまねえが本当のことだ」
「う〜〜〜ん、正直まだ悩んでるんだよね」
隠すような話ではないと判断され、わっとクラスメイトが取り囲む。
「エンデヴァーから声かけられたのか? すげぇじゃん葉隠!」
「ケロ。凄いのは確かだけど、事務所が何処でもびっくりなのよ上鳴ちゃん」
「何処でもってー?」
三奈の疑問には飯田が答える。
「インターンは職場体験とは違うんだ。事務所が呼んで学校が行かせるのではなく、生徒自ら! 事務所と渡りをつけて自主的に赴く!」
「それを向こうから声をかけられるとはな。いや、試験での
「それは言い過ぎじゃない!?」
試験の日までなら優雅に流せたかも知れないが、今の透はびっくりして叫んでしまう。それからこほんと咳払いを挟んだ。
「あのさ轟くん。聞いて良いことだったら理由教えてくれない?」
「? メールには書いてねえのか」
「無いね!」
「……クソ親父め……」
忌々しそうに轟が語ったところによると──。
毎年開かれるとは限らないが、仮免試験で惜しくも落ちた者は救済措置として講習を受けられる。ここで結果を出せば仮免資格を得られるわけだが、今年はこの講習の教官役にエンデヴァーが指名された。
「──みてーなこと言ってたが、違う。俺が講習対象者だからって*アイツが自分から名乗り出たんだ」
依怙贔屓などと思われないためには文句なしで突破してみせる必要があり、逆にやりづらくなったと愚痴る轟。
カリナらは轟家の関係改善にほっこり。
ただし仮免補講は十月の上旬から五日間ほど開かれ、会場は轟家およびエンデヴァー事務所からかなり遠いために泊りがけで地元を空けることになるという。
「え、まさかその穴埋めを期待されてるの!?」
「流石に全部じゃねえ。だけど、アレ……アレは“幻”って呼び方でいいのか?」
「あー、コレかぁ」
透がパチンと指を鳴らすと──クセになっていたことに気付いて赤面しつつ──腕の屈折率を斑状に変えることで、炎が舐めているような紋様が浮かんだ。もちろん実際には熱くもなんともないが、皮膚だけでなく内部組織まで含めて赤く見えるので立体的だし、脈動などで光は複雑に揺らめいている。衣装や小道具・〔
──が、だとしても無理があるように感じてカリナが口を挟む。
「流石に体格とか違いすぎません?」
「最近サイン求められ過ぎるとかで、市民から逃げ回ってるから昼間は良いんだ。夜、街の
エンデヴァー本人の姿は見えず、しかし炎の光が断続的に夜空を照らす──なるほど、それでもある程度の犯罪抑止効果はあるだろう。
ただ、本人が全く目撃されないのは流石におかしいと怪しまれるかも知れない。その上エンデヴァー事務所に普段みかけない新顔がいたらどうか。『アイツが誤魔化してるだけで、実はエンデヴァー本人は居ないのでは?』と疑いが深まってしまう。
そうさせないためには──
「あ〜……となると透は適任、ですね」
──その“新顔”も全く目撃されなければ良い。サイドキックの顔触れに平時からの増減がなければ、長期のボス(ビッグボスではない方)不在とは思われにくいという狙いだ。
他にも幾つかの条件を確認して、透はその場で了承した。
「メールも返しとくね。仮免講習の前日から行かせてもらって、顔合わせとか街の案内とか?」
「助かる。葉隠的には二日目から本番って感じになると思うが……具体的なことは事務所で詰めてくれ」
「分かった! わざわざありがと!」
「いや、こっちこそ親父の連絡が雑で済まねえ」
欺瞞といえば欺瞞、小細工といえば小細工。
それでも確かに、エンデヴァー不在の穴を埋める役目だ。クラスが歓声に包まれるのも当然である。
「スッッゲぇじゃん! あ、つか今の話って家族とかにも自慢しない方がいいヤツ?」
「あんま広めねえでくれると助かる」
「上鳴くん! これに限らず雄英で知れることは外へ持ち出すべきではないぞ!」
「わーってる漏らさねえよ! 地元じゃ俺の口の硬さは有名なんだぜ?」
「有名にはならんだろボケ」
ガヤガヤと楽しげな教室。普段は物静かな口田や障子らも、声量や口数は控えめながら興奮気味に喜びを口にする。ボボボボと連続する爆音は恐らく祝福などではないだろうが。
もちろん中には静かな者もいて──
「百、TKG*どうしよっか?」
「幾つかは提供しないと差し支えるでしょう。不要時には処分して頂くようお願いしておけば、エンデヴァー事務所ならよしなにして下さいますわ」
「失くしたりしたら大変やもんねぇ」
──例えばカリナたちは、透に来たメールを知っていたこともあり驚きは落ち着いている。
他には窓際でジメッと肩を落としたままの緑谷、あるいは早々に帰宅する轟(峰田たちにしか話していないが、兄の行方が知れないため)も例外にあたる。
加えてもう一人、見ようによっては誰より異質な存在。
それなりに周りに気を配ってはいたのだろう。目立たぬよう埋没したつもりだったろう。しかし最初から注目されていては意味が無い。
また、紛れるつもりはあっても探るつもりはなかった。だから“視線を向けてくる誰か”に気付くことも、できなかった。
■翌日
透さん達にご協力頂いた結果がでました。内容としては実に残念なものでしたが。
「〈ブルー〉の実施は決定、ですわね……。
「百は……どの辺が落とし所だと思う?」
悩まし気なカリナさんも明確な答えは持っておられないのでしょう。どちらへ転がすのも後味の悪い結果になりそうですから。
警察や学校の先生方に伝えるという対処もございます。しかしそれには証拠が──提出できる証拠が足りていません。加えて
強硬手段も
よってわたくしの選択は。
いえ選択というにはまだ曖昧ですが、方針としては。
「目指すは
「?? 構わないけど、普通に言ってくれたら大抵のことは──」
「大抵のこと、ではないので」
「おん?」
完勝と申しました。
あぁいえ、倒すべき方々については現段階で何の情報もございませんので、努力目標という位置づけになりますが。
他は
最後の一つが最難関。そうでしょう?
一番高い壁を最初に越えてしまえば後がやりやすくなります。
「ですからカリナさん、無茶を承知でお願いします。
「っ、おー、あー。なるほどぉ?」
ホームページに掲載された顔写真をお見せすると、カリナさんは驚きつつも意図を察してくれたようです。
「
「はい、先方の了承を頂ければ」
「分かった、アポまではなんとかするよ。でも会えた後のことは──」
交渉を始めるまでのハードルが高いお相手ですからね。そこまで繋いで頂ければ──インターンという形式は得られずとも、『話を通そうとした』という
「もちろん。セールスポイントは揃えたつもりです」
「
そんなことを呟きながら、カリナさんのお顔は『悪いこと教えちゃったなぁ』とでも言わんばかりの苦笑を
それを恥じるつもりなどございません。
もし謝られるようでしたらまたお仕置きですけれど。
──どうやら眼力で通じたようです。
「もう
堅苦しい雰囲気を解すように笑いかけ、軽口で応じてくださいました。
「あら。
「そこ強調されると内紛がヤバそうなんですが」
「ではカリナさんが
「きゅん♡」
百がカリナに頼んだことは次話にて。