【完結】愛慾のヒーローもどき   作:土屋 四方

112 / 202
※原作ではイマイチ不明ですが、本作では『ヒーローネームには"〜さん"等の敬称をつけなくても失礼には当たらない』こととします。


2. 後手:一手損(いってぞん)

雄英(うち)でいうインターンは『学生が使える制度』だ。普段の授業とはもちろん、職場体験みたいな“研修”とも扱いが違う──要するに行かなくたって別に構わん。学校はほとんど口出ししない」

 

 

 インターンについて、相澤先生からの説明はこんな感じだった。

 

 受け入れ先のヒーローと日程調整も含めて話をつけたら、『いつからいつまでインターン行ってきまーす』って報告は学校にもする。受け入れ先もインターン生の働きぶりを雄英に伝える。

 どっちにしても学校は受け身なんだよね。

 

 仮免試験に合格した私たちも前から持ってるリナリナも、インターンに行く義務はない。十一月の文化祭に差し支えない範囲なら日程だってかなり幅が許されている。

 だからヤオモモが『行き先を決めさせて欲しい』とか言い出したのも、びっくりはしたけど可能な範囲だ。

 

 行き先も日取りも受け入れ側との調整次第。

 それはインターン先で何をするかさえも。

 

 ヒミツのインターン先──大きな声で言っちゃいけないけどヒーロー委員会らしい?──を選んだヤオモモなんか、『言われたことやってる』感がゼロなんだよね。ゴールもやり方も自分で設定してるっていうか、大人の人にも指示出しとかしてるし、既にボスって感じがする。*

 全体像までは掴めないけど目標は分かり易い。不本意にやらされてるだけっぽい()を被害者として保護する&加害者にさせないことだ。

 

「お二人は特にお気をつけ下さいましね」

「ヤオモモのせいってわけじゃないんだから」

「はい、それに心配するほど危なくないですよ。任せてください」

 

 私はエンデヴァー事務所へ。ガミさんは被害者/容疑者の近くへ。

 

 ──謎の(本当にガチな感じの)秘密ってことでリナリナが休学になっちゃって、ヤオモモとお茶子の予定は直前で変更もあったみたいだけど。

 

「二人とも……心配、要らないくらい強いの知ってるけど。心配だなぁ……」

 

 準備と配置を終え、休学でちょっぴり弱ってるリナリナの言葉に見送られて、ついに出発の日を迎えた。作戦名(オペレーション)(ブルー)第二(フェイ)段階(ズツー)、ってやつだね。

 

 

 ──え、バカになんかしてないよ!?

 ヤオモモに気を遣ったつもりなのに!

 

 




 

 

■十月 上旬

 

 話には聞いてたけど、目の前にすると尚更大きく見えるエンデヴァー事務所! すっごい、テンション上がっ──

 

「なぜハンドサインくらい習得しとらんのだ」

「スミマセン……」

 

──て下がったぁぁ。

 到着早々にエンデヴァーから叱られてしまった。内容的に何も言い返せない。つらい。

 

「ゆーて透明人間はハンドサイン覚えないでしょー」

「学べば済むだけのことでコミュニケーションが限られるなど看過できん」

「ありがとうございますバーニン。エンデヴァーの言う通り、私の怠慢と見落としですから」

 

 今は事務所の中だから【透明化】も解いて普通に話してるけど、パトロールに出る時の私はいないものと扱われる。透明なまんま、声だって出すべきじゃない。

 TKGをかけたサイドキックの人とハンドサインでコミュニケーションできた方が良いのは間違いないんだ。

 

「必要だって気付いてもいませんでした。教えてくれてありがとうございます」

「フン。仮免試験の様子は焦凍から聞いている。集団との連携は弱点だ、重点的に鍛えていけ」

 

 本当にありがたいことだ。

 ──それに、すっごく嬉しい。

 

「褒めてくださるの二回目*ですね!」

待て。どこを褒め言葉と受け取った?」

「? “連携が弱点”てことは“個人技は完璧”なんですよね?」

「最近言葉の裏を読む者が多すぎないか……?」

 

 え、何を当たり前なこと……あぁ。

 これが噂の『ま知炎*』案件か。バーニンを見やると、笑顔でOKのサインをくれた。

 

「ええと、ビッグボ──冷さんが先月公開した『エンデヴァー語・自動翻訳&採点アプリ』によるとですね」

「大体分かった、もういい」

「これ、声か文字で文章を入れると『エンデヴァーらしさ』を採点してくれるんですよ。SNSで大バズでした」

 

 エンデヴァー……というより炎司さんは頭を抱えた。心当たりが山ほどあるのだろう。

 

 この採点機能ってかなり辛口で、長年のファンの人たちがそれっぽい言い回しを考えてもびしびし減点されちゃうらしい。九〇点越えるだけでも界隈では尊敬されるんだってさ。

 だけど本家本元は、例えば近所の小学生に『車に気を付けて帰るんだよ』とか伝える時でも──

 

「愚かな運転手はどこにでもいる。そんな連中から自分と家族を守れ。守れるようになるんだ」

 

──みたいな感じで毎回ほぼ百点なの!

 

 本人は全然狙ってないと思うけど、<無自覚見下し>加点とか<自分が第一>加点とか<成長は大前提>加点とかモリモリ稼ぐ。ちなみに声質は採点対象に入ってない。

 こんなのあったらエンデヴァーと接する時はいつもスマートフォン構えていたくなるよね。実際そんな感じの動画は山ほど上がってたし、学校でもみんなでエンデヴァーごっこ楽しんだもん。

 

 本当に微妙な言い回しで点が変わるから、こりゃ確かに過去の映像とか掘らないと点は取れないね、すごく上手いプロモーションだねって納得した。

 あぁでもリナリナは少し怯えてたっけ。

 

『これ作った冷さんちょっと怖くない……?』

『素晴らしい夫婦愛ではございませんか。それにわたくし、被身子さんと協力すればカリナさんバージョンを作れる自信があります』

『とーぜんですね』

『できればやめてほしいかな……!?』

 

 や、割とガチ目に怖がってたかも。まぁともかく。

 

「A組で満点とれたのはとど──焦凍くんだけだったんですよ」

「詳しく聞かせろ」

 

 ちょろい。

 なんか家庭に問題があったらしいことはふんわりと聞いたけど、普通に子煩悩のパパさんじゃないか。

 

 


 

 

 ナメた口きいてすいません、全っ然普通のパパさんじゃないわ。私はほとんど追いかけるだけだったのにずっと全力疾走してた気がする。立ち止まる時間が殆どない。

 

 質問は事務所に戻ってからまとめてぶつけるしかなかった。ぜぇぜぇ肩で息しながら。

 

「何を見て判断してたんですか? “個性”で熱とか感じ取ってます?」

「目と耳と鼻だけだ。【ヘルフレイム】で広域探知のような真似はできん」

「でも、直接は一度も見てないのにいきなり(ヴィラン)を壁際に追い詰めてました」

「あれは地の利だ、サイドキックの位置も良かった。俺一人で慣れぬ街なら──事前に地図は見てるものとして、プラス二分はかかっただろう」

「たった二分……!?」

 

 周りと同じものを見て聞いて、けれどそこから膨大な情報や手がかりを拾い上げて爆速で処理する。

 しかも戦いながら、市民も(修理したブローチも)護りながら。

 

 これが第二位(ナンバーツー)

 今や人気の面でもオールマイトに迫り、次のビルボードチャートでは逆転もありうると囁かれる頂点。

 

「すご…………」

「ウム、いや……今回は済まないと思っている」

「? 何がです?」

 

 どうして謝られるのか本当に分からなかった。だって凄いものを見せてもらったから。

 

「伝えてある通り俺は明日から居なくなる。直接教えてやれることはほとんど無い」

「それは承知して来てますから。この数時間の経験だけでも大収穫です」

「あぁ。……実りの多いインターンとなることを祈っている」

 

 おや?と思ったところへ〈ブブー!〉とブザーが重なった。そうだよね、なんかエンデヴァーが言いそうもない台詞だったよね。

 

「ボス! 女子高生相手にらしくないこと言ったってビッグボスが怒ってます!」

「!?──仕事中だぞバーニン!!」

 

 なぜか常に採点されてる上に秒で冷さんに伝わってて笑う。しかもエンデヴァー、叱りつける前にけっこーガチでビビってたよね。

 

 これは人気出るのも分かるよ。夫婦漫才だもん──多分エンデヴァーにそんなつもりは全然ないけど。そこもまたウケてるんだし。

 

 



 

 

■翌日

 

 

 日のある内に仮眠をとって、夕方からついに実戦だ。

 最初は滅茶苦茶に緊張してたけど、すぐにそれどころじゃない違和感に襲われた。

 

 余所者な私でも流石に気付く。昨日よりずぅっと忙しい。

 おかしい──わけではないのかな? エンデヴァーの抜けた穴が小さいわけないんだから。

 

 いやでもやっぱり、日が落ちてからの(ヴィラン)の出現頻度が高過ぎる。サイドキックの人たちにも余裕は感じられない。

 

「次、東二丁目!」

「バイクを回す、バーニン乗れ!」

「要らねェェー!」

 

 自力で飛べるバーニンに乗車を促すのは私を拾いにきた合言葉だ。急いで飛び乗って背中を叩き、次の現場に急行してもらう。

 向かう先には、もう何人目だか分からないような大口を叩くヴィランの姿。

 

「来やがったな雑魚共がぁ!」

「こっちの台詞だンダラァ!!」

 

 現着する直前にはバーニンがしばいて終わらせたので、私は野次馬などが居ないことを確かめてから天高く縦長な〔不透膜(インパーミー)〕を展開し、バイクのヘッドライトを赤熱する灼光にへし曲げて流してやる。

 この日この時間、エンデヴァーはここに居るぞと示すように。

 

 ──それにしても。

 

「ウチらを雑魚扱いとかどっから来たんだよコイツら」

「それもだが、ボスの件も気になる」

 

 実際エンデヴァーは今日からしばらくこの辺りにいない。でもそんなの親切にお知らせするはずなくて、なんでヴィランに知られてるんだって話になるんだけど。

 これが漏れたの、A組からでほぼ間違いないんだよなぁ……。エンデヴァーには前もって(ヤオモモが)報連相したとはいえ、申し訳なさに胃がキリキリしてくる。

 

 

 それに、なんていうか、こう。

 リナリナやお茶子風に言うなら、“ムカつく”。

 

 

 だってさっきから散発的に暴れてる人たちって、言っちゃ悪いけど私でも無傷で勝てそうなヴィランばっかりなんだよ。エンデヴァー事務所のサイドキックになんか絶ーっ対に敵わない。

 きっと()が秘密を漏らした。それを受け取った誰かがこの人たちを(そそのか)した──『今ならエンデヴァーが居ないから暴れたい放題だ』とか?

 

 

 なんのために? こんなことして何になる?

 そこはヤオモモみたいには分かんないけどさ。

 

 でもその手前は分かるよ。

 唆される方も悪いけど唆す方がもっと悪い。

 

 今、その誰かはどこで何してるんだろう。

 少なくとも地面に押し付けられて拘束はされてないだろう。どこか遠くで、何食わぬ顔で生きてるのかも。

 

 

 子供思いの父親みたいに? 心配性の恋人みたいに?

 ──透明人間みたいに?

 

 


 

 

 日が落ちてから数時間、夜の街を駆け回って沢山のヴィランを捕縛した。存在を知られるわけにいかない私はほぼ偽装火柱係。

 それでもちょっと疲れを感じ始めた*真夜中近く。

 

 ついに明らかな異変が起こった。

 

 

 

 あるヴィランを捕まえた現場はオフィスビルが立ち並ぶ区画。

 エンデヴァー事務所からかなり離れた位置まで執念深く逃げ続けるのを、私もこっそり〔不透膜〕で妨害したりして捕らえた時には、私とバーニンとキドウの三人きりだった。

 

 さて火柱(偽)をあげるわけだけど……こんな時間に人は居ないし住宅街からも繁華街からも離れている。

 つまりデッカい火を掲げなきゃ誰にも見えない。

 だから特大の〔不透膜〕を目一杯高くまで伸ばしてから偽の燈火に光を入れた。

 

 

 ──その照光めがけて、横合いから叩きつけられる巨大な()()

 

 

 ほんの一瞬だけ、バカな勘違いをした。

 焔と炎がぶつかって大爆発でも起こすんじゃないかって。

 もちろん片方はそれっぽく見えるだけの光だから、蒼炎は何に遮られることもなく素通りして、広げ過ぎた〔不透膜〕はその光量に*掻き消されていく。

 

「そこ逃げんなァ!」

 

 そんなバカを考えていたのは私だけで、バーニンは火元へと走っている。キドウが後を追い、私もすぐ我に返った。

 

「居やがったな! ナメた真似し──」

「────」

 

 ビルの陰、直角に右に曲がる角の向こうから声がして。多分ヴィランも何かを言った。

 直後。

 

「──ドウ退が、ゥ──!?」

 

 言葉と熱風、同時にバーニンが左方向へ吹っ飛んでいく。私の少し前を行っていたキドウはぶつかって押し戻され、バーニンは勢い余って壁に激突。

 ひどく焦げたコンクリートの角向こうから、緑の燐光を蹴散らして荒ぶる蒼い燎火(かがりび)。ジュウと水気が飛ぶような音、何かが焼け焦げる厭な臭い。聞き取りづらい低い声。

 

「──っぱな──足りね──」

 

 そして倒れ伏したバーニンに放たれる追い打ちの炎弾。ダメ、広い〔不透膜〕じゃ受けきれない!

 

「「バーニン!!」」

 

 彼女の首から上だけを護る小さな壁に、あらゆる熱を──ううん、高熱だけを遮る力を全力で。同時にキドウも炎弾をできる限り(そら)してくれた。

 

 ──それでも。

 後でキドウにも確かめたから言い切れる。私たちは守りきれていない。

 〔不透膜〕は狭すぎたし【軌道】は不充分、バーニンは少なくとも半身に──顔面と肺は守れてたと思いたいけど──大火傷を負う()()()()()

 

「ッッ、本部、キドウより至急! (ヴィラン)が逃走、それと救──」

「救急車はいらねェスよ。頭は打ってないんで」

 

 地面を転がって灼けたアスファルトから離れ、ヴィランがいた方を睨みながらの答えははきはきしている。

 

 三人違う方向を警戒しながら開けた位置に移動して……奇襲はない。ほんとに撤退したみたいだ。

 

 改めて確かめてみてもバーニンの火傷は軽度だ。……エンデヴァー事務所のサイドキックはみんなコスチュームに耐火・耐熱性が持たされてるっていうけど、さっきのはそれで防げるような温度じゃなかったはずなのに。

 

 彼女が無事なのはもちろん強がりとかじゃなくて、だから酷く……怒っている。傷付いてもいると思う。それでも──

 

「ナメられた。あいつはアタシを……!!」

 

──それでも彼女は、歯噛みしながら受け入れ難い事実を認めた。

 

 ヴィランがわざと外したのだと。

 そのつもりなら殺されていたと。

 

 

 つまり──サイドキックの手には余ると。

 

 

「バーニンより本部、全チームと警察にも通達を。黒のツンツン髪でコートの男との戦闘はできるだけ避けろ。可能なら()け──いや、それも深追い厳禁。以上」

 

 口惜(くや)しくないわけない。拳は硬く、肩をいからせ、【燃髪】はバヅンバヅンと弾けている。

 その上での冷静な安全策。もちろんエンデヴァーがいたら対応は全然違うんだろうけど、ここで攻勢には出られないと。

 

 

 あんまりにも並外れてるせいで寒気さえするような──死を感じさせる──熱量を、()()()()()()()()。今日捕まえた他のヴィランとは一線を画する炎の使い手。

 そんなこと誰かが言ってたような──

 

ケッ、炎系なんざ珍しくもねえ。これまでどうにかしてたんなら今回のは雑魚じゃねえんだろ。

 

──そう、そうだ。あれは先日大阪でホークスが取り逃がしたヴィランかも知れない。

 

 

 


 

 

 透が思い浮かべた可能性は、事務所の本部でも可能性として挙げられた。野放しにするには余りに危険。

 せめて足取りを追おうと考えた警察は広域に非常線を配備した。

 

 ──しかし結局、この日この男を目撃したのはバーニンとキドウの二人だけであった。

*
もちろん非常に特殊なインターン事例。

*
一度目は体育祭の騎馬戦について。

*
『まだ知らないのは炎司さんだけです』または『またしても何も知らない炎ちゃん』の略。

*
他のサイドキックはローテーションで休めているが、透は頑張り過ぎて出づっぱりになってしまった。

*
〔不透膜〕は体積と耐久上限が反比例する。広げるほど脆い。




※この話に爆豪は登場してません(それっぽいのはバーニンです)。
※まだ踊りません(?)
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