【完結】愛慾のヒーローもどき   作:土屋 四方

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※残酷な描写あり



4. 凶手:赫換(かくが)わり

 青山さんに具体的な疑念を持ち始めたのは夏休み中。切掛は飯田さんからのお電話でした。

 通話を保留にしたカリナさんから問われ、被身子さんは衝撃的な一言で答えたのです。

──手抜き、だと思います。

 

 重く考え過ぎかも知れません。ですが“手抜き”という言葉はわたくし達にとって特別で……はい、あの件はわたくしが悪かったと反省しています。

 

 かなりの短期詰め込みで雄英に入った被身子さんは、座学に関して『クラスの半分より下に落ちなければ良い』と決めたようで、それより上を全く目指さなくなりました。

 わたくしには勿体なく思えたのです。だって被身子さんは狙えば最上位層に入れる力もある。なのにその姿勢は“手抜き”だと責めてしまった──もちろんお茶子さん的な意味ではございませんわよ?

 

 諌めて下さったのはもちろんカリナさんでした。

ねぇ百、被身子はこんなに頑張ってるじゃない。嫌いなことでも投げ出さずにさ。

そりゃ好きなことほど全力じゃないけど、それって手抜きなの?

 

 ……そうです。あの(いさか)いがあった以上、被身子さんは軽々しく手抜きなどとは仰らない。

 

 もちろんそれはきっかけに過ぎず、確信とまでは行きませんでしたが。

 期末実技でチームを組んだお茶子さんの所感や、家の者に頼んで聖カミイノ(青山さんの出身中学)の同学年から聞き集めた過去、体育祭の後にお引越しなさっていたこと、休み明けにお話を伺おうとした際の強引なはぐらかし──日を追うごとに疑念は色濃くなっていきました。

 

 決定的だったのは仮免試験の後。

 透さんがエンデヴァー事務所からお誘いを受けた件で思い立ちまして、先方の許可を取った上で罠に使ったのです。

 ……罠というよりは釣り餌でしょうか。

葉隠、今ちょっといいか。

クソ親父からインターンの連絡いってるだろ。できれば返事聞いて来いって言われてよ。

 

 わざと耳目のある教室で、轟さんに一芝居打って頂きました。この日にお二人が話した内容は全て、事務所からの連絡に書いてあり予め承知していたことです。

 あの会話を、交ざるでもなくじいっと聞いて──そして間を置かず第三者に漏らした。

 

 少なくともシロでないことは確定。

 介入を決めて“(ブルー)第一(フェイ)段階(ズワン)を発動。

 

 とはいえ仮免ヒーローかつ学生の身では出来ることが限られすぎるので、手の幅を拡げるために公安でのインターンなどという横車を押し通しましたが──結果論としては最善だったと考えています。

 

 十月になると緑谷さんの現状に食い付くなど、青山さんの情報収集対象はA組全体のようで──()()()のターゲットを絞りきれませんでしたから。

 公安の端くれとして得られる情報力が必須だったのです。

 

 先の釣果のおかげで公安から明かされた()()()()()()()()と、エンデヴァー氏が事務所を離れた日の晩に管轄地が襲われたこと。

 何よりの決定打として、右腕級のサイドキックであるバーニン氏を()()()()()()こと。

 

 これらを合わせて考えれば、(ヴィラン)の狙いは──『エンデヴァー氏が()()()()()()()()()もの』。

 仮にサイドキックのお命を奪えば、所長は仮免補講をキャンセルしてお戻りになるでしょうから、それを嫌ったと考えました。

 

 ……読み自体は、的中したのですが。

 

 

 しかし『有力な可能性』にしか高められず、何より襲撃の日時は全く絞れず。『仮免補講が終わるまでのどこか』ではホークス氏や他のヒーローを待機させるには曖昧すぎました。

 

 はっきり“警戒待機”体制で待ち構えるヒーローは一人……いいえ、半人前のわたくしのみですから一人未満。

 公安の方も連絡・監視要員はお貸し下さいましたし、出来る限りの声掛けは行ったものの──何が、何が鬼札(ジョーカー)ですか。

 

 わたくしが(まさ)るべき力は、激突以前の状況設定で有利を作ることでしょうに。

 一対一でわたくしが問題なく勝てたとしてもそれは結果論。

 ()()()()()()()()()()()()()()を得たとしても単なる天恵。

 

 布石(じゅんび)段階はかなり不利。そう評価せざるを得ません。

 

 




 

 

 スケプティックの下についたのは嫌々だったが、思ったよりずっとイイ感じだ。オバホの旦那に会えたのは超幸運だったし、ロン毛もコツが分かれば扱い易い。

 あいつのいう『余計なことするな』って、『しても良いけどちゃんと証拠隠滅しろ』ぐらいのユルさなのな。自分と組織とに迷惑かけなきゃ何したって良い──これは言い過ぎか? だがそれに近い。

 

 おかげで()()()()()()()()にも実地で経験を積ませてやれたし。なぁ夏くん?

 

 しかも焦凍の、というか雄英一年A組の情報も手に入ると来たらもう、幾らろくでなしの俺でも感涙にむせぶってもんだ。異能解放軍ばんざーいってよ。

 ……アホくせぇ。

 

 

 

 土曜(きのう)の夜、エンデヴァーは事務所周りにいなかった。代わりに見た目だけの火柱を演出する学生がいた──見えはしねえが多分いたんだろう、声も聴いた気がするし。

 ここまでは情報通り。

 

 

 んでニチアサ(よくじつ)──これはどういう状況だい。せめて服くらい替えて来りゃ良かったのかね。

 

「お名前もいらした目的も答えられませんか。でしたら地面にうつ伏せに寝て下さい。十秒以内に」

「見ねえ顔だ、新人か?」

「九」

 

 懐かしき轟家、呼び鈴を鳴らす前に声をかけて来たのは──体育祭で見たポニテだ。蹂躙劇のエンターテイナーだっけ?

 

「若いってか子供じゃねえの。あぁインターンの時期か」

「八」

「学生がなんつーカッコしてんだよ」

「七」

「ちったぁ照れるとかねえのかい」

「六」

 

 傲慢で揺らがない正しさ。苛つくねぇ──いや憎みはしねえよ。それはアイツ等だけのもんだ。

 

「…………」

「五」

「おいおい、両手挙げて降参してんだろ?」

「四」

 

 ポニテは何か大型の器具(恐らく捕縛用サポートアイテム)を構えたままカウントダウンを続ける。十メートル以内に入ってくりゃ即殺(そくさつ)してやんだけどな。

 

「三」

 

 ま、ここで素直に捕まるなんてのはありえない。

 悪ぃなスケプティック、今回は証拠隠滅ムリだわ。

 

「どけ」

「に──!!」

 

 ご立派な歴史でもありそうな惣門にドカンと一発。

 ポニテは当然避けるしこんな古臭い門……お? なんだよ見た目によらず耐火改築とかしてありやがる。

 

「念入りなこった」

 

 ちょいと真面目にもう一撃。真っ先に蝶番がイカれて、鉄板入りの門扉が敷地側に倒れる。熱風が庭木を焼き、家庭菜園も一瞬で台無し(おじゃん)

 

 燃え続ける門を潜る。皮膚が灼けた。

 門扉を踏んで進む。あぁ、粋な眺めだ。

 (いかめ)しい書院造が(あか)(あお)に照らされてる。終わりを怖がってるみてえに。

 

「お止まりなさい!」

「誰が止まるんだよそれ」

「お一人で何ができると!」

 

 門を迂回して塀を越えて来たにしては中々早いタイミング。ポニテが横合いから放ってきたのは球状の液体……浴びると厄介そうだな、焼き払──!?

 

「!!ッ()、ぅ。ぁー、学生(ガキ)からダメージ食らうなんてな」

 

 やらかしたぜ、逆に熱で固まる弾丸か。まんまと騙されちまった。

 どうもこりゃあ待ち伏せに近いらしい。炎熱系の襲撃者を前提にした武器だ。

 

「頭に当たっています、治療を──」

「だから誰が頷くんだって」

 

 となると標的にも逃げられかねないわけで、お遊びはやめて脚を進める。このポニテに手札がありゃもう切ってるだろうし……ん、追撃はしてこない。避難の支援に回ったか?

 

 だがこの屋敷に裏門は一つだけだ。最短距離で向かえば丁度、勝手口からでてきた二人とご対面。

 

 感動の対面──を邪魔しやがる消防士、もとい追加でやって来たヒーロー・バックドラフト。おいおい、まだ俺がポニテに見つかって一分ぐれぇだぞ。

 邪魔してんじゃねーよクソが。何やら必死で水鉄砲ぶち撒けてるが、ンな簡単に【蒼炎】は消えない。

 

「お二人は避難を!」

「ありがとうございます! 行きましょう」

「うん!」

 

 …………本物だ。

 替え玉なんかじゃない、本物の轟冷その人が、我が子の手を引いて逃げようとしてる。長女(ふゆちゃん)を守ろうと、長男(ヴィラン)に近い側を譲らぬ力強さで。

 

 ヒ、えぇおい、立派に母親やってんじゃねえか。

 そんならさぁ。

 そんなことできるんならさぁ。

 

「逃げねえでくれよ」

 

 裏門に火を──おっと強過ぎちまったか? 轟々と燃え上がってとても通れなくなったから構わねえけど。それにバックドラフトの水と二人自身の冷却で怪我は無さそうだし。

 

 表門と裏門が炎上して、こうなると屋敷を囲む塀は逃げ道を塞ぐ(おり)も同然……いや、経路を確保しようとはしてやがるな。

 二人をじりじりと敷地の隅に追い込みながら炎をばらまく。もちろん消防士みてえなコスのヒーローは間に立ち塞がるが──

 

「おい君、気付いてないのか!? 自分も焼けちまってる!」

「ヌルいこと言うじゃねえか」

 

──放水を俺の周りに集中させてもなお【蒼炎】を消しきれてねぇ。こいつヴィラン撃退は苦手なタイプのヒーローだな?

 

 ともかく余裕がねえバックドラフトは護衛対象に当たらない炎弾を素通しにした。それが塀に用意されてた縄梯子に着弾する。

 縄っつーか鎖。金属っぽい材質だが関係ないね。強度的にも温度的にも登れるもんじゃなくなったし、俺の視界内で塀をよじ登るなんて隙はデカ過ぎる。

 

 ずんずんと進んであっさりと敷地の隅に追い詰めた。どうも塀の外側にあのポニテがいるようで、何か大荷物が投げ込まれて二人の手に収まる。

 

「冬美いそいで!」

「お母さんも! (あっつ)……!!」

 

 広げて二人が包まったそれは──何層にも重なった防火シート。良いね良いじゃねえかナイスアシストだ。

 目の前のポンコツ消防士もそうだが流石ヒーローはお優しいねぇ。

 

「なんて火力……!」

「すっトボけてんじゃねーぞ、テメーのお陰だろうが」

「な──!?」

 

 ──合間々々に【蒼炎】を切って水浴び挟んでたお陰でここまでゴリ押し出来てんだっつーの。しかもあっさり狼狽えやがって、そんなに死にたきゃ望み通りにしてやらぁ。

 

 下肢に火力を集めて一気に距離を詰める。遠ざけたがって高圧放水を向けてきたが、火元と違ってヴィランってのは避けるしフェイントも入れるんだぜ。勉強になったな?

 湯気に巻かれながらバックドラフトの首に手をやった。二人は防火シートの中だから巻き添えの心配は無ぇ。

 

 赫灼──なんてご大層なもんは必要ない。ただ雑に力込めただけの【蒼炎】でテキトーに焼け死ぬんだな。お疲れ、臨時の冷却役(ラジエータ)

 

 


 

 

 門外で百が声をかけてから、ようやく三分が経とうかというこの時点。

 状況は極めて悪い。

 

 エンデヴァー事務所近辺での一件から十時間と空けずに襲ってきたこと。轟家だけを一点警護できるほどの情報は無かったこと。

 何より襲撃者が屋敷の構造を熟知していたこと。

 

 百は予め近隣ヒーローに『可能性』として申し入れてあったものの、荼毘が現れた時点で即座に駆け付けられる位置にいたのはバックドラフトただ一人。

 自焼(じしょう)に慣れきった【蒼炎】の凶熱に、彼の放水では抗しきれなかった。

 結果的にデメリットを緩和してしまったヴィランの【蒼炎】に全身を包まれ──しかも、荼毘は油断をしていない。ヒーローの膝が折れるまで加熱を続けた

 

 

 仮免ヒーロー・エリクシルが塀を越えた瞬間、バックドラフトが地面に倒れ伏した。生死は不明。

 障害を排除した荼毘の手はいよいよ冷と冬美に伸びており──

 

『お二人の拉致が目的……!』

 

──【蒼炎】の放出はぴたりと止んでいる。

 殺意は無いのだろう。しかしエリクシルの位置からは妨害が間に合わない。

 

 轟家防衛戦は、その奪還を目指す追撃戦に変わりつつある。

 

 

 ──しかし、まだ。この瞬間はまだ。

 冷と冬美は荼毘の手に落ちていない。二人の怪我は軽い火傷のみ。

 複数のヒーローがこちらへ向かってもいる。

 

 もしも防御側がエリクシル一人だったなら、荼毘はもう逃走に移っている頃合い。

 だから()()()が荼毘の前に立ったのは、バックドラフトの確かな功績と言うべきだ。

 

 

 ──三人目の功績と言い切るには少々問題もある。

 主に()()()()()

87話『峰田実にも向上心くらいある』

-話『初めての大喧嘩』

110話『実施の是非』




以下のキャラは現在:

カリナ&緑谷 → 病院
オールマイト → 四代目の調査
轟炎司&焦凍 → 遠方で仮免補講

 それぞれの理由で参戦できません

(キャラが増えすぎるので触れませんが、『仮免補講の対象者が士傑の方が多いので西の方でやってる』とかそんな感じでひとつ)
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