【完結】愛慾のヒーローもどき   作:土屋 四方

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 箸休め(休まるかは謎)


峰田実にも共感力くらいある

 オイラ、ついに(仮免)ヒーロー(候補)に上り詰めた峰田実。ならばモテぬわけも無し。A組女子は百合枠として除外したけど、ぶっちゃけ性欲の怪物(モンスター)だぜ。

 しかも仮免講習、がっつり四泊五日もかけてやるって言うじゃねーか。土日が潰れんのは痛ぇが林間合宿を思わせる『一つ屋根の下』期間、きっと生まれるアヴァンチュールは夏でも秋でも大歓迎ってな。

 

 ……それがよぉ。

 A組から講習受けんのがオイラと轟だけっつーのは、泊まりも二人部屋でちょっち気まずいけど笑って流せたわ。上鳴や瀬呂のバカ共も見下してやったしな!

 んで士傑の講習組にバインボインエロンなグレート女子も居たから、そりゃもうテンション上がりまくってたのに。

 

(かよ)い!? 泊まりじゃねぇの!?」

「だってウチの家ちょいそこだもーん」

 

 小綺麗なホテルに士傑組*は泊まらないという。

 どうも長距離移動&宿泊者を減らすためにオイラ達が士傑の近くまで来る羽目になったらしい。つまりA組(うち)のダメンズ共がもっと頑張ってりゃこの先輩は雄英の近くに寝泊まりしたってことじゃねえか!

 

「いきなりご実家にお持ち帰りとかよろしくお願いします!」

「この葡萄なんなん? マジ害悪」

「うちの馬鹿がすいません」

 

 なんで轟が謝ってんだよゴラァ!!

 

 


 

 

 初日、土曜日。

 予想通り厳しいエンデヴァーの訓練は、思ってたより分かりやすくて現時点の実力に寄り添ってくれる感じだった。朝と夜とで一段違うオイラになれた気がする位だ。

 

 危うく『炎ちゃん』って呼びそうになった時は殺されるかと思ったけど。

 あ、これオイラの個人的体験談ってことでSNSに投稿しても良いッスか? ダメ? ッス。

 

「スゥー……怖かった。マジ怖かった」

「峰田お前、なんつーか凄えな」

「そんなに褒めんなって」

「褒めてねえぞ」

 

 夜は速攻で寝た。疲れもあるが猥談の相手も居ねえし。

 

 

 明けて二日目、日曜日。

 早朝のニュースはエンデヴァー管轄地での事件を繰り返していた。

 

「……(ヴィラン)は逃亡、軽傷者一名、か。葉隠のヤツここにいたんだよな、大丈夫か……?」

「? お前ケータイ見てねえのか」

「あ?」

 

 悲報──クラス内トークからいつの間にか抜けていた件。

 まぁ誰かが蹴り出したとかじゃなく、きわどいワードの使用頻度がちょいと高めギリギリを攻め過ぎてシステムの自動退室くらったみてーだけど。すぐ呼び戻せやアホ共がよぉ!

 轟に復帰させてもらって直近の会話も見せてもらえば、葉隠に心配は要らないようだ。

 

詳しくは話せないけど私は無傷だよ!

 

 なお兵怜ちゃんとパイセンから(無傷だっつーのに)殺意高いコメントがぶら下がっててクラスメイトは割と引いてる模様。オイラは寿命が伸びた。

 

 

 早朝のランニングやらの後はメシを済ませて、一時間ほど自習タイム──まぁ食休みだわな。午前中に休憩らしい時間はここだけだし。

 だから部屋のテレビをつけても轟から文句は出なかった。

 

 けど、つけなきゃ良かったような気もする。

 オイラから観ても地獄のような映像だったから。

 

 緊急速報、緊急速報。そう告げて映像が切り替わる。

 プリ●ュアの時間を引き裂かれて、それも仕方が無いとすぐに納得する絵面だ。

 

──れますでしょうか、あちら北東の方角から火の手が上がっております!

昨晩遅くにエンデヴァー事務所の近くを襲った蒼い炎が──あぁ! 今また大きな火柱が!

退避を促す無線が流れております、無論このヘリは警戒エリアの外を飛びながら超望遠で様子をとらえており──

 

 オイラには見慣れねえお屋敷で、画面の隅にある見出しで初めてエンデヴァーの自宅と知る。

 慌ててチャンネル変えようとしたが……止められちまった。無理もねえよ、轟の家なんだし。

 

 望遠のせいで粗くて見づらいけど、蒼い炎が断続的に燃え上がっては数人を敷地の隅へ追い詰めていくのは分かる。門だけじゃなく家にも火が回り始めているようだ。

 

「ありゃあ……バックドラフト?」

「母さん、姉さん……!!」

「ま、マジかよ!?」

 

 ヴィランの近くに居るのと赤と黄色の色味でバックドラフトって言ってみただけで、後ろの人らは髪色くらいしか分かんねぇ映像だぞ?

 髪なんて歳とれば白くなるわけで、あの二人が轟の家族って決まったわけじゃねえ……いや正直苦しいが、見間違いの可能性はあるはずだ。とはいえ──

 

「頼む……いや……」

「轟……」

 

──あー、轟はまぁ、こういうヤツか。『家族であって欲しくない』と思っても『他人であってくれ』とは祈りづれえのな。クソ真面目がよ。

 

 

 固唾を飲んで拳を握ってたけど、実際はほんの数分の出来事。

 見間違いでなければ──見間違いであって欲しいけど、バックドラフトは思い切り焼かれて、直後に割り込んできた見覚えのある爆発さん太郎も蹴り(?)倒されて、それでもようやくヒーローの包囲網が整った。

 

 風でヘリが揺られて確保の瞬間は見えなかったが、これで逃げ切れるわけが──

 

信じられません、ヴィランはあの包囲を抜け消えた模様!? 発表が待たれますが、移動牢(メイデン)の使用は確認出来ません! 近隣の皆様は充分に──

 

「……ウソだろ……?」

「…………」

 

 轟は無言で立ち上がり、少ない荷物を荒っぽく鞄に詰め込むと速足で部屋から出て行った。

 追い掛けるか、ってもなぁ……。二の足を踏んじまって、オイラ自身も震えが治まらねぇまま、すぐにまた飛び上がることになった。

 

ズドォン!!

 

 本気でテロかなんかだと思ったわ。エンデヴァーにもヴィランの襲撃があったのかとよ。

 盛大な親子喧嘩だったらしいが。盛大過ぎるっての。

 

 そんなこともあったから、二日目の講習は大分遅れて始まった。エンデヴァーの代わりに地元のヒーローを招いて。これでも大急ぎで手配してくれたんだろうな。

 

「雄英マジやばじゃーん?」

「うちの馬鹿がスンマセン!」

「ザ・おまいう」

 

 まぁケミィパイセンとお喋りできたから許してやらんでもない。

 

 それより驚いたのは、午後から轟が合流してきたことだ。荷物持って出たし午前中はいなかったから、てっきり親父さんと一緒に戻ったもんだと思ってたぜ。

 つーかそうしてくれた方が一人部屋で気楽だったまである。

 

 ……二日目もひーこら乗り切ったけど。

 部屋の空気が激重なんだわ。シリアスは去れ! とか言いてえなぁ。流石に自重。

 

「峰田、ちょっといいか」

「あー……聞くだけしかできねえぞ?」

「頼む」

 

 やれやれ、世話の焼けるクラスメイトだぜ。

 

 

 

 朝のニュースを見て、轟は親父さんと一緒に戻るつもりだったらしい。だけど止められた。ここでちゃんと仮免を取ってから来いと。

 

「それで火ぃ吹いたんか」

「……すまねぇ、かなり驚かせたらしいな」

「爆豪なら驚かなかったけどなぁ」

 

 さらりと同列扱いしてやると心外そうな顔をしやがる。お前たまにキレた時は大差ねーぞ多分。

 

「ホテルの被害はほとんど無かったんだが」

「マジで? 建物がビリビリ言ってたのに?」

「……親父が……上手いことやったらしい。熱を受け流して弱い衝撃を散らしたとか」

「それ滅茶苦茶すげぇことなんじゃ」

 

 不本意そうな頷き。すげぇもんはすげぇからな。

 

「実力差みせつけられて(さと)された感じか?」

「諭された、てのは違う。そうなら俺は納得してねぇし」

「納得しとけや──いや、結局は納得したのか」

 

 轟は現にここにいるし、午後は真面目に講習も受けてた。言われた通り仮免を取ってから帰るつもりなんだろう。

 

「納得っつーか……あのクソ親父、すぐに謝って撤回したけど、ぽろっと漏らしたんだよ。“足手まといは要らん”って」

「あー、うん、その」

「だよな、あれこそ“エンデヴァーらしさ”って感じだ。本音なんだと思う」

 

 人がせっかく濁したことを。これを実の息子から言われるエンデヴァーもよっぽどだが。

 

「闇が深えってんだよ」

「つっても母さんを取り戻す上で、仮免も持ってねぇガキを一々現場で守ってらんねえだろ」

「……間違いなく、おふくろさんだったんか……?」

「あぁ。現場から報告があったらしいから間違いねえ。姉さんは軽傷らしいが」

「お、おう」

 

 良かっ──良くはねえやな。

 何を言えと。オイラだぞ? 峰田ぞ?

 

「母さんが拐われても仕事だとか抜かして講師を続けるよりはずっとマシだ。アイツは本気で怒ってて、そこはちっと見直した。だけど……」

「?」

「なん、つーんだろうな」

 

 青少年かよ。青少年だわ。

 轟はその時のモヤモヤを上手く言葉にできないらしい。しゃーねぇなあ。

 

「『実力は足りてるだろ』とか」

「いや。バックドラフトがやられて、八百万と爆豪でも止められなかったらしいから──」

「八百万が?」

 

 お前さぁ、言っちまってから「聞かなかったことにしてくれ」じゃねーよ。口に【もぎもぎ】詰めとくか?

 

「──仮に実力足りてても免許がなきゃ犯罪だろ」

「マジメさ飯田級かよ。そんじゃあ『エンデヴァーが心配』説」

「……()えだろ? 炎使い相手に負ける想像がつくのかよ」

「つかねえけど──」

 

 先月の『エンデヴァーらしさ採点アプリ』の件といいオトン大好きかよ。メンド臭えから指摘しねえけど。

 

「──そうじゃなくて、負ける以外にも心配なことがあんだろ?」

「負ける以外?」

 

 またきょとんとしやがっ……いや、マジで言葉になって……なさそうだな。

 なにコイツ心に闇とか抱えてないわけ? オイラがクソ腹黒みたいな気分になるからやめてくれよ。

 

「……本気で怒ってたんだよな?」

「あぁ、そう見えた」

「だったら可能性としちゃ、実際には絶対(ぜってー)無いとしても。『犯人を()っちまいかねない』とか頭を()ぎるもんじゃねーの」

「……あぁ……そう、か」

 

 どうも刺さったらしい。いや実際のところは知らねーけど。ただ本人さえ何となく納得いきゃ『めでたしめでたしまた明日』って終わ──

 

「そんじゃ俺は、殺気にビビってここに残ったってわけか……」

そーじゃねーだろ

 

──終わらせろよ眠いっつーの! こいつの情緒どうなってんだよ幼稚園児か?

 

「おま、お前なにか? 仮にエンデヴァーが犯人殺しちまったらそれでスッキリするタマか?」

「……スッキリはしねえだろ」

「ならそれが心配なんじゃね。一緒に現場出てって止めたい、だからさっさと仮免とる。それじゃダメかよ」

 

 この野郎、これまでで一番驚いた顔しくさりやがって。しまいにゃキレんぞ。

 

「…………お前、実は割と凄え奴……なのか?」

「せめて言い切れや!!!」

 

 

 そんなこんなで、微妙に不本意な信頼(?)を稼いでる内に本当に眠くなって強引に終わらせた。

 翌日からも講習が楽な日なんてものはなく、ようやく仮免ゲットして帰る頃にはへろへろのぷーだ。

 

 

 その忙しさと疲れのせいで──ってのは違うか。オイラ達に限らず、ほとんどの外野はもう一つのニュースに注目してなかったはずだ。

 日曜日の午前中、別の場所でも火事があったなぁ位は聞いてたとしても。テレビもネットも轟ん()の件ばっかり繰り返して、“単なる不審火”は小さなニュースみてえな扱いで押し流されちまってたから。

 

 

 ……改めて考えると気持ち(わり)いよな。

 片や死亡一人・行方不明一人・重軽傷六人。

 片や()()()()

 

 数字で見りゃどっちも大事件だろ。

 片方はヒーローの家で起こって、ヒーローが殺されて、ヒーローの奥さんが拐われて……そういう話題性でクローズアップされちまってたような気もする。

 四人が亡くなった方はなんか慈善団体(?)の事務所で、全員一般人で……確かに地味は地味だと、オイラなんかは納得しかけちまったところもある。

 

 

 

 だけど流石にな。

 

 クラスメイトが両親を亡くしたってのは……つれぇよ。

*
現身ケミィ以外にも沢山いるが峰田の視界には入ってこない。




 次話、青山回。
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