【完結】愛慾のヒーローもどき   作:土屋 四方

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 正しくなくとも 弱くとも
  歪んでいても 親は親


青山優雅にもキラめけない日はある(Can't stop twinkling may stop twinkling)

 轟くんの家でひどい事件があって、続けざまにもう一つの不審火があった日曜。

 

 お昼を少し過ぎたところだけど空腹なんて感じもしない。ここは病室なのに寒々しくて──あぁ、法廷の被告人席に立ったらこんな気分になるのかも。じゃあこれは予行演習みたいなものかな。

 検事役はベッドの上で正座している(軽傷らしい)八百万さん。聞き手は僕の右隣にいる刑事の塚内さん。裁判長は左側の相澤先生か、それとも──外に立つ彼女だろうか。

 弁護人? そんなの居ないし必要無い。

 

 

 

 八百万さんがつらつらと語った告発に、僕はとても驚かされた。随分と僕に同情的だったのもあるけど、ほぼ完璧に事実を言い当てていたからだ。

 

「ハ、ハ。すごいね、本当にすごいや──。

 もう何も隠すつもりなんか無いけど、補足することの方が少なくて困っちゃうくらいだよ。

 あぁでも、はっきり間違ってたのが一箇所だけ。

 僕は“個性”の複数持ちじゃないし奪われたわけでもない。元が無個性なんだ。

 無個性だった。

 無個性だったから、だと思ってたんだ……」

 

 八百万さんは何かの記録映像で、僕以外が【ネビルレーザー】を使う様子*を観たらしい。それはきっと元々の持ち主で……僕は顔も名前も知らないけれど、無事じゃない可能性はあるから確かめて欲しいと刑事さんにお願いする。

 ただ、それは脇道だ。

 今この場は僕ら──僕と僕の両親の断罪裁判なんだから。

 

 罪はすっかり暴かれている。

 問われたのは情状。僕と両親は一体なぜ・何を思ってそんなことをしたのか。

 

「無個性でツラかったのはさ、両親が僕に謝るんだよ。『そんな風に産んでごめん』、『何を差し出してでもお前に“個性”をやるから』って。

 で、【ネビルレーザー】と引き換えに何か不味そうな人の使い走りをやりだした。誰が見たって僕のせい──いや、違うね。違ったんだ。

 『僕のせいだ』と思い込んでた。少なくとも僕は」

 

 八百万さんは黙って聞いている。驚きはないのだろう。

 刑事さんが続きを促す。

 

「…………切掛は体育祭で間違いないのかい?」

「はっきりは分かりません、問題の人物……その代理人ですかね。やり取りは割と頻繁だったようですが、僕は関わらせて貰えなかったので」

「全てご両親が?」

「はい」

 

 正直な答えだけど、刑事さんが困った顔をするのも分かる。そのまんま信じてもらうのは難し──

 

「合理的なルールでしょう。青山さんが怪しまれ監視されても、それだけならスパイ容疑が固まることは避けられますから」

 

──難しい、はずなのにね。どうして八百万さんがそんなに庇ってくれるやら。

 でも内容はその通り。僕は学校での出来事を雑談として(ただしとても詳しく)親に話しただけで、他の誰にも漏らしていない。

 

「……(くだん)の“支配者”がいなくなったと確信できたのは、体育災でアレだけのことがあったのに追加の命令が来なかったから。疑いはもう少し前からあったかも知れませんが」

「その頃に君は学業の成績が上がったね。やはり手を抜いていた?」

 

 “目立たぬように”という指示が取り払われて、思い切りやれたとは思うけど。やっぱり素直には頷きにくい。

 

「それじゃまるで僕が本当はすごいヤツみたいじゃないですか。中間前後のあれはノリと運とテンション……あぁ、仮免試験の時の葉隠さんみたいなもので」

 

 八百万さんと相澤先生が納得感と共に頷いた。なんかごめんよ葉隠さん。

 

「……体育祭の後のことは?」

「出来事としては八百万さんの説明通りですよ。僕個人としては──」

 

 問われて、思い返して。

 笑ってしまった。滑稽すぎて。

 

「ハハッ、信じられない。驚きの一言ですよ。

 あの人達ね、言ったんです。よりにもよって『これからは清く正しく生きられるな』みたいなことを。

 引っ越したのは巨人災害の復興支援のため。多分本心です。本気でそう思っていた。

 お金は……汚いお金でしょうけど、ありましたからね。ほぼ新築のまま売りに出された大きな家を買って、その一部を炊き出しや集会に貸し出して……地域貢献も少しは出来ていたと思います。

 だけどそれも、ほんの数ヶ月しか保たなかった」

 

 両親は僕に言ったんだ。

 

また“目立たぬように”出来るわよね?

 

 以前も上手くできていたのだから、と。

 アレは果たして誰かが強いたことだろうか? なんとなく違う気がする。

 

「それは、青山くん。騙す方が悪──」

「騙されに行ったようなものです」

 

 刑事さんの言葉を僕は遮った。

 庇わないで欲しい。誤魔化さないで欲しい。

 あまりにも主体性が無さすぎた人達を。“強いられ”“騙され”ないと生きられなかった弱さを。

 

「八百万さんの言った通りだよ。両親は()()()()新しい支配者を求めた。『やらされてる』って免罪符のない自由が疎ましくて。

 だっておかしいじゃないか、『“個性”で差別される当事者の会』? その会に雄英の生徒がいなかったのは当たり前だし、そんな会が雄英の何を、何のために知りたがるって……!!」

 

 話していると、僕も怒っているのだと気付く。身勝手な怒りだけど。

 そしてやっぱりあの人達は愚かだ。最低でも僕と同じ位には──つまりどうしようもないバカってこと。

 

 八百万さんが静かに僕を宥める。

 

「一応お伝えしておきますが、その会にも雄英生のご家族はおりますし、組織全体がそんな情報収集をしているわけではない……はずですわ。改めて調査は必要ですけれど」

「あぁうん、全体がどうとかは知らない。うちの両親と接してた人が、おかしなことまで根掘り葉掘り訊ねて来てただけで」

 

 あんなの明らかにおかしいって分かるし、分かったら手を切るのが正しい。正しいはずだ。

 

「それを分かっていながら……僕も加担しました。時期は七月の頭から。

 渡我さんとクダギツネのこと、みんなの“個性”のこと──もちろん葉隠さんのインターンの件も。

 僕が漏らしたことです。何か掴めていたら緑谷くんの話もしたでしょう。団体に直接伝えたのは両親でも、僕のせいでみんなを危険に晒しました」

 

 メキィ、と。

 病室の扉が叩き割られたのかと思った。

 

 けど実際にはそんなことなくて。八百万さんがひょいと開けて外に軽い声をかける。

 

「まだ今日の話が済んでおりませんから、もう少し待て(ステイ)ですわよカリナさん」

「あ、聴こえちゃった? ごめんごめん」

「…………謝るところはそこではございません。拳を()()()()()件は後でお仕置きですわ」

「はぁい」

 

 兵怜さんは病室に入ってこない。僕の顔を見ると危ないからと。

 病室の中は少し僕にヌルすぎる気もするけれど、流石に彼女に全力で殴られるのは避けたいかな。きっと前科を負わせてしまうし。

 

 

 

「失礼致しました。青山さん、それで本日の話ですが」

「え、っと。でも僕、今日のことはほとんど知らないんだけど」

 

 今朝は両親が出ていった一時間ほど後、公安の職員がやってきて僕をこの病院へ連れてきた。公安って時点で『全部バレたんだな』ぐらいのことは察したし、それからずっと警察の人に張り付かれたら観念だってする。

 今のところ知っている断片は、両親が通っていた事務所が……全焼したこと。二人の監視とかをしていた渡我さんが、大火傷をして手術室に運び込まれたこと。

 だから兵怜さんは(昨晩の葉隠さんのこともあって)あんなに猛っているというわけ。

 

 逆に言うと、僕はそれ以外のことをほとんど知らないままここにいる。

 

「……お訊ねにならないんですのね。ご両親のこと」

 

 だから八百万さんの言葉は(もっと)もだ。あぁ、まるで僕が『何か知っている』みたいに見えちゃうのかな。

 でもそれは──訊くのが怖い。というか訊くまでもない。どんなに軽侮していても鉛のような推測を、(はら)に力を入れて吐き出す。

 

「…………焼け死んだものと、覚悟してるよ」

「…………」

 

 あの人達が逃げられるなんて思えない。捕まったか死んだかの二択だ。後者だと思っておいた方が心を守れる気がした──その方が誠実に、本当のことを言い訳せず証言できるだろうと。

 

 けれども──

 

「お詫び申し上げます。必要なこととは言え、そのように誤解させて……お辛い思いをさせてしまいました」

 

──八百万さんは頭を下げた。……ご、かい?

 両隣の大人たちも揃って頭を下げる。

 

「済まなかった。君のご両親は火傷や打ち身はあるものの命に別条はないよ。ただこのことはくれぐれも内密にね」

「八百万を責めないでやってくれ、ご両親の無事は隠さなきゃならん。その手回しを真っ先に訴えたのがこいつだっただけで、俺も校長もこの隠蔽工作には同意して──おっと」

「ぐむむぅ!!」

 

 思わず叫びそうになって、それは相澤先生が捕縛布で止めてくれた。情報を漏らせないんなら感謝すべきだろう。

 いや、本質はそこじゃなくて──

 

「落ち着いたか」

「……はい」

 

──二人が生きてること自体と、今後の危険からも守ってくれるつもりでいるらしいこと。何よりそちらだ。

 僕は……さっき何を叫びかけたのだろう?

 喜んだり感謝したり、そんなことを言って良いのかも分からない。でも死んでしまうよりは善いと思えた。たとえ刑務所に入れられることになっても。

 

「よし、お前のご両親ふくめ、あそこにいた人間は死んだものと放火犯も思ってるはずだ。生きてると知られる方が危ない。分かるな?」

「大丈夫、です。でもじゃあ渡我さんのことも?」

「いや、あいつは本当にひどい火傷で少し前まで手術室にいた。あの場にいた人間は全員、渡我が守り通したんだ。炎の中で──身を削ってな」

「渡我さんが……?」

 

 疑問と不信のニュアンスが口から漏れて、慌てて口を塞いだ。また兵怜さんを怒らせると思ったからだ。

 というか僕の両親を助けるために死にかけたなら恨まれても殴られても文句は無い。

 

 でもドアの外から幽かに聴こえたのは溜め息まじりの呟きだった。

 

「だよねぇ……」

 

 あ、兵怜さんにも意外なんだ?

 

 




 

 

 インターンの件で透ちゃんと轟くんがお芝居した日、青山くんは随分と深刻な様子で帰ってましたっけね。雄英からそんなに離れていない大きなお家までこっそり尾行(つけ)ていっても気づく気配ゼロでした。

 流石にお家の敷地に忍び込む時は透ちゃんに【変身】しましたけど。【透明化】状態で聞き耳を立てていたら青山くんはやけに詳しく学校でのことを話して、ご両親はそのことをベタ褒めして。その日の内にこそこそ出かけて誰かに報告してたので、百ちゃんに伝えて“青”の本格始動。

 

(どーでもいいですけど、やっぱり全裸で外にいるのってすごく落ち着きません)

 

 それからは百ちゃんが頼んだ黒服(こーあん)さん達が監視をしてくれてましたけど……轟屋敷の緊急速報を観てピンと来ました。『お前らはもう用済みだ』とかそんなフェーズだなーって。

 だからってちゃんと報連相せずに飛び出してきちゃったのは……きっと後ではちゃめちゃに怒られるでしょうし、反省しなきゃですが。

 

 でも、人が死ぬと思ったので。

 

 ……ので?

 いえ、この理由は違いますね。死ぬのは別にそこまで気にしません。ごにょごにょ。

 

 青山さん──青山くんのお父さんとお母さんがゴマスリに通う、何とかの会の事務所。彼の“個性”でここを頼る理由は分かりませんが、この会の名前には覚えがあります。

 アイスエイジが私の両親を誘って、今も会員なはずの()()()()

 

 

 自分でもびっくりですけど、私の理由はこの苛立ちみたいです。

 

 

 突然やってきた黒ウニ頭はノックもせずにドアを開け、青山さん達がいるのだけ確かめると雑に火を放ちました。私のことは見えないからとして、この事務所の人──きっと(ヴィラン)側の諜報員的な人──も二人いたんですよ? でもそんなの全然構わない様子で、ていうかあの薄ら笑いは大して考えてない気がします。テキトーな殺意でした。

 そのくせヴィランのチーム()はきちっと仕事をして、窓や戸は全部外から封鎖済み。

 

 なるほどなるほど、全員まとめて口封じですか。

 でもそうすると面倒ですね、頑張って助けてもすぐまた殺されちゃいます?

 

 ──ならもう見捨てちゃおうか、なーんて思わないでもなかったのですが。

 でも建物の外からまだ監視されてるっぽいんですよねぇ。透明なまんまでも窓や扉を壊して飛び出したらバレバレですし、そんなことしたら透ちゃんが狙われかねません。

 なら【変身】を解く? ターゲットが私になるなら構いませんが、脱出時に裸を見られちゃうのはNG。

 

 とりあえず、騒がしい上にこんな状況で喧嘩を始めそうな人達を気絶させました。青山さんと事務所の人、合わせて四人。

 リナちゃん達からのお説教要素がみるみる積み上がっていく気もしますが、避難するにもちょっと邪魔でしたし。

 

 

 さてどうしましょうか。

 一番ヒーローらしいのはこの人達を助けることなんでしょう。別にそれをしたくないとは思いませんが、えーっと。

 

 懐から取り出すのはリナちゃんから貰った夫婦愛(ペリドット)。百ちゃんが創ってくれたごっつい台座をパチンと操作します。

 ヒーロー活動や訓練の時のために、小さな印籠みたいな保護ケースに仕舞えるようにしてくれたのです。

 確か詳しい説明も聞いたような──

 

常に持ち歩くのでしたらそのままはお勧めできません。『ガラスよりは硬い』程度ですので。

こうしてプラチナで覆えば傷も防げますし──わたくしも被身子さんとご一緒に居られるでしょう?

 

──今そういう(かたさの)話じゃないので早送り早送り。記憶の中でさえお話が長いってどうなってるんですか。

 

 ……うん、プラチナはとても熱に強いって百ちゃん言っていましたね。

 中の石まで無事かは正直分かんないですが……はぁー……。やるだけやってみますか。

 

 幸い四人の内一人はタコ焼きさん──ええと、ファットガムみたいにどーんと大柄なオバサンなのでこの人を盾にしましょう。他の三人を柱近くの一箇所に並べて、上から覆うように盾役の人を被せて。

 で、更にその上に私。

 

 建物が燃え落ちるまでの間、悩みながらもリナちゃんにメールしました。邪魔したくなかったけど今回は自力だとドン詰まりです。私が焼け死なない内に、しかも周りを良い感じに誤魔化して全員を()()()()()引っ張り出して貰わないといけませんから。

 本人は気にしてますけど、リナちゃんがそういうの大得意なのは事実ですしね?

 

 そしてぼちぼち屋根が落ちてくるという頃、私はタコ焼きオバサンに噛みつきます。

 【変身】で増量するお肉は元の姿に戻ってもどろりと溶けてその場に残ります。これを繰り返せばなんとか、どうにか、こう……に、か……

 

 

 怒られるだろうなぁ。

 褒めて、もらえるかなぁ。

 

 

 思ったより熱い。痛い。重い。

 久しく忘れていた息苦しさ。

 

 お父さん、お母、さん──普通には、──

 わたし、えら、────

*
85話『掴め■■心』(2/3)

(ヒーロー側は知らないことだが)スケプティックの人形。

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