カリナが個性届を隠すために中二の秋頃やっていたことが明らかになります。
「渡我被身子です! 皆より一つ歳上だけど、おバカなので一年生やり直しになりました、仲良くしてねぇ」
教室には昨日から席が二人分余計に用意されていたとはいえ、被身子が紹介された朝のHRは大いに沸いた。
が、ここは雄英ヒーロー科。まして担任は被身子曰く合理性の塊らしい。普通の学校ならありそうな質問タイムなんてあるはずもなく、そのまま一限の授業に進んでしまった。
(本物の相澤先生は成り代わりの件に一言も触れなかった。被身子以外の全員と初対面のくせに堂々としたもんだ)
自然とクラスにはそわそわとした空気が漂う。
そりゃね、ここにいる皆は地元じゃちょっとした有名人だったりするわけで。留年なんてことになるとその恥も広〜く知られてしまう。そうでなくても留年したい人なんて居ないだろうし。色々と話は聞きたいだろう。
だから授業の合間の短い休み時間は見ものだった。被身子の席は私の右隣なので様子は丸見え。笑いを堪えるのが大変だったよ。
麗日さん葉隠さん芦戸さん辺りが中心になって、『渡我先輩』なんて余所余所しいところから距離を測りつつ、失礼にならないよう気を遣いながら、留年した理由を聞き出そうとするわけ。
被身子はそれをとっくに察してるんだけど、大量除籍という衝撃の真実をサクッとぶっちゃけてしまって良いものか、なんとあの被身子が躊躇っている。笑っちゃいそう。
私達と知り合って以降、中学でも雄英でも全然友達作ってなかったの、ちゃんと知ってんだからね。親同士のネットワークから伝わってきて、私と百はとっても心配していたのだ。なので助け舟とか出してあげない。
──あ、面倒臭くなったなあの
「「「先輩以外みんな除籍処分んん!!?」」」
まぁこのクラスの皆なら、そこまで猫被らなくても大丈夫でしょ、多分。
──なんて大騒ぎが午前中にあったわけだが。
今、静かな教室には全く別の緊張感が満ちている。もうすぐ始まる次の授業はヒーロー基礎学。つまり……オールマイトの初授業。
とうとう、もうすぐ、その時が──
「普通にドアから来た!!」
──来た。クラスの大半が、憧れや興奮を露わに盛り上がっている。
だけど私は全く違う意味で愕然としていた。
こっちは、極めて強力であろうオールマイトの“個性”を目の当たりにする瞬間をビクビクと待ち構えていたというのに──なんだその落とし損ねた汚れみたいに貧相な“個性”は。
衝動が
別に腹を立てる筋合いはないけれど、これが『平和の象徴』? 冗談でしょ?
貴方を口実にして早朝から被身子達にお願いしたエプロンご奉仕コースがなければ、私は激怒していたかも知れない。
更衣室。
女子のほとんどが被身子を質問責めにしている。一応歳上という遠慮も飛び越えてがっつり喰い付かれているのは大量除籍の件がショッキングだからだろう。
昼休みとかは被身子が雲隠れして逃げ回ってたけど、このタイミングではそうもいかない。
「相澤先生って一生懸命やってても除籍にするん!?」
「逆に先輩はどうやって生き残ったんすか?」
「てゆーか渡我先輩めっちゃスタイル良いですね!」
不慣れな女子の集団に囲まれて、被身子はまだあわあわと所在なさげだ。なかなかレアな表情でとても可愛い。
……ところで、全員が彼女を囲んでいるわけではない。
「兵怜ちゃんと八百万ちゃんは、渡我先輩とお知り合いなのかしら」
「あー、やっぱバレる? よく見てるね蛙吹さん」
「梅雨ちゃんと呼んで」
「じゃあ私のこともカリナでいいよ。梅雨ちゃん、ちょっと耳かして?」
私達の関係を隠し通すのは現実的じゃない──特に被身子は。
(以前そう言ったら、被身子は憤慨しつつ百は呆れつつ一番隠せそうにないのは私だと言った。そんなわけないじゃないかハハハ)
分かってるよ、あまり大っぴらにできないことは。三人で──しかも学生の内から──性的な関係っていうのはちょっとね。
なので自分達から積極的には明かさずにおく。他人の振りまではしないけど学校では一定の距離を取る。
そして梅雨ちゃんのように目敏く気付いてしまう子への対処は話し合ってあるのだ。小さく薄い耳にそっと告げる。
「(
「(っ!?……ええ、分かったわ。進んでるのね……)」
私達の関係を察することができる梅雨ちゃんにはこれで充分。『知られたくない事情がある』ことは確実に伝わるし、それを言い触らさない分別も期待しちゃう。
究極的にはバレたって開き直れば問題ないことだしね。学校では距離を取ろうなんて、被身子に友達を増やさせる為の方便みたいなものなんだから。
「リナちゃん百ちゃんそろそろ助けてくださいよぉ!」
「ギブアップ早くない? 初日だよ?」
当然私達の関係も含めて質問責めが続きそうになったけど、時間も押してきたので急かしまくって有耶無耶にした。
放課後にまた捕まりそうだなー。
────
さて、オールマイトによる戦闘訓練だ。
二人ずつペアを組み、核を守るヴィランサイドと核を奪うヒーローサイドに分かれた模擬戦を行うと。
色々と質問が飛ぶ中で、突然それは言い渡された。
「この人数でペアを作ると奇数となりますが!」
「そうだな飯田少年! だがこのクラスにはイレギュラーがいるだろう?」
「渡我先輩のことでしょうか」
「先輩じゃないですよー、二度目だけど一年生ですよー」
ウム!と頷いて無茶振りをするオールマイト。
「渡我少女には一人で挑んでもらう!」
「分かりましたぁ。あ、ってことはもう一つは」
更にウム!と続けざまに。確かにこれだけだと奇数のままだから、他にもう一人……。
「兵怜少女! 君も一人として計十二チーム! 他の皆はくじを引いてくれるかな」
ですよねー。そして特に説明もなく私と被身子の組合せは無しにされた。一対二とかキツ──いや、被身子の相手よりは楽か。
この役に私が指名されたのはある意味で当たり前だ。その理由はしっかり、責任と共に自覚している。頑張ろうじゃないか。
厳正なるくじ引きの結果。
被身子の相手は百と常闇くんのペアに決まった。これは大注目のカードだ。
私の相手は酷い。観客としてなら楽しめそうだけど──兵怜カリナvs.爆豪勝己&轟焦凍。ナニコレ。
「……くじ引きやり直しません?」
「本番にやり直しは利かないぞ!」
「ですよねー」
更にオールマイトは特別ルールを追加した。若干のバランス調整だという。
私や被身子をヴィラン、百達タッグ側をヒーローとすること。対戦時間を短くして、タイムアップでも敗北となるヒーロー側を急がせること。ヒーローチームは自身らの“個性”の概要(一般的なヒーローが公開している程度)をヴィラン側に教えること。その上で対戦順序は最後とし、作戦を熟慮する時間をとること。
……バランス調整になってるかなコレ? 制限時間くらいしかこっちのプラスに働かない気がする。だって──
「“個性”【爆破】。掌からニトロみてーな汗が出てブッ殺す」
「【半冷半燃】。そのまんまだ」
「はいどうも、了解ですよ」
その位は教わらなくても察してたから。ほとんど情報が増えてない。
だからって弱点とか知っちゃうのも不味いんだけどね。状況の想定としては『ヒーローとして知られてて自然なことはヴィランも知ってるはず』なんだから、ヒーローが普通隠すようなことは私も知るべきではない。
しかしなぁ。どうしたものか。
「被身子。順番、どっちがトリにする?」
「リナちゃんが決めて良いですよぉ」
「百は時間を与えるほど手強くなると思うけど」
言いながらそれぞれの相手チームを指し示す。実に対照的だ。
額を突き合わせてひそひそと、しかし活発に言葉を交わし合う百と常闇くん。百は被身子の強みを良く知っている。
一方、挨拶さえまともに交わしていないバクゴーと轟くん。私ひょっとして舐められてるのかな? 被身子からの冷たい視線に気付かないって逆に凄いよ?
ともかく両者を見比べて、被身子は自身のハードルを上げた。つまり僅かばかり百達に有利な方を取った。
「私達を後にして欲しいです」
「オッケー。……二人とも、聞こえましたね?」
「チッ」
「……あぁ」
……よし、潰そう。クラスメイト達の応援に戻りながら、私は戦場の把握とシミュレーションに努めていった。
私達を除く四組の訓練が終わって、次は私とバクゴー達の対戦だ。モニタールームから続く専用の通路を速足で進む。
この段階になってもなお、バクゴーと轟くんは一言も交わしていない。私は小さく溜息をつき、足を止めないまま訊ねた。
「爆豪くん、貴方それでベストコンディションなんですか?」
「あぁ? どっこも問題なんかねぇよ」
「気になってるなら訊いてくれれば解消するかも知れないのに」
「……てめぇ」
「そこで私を睨むのおかしいでしょ」
彼が苛立っている理由は明白。個性把握テストでの争いもあるけど、それ以上に今の状況だ。
「チーム数の都合上、被身子以外にも誰かがソロでやる必要があった。それが一般入試と個性把握テストの両方で首位を獲った百じゃなく、何故か私に回ってきた。その理由が気になってるんじゃないんですか」
「……訊いたら答えんのかよ」
「集中力を欠いた状態で参加されても迷惑ですから」
バクゴーは私から目を逸して、チッと大きく舌打ちをした。それもしかして『自分の間違いを認めました』って意味? 小学生か。
「……教えろ」
「勝手に言いふらさないで下さいね。轟くんもいいですか?」
彼も彼でむっつり不機嫌そうにしているが──こっちは理由が分からない──了承の返事があるだけマシだろう。
それを受けて、私は自分が選ばれた理由を開帳した。
私の実力が彼らとは隔絶しているという明白な裏付け。
その事実に──怯むどころかやる気を
「半分野郎。俺が近接でてめーが中距離だ」
「勝手に……いや。それで良い」
「気合い入れねえとテメェから殺すぞ」
「お前こそな」
そうそう、そうやって勝つことだけに集中してくれれば良いんだよ。
────
カリナ達三人が出ていったモニタールームにて。
A組の面々は彼らの試合について盛り上がっている。被身子は旧知の間柄だからと実況解説役に立候補し、わくわくと幸せな気持ちでいた。実況ということは大好きなカリナを褒め倒せるし、それを聞いてもらえるということだから。
しかしこの後、ご機嫌は急落する。
「しつもーん! そもそもなんで兵怜ちゃんが指名されたんですか?」
三奈が訊ねた通り、成績だけ見れば百が選ばれそうなものだ。頷きあうクラスメイトにオールマイトは明朗に答えた。
答えてしまった。
「もっともな疑問だね芦戸少女。理由は単純! それは兵怜少女が──」
「え、ちょっと先生、」
百が制止しようとしても止まらずに。
「すでにヒーロー仮免許を取得した準ヒーローだからさ!」
一瞬の沈黙の後、A組の面々は驚きに沸く。一部の例外──被身子と百、二人の様子に気付いた梅雨など数名──を除いて。
そしてオールマイトは気付かない側だった。
「彼女は優秀な元ヒーローの娘さんでね、あのアイスエイジの血を引くだけあって──」
「ちょっと、お待ち下さいオールマイト先生!!」
新米教師の暴走が百の大声で今度こそ諌められる。ハッと冷静に戻ると、彼も冷たい気配──被身子の殺気に気付いたらしい。
遅すぎる。既にことは知れ渡ってしまった。
「生徒の個人情報をなんだとお思いなんです! そもそも仮免の取得者は公安委員会も公表しておりません。これは未熟な仮免ヒーローがヴィランに狙われない為の措置ですのに、それを現役トップヒーローが易々と明かしてどうするんですか!」
「む、その、八百万少女、しかしここには──」
「もちろん私達は全員がヒーローの卵です。しかしだからこそ、情報の取扱いは厳格にすべきと教育して頂かなくてはなりません」
百の抗議が止まない内に、出入り口から緑谷とリカバリーガールが入ってきた。直前の試合で負った怪我を別室で治療中だったのだ。
もちろんオールマイトはリカバリーガールからもこっぴどく叱られた。生徒の面前でガチ説教である。威厳を損なうことこの上ない。
「大変失礼いたしました……反省します」
「そうしな。ほれ、次の試合はそっちの子が進めてくれるんだろ」
「お任せくださぁい」
被身子が教員用のマイクを奪い取っていく。本来なら止めねばならないオールマイトだが、今やその正当性は怪しいものだ。
「三人ともお待たせしました! それでは第五試合、始めてください!」
カメラの向こうのカリナは、待たされた挙げ句に被身子の声でアナウンスが聴こえたので戸惑った様子を見せる。
しかしすぐに切り替えて、二人のヒーローを待ち構えた。
────
「もうバラされちゃったので話しますけど、リナちゃんはちょっと事情があって中二で仮免を取ったんです。あ、事情については聞かないでくださいね、答えられないので」
クラスの皆の視線はモニターに集まっていますが、まだリナちゃん達が接触するまで少しあります。今の内にお喋りは済ませておきましょう。でないと一瞬で終わりかねませんから。
「仮免って中学生でも取れるものなわけ……?」
「普通は無理ですねぇ」
耳郎さんの問いを否定しつつ、百ちゃんに視線を送ると……苦笑しながら解説してくれました。助かります。
「まず受験資格として、『ヒーロー事務所での体験学習修了』と『ヒーロー科による許可もしくは本免許所持者からの推薦』が必要です」
「兵怜さんは僕の兄……インゲニウムの事務所に職場体験に来ていた。一昨年の九月のことだ。同学年、まだ中二なのにこんな凄い人がいるのかと驚かされたよ」
お、【エンジン】の飯田くんは中々分かってますね。お兄さんと区別するためとはいえリナちゃんから名前呼びされるのはモヤッていましたが、しょうがない許してあげましょう。
百ちゃんが説明を続けます。
「もう片方の条件は、おばさま……元ヒーローであるお母様から推薦を受けました」
「アイスエイジ、あの『氷壁ヒーロー』だね……!!」
片手に怪我をした【超パワー】の人、ええと……緑谷くんがブツブツ言い始めました。
お母様のことは本筋ではないのでスルーしたい──ところですが、しばらく耳を傾けておきます。
今の流れだときっと誰かが言い出すでしょうから。
「それって」「なんか」「ズルく」「ない?」
ほらやっぱり。誰が言ったか意識すると殺したくなるので気にしないようにします。彼らへの返事は百ちゃんがしてくれるでしょうし。
「それは違いますわ。受験できるというだけで、試験での有利は一切ありませんもの。中学生で受験資格を持てる人が少ないのは事実ですが、合格率は高校生よりずっと低い……というか、ゼロに近いそうです」
「ついでに言っとくと、雄英でも仮免試験に挑むのは基本二年生からだよ。それでも落ちる子はたぁくさん居る」
リカバリーおばあちゃんも付け加えてくれました。
そこに蛙吹さんが訊ねてきます。
「渡我先輩──渡我さんはどうなのかしら」
「去年相澤先生からOKもらって受けましたけど、落ちちゃいました」
「マジか……」「すっげぇ……」
雄英高校の一年生が落ちた試験を中二で突破したリナちゃんに感嘆の声があがりました。そうです、すごいんですよ?
そんな話をしている内に、もうすぐ戦闘開始ですね。
堂々と階段の下に陣取って、核はすぐ上に置いてあります。自身も核も全く隠していません。
──ヴィランになりきって不敵に笑う立ち姿、とってもカッコ良いんですけどまだ少し怖いでしょうか?
リナちゃんのコスチュームのモチーフは、もちろんお母様──アイスエイジです。私は映像でしか見たことないんですが。
基調色のイメージは氷河。透明感のあるホワイトとライトブルー。
要所は毛皮に似せたパッドで護り、特にフードからケープへ続く背中側は純白のもふもふ仕上げ。
本家本元にあたるお母様のコスチュームはフード部分が荒々しいホッキョクグマの頭を模していて──言っちゃ悪いですけど蛮族感マシマシだったので、そこはユルい感じの白熊にデフォルメしてもらいました。もとい、“白熊”というより“しろくま”ですかね。
リナちゃんは少しファンシー過ぎないかと恥ずかしがってましたっけ。でもすぐに『高さも太さも厚みも、どうせ私がお母さんの迫力を真似したって貧相だもんね。私は私の画風を模索するかぁ』とか割り切っちゃってました。照れてるところももう少し観たかったんですけど。
コスチュームとは関係ない自前の気迫でも威圧感が出てくるので、フードのくまを脱力系にして正解でしたね。かぁいい。
話が逸れましたけど、ヒーローチームはここを迂回できません。ぶつかるしかない状況です。もっともバクゴーと轟くんは最初からそのつもりだったように見えます。短いアイコンタクトを交わして、怯むことなく挑みました。
飛びかかったバクゴーの初撃を、攻防一体の爪盾で真正面から受け止めるリナちゃん。バクゴーが反動でズレると、間を置かずに氷の波が襲いかかります。
「バクゴーが近接、轟くんが中距離って分担みたいですね。今の連続攻撃は良かったと思います、あれが無ければバクゴーはテープを避けきれなかったでしょう」
「え、今テープ巻こうとしてた? 兵怜が爆豪に?」
「はい。自分も視界が狭まるのは【爆破】の弱点ですねぇ」
リナちゃんはわざと避けず、氷に囚われたふりをしました。そこへ再びバクゴーが襲いかか……ちっ、勘の良い人ですね。待ち伏せは不発に終わったので氷の檻を砕いて手早く脱出します。
【カミナリ】の人(?)が驚きの声をあげました。
「えっ、あんなあっさり?」
「氷に捕まる前から、細く柔らかくした爪を周りに巡らせてあったんです。その割れ目を押し広げれば簡単に砕けるように」
「なんと繊細な“個性”制御……」
「レベルたっけ……」
私の解説に【黒影】常闇くんと……確か【岩になる】人(?)が息を呑みます。そうですもっとリナちゃんを褒めてください。
さて、画面の向こうでは短い作戦タイムのようです。えーと?
「『大技はなしだ、細かくかき回せ』『階段から引き離すってのは』『あの爪がどんだけ伸びるか分かんねーだろ』『そうだな』……バクゴー、口は悪いけど判断は正しいですね」
音声がないと皆が困ると思って声に出してあげると……あれ? なんだか静かになってしまいました。
呆れたように百ちゃんが言います。
「皆さん、ヒーロー科は読唇術まで必修ではありませんから。今のは被身子さん独学の技術です」
「あ、驚かせちゃったんですね。大丈夫ですよ、悪いことに使ったりしませんから」
などと言っている間に戦闘は再開しています。バクゴーの言葉通り、小さく丁寧な攻撃を重ねて隙を作ろうというのでしょう。
悪くはありません。バクゴー達の戦力からすれば最適解にも近いでしょう。でも問題が二つありますね。
「皆さんは分かりますかぁ?」
「はいはい! 制限時間!」
そうですね、タイムアップはヒーロー側の負けです。試合時間も短めなので余計に焦るでしょう。
「葉隠さん正解ですー。でももう一つあるんですよ」
今度は誰も答えませんね、そりゃそうですけど。百ちゃんも言わないでいてくれたので、遠慮なく自慢させてもらいましょう。あの人は凄いんですって、何度でも。
「もう一つは単純に、
私の言葉と同時に、バクゴーの拳がリナちゃんを捉えました。しかし体勢が崩れたのは彼の方です。更に間を置かずバクゴーを蹴り飛ばして、後ろにいた轟くんに
「リナちゃんは小さい頃からずうっと鍛えてきたので。隙を探るような小振りの攻撃なんて、ノーガードで受けられるんですね」
さっき実際にそうしました。バクゴーの拳──つまり爆発しない攻撃──を横面で受け止めながら反撃したのです。轟くんが飛ばす氷の飛礫も半分ほどは当たるに任せています。
「バクゴーの運動性能もクラス随一ですが……筋力はほぼ互角。
──あれ、なんか百ちゃんが睨んでますね……?
あ、いや身体が最高ってそういう意味じゃないですからね!? 実際のところ最高ですけど今はそういう話じゃありません。全く百ちゃんってば。
それはそれとして、戦闘訓練ですよ。
時間がある内は、リナちゃんは一歩たりとも動きませんでした。階段から離れた位置への遠距離攻撃もせず、小休止を挟みながらあの手この手でぶつかってくるバクゴー達を正面からねじ伏せ跳ね返します。
随分優しく鍛えてあげるんだなぁと思いましたけど、これ違います。折りに行ってますね。無力感か敗北感を刻みつけようってことですか。やっちゃえやっちゃえ。
とはいえただ足止めしてるだけではなく、油断が見えれば容赦なく確保テープを巻く姿勢ですから、未だに捕らえられていない二人もなかなか大したものです。
──ただそれも、私が残り三〇秒を知らせるまでのことでした。
リナちゃんが弾丸のように守備位置を離れた瞬間。最初のターゲットはバクゴーでした。
彼はすぐさま変化を察して、これまで使わずにいた大爆発で強引に距離を取ろうとします──が、彼女はそれさえ正面突破して、爪を引っ掛けての足払いと同時に受け身の取れない投げ。バクゴーがコンクリートの床に押し付けられて息を詰めたのと同時に、確保テープが巻かれました。
……それもわざわざ首ですよ、後ろ手の辺りならもっと簡単に巻けたでしょうに。イライラしてたのは私だけじゃなかったんですね、嬉しいです。
そして轟くんには……おや、彼の方にも厳しめの、力関係を見せつけるような倒し方をしましたね。何かあったのでしょうか。
ともかく、時間切れになる前にヒーロー両名が捕縛テープを巻かれました。
「ヴィランサイド、勝利です! お疲れ様ぁ!」
────
『──という感じで、ヒーロー側はけっこう善戦したんじゃないでしょうか。あえて注文を付けるなら最後。バクゴーは少しでも時間を稼いで
「なんで被身子がそこまでやってんの……?」
訓練を終えてモニタールームに戻ると、なぜか講評はオールマイトではなくマイク越しの被身子から告げられた。次の最終戦の為に移動中なのは分かるけど、オールマイトは──
「済まなかった、兵怜少女ッッ!」
どうして私に深々と頭を下げてるわけ?
この疑問にはリカバリーガールが答えてくれた。私の個人情報が駄々漏れにされたと。
仮免許のこと。
それからお母さんのこと。
「──
「
小さいけど頼れるお婆ちゃんははっきり頷いてくれた。
良かった、“個性”そのものや性欲の件はバレてないんだ。そもそもそっちはリカバリーガールと校長しか知らないはずだけど。
「まぁ……知られてしまったものは仕方ありません。けどなんで被身子がマイク持ってたんです?」
「どちらかというと渡我少女に奪われたんだが──」
「あんたがヘマやらかすからだろ」
リカバリーガールに詰められて、しゅーんと小さくなるオールマイト。ちょっとちょっと少年少女の前でやめてよ。クラスの空気が重過ぎる。
ちょっとこう、見せ場を渡してあげるかぁ……生徒に気を遣わせないで欲しい。
「じゃあオールマイト先生、最終戦の解説はお願いしますね?」
「む、もちろん本来私の役目だが。兵怜少女は渡我少女・八百万少女の実況がしたいとか、ないのかい?」
「あぁ、被身子のヤツそういう動機でしたか。私にもそういう気持ちはありますが、でもお任せします。だって──」
オールマイトも凄いんだぞってところ、示せると思うからさ。
「──私、もう被身子の動きは見切れませんから」
あんな疾さ、トップヒーローでもなきゃ見えないよ。
カリナ:肉弾ゴリラ。もちろん〔身体変造〕の自己回復も使っています。
次話、被身子vs.百&常闇。