0. 平和な月曜日(M)
轟邸襲撃事件から一晩が明けて、月曜日のお昼過ぎ。
私は今、被身子が入院してる市民病院から、追い出されたところ。てへ。
今回のことは本当に肝が冷えて……ううん、そういうんじゃないか。
私は慾した。被身子も求めた。ちゃんとやるべきことは果たした上でイチャついてたので大丈──いや大丈夫じゃなかったから追い出されたんだけどさ。
色んな“個性”による治療を受けて数日以内に退院できるとはいえ、逆にいえば通常医療では命も危ぶまれた重傷患者である。そんな被身子とイチャコラしてたら、そりゃまあ追い出される──というか怪我の重さ以前にね。病院だもん。
唾液と血液の交換しかしてないとか、服も下着も脱いでないとか、そういうのは言い訳にもならない。反省。
さて、ぼちぼち帰ろうかな。久々に雄英に行くつもりだったけど遅くなっちゃったし。
百を労う支度をして、帰ってきたら褒めてもらおうっと。
被身子は病院、透とお茶子はインターン先。
夕食は二人で先に済ませようかと支度をしたものの──
「バカなんですの?」
「ごめんってば〜〜」
──その前にお説教の模様。
いやうん、確かに予定では午後一くらいから雄英の授業に加われるかもって話をしてたから、怒られるのは当たり前なんだけど。
「正直、『こんなことだと思ってましたわ』とか言われるかと」
「想定は致しましたが……」
「急ぐ必要はないって判断だったし。や、でも百をやきもきさせたのは本当にごめんなさい」
深く頭を下げてから、被身子に会いに行った本筋だった“やるべきこと”の成果を見せる。
「……お食事前に失礼します」
百はちらりと見ただけでスマートフォンを取り出してメールを送った。宛先は公安だろう。
「ビンゴ?」
「はい、間違いなく。青山さんのご両親を焼き殺そうとした放火犯は、わたくしが
被身子、私や百の顔なら本物より美人に描けるくせに興味のない他人の顔は全然描けないからね……。そして言語センスが独特すぎて警察の似顔絵師さんも匙を投げるおそれがあったので、さっさと私が聞き取って絵に起こしてきたのだ。
ともかく被身子は、轟邸を襲った犯人が『当事者の会』事務所に火を放つところを目撃した、わけなんだけど。
「炎の色が蒼じゃなかったらしいから、同一犯なのは隠したいのかな?」
「恐らく。となるとコレも取り扱い注意ですわね……」
「うん、被身子には言ってあるから」
この放火の件、ヴィランは全ての目撃者を始末したと思ってるはずだからね。青山夫妻保護のためにその誤解はさせておくべき。
通称“蒼炎*”の顔は百と爆豪がばっちり見てるから手配書とかはそっちで問題ないし。
それに、顔や昨日の行動が詳しく分かったってワープで移動できる相手を追うのはとんでもなく難しい。
……エンデヴァーとバックドラフト事務所、それから公安からも何人かが文字通り血眼になっても見つかってないみたいだし。
「いいえ、僅かな手がかりは見つかっているのです。丹念に追っていけば必ず──」
「百、百。落ち着いて。昨日もほとんど寝れてないでしょ」
「──眠れるわけが!」
どうにか自制したけど、食卓を叩きかねない勢いの猛り。その怒りは誰よりも彼女自身に向けられている。
「もーもー、何と比べてる? 自分のせいだっていうならカンショウしなかった場合とじゃないの?」
「……はい? 事実、わたくしは完勝を逃しましたが……」
「え、思い切り干渉して──あ、そゆことか」
言葉のすれ違いを苦笑いと共にすり合わせて、ラッキーなことに空気が少しだけ
「青山くんの様子がおかしなことに気付きつつ、百が何もしてなかったら? 今ごろどうなってた?」
「わたくしはただの学生です。公安の方々は優秀ですわよ」
「それは否定しないけどね。でもA組の外から青山くんの疑惑を確定させるなんて無理だよ、中からだって透のインターンで釣るまではっきりしなかったんだから」
「それは……ですが、カリナさんはわたくしのために……」
うーん自業自得な信頼度の低さよ。確かに百や恋人たちを慰めるためなら事実を巧言令色で飾ることを私は躊躇うまい。
でもこの件はそんな必要がないんだよね。
「だって百、インターンに行って引継ぎとか受けてないよね」
「…………」
「無かったなら
思いきり不満そうな顔されちゃった。
そもそも公安の実働部隊ってサポート含めても人数少なすぎるから、幾ら優秀だってそんなに何でもは把握してないって。
「轟邸襲撃はほぼ無警戒で成功、冷さんと冬美さんは二人とも誘拐されちゃう。監視カメラがあったって犯人の顔は不鮮明で、ワープで逃げられることも隠すでしょ。
それに比べたらずっと形勢良し、これは百の立派な功績だからね? 少なくとも今すぐは表彰とか出来ないだろうけど」
その戦果を謙遜するのは──個人的には誇って欲しいけど──まだマシな方。
一方では謙遜しながら同時に『消えた犯人を自分が追い詰めるんだ』って追跡方面ではむしろ自信過剰なの、バランス良くないと思うな。
「私も職場体験で、壊理ちゃんの匂いを辿れなくてちょっとおかしくなったっけね」
「あれは……、」
あの時はみんな、【ワープ】なんて追いかけられなくても仕方ないって慰めてくれた。今の百も同じなはずだ。
「では、冷さんの
「もちろん諦めろなんてことは言わない。最短で見つけるにはちゃんと休む方が最適解って話」
そういう意味だと今のエンデヴァーは教育に悪いんだよなぁ。怒りも焦りも共感はするけどちゃんと休んで欲しい。
そんなわけで百にも。
まずは睡眠不足の解消と休息、それから追跡って順序だ。
──どうにか納得してもらえて、今度こそご飯を食べ始めても、百はまだ拗ねている。
「いつもながらとても美味しいです──が、メニューに偏りがあるのでは」
「え、よく眠れるように精力つけてもらおうと思って?」
「『眠れるように精力』とは奇妙ですわね」
「分かってるくせにぃ」
百の言う通り、ニンニクとかスパイスとかの目が覚める系のチョイスではあるけど。だって単純に身体温めて副交感神経を高めるとかだとまた眠れないよー? 今日は百あんまり身体動かしてないし、なおさらね。
「眠れるまで付きっきりで面倒みてあげる」
「それは気絶と申しませんか?」
「気絶より睡眠より気持ち良いはずだから」
♡♡
あんなこと言ってたけど、始まってしまえば物凄く積極的なのが百である。元気で良かった。
透はメイン業務が夜間なので帰りは遅くなる。事務所の人が車で送ってくれるか、泊まりになる可能性もあるそうだ。
ただそれはあんまり推奨されないことで、学生なんだから深夜まで働かされることは少ない。
それなのに──
「ただい──およ?」
「しー。おかえりお茶子、おつかれさま」
「ありがとう。あ、百ちゃん今日は眠れたんやね」
「うん、三階に運ぼうとしてたところ」
──お茶子が帰った時点で
さて、ご飯温め直そうか。
もりもりご飯を食べるお茶子は普段通りで安心。私もいまいち平常心に戻れてない感じだからありがたいや。
インターン前は軽い懸念もあったけど……。
「お茶子は退屈してない?」
「退屈? なんで?」
「職場体験とかなり落差あるでしょ」
「んー、それは正直あるなぁ」
土曜日からお茶子が通っているインターン先はとても小さな事務所だ。地域密着型の──悪く言えばとてもマイナーな──ヒーローと事務員が一人ずつ、みたいな規模。ベストジーニスト事務所とは比べるべくもない。
「でも観察力みたいなのは凄いねんで。目的もバレてもうたし、目の配り方とか勉強になる」
「あー……具体的に『このお店』って?」
「流石にそこまでは。『あの
その事務所にインターンを申し込んだ時なんか、『雄英生が!? ウチなんかでいいの!?』とか驚かれたらしいからなぁ。最初から違和感はあったんだろう。
百がそこを選んでお茶子に頼んだ。非常時の抑えとして。
青山くんにスパイをさせてた連中の正体や狙いは絞れなかったから……想定された可能性には、『霙理ちゃんを探す死穢八斎會』もあったのだ。
「もちろん他も全力で頑張っとるけど、戸村リサイクルの周りをパトロールするために
「それプラス、百はお茶子にも悪いって気に病んでるから……学びがあるならフォローしてあげて欲しいかな」
そう頼むと、お茶子はにこにこと笑みを深めて──「ごちそうさま」と食器を片付けてから──ドーンと抱きついてきた。
「んふー♪」
「んー? なんか良いことあった?」
「カリナちゃんの愛を感じたん」
「今の流れで?」
「だって、何か頼んでくれること自体あんまりないやろ」
そうかなぁ? そうかも。
分倍河原さんの件では校長に無茶なお願いをしたけど、あれは私も『珍しいことしてるな』って感じたし。
「まして今のは『私と百ちゃんの間のこと』。カリナちゃん、霧さんには何も言わんかったし」
「あ〜……」
確かにそこを取り出すとなぁ。
あの人は霙理ちゃんが絡むと本当に容赦なくて、私のダメなところもズバズバ指摘するもんだから、険悪な空気になることもある。
間違ったことは言わないので私は(凹みはしても)怒らない。怒るのは被身子や透で……そこに口出しは、ほとんどしなかったな。お茶子の言う通り『当人たちのこと』だから。
「えっと、お茶子が嫌なことさせたいわけじゃなくて、」
「嫌なワケない、百ちゃんには話しとく。他にももっと頼ってくれたら嬉しいな」
ぎゅう、と抱きしめる力は強い。
……お茶子だって怒りや怖さが無いはずはないんだけどね。でも/だからこそ、こう言ってくれるのはこの子の真面目さで──同時に、どう見てもそれだけではないことも、魅力であることは確かだ。
「んー。じゃあ久々に縛ってもらおうかな」
「まっかせて!!!」
♡♡
なお、お楽しみの最中に透が帰ってきた。
少し前なら止めに入っただろう透だけど、今は違う。正面からお茶子と競い合うのである!
「あかんあかん、そんな手加減せんと思いっきりやった方が悦んでくれるで」
「お茶子のは乱暴なだけじゃん。焦らすのとかできないでしょ」
「あんなぁ透、さくっとヤッてぐっすり寝な差し支えるやろ?」
「何なのその、お茶子の頭おかしい真面目さは」
ふ、二人とも上手になって──ッ!!!!
♡♡♡
♡♡♡
二人が満足して、そろそろ寝ようかと縄を解きかけたところ。
入れ替わるように起きてきた百は、やっぱり微妙に満足してなかったようで。
♡♡
火曜日の朝。
「学校行きたくない……」
「はいはい、わがまま仰いませんの」
「鬼畜ー!」
久々の学校、ほぼ完徹なんですが??
※作者が書きにくく感じてもキャラはやりたいことをします。