【完結】愛慾のヒーローもどき   作:土屋 四方

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※百合に男性キャラは関与しません。


2. 異クラスレビュアーズ

「──といったことがありました」

 

 透とお茶子の帰宅後、塩崎さんや小森さんとの出来事はばっちり報告・共有された(入院中の被身子にはメールとテレビ通話で)。

 私も包み隠すつもりはない。

 

「小森さん、身体つきはお茶子よりむっちりしてる感じで抱き心地良さそう。もうちょっと鍛えてほしい気もするけどとてもえっち」

「分かってはいたけど悪びれないなぁリナリナ」

「むー。ダメとは言えんけど……」

 

 苦笑する透、不満げなお茶子、二人を慰める百。

 ……うん。透とお茶子を引き入れた時に被身子と百を苛んだ苦しみを、今また四人に突き付けているのが私なのは認めよう。でもちょっと勇み足なのは指摘させて欲しい。

 

「えっと、とりあえず私から何かするつもりはないよ? 小森さんがもし“技能”のためじゃなしにえっちなことしたいって言ってきたら、その時に改めて相談するってだけ」

「イヤやってゆーたらやめてくれるん?」

 

 もちろん。私は迷わず頷いて──

 

「うん。え、そんなに驚く!?」

 

──割と真面目に泣きたくなるなぁそのリアクション。自業自得とはいえ、ハーレムって表現は使われる度に『違うよ』と否定してきたつもりなのに。

 

「私が誰か一人だけの恋人になるのはきっと危ない。【自己再誕】を大人しくさせとくには最低二人の協力が必要で……だからってその二人を不幸にさせるのも嫌だったわけよ」

 

 無理やりなら抱きたくなかった。好きな子が渋々抱かれる様子を見下ろすなんて嫌だった。好きな子たちが本気で憎しみ合うのも御免だった。

 そのために出来る限りはやったつもり。

 

「わたくしと被身子さんの間で、色々と気を揉んで下さいましたものね」

(にな)って当然のことだし。それに二人とも協力的だったから。楽させて頂きました」

「そうでしたかしら……?」

 

 百の記憶では「結構な大喧嘩もあったはずですが」という評価らしい。いやー誰も死んだり入院したり逮捕されたりしてないから。セーフセーフ。

 知り合ってすぐの頃、ホントに短い間だけだったしね。

 

「透とお茶子も同じだよ。切掛はUSJだったけど、『この関係に巻き込んだら二人が不幸になる』って結論しかでなければ、その結論がどうしても覆せないなら……私からお別れを切り出してたと思──ちょちょちょ二人とも、もしもだから! 言わないからそんなこと!」

 

 幸いにも二人とも嘘泣きで、キワドめの冗談を躊躇わず言い合える関係ならこんな不倫理もセーフってことにしてるけど。

 浮気とかハーレムとか、無制限にオッケーだなんて思ったことは一度も無いんだからね。

 

 

♡♡♡♡

 

 

 昨日は受け身に回って酷い目に遭ったので今日はやり返す方向で。

 なんだか最近負け続けていた気がするから強めに攻めてみた。

 

 その結果。

 

「──なぁ透、やっぱしメンバー増やすべきやない?」

理解(わか)らせられるの悔しいけど、そうだね……」

「カリナさんったら暴君ですわね」

「いやあの」

 

 そんなつもりは無いんだってばぁ……。

 だけど了承は得られた、のか? もちろんさっきも言った通り、あっちの気持ちが固まってからの話だけどね。

 

 



 

 

 四月、USJより前のことだ。

 個性把握テストをやった入学初日にはクラスメイトのみんなについての性欲裁判が開かれ(被告は私で弁護人なし)、それから『B組の人達も一通り見ておきなさい』という話になった。しかも『絶対に被身子さん百さんと一緒に行くんだよ』とか念押しした辺り、お父さんは私の自制心を疑い過ぎではなかろうか。【先物代謝】もあるんだから問題ないでしょ。

 

『……それフラグじゃないです?』

『ですわよね』

『二人もさぁ!』

 

 散々心配されたけど、B組の全員を観察しても二人が私を押し留めるようなことは無かった。ドヤッ。

 

 で、その結果はやっぱり両親含めてセキララ報告することになって──A組の時に『お茶子が一〇〇(ひゃく)としたら轟くんは九八ぐらい』みたいに報告しちゃったのは失言だったなぁ。

 まぁ聞く側には伝わり易いんだろうけど。B組も同じ基準での数値化を求められて、かなり悩みながら答えた覚えがある。

 

 

「あの時の私って小森さんのことなんて言ってたっけ? そこまで警戒対象にはしてなかったような」

「B組で最も反応が強かった方も“八〇くらい”とのことでしたし、そもそもクラスを跨ぐ訓練が思ったほどありませんでしたから。やはりA組が主な()()対象でした」

 

 護ったりしなくても、初対面で襲わなければそうそう襲わないってば!──と返したいところだけど百相手にそれを言えるわけもなし。控えめな抗議は無情にスルーされる。

 

「ちくちく言葉はんたーい」

「小森さんは七〇前後、小大さんと塩崎さんは五〜六〇との評点でしたわね」

「百ちゃんよお覚えとるなぁ」

 

 ほんとにね。ちなみに“八〇くらい”を誰につけたかは私もはっきり覚えてる。オノマトペを具現化する“個性”、【コミック】の吹出漫我くんだ。

 あの時は【自己再誕】が何を求めてるやら全然分からなくて戸惑ったっけ。

 

「そもそもこれって『何点以下は無理』とかあるの?」

「んー、無理ってことはほとんど無いかも? それに最終的な衝動は組み合わせ次第だから、一人一人の点数はあくまで参考値というか」

 

 この辺、今では〔ベクトル透過〕も創ったことでかなり込み入ったところまで分かってきている。

 【自己再誕】は複数の“個性”から“技能”を創り、それに合わせて私自身を改造するから、“技能”に対する評価だけとっても……言うなれば『“個性”同士の相性による出力(パワー)面』と『私を適合させる習得(フィット)面』がある。〔身体変造〕はどちらもスゴかった。

 

「例えば【キノコ】と【ツル】とかさ、どっちも植物っぽくて相性良さそうじゃない? 実際“技能”のパワーは結構なものになりそうなんだけど」

「リナリナとのフィット感が良くない?」

「多分、かなり悪い。小森さんと塩崎さんの組み合わせってことなら【自己再誕】の衝動はゼロに近いよ。それでも“技能”を創れないわけじゃないし、二人へのフィードバックがどうなるかは謎だけど」

「ほえー……塩崎さんと同じくらいやっちゅー小大さんだと?」

「パワー評価は【ツル】のが上だけどフィット評価は【サイズ】との方がずっと上だね」

 

 これだけでもややっこしいのに、一人一人の“個性”に対する衝動はパワーやフィットを生めそうな汎用性(ワイドネス)も見ている節がある。

(【無重力】や【コミック】は汎用性評価が高くて、【黒影】や【半冷半燃】はパワー評価が高いんじゃないかな。多分だけど)

 

 んで、その辺りは【自己再誕】が勝手に値踏みしてることでね? 私の意思とか好みとかは関係ないのよ。

 だからお茶子の言葉は完全な濡れ衣である。

 

「そら【キノコ】✕【サイズ】なんてカリナちゃんに相性バツグンやんな」

「そういうことだったの!?」

「そういうことじゃないよ! 透も納得しないでくれる!?」

 

 そもそも小森さんの【キノコ】はそーいうんじゃないでしょうが!

 

「……ふむ。〔造身(クリエフォース)〕で生きた菌糸からなる張り型(ディルド)を創ることは出来ますわよ?」

「自称常識人が真面目に検討しだした!?」

「そんなのおっかなくて皆の身体に挿入(いれ)たくないよ……」

 

 透と一緒にツッコんだものの、常識人ズは『コンドーム被せれば安全』などと声を揃えた。その常識どっかおかしくない?

 

「そもそも私、自分の身体は〔変造〕するし皆のことは成長としても()()*としてもじっくり大きくしたい派だし。“個性”で肉体改造とかはちょっと」

 

 二人を窘めるように良識を力説していると、何故か透が項垂れていた。『常識人が私しか居ない』? ちょっと何言ってる分かんないや。

 

 




 

 

 水曜日のお昼休み。

 分倍河原さんを囲んで霙理ちゃん達と話していたら、同じく首から入館証を提げた女性を見かけた。

 四〇代後半だろうか*。痩せ型で、ひどく……率直に言ってしまうと、暗い雰囲気。喪服でもないのにお葬式のような空気を纏い、俯きがちに職員棟へ向かっていく。

 

 ……うーん、初対面のはずだけど。皆も知らない人だと言うけれど。

 どこかで会ったか見かけたか、してるような?

 


 

 翌木曜日。

 被身子は朝一に退院できた。

 

 お昼休み、ハイテンションな恋人とイチャイチャお弁当をつつき合っていたら──そんな空気でいることを申し訳なく感じてしまうほど、重苦しく沈痛な気配。

 通り過ぎていったのは昨日も見かけた痩せた女性だ。

 

「……ねぇ被身子、今の人どっかで見た気がしない?」

 

 他人の顔を細かく覚えてない被身子だけど(あと名前を忘れることも多いけど)、人の見分けがついてないわけじゃない。なんなら変装とか見抜く感覚は鋭い位だし。

 具体的な特徴ではなく、なーんとなくの雰囲気で捉えているのだ。

 

「そですね? んーむ……あ、」

 

 だから少し悩んだだけで、私の感じていた既視感を言い当ててくれた。

 

「緑谷くんに似てます」

「それだ! お母さんかな、目元とかそっくり」

 

 すっきり──いや、疑問は解けたけれどすっきりはできないな。

 飲食の問題こそ前進したものの、緑谷くんは未だに“繭”の中だ。しかも救出の道筋は立っておらず──あまつさえ、そうした状況はご家族にさえ伏せられている可能性が高い。

 そりゃあ憔悴もするよね……。

 

「リナちゃん?」

「おっと。あー……被身子なら平気だと思うけど、ナイショね?」

「分かりましたぁ」

 

 油断して被身子に気取られてしまった。ご家族やクラスメイトと同じく緑谷くんのことを何も知らないにしては不自然な痛みが顔に出ちゃってたんだろう。

 

 でも、だって、ねぇ。

 どんな事情があるにせよ、ご家族を守るための秘密であろうと、学校から帰って来ずそのまま連絡も取れないだなんて……。余りにひどい。全てを明らかにして欲しいと願うのも当たり前な状況だ。

 

 それでも、私が教えて差し上げることはできない。教えるなら警護SPとか証人保護プログラムみたいなものは必須で……きっとその辺は根津校長が手配を進めてるだろうし。

 だから私には何もできない。

 

 

 

 そして同じく木曜の午後。

 透とお茶子にとってはインターンの最終日にあたるこの日。

 短い平和が終わりを告げた。

 

 

 

 ──ずっと未来の視点から、この時期の出来事を振り返るとしたら。

 ついつい常闇くんや宍田くんみたいな比喩をしたくなってしまう。『この木曜午後の事件は“第三の喇叭(らっぱ)”だった』みたいな。

 

 ヒーロー社会の終焉さえ予感させた前触れの一つ。

 “第一”、模造脳無事件。

 “第二”、冷さん誘拐事件。

 そして“第三”、()()()()()()()

 

 

 この時の私たちはまだ、喇叭なんて比喩は思いつきもしない。

 後から振り返ってようやく事件の連続性を知ったのだから。その重要な局面を数えた上で喇叭になぞらえたのだから。

 

 黙示録(ほろび)の喇叭は全部で七つだという。

 つまりこの時はまだ、折り返しすら迎えていなかったのだ。

*
乳首とか陰核とか

*
実際は四十二歳




 キノコのサイズで人を判断するのは良くないことですよー。
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