【完結】愛慾のヒーローもどき   作:土屋 四方

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5. 襲来Ⅱ

 百のカタパルト、略してモモパルト──というとまるでおっぱいで射出する夢の装置みたいだけど、残念ながら今のところは電磁加速だ──その目標地点である戸村リサイクルに着く前に、私は思い切りグライダーを引き立てた。

 空気抵抗で強烈な制動をかけ、白昼堂々大暴れのヴィランに真上から奇襲をしかける。

 

 でもその瞬間──、

 

「アカン! それは避けて!」

「っ!!」

 

──お茶子の警告で慌てて宙に躍り出る。グライダーは……あっさり対処されちゃってるよ。真上って人間には死角のはずなんだけど。

 

「あの針みたいな髪に当たると時間が停められてまうねん」

「何それ。治崎にそんな“個性”あった?」

「それゆーたらあんな前髪も写真には無かったやんか」

 

 死穢八斎會・若頭、治崎廻。間違いなく写真で見た顔だ。

 だけど周りに組員が潜んでる気配とかは……無さそう?* 妙だな。私達が離れたら霙理ちゃんを襲う狙いで潜伏ってところか。

 なら霧さん達から離れるのは得策じゃない。とはいえ治崎を近付けさせるのも怖いので、彼はここで釘付けに──とか、考えてたんだけど。

 

「邪魔だ」

「っくぅ!」

 

 アスファルトの路面を大きく砕く【オーバーホール】。目の当たりにすると【崩壊】の上位互換みたいな“個性”で極めて危険だ。一旦は距離を置かざるを得ず、それと同時に治崎は駆け出していた──私とお茶子を完全に無視して、霙理ちゃん達に向かって。

 移動を補助するサポートアイテムでも手に入れたらしくかなりの速さ。足止めを……くそ、二人がかりでまともに時間稼ぎも出来ないなんて!

 

 そもそも戦いとして噛み合っていない。彼はこちらに構おうせず、単なる邪魔者扱いで振り払って強引・乱雑に突き進む。

 まるであの巨人(ギガントマキア)を思わせる、と言ったら大げさだろうか?

 もちろん彼にはあれほどの体重は無い。攻撃を受ければ体勢も崩れるから、私の爪にせよお茶子のワイヤーが放つ流星群にせよ、半分くらいは避けるか壊すかする。その体術は思わず見事と褒めたくなるほどだ。

 だけどそのくせ、速度に影響しないような攻撃は()()()()()()

 

 【オーバーホール】で自己修復しながらとはいえ、被弾を恐れず最短距離を突き進む傍若無人。

 そして多数のヒーローに囲まれても一切恐れを見せず──人殺しもまるで躊躇わない暴虐無比。

 ヒーローも一般人も、人も車もビルも構わずに。それこそ巨人の如く。

 

 スプラッタどころではない血の雨に、お茶子の顔が真っ青に染まる。まさか、インターン先のヒーローが見当たらないのもそういうこと……?

 気遣いながら少しだけ治崎から離れると、全力疾走中の霑くんが酷いことを言ってくる。

 

「なんでポニテが来ねえんだ!」

「あんなもんで霙理ちゃん射ち出せるわけ無えでしょうが!?」

 

 おっと言葉が乱れた。いや百を高く買ってくれるのは嬉しいけどさ。モモパルトで霙理ちゃん逃がすなら首周りとかをギプスか何かで固定しとかなきゃ大怪我しかねないし。今そんな余裕(ヒマ)ないし。

 

「私の“個性”は!?」

「空中で速く動けないなら高さは危険です!」

 

 空を飛べるのは強力だけど、霧さんのは……やっぱりアレは【雲】なんだと思う。あんまり速度は出せないみたいだから。

 

「カリナちゃん、治崎の『(アイテム)』からなんとかせんと」

「同感!」

 

 話しながら走りながら、背後からは苦鳴と血飛沫が絶えずあがっていた。私達もただ談笑してたわけじゃない。

 ワイヤーの先に瓦礫を補充したお茶子、爪に小細工を施した私、タイミングを合わせて転進する。

 

 複数のヒーローの陰に紛れて脚を絡め取ろうとしたワイヤーは、最終的に避けられたものの治崎に小さな跳躍を強いた。その一瞬で刈り取ってやる。

 モード:スプリント。これまで以上の速度で肉薄するも、治崎は軽く首を振って前髪の針を放ってくる。それを爪の先で受けて軌道を逸らし──同時に衝撃で(目論見通りに)爪が折れた。

 速度減少の効果も僅かには入ったけどほんの一瞬。治崎の針先は速かった分だけ遠くへすっ飛んでいった。どうにか距離を詰めて、狙いは足元! ブーツ型のサポートアイテ……ム?

 

「なっ、」

 

 爪刃は間違いなく彼の靴を裂いた。脚の怪我は治されるだろうけど靴の方は直される前に奪い取れた。

 だというのに。

 道具なんてなくても──彼の移動速度はまるで衰えない。ていうかこれ、見た目通りただのブーツだ。

 

 まるで()()()()()()()()()()はあまりに不自然。これは流石に体術とかそういうものじゃない。

 アイテムでないならそれは“個性”……なのか? 少なくとも何らかの“超常”なのは明らか。

 

 【オーバーホール】。【停止の針(?)】。更に【スライディング(?)】の三種?

 ありえなくはない。ありえなくはないが。他でもない彼に限っては別の可能性がある。

 

「治崎! あなた()()を開発するために霙理ちゃんを!?」

「あ?」

 

 彼は少しだけ速度を落とした。私のことを障害物ではなく生きた人間だと初めて認識したように、注視が浴びせられ──それはほとんど殺気と似たようなもの。上等じゃないか。

 

()()じゃ答えようが無いな」

「……『超常の発動に必要最低限の器官とそれを維持する人工臓器のパッケージング』。あなたはそれを造りうる」

「ほう?」

「……だからって、だからって!」

「ガキにしては聡い」

 

 言外の肯定。地面がぐにゃりと歪むようだった。訊ねたことを後悔しそうになる。

 申し訳ないけれど、被害者のことが頭から抜け落ちるほどの──激しい、激しい怒り。

 だってこいつは。つまりこいつは。

 

「“能幹筺(カートリッジ)”と呼んでる。概ねお前が言った通りのものだ」

「っ、よくもそんな……!!」

「ヒーローの卵にしては悪どい発想じゃないか。何者か知らんが窮屈だろう、ヴィランへの転職を勧める」

 

 悪どいのはお前だ。ふざけるのも大概にしろ。人の熱意と善意を穢すな。

 霙理ちゃんや霑くんや緑谷くん、凍り付いた私や恋人たちの身体(しきゅう)、そういう困難をどうにかするための知識だぞ、それは。

 

「超常生理学を──お父さんの研究を、そんなことに!」

「父親? ハ、ハハ! なるほど未歳根博士の娘か。なら無下にはできない、感謝の一つくらいは言っておこう」

 

 悪いのはこいつだ。お父さんじゃない。

 ──だけど。

 だとしてもお父さんの知識が悪用されたのは変わらない。超常生理学に基づいて、ただし倫理や道徳に背いて。実験をし、復元をし、また実験を繰り返したのだろう。

 

「『超常生理学総覧』。あの本の()()()で、あの本の()()だよ」

「 こ、の 外道…… !! 」

 

 許せるものか。赦せるものかよ。

 

「カリナちゃんダメェ!

「さほど聡くはなかったようだな」

 

 

 

 

 私は普段ストレスを溜め込まないタイプだ。性欲も溜め込むなって言われてるし。

 嫌なことには空気なんか読まずに抗う。どうしようもなければ諦めてさくさく済ませようとする。(たの)しむべきことは全力で歓ぶ。

 被身子の大火傷にはかなり苛立ったけど、青山くんにもご両親にも八つ当たりにしかならないという理性がブレーキになった。

 

 だから『怒りに我を忘れる』なんてこと、あんまり経験なかったんだよね。

 感情だけでなく理性までも『そんな技術は在っちゃいけない』と後押しをした結果なんだろうけど。もう、実に恥ずかしい。記憶を抹消したい。

 各方面からのお説教も鬼盛り確定である。

 

 

 なにせぎりぎりでエンデヴァーからの援護が無かったら……多分、死んでた。殺されてた。

 本当に申し訳無いやら情けないやら。

 だけど落ち込んでもいられない。

 

 エンデヴァーが駆けつけてなお、治崎が止まらないからだ。

 

「ちっ、中々骨のあるヴィランだな!」

「そっちはひどく腑抜けてるな第二位(ナンバーツー)

 

 ……これについては、悍ましい技術や治崎の強さだけじゃ説明がつかない。命の恩人にこんなこと言いたくないけど、エンデヴァーが明らかに不調だからってのが大きい。

 本調子だったら私のことももっと軽傷で救えてただろうに──嫌味じゃなくそれほどの信頼が彼にはある──実際に私が負った傷は、〔身体変造〕が無かったらやっぱり死んでたほどのものだ。

 

 もちろんそのことでエンデヴァーを責めたりはしないよ? しないけど、やっぱりここ暫くの不眠不休っぷりは不摂生だったんだろう。

 ほんと、私が見ても分かるほどはっきりと精彩を欠いている。

 もちろん何もかも誘拐犯が悪い。

 

 

 

 ともかく、治崎を止める試みは尽く失敗した。し続けた。

 その過程で大きなダメージを与えたことは何度もあったのに、今の彼は全くの無傷だ。体力くらいは削れていると思いたいけど。

 瓦礫、血痕、そして無数の──。

 平和だった街を長く(えぐ)り抜けた一条の矢。

 ……やっぱりあの巨人災害を思わずにいられない。走りに走って辿り着いた場所も含めて。

 

 戸村家に何かあった時の避難先は幾つも候補があって、最寄りの警察署とかヒーロー事務所とか場所は覚えといてもらったんだけど。治崎の行動と能力が余りにも……想定外で。

 半端な場所じゃどうしようもないと思って、だから私やお茶子は結局ここを頼るのだ。

 

 雄英高校。

 ようやく見えてきた正門と、狭い入り口を除いて作動済の雄英バリア。

 

 ここへ逃げ込むのは霑くんからしたらとんでもなく気に入らないだろう。かといって──

 

「っは、っは、っは──!!」

「くっそムカつくぜ……!」

「ワガママを言っている場合ですか!」

 

──こんな状況で文句を垂れるのは、背中の霙理ちゃんが酷い過呼吸を起こしてるからだ。

 どう見たって怖がって苦しんでいる。なのに私達は治崎(げんいん)を除けていない。無力すぎてヒーローなんて名乗れないよ。

 

 それでも、だからこそ。

 あのバリアの中へ三人を安全にぶち込ん──間違えた、送り届けてみせる。

 

 幸いというか、治崎にも焦りが見えてきた。流石に雄英を単身で攻め落とそうとしてくるなら捕縛できるはずだ──最終的には、だけど。

 彼だってそんな無謀には挑みたくないはずで、だからこの正門前で勝負を仕掛けてくる。

 逆に先生方だって、事態はとっくに把握してたはずだから何かしらの手は用意してるはずだ。

 

 姿の見えない八木先生(オールマイト)は居ないのか、それとも確実に捕らえるために隠れてるのか。

 あー、二代目三代目の情報を探して遠出してるんだっけ……?

 

 あと切り札になりそうな人といえば、相澤先生と──あ、ヤッバいわコレ!!

*
八斎會が消えたことは知っていても壊滅したとは知らない。




■今回の被害者
 ご心配かも知れませんが、治崎の移動用“能幹筺”の()()灰廻(ザ・クロ)航一(ウラー)くんではありません。(スラ)滑達(イディン)(ゴー)おじさんです。
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