【完結】愛慾のヒーローもどき   作:土屋 四方

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※作中の緑谷(精神体)が死に覚えゾンビアタックを繰り返してるだけで、別にBloodborneのクロスオーバー要素とかはありません。


緑谷出久も血の狩人の夢を見るか

 物理的には緑谷出久の身体の中、概念的には【ワンフォーオール】という“個性”の中──という表現が正確なものかはともかく、死柄木与一はその肉体を持ち主に返還すべく、当代継承者を叱咤激励していた。

 

 最初に攻略したのは五代目・万縄大悟郎の危機意識。

 【OFA】を完全に喪った緑谷だけでは何度ゾンビアタックを繰り返しても攻略できず、最終的には与一が手を貸すことになった──が、【黒鞭】は『やれやれ、見ちゃいられねぇのさ』とでも言いたげに緑谷の方へ宿った。

 そのこと自体が緑谷本来の人格を歪ませるような懸念もあるにはあったが、まずは()()()一、といったところである。

 

 エリアを一つ解放したことで明らかになった全体像は、どこかゲームじみていた。

 

「実際、色んなゲームや漫画が混ざったイメージなんだと思うよ。生前の僕はこういうの好きだったから」

「へぇ……なんだか意外です」

「前も言ったように、君は僕を上に見過ぎなんだよ。こっちもただの人間だ」

「あはは……」

 

 本音としては『百年近くも前にこういうゲームってあったんですか?』ぐらいの失礼な驚きを抱いていたが。それを誤魔化しながら改めて見渡せば、『マップ』は大まかに人体を模しているようだ。

 現在地は腕。ゴールは脳か心臓辺りが有力だが──

 

「塞がれてます、ね」

「……二代目が脳で三代目が心臓、かなぁ。手加減とか絶対してくれないぞ……」

 

──腕からすぐそれらへ向かうことは出来なかった。まるで『先に他を回って力をつけて来い』と言うように道が塞がれていたのだ(与一によれば『意識があってもなくてもそういう意図(スパルタ)はありえる』とのこと)。

 その辺りも含めてゲーム的という印象に繋がっている。

 

 


 

 

 首近く。外から見るに平和な森のエリア。鳥や獣の声がちらほらと聴こえてくる。

 しかし──

 

「──今僕やられました!? どうやって!?」

「彼が防衛本能を全開にするとあんなことになるのか……」

 

──足を踏み入れた瞬間、音もなく襲来した四代目(の危機感)に瞬殺された。精神体であることを利用してどれだけリトライしても変わらない。姿を見ることすら難しいほどの気配なき暗殺者。

 

「せめて【煙幕】か【浮遊】が無いと厳しいか……【黒鞭】もまるで使いこなせてないし」

「頑張ります……!!」

 

 緑谷の【黒鞭】習得スピードはかなり凄まじいものだが、二人には現実世界での経過時間が分からない。昼も夜も飢えも渇きも無い精神体だから。

 (与一は慣れているものの)それがプラスに働くあたり、緑谷も中々に奇異な精神構造をしているが……ともかく四ノ森避影と【危機感知】は後回しにするしかないようだ。

 

 


 

 

 へその近く。

 …………濃霧エリア、とでも呼ぶべきか。その姿は全くの不明である。立ち込めた【煙幕】があまりにも濃い。

 

「あの、何も見えないんですが」

「分かりやすいなぁ(エン)くんは」

「自分の手さえ見えない……これじゃどうしようも」

「鍵は【黒鞭】になりそうだね」

 

 使いこなしさえすれば──というか現実では既にそれっぽい動きが見られるが──【黒鞭】は触覚器としても機能する。

 加えて五代目の万縄と六代目の煙は先輩後輩という間柄だ。

 

「これは僕も意外だな、こんな風に引きこもる子じゃないんだ。無駄にノリが良いというか」

「無駄にノリが良いOFA継承者……!?」*

「だからそれ、行き過ぎ神聖化」

「あ、すみません」

「ともかく改めよう。【黒鞭】を万縄くん並みに使えればまるで違う対応だと思うから」

 

 緑谷の返事は引きつったものになった。求められた水準の高さと、陰キャが最も苦手とする人種への恐れで。

 

 


 

 

 なお緑谷の世代にとって、あちこちをたらい回しにされる『お使いゲー』と呼ばれる状況は逆に新鮮に感じられる。どちらかといえば与一の方が面倒に──焦りを──感じていた。

 

 しかし今は、二人が抱く感想は全く同じ。寸分のズレも無い。

 

クソゲー過ぎる……!

 

 口に出したのは与一だけだが緑谷もコクコクと頷いている。難易度設定がクソだった。そもそもクリアできるように調整されたゲームなどではないわけだが。

 

 ──脚部・ビル街エリア。緑谷にとっては少しだけレトロな印象の現代フィールド。

 ガーディアンは七代目・【浮遊】の志村菜奈……()()()、八代目・()()()()()()

 

「オールマイトは無個性って聞きましたけど……?」

「あぁうん、間違いないよ」

 

 本人が気付いていなかっただけで実は“個性”持ちだった──などという事実は無い。しかし【ワンフォーオール】には彼の席もある。

 

「彼が残したのは“個性”ではなくて……なんて言うのかな、アレは」

「心、ですか?」

「対話できるようなものを期待してるならそうじゃないよ。もっと硬くて変化のしようもない──そうだな、アレこそ“信念”と呼ぶべきかな。『平和の象徴』という」

「『平和の象徴』──!!」

 

 緑谷たちがビル街エリアに侵入すると、志村菜奈以上にオールマイトが積極的に襲いかかって来る。

 緑谷は勝敗よりもそのこと自体にショックを受けていた。

 

「それは気にしない方がいいね」

「そう言われても……」

「『このままでは九代目の肉体が死ぬ』、つまり世界の終わりに直面したような危機感で動いてるわけだから──むしろ万縄くんのアレはユル過ぎたくらいさ、豪放な彼らしいけどね。

 多分オールマイトや他の歴代には、こっちが凶悪なヴィランに見えているんだよ」

「え、そんなことが?」

「最初に『僕が盲目だと思って』って訊いたろ? 同じに見えてるわけじゃない」

「なる、ほど。物理的な身体だったらとっくに死んでますしね僕……」

 

 既に複数のリトライに失敗している二人である。緑谷ソロでのクリアは余りにも目が無いため与一も積極的に手伝っており、その結果から明らかになったことがもう一つ。

 

「それはともかくこの苦境って、半分くらい僕のせいですよね……」

「責めるつもりはないけど、まぁそうかな」

「ううぅぅ……!」

 

 与一が指摘したように、緑谷は『継承』と似たようなことをして全ての力を手放した。その力の内、歴代の“個性”に由来する部分は歴代の元へ還ったとみられる。ではそれ以外、溜め込まれた(パワー)の方は?

 現在の与一は生前より遥かにパワフルに動ける。このことから初代に還されたものと思っていたが──

 

「まぁまぁ。君が『この力に相応しい人』って考えたら八木くんになるのは当たり前だよ」

「いやぁ、こう。後を継ぐ覚悟が出来てなかったと見せつけられるようで」

「それはそう」

「うぐ」

 

──八代目の“信念”にも相当な力が渡っているようだ。

 最大出力だけ見れば与一が(まさ)るものの、“信念”は経験やテクニックの差であっさりと初代を封殺した。

 そしてそれは九代目を外敵と見做しているという高すぎる壁。【危機感知】と【煙幕】が緑谷の力になったとして、それでどうにかなるものだろうか?

 

「うーん……ちょっとこれは、どうしたものかな……」

 

 真剣に悩む与一。しかしそれ故に見誤りかけてもいる。

 

「力押しでどうにかできる気はしません。先に【黒鞭】を形にして【煙幕】を攻略するのはどうでしょうか」

「おっと、それもそうだ。僕が決めちゃダメだったね」

 

 そう、本来これは緑谷の挑戦であり旅である。九代目の歩みでなくてはならない。

 突き放すとすぐに弱気を見せる頼りない当代であっても。あるいはだからこそ。

 

「全ては君が決めることだ」

「アドバイス位はお願いしても……?」

「初代の僕が【黒鞭】の使い方を教えられるわけないだろう? まぁ()()に万縄くんの心が欠片でも遺っているのは間違いないから、頼るなら彼なんじゃないかな」

「そうは言っても、“個性”の声を聴くなんてやったことも」

 

 緑谷がこれまでに学んできた【OFA】と【黒鞭】とは使い勝手が全く異なる。そして出来ることも多い。

 単純な攻撃、捕縛、移動の補助、罠、見えない場所の探知。【剛翼】や【ファイバーマスター】と似た、経験と応用と制御がものを言う力。先達のアドバイスがあればどれほど助けになることか。

 

 

 しかしながら、その願望は──叶わない。

 

 


 

 

 与一自身にも確かめようのない話だが、二代目から七代目までの“個性”が与一の下で統合されている状態──つまり繭に引きこもる前の状態──であれば。

 各“個性”に眠っていた心や人格が目覚めて心の中で言葉を交わせるようになったかも知れない。緑谷がこの力と親和していく内に段々とそうなっただろう。

 

 しかし今は違う。

 

 万縄も含めて全員が、現在は与一から独立している状態だ。

 緑谷が【黒鞭】の扱いにどれほど習熟しようと、万縄の心が目覚める()()()()()。その前提条件を欠いている。

 

 

 ──故に緑谷による継承者攻略は、早くも修行パートという停滞を強いられてしまった。

 

 




 

 

 それは即ち、現実においては。

 緑谷出久の肉体は“繭”に囚われたまま眠り続けるということであり──

 

 

「出久……出久ぅ……」

 

 

──緑谷引子の慟哭は、未だ夜明けを知らぬことを意味している。

*
『ヘイヘイヘイ! 九代目ビビってるー!』




 次話からは現実での話に戻ります。
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