爆豪たちは本職のエンジニアではないし、今は工学的な無理を強引に突破しようとしている状況だ。
そして
だから道のりは決して平坦ではない。心は一つになっているけれども。
『どうしてこれでイケると思っちまったんだっけ……?』
苦労して造り上げた試作品が、何の成果もなく一瞬で鉄屑になる惨状を目の当たりにし、揃って首を傾げるような日も、ある。
■十一月 上旬
月が変わると急に寒くなってきた。
私はどちらかというと寒い季節の方が好きなんだけど、それを言ったら驚かれたのは心外である。
「「肌の露出は減るよ?」」
「透とお茶子は私をなんだと思っ……いやいいです言わなくて。
甘く見ないでよ、私のエロスはそんな短絡的じゃない。着ぶくれも可愛いよ、脱がす愉しみも増えるし。それにそこら中キスマーク付けて良いってこと──」
力説したのに聞き流された。ひどい。
さて、相変わらず厳戒態勢は続いている。ヒーロー科的には『訓練等でも常に余力を残せ』というのが大きなネックだ。
とはいえ仮免試験も経験した皆にとって、がむしゃらに身体を動かす必要性は多少低くなっている──自主トレの仕方とか身について来てるからね。
じゃあその分の力や時間をどこに注ぎ込むかといえば当然、がむしゃらじゃない動き。
つまり思考力である。
爆豪たちがサポート科と相談してLRADもどきを造ろうとしてるのも相澤先生は(安全対策は徹底させた上で)推奨したし、それ以外に『見学』みたいな授業もかなり増えた。
なおここは雄英なので
……私、あんまり見学側に回れてないけど。
「うーん、これは負けられないよね! 一年生相手ならクラス一つくらいまでは!」
「やめてくれミリオ、ハードルが上がる……」
「なんで? 私たちが一年生の頃も先輩には敵わなかったし、通形がちょっと前にやったじゃん。おんなじだよ?」
「俺が先輩方やミリオほど優秀なわけないだろ」
雄英ヒーロー科・三年生、その中のトップスリー。
通形ミリオ先輩、天喰環先輩、波動ねじれ先輩。
対するは一年A組の仮免保持者。
この前の仮免試験を突破したのは被身子・百・透・お茶子と梅雨ちゃん・天哉くん・障子くん・常闇くんの八人。
そこに講習をクリアした轟くんとミネタが加わり、元々持ってた私も含めると十一人。丁度クラスの半分だ。
「一年側は
「今回はくじ引き無しですか?」
「そうだ。三人のスタート位置も事前に教えてやるから、
監督してくれるのはオールマイトと、眼帯装備でますますアングラ感の増した相澤先生。
……眼球を置き換える(というか視神経を繋ぎ直す)なんてのは〔
「そんなので勝負になると思ってるんですかぁ?」
「渡我、今度は本気でやれよ。じゃなきゃ向こうも本気は出さん」
「……へぇ」
相澤先生ったら被身子のやる気スイッチ分かっておいでで。
インターンの前──私は緑谷くんの件で休学してた頃──、通形先輩vsA組二〇人で模擬戦をやったらしいんだけど。で、(先生によれば本気は出してなかった)先輩の圧勝ではあったみたいなんだけど。
そもそもそのシチュエーションで被身子がやる気出すわけない。
お茶子も落ち込んでた頃だし。
今日は違う。私を含む万全の兵士と指揮官の百がいて、先輩方の“個性”はおおむね割れてて、戦場がどんな場所かまで分かってるんだ。何よりチーム編成と
余裕とまでは思わないけれど、この条件で互角の勝負になるって? だとしたら安く見られたものだ。
「先輩方に忖度とかしなくて良いんですね?」
「もちろん! 前回お休みだった君の実力が楽しみなんだよね!」
「気をつけろよ通形、コイツ等にヴィラン役やらせると『役作り』の一言で躊躇いなく法を犯すからな」
「対戦前のアドバイスは不公平ではございませんこと?」
「『そんなことしない』とは言わないんだ? おもしろーい!」
「二人とも煽らないでくれ……帰りたい……」
ふ、ふ。先輩方はてんで負ける心配をしてなくて、天喰先輩なんか興味も無いご様子*じゃないか。
へぇ、ふーん。
ムカついた。
「みんな。作戦は全勝で」
頭悪いこと言ったとは思うけれど。返ってきたのは気合いの籠もった賛同ばかりだった。
「あれ? 順番にやるんじゃないんスか?」
「一遍にやられたら見学どころじゃないよー!」
見学する側は忙しさに悲鳴をあげるが、相澤はもちろん取り合わない。三つのビルで同時並行に開戦するらしい。
「状況判断のスピードも上げてけ。現場は待っちゃくれないからな」
確かにその通り。複数の判断を同時に迫られることも珍しくない。
瞬間的な分析力は必須だ。
なお、見学者だけでなく三年生にも負荷をかけていく。
三つのビルに散った彼らは後輩たちの“個性”について概要だけは教えられているが、相手チームの
とことん重ねられた不利な条件を、三年生は果たして覆せるのか──。
試合開始まで、あと一分。
モニタールームからは全チームの編成が明らかで、見学組は早速その狙いを読み解こうと話し始めた。百の采配だ、
二人の教師は一切解説することなく、画面を見上げながら静かに言葉を交わす。
「相澤くん、私は波動少女と天喰少年の実力をよく知らないんだが……どう見てるんだい?」
「三年側がかなり厳しい設定にしたつもりですよ」
「あ、やっぱりそうなんだ」
「どうも治崎に対する気構えが足りないように見えたもんで」
「Oh……それは危険だね」
通形たちはいざという時の前線メンバーになる可能性が高い。そして相手は並のヴィランではない──いや、実力以外の問題がある。
「俺たちプロヒーローもそうですが、現場に出はじめた三年は経験からの予測を行います。
「まるでびっくり箱だったようだしね……」
「生徒の危機感が緩むんで“びっくり箱”はやめて下さい。ですがまぁ、そういうことです」
配慮の足りない言葉選びを咎める相澤だが、生徒をびっくり箱扱いしている彼の方がよほど失礼だ。
変なやつら──もとい、常識の枠に囚われない連中をぶつけることで、三年生の安易な先読みを咎めようというのである。
複数の
試合開始十秒前。
「でも相澤くん。一年チームが負けたら困らないかい?」
「勝敗はどちらでも構いません。余裕ぶった三年を驚かせれば目的達成で、その可能性は高いかと」
「てことは、正面から実力だけで下剋上しちゃうのもマズいわけだ」
「そうですが……無理があるでしょう?」
相澤の推測は常識的なものだ。いくら被身子が適当に流していても、他の十九人を通形が圧倒したのは事実。あれから一ヶ月ほど経ったとはいえ、その間に三年生も成長しているのだから。
一方オールマイトの言葉はそのほとんどが直感だった。
開戦を告げるブザーが鳴る。
「私も期末試験で兵怜少女に一杯食わされたし、そういうやり方を
「むしろノリノリでやります」
「うん、否定はしない。でもきっと、それは格上との戦い方だ」
「…………」
相澤は思う。三年生は実際に格上だろうと。
同時に可能性はあると納得もした。
「『自分たちは同格だ』と示すために正面突破すると?」
「そのつもりじゃないかな、あのチーム分けは」
「…………確かに、ありえますね」
◆vs.ルミリオン
“個性”を使っても裸にならないスーツを身にまとった通形ミリオは、この訓練の意図を量りかねていた。
『手を抜いてた子がいたみたいだけど、一ヶ月前の時点では他に目立つ子もいなかったんだよね』
確かに渡我という女子はあまりにあっさりと沈んだ覚えがある。休学していた方は全くの未知数。
その二人だけ(あるいは片方だけ)で自分を上回るという可能性は……
『ただ何のためにそれを見せつけるかっていうね! 天狗になってるとか思われたかな?』
【透過】を使いこなせるようになってからは校内で負け無しになったものの、芽が出るまでが長かった通形の自己評価はさほど高くない。一年生に負ける可能性もあると認める。
だから、年下に負けたとしても──もちろん負けるつもりは無いが仮に負けても──鼻っ柱が折れるようなことはないのではないか?
訓練開始のブザーが鳴る。
通形は頭を切り替えて目の前のビルへと足を踏み入れた。
客観的に見てこのルールとフィールドは彼の独壇場である。
床だけでなく壁や天井も発射台にする三次元機動ができるし、危なくなっても上下の階に避難すればすぐには追ってこれない。また【透過】なら核を傷付けるおそれも無い。
これは慢心ではない──はずだ。しかしながら。
「なんだこれ……?」
思わず呟く。
ビルの一階、そして見逃しを怖れたのか二階にも、非常に目立つ落書き(?)がそこら中にしてあったからだ。
愚かなヒーローへ。核は屋上のまん真ん中に置いてあります。
ただし核の真下の床は【透過】できないよう細工がしてあり、そこに先輩が突っ込むと命の保証ができません。
屋上の中央、半径一メートルの円内は【透過】しようとしないことだ。グワーハッハッハ!
一方、こちらはモニタールーム。
今回は初回訓練時と違い、ビル内の音声も全て伝わるようになっている。同時に複数が喋る可能性もあるが、見学組はその取捨選択も訓練の内だ。
もっとも今は開始直後なので他と被ることはなく、通形の呟きははっきり聴き取れる。
「先生、警告とかした方が良くない? 葉隠のアレはまじでヤバいって」
「アイツもそこまで馬鹿じゃないさ。もし突っ込みそうならちゃんと止めるから安心しろ」
「早めに止めてあげてよ先生、サイコロステーキ先輩になっちゃう……」
響香に続いて三奈が相澤に懇願した。隣のオールマイトがギョッとして目を瞠る。
「サ、サイコロステーキ……?」
「オールマイトは見てないんでしたっけ。葉隠の〔
「うん、それは聞いてる」
「狭いほど硬くなるから極細の格子状にしてるんだって。この前それで、大根でも
「OH...」
インターン先でバーニンを護ろうとして咄嗟に『一定以上の高温だけ遮断する』膜を使い出して以来、遮断対象の狭さでも強度が上がることが実験で分かっている。
『固体遮断』よりも『野菜遮断』の方が、『野菜遮断』よりも『南瓜遮断』の方が*硬い。もちろん『南瓜遮断』なら大根や人参は素通ししてしまうが使い分ければ済む話で──今回の場合、『人間遮断』より更に具体的な『通形ミリオ遮断』である。
【透過】はあらゆる物体とエネルギーを透過するが、超常と超常は干渉する。具体的にどうなるかは……やってみないと分からない。つまり通形の無敵性と安全性は全く保証されないということ。
画面の中の通形は、幸い警告に従ってくれるようだ。ビルの外壁に半身を埋め、真上に弾かれることで一気に屋上へ昇る。
勢い余って宙へ躍り出て──見下ろせば確かに核は中央だ。そしてそれを守る一年生は……不気味な黒装束だけ。
着地と共に問い掛けるルミリオン。
単独で立ち塞がる狐面は無言のまま応えない。
彼は一旦下の階に降り、周囲も含めてしっかりと
罠のようなものは見当たらないし、人が隠れられるスペースも無い。屋上からは死角になる外壁辺りに【蛙】の少女などが潜んでいるかと思いきやそれもなかった。
残る懸念は【透明化】の少女だが、本人とスーツしか透明にならないらしいので『ひとりでに動く確保テープ』だけ警戒しておけば良い。彼女の腕力で自分を昏倒させるのは難しいからだ。
以上、この状況をまとめて──通形はなるほどと頷く。
核の真下は別として、そこ以外なら【透過】による沈み込みと発射は可能。壁や天井はあれば便利だが無くても障害にはならない。通形の実力を制限するような要素はほとんどなく、核は目の前。
──しかも、その上。
自分と対するヴィランチームは、十一人の内たったの二人(あるいは被身子一人にも見える)。普通に考えれば四人チームを二つと三人チームを作るだろうに。
彼の中で『馬鹿にしてるよね』的な
ただしそれとは別の感情が熱を持つ。
『僕が
競争心や向上心。特に友と比べられれば冷めてはいられない。
そんな思いを
『見様見真似ですが、思いっきり……
──何が起きたかも分からぬまま、あえなく意識を奪われ確保テープを巻かれてしまった。
ミリオの失敗①
事前に与えられた情報から、『渡我さんは【変身】なんだから透明になってる
ただ、対治崎を想定すると……命に関わるので……。
ミリオの失敗②
この状況──または相澤先生の
但しこの時点で気付いている生徒はまだ一人も居ないので、ミリオの失敗というのは酷かも知れません。