徒労に終わる試行錯誤。進捗は悪いどころか後退したように感じられ、ついに行き詰まる爆豪たち。
そこに天啓を齎したのは三年生との模擬戦であり、そして意外な人物だった。
不確かで頼りない。
しかしその未知なる可能性に、賭ける──。
画面の向こうで突然倒れた通形ミリオ。
オールマイトが全体にアナウンスする。
「渡我少女が通形少年を確保したぞ!」
見学組は予め分かっていた。
準備の段階で衣装を渡していたから、黒装束と狐面の中身が透で、【変身+透明化】で潜んでいる方が被身子だと。
被身子はそのまま〔
驚きの声はあまり大きくなかったが、それはすっかり慣らされているからで。
今のを“小細工なしのガチバトル”とは普通呼ばない。
「──ずいぶん変わった“正面突破”でしたね」
「い、いやぁ! 教師まで騙すとは流石だよウン!」
◆vs.ネジレチャン
お三方をビッグスリーと呼ぶ際は、通形先輩が筆頭のような扱いになりがちです。しかし今回のルールにおける彼の脅威度は……『高くはない』。あくまで相対的な話ですが。
天喰先輩が飛び抜けて厄介なのです。この見解はカリナさんとも一致しました。
そして今、上空から襲い来る波動先輩は──
「むー! やりづらいなぁもう!」
──
わたくし達の防御を抜けないこともですが、開始からわずか三分ほどで通形先輩が確保されたという放送も大きかったのでしょう。攻め手もやや単調になってきました。
「十時から七時、高度変わらず!」
「テンヤ、いけるか」
「あぁ!」
障子さんが移動方向や高さを測り、轟さんは氷の走路を作り、飯田さんが駆け上がります。
「そこだっ!」
「そんなのに捕まらないよー!」
もちろん、空を自在に舞う彼女に走って跳びつくなど容易ではありません。ルートの先読みによってある程度までは近付けても、ふわりと軌道修正されて空振り。
しかし、屋上でわたくし達が堅守する確保対象は先輩の視界に入っておりますから。どうしても意識は惹きつけられますわよね?
そうして絞った読みが今回はヒット。わたくしの構えた
「こーなったら後輩くん達やっちゃうんだから!」
いきなり核の
「〔
【エンジン】は空中でも多少の姿勢制御を可能にしますが、狙い定めて放たれた攻撃を避けるほどの機動性はありません。
ですので肉壁頼れる
「〔グレープバックラー〕!」
「うひゃう変な手応え!?」
「アリガトウゴザイマス!!」
…………。まぁ、心配は無用そうですわね。
衝撃波は余さず【もぎもぎ】が受け止め、ぐにぐにと変形しながら峰田さんの身体を押し返します(障子さんの腕が回収)。
彼に守られ、捕縛テープを構えた飯田さんは距離を詰めました。わたくしも網を放って退路を塞ぎ、これにて攻略完了──かと思いきや。
「!?」
「っ、あれ? なんでー?」
……なるほど、これは見落としでした。
飯田さんの体勢を崩しネットを裂いて波動先輩を助けたのは、手裏剣かプロペラのようなもの。
カエデ科などに見られる
「サンイーター迷子? ここは私が攻めるビルだよ?」
「迷子じゃない。俺たちはスタート地点を決められただけで、目の前のビルを攻略しろなんて言われてないだろ」
「そうだっけ? そうかも!」
合理的虚偽……とは違いますが、引っ掛け問題といったところでしょうか。不覚を取りましたわ。
「二人がかりとかズリぃぞヒーロー共ぉ!」
「いいえグレープジュース、先生から違反のジャッジはありません」
あらゆるルールが先輩方に不利を課して、
支給された無線機がチーム内専用で、他チームへ連絡できないことも思い込みを助長しました。
しかし確かに、先生は試合を三つ行うなどとは仰っていません。
つまり本当の状況設定は『三グループのヴィランが三つの
天喰先輩はこの
「そっちの核は? もう平気なの?」
「無茶言わないでくれ、ここを二人で押さえたら手伝って欲しい。……ルミリオンの所も」
「りょうかーい!」
そんな言葉を交わしながらもお二人は動きを止めません。ビルから離れた位置をゆっくりと上昇し……天喰先輩を
「エリクシル?」
障子さんが──他の皆さんも、判断を委ねて下さいます。
このチームはvs.波動先輩を想定したもの。天喰先輩を、ましてや二人組を相手取るのは厳しい。
効率としてはすぐにこのビルを捨てるべきです。どうせヒーロー達は全ての核を見過ごせないのですから。
どれか一つでもタイムオーバーになれば負け、それがヒーロー。
その方が易い勝ち筋ですが──いいえ、ヴィランになりきれば。
舐められっぱなしで居られますか。
「変更はありません、
「了解だ。上空の二人、あと五秒で直上に入る。三、二……」
天を睨みながらカウントダウンする障子さん。しかしその【複製腕】は、幾つかの耳を下方へ向けています。
ヒーロー側の増援はもうありえませんから……今はまず迎撃。
「落下を始めたら火球を」
「あぁ。身体も冷えてたし丁度良い!」
核の近くで炎は使いづらいですが、標的が離れた上空ならば誘爆の危険は無いでしょう。圧縮された熱がボヒュンと撃ち上げられ、波動先輩の手を離れた天喰先輩を直撃、爆発。
しかしこの程度では──ほぼ無傷(
「北東の隅に着地するぞ!」
「蹴り落とす!──うおッ!?」
「使いたくねーなぁ〔ミネタビーズ〕!」
「っ──感謝する!」
障子さんが天喰先輩を食い止める内に、足を踏み外しかけた飯田さんは峰田さんが救出。彼には特製の反応液──少し時間はかかりますが【もぎもぎ】を溶かすもの──を渡してあるのであちらは任せましょう。
「空はわたくし達で!」
「あぁ、だが……!」
天喰先輩だけでも脅威なのに、そちらに手を取られると波動先輩の対処も難しくなります。何せ真上からも攻めてくる上、氷などで傘状の覆いを設けても──
「〔
──この、相反する
氷を軋ませ罅を入れ、見る間に瓦解させていきます。核を傷付けないよう調整されてなお、硬さでは防げない!
「畜生……!」
「失礼します!」
一か八か、轟さんの背中と肩を蹴って宙に躍り出ました。先ほどまで飯田さんがやってくれていたように、(格闘戦はさほど得意ではない)波動先輩を肉弾で追い払おうとしたのです。
この試みは半分成功。
わたくしを避けて大回りした彼女は、障子さんが鞭のように腕を振るって退けました。
が、その隙を見逃さなかった天喰先輩を食い止められる者はありません。
「一つ目、回収だ!」
「──あぁっ!?」
おや? 誰がそんな絶望的な声を……あぁ、今まさに屋上に着いた被身子さんでしたか。
わたくし達は慌てず騒がず階段へ向かいます。峰田さんは若干にやにやしておられますわね。
「
「「「「了解!」」」」
「「「えっ」」」
先輩方だけでなく被身子さんまでぽかんとさせてしまいました。
イヤですわね、こんな目立って守りにくい場所に本物を置くはずないではありませんか。
……はい? 被身子さんのところは本当に屋上なんですの!?
正面戦闘らしさの演出として
モニタールーム。
見学組が追いかけるのは、忙しなく・目まぐるしく・そして泥臭い戦いだった。
『待ってくれ! このダミー、ぅぐぐぐ、手から離れ、ないッ!』
『そんなの壊しちゃえば?』
『核だぞ!?』
『ダミーだよね?』
『もちろん
そんな三年生のコント(真剣)はまだ笑って観ていられたが。
被身子のいたビルへと飛び去ったねじれを、飯田が慌てて追う。しかし地上からでは最短距離を行けず──代わりにインターセプトしたのは、天喰が去って手の空いたカリナチーム。【
ここに轟も参加しようとしたが、それは百が制止。
『ここの核も放置はできません』
『ぐ……そうだな』
三つのビル、三つの核、十一人のヴィラン。単体戦力はヒーローの方が上で、待ち構えれば
この時点だと、核の傍を無人にできない*カリナと梅雨は事実上の遊兵。三年生が作り出す乱戦のせいで人数差を活かしきれない。
更にこの混迷の中、蛙吹“思ったことは言っちゃう”梅雨はふと思いついた。
『あのねフィンガード、悪い可能性なのだけど』
『なに?』
『現実的に考えるなら、【透過】って拘束しておけるものかしら?』
『……やっば!?』
これについてはすぐに相澤から全体アナウンスが入る。
「今、一年から重要な指摘があった。本来なら三年の側から出るべきもんだから、先に気付いた一年側にボーナスだ。次のルールを追加する」
まだ意識の無い通形だが、目が覚めてもそれだけでは復帰できないものとする。
意識があり、かつ誰かにテープを外してもらえば、通形は試合に復帰できる。
これは【透過】の脱出性能を反映した特殊ルールなので、彼以外には適用されない。
「以上だ。実際に通形を拘束したけりゃ
当然だと言い切る相澤に、周囲の評価は『鬼だこの人』で一つになった。
三年生からすれば痛すぎる失点だが、それでも可能性があるならば。追加ルールを聞いた天喰たちは当然通形の復帰を図る。
一年生は阻止したいが、核を離れ過ぎてそこを狙われるリスクを考えると二対十一でも手が足りず、駆けずり回ってカバーするしかない。
しかしここに至ってなお、三つ全ての防衛という“完勝”を諦める一年はいなかった。峰田でさえどこかの核を捨てるようなプランは(考えはしても)口にはしない。
それもヒーローが三人に戻ってしまうと大幅に難しくなる。だから──
『管狐! 確保したヒーローはどこかに隠したりしたのかい!?』
『すぐには、ほっ、見つからないはずです、よっ!』
──協力して天喰を食い止めながら、飯田の問いに被身子は
通形を確保し、『まずは一勝&一番乗り』のつもりでいた被身子・透ペア。
カリナ達のビルの近くまで来た所で走り去る天喰を見て試合の構造や勝利アナウンスが無いことに気付き、被身子は後を追い透は核の防衛に戻った。
ただ、一度確保したヒーローの復帰までは全く想定外。
モニタールームからは被身子の言葉がブラフだと分かる。
透は必死で通形を運ぼうとしていた。身長一八一センチの筋肉の塊を。
『ぬぎぎぎ……重! 筋肉
見学組もハラハラと慌てながらエールや祈りを送る。というのも通形が転がっているのは、ビルの屋上=核のすぐ横なのだ。三年生が近くまで来てしまえば両方を守るのは極めて難しい。
不幸中の幸いはこの事実が知られていないことだが──
『…………強引に突破しよう!
『っ』
『そーなの? 分かった!』
──天喰が暴いた。
嘘を見抜いたというよりただ怪しんでカマをかけ、被身子は焦りもあって誤魔化し損ねたのだ。
ハイレベル&ハイスピードな攻防に、誰もが何かしらやらかしていた。
透がビルの屋上から意識のない通形を落とす危険な一幕(下にカリナがいることを確かめてからだったのとヴィラン役なのでぎりぎりセーフ)や、ねじれが制御を誤ってビルの一部を大きく崩したこと(結果的にヒーローチームを利した)。やむなく背中に翼を生やした天喰は、常闇の憧れに満ちた『異形の堕天使……!!』という呟きで試合放棄しそうにもなった(天喰もだが常闇も評価からマイナス)。
それでもヴィランチームは際どいところで核を譲らず、ヒーローチームは大切な仲間を取り戻して。
『二人ともごめん、こっちもチームで行こう!』
『おっけーい!』
『一つくらいは……回収してやる……!!』
『違うよねサンイーター! 一つあたり四〇秒で三か所回るのさ!』
『──あぁ!』
通形の言葉通り、その時点で残りの試合時間は二分を切っていた。
彼を奪い合いながら駆け回った結果、現在地は三つの核の中心あたり。ここで三方へ分かれるのではなく、三人組で三か所を回るという。
全体を冷徹に俯瞰していた相澤は──小さく頷いてマイクを手にした。
一年生の意気込みがどうであれ核が一つでも残ればヒーローの負けだから、この残り時間だと
それは良くない。せっかく望ましいレベルの集中力と気合と疲労とが重なっているのだから、効果を最大化するのが合理的だ。
そもそも、ヴィランは約束を守らないしヒーローは時間などで諦めない。
「審判からロスタイムのお知らせです。
試合終了まで、残り
『『『はぁ!!??』』』
世にも珍しい障子や轟の大声も混じったという。予定の残り時間が二倍弱になったのだから無理もないが、それはさておき。
三年生がどこかのビルへ駆け出すより一瞬早く、カリナが叫んだ。
「今ここで攻め潰す!」
カリナと被身子は即座に
「っ、こっちも全員捕縛した方が早いよね! POWER!!」
「そういえばそうじゃん!」
「分かった!」
百が上空に放った音響信号弾で、各ビルで最低限の核防衛にあたっていた面々も集まってくる。三対十一、どちらも最速で相手を全滅させたい局所的集団戦。
すなわち、求められる判断スピードは更に加速するということで──
放課後。
見学組だった
「あれをレポートにまとめるとか無理くね……?」
「っせーな手ぇ動かせや」
「そーだよ上鳴。合同課題にしてくれただけ相澤先生の温情じゃん」
いつどこで誰が、どういう目的で何をして、その結果どうなったのか。それを
更にその一つ一つに妥当性の評価を添え、何より結果があのようになった要因分析も求められる。
「いやー、何度も言っちまうけどアツい勝負だったよな!」
「途中はともかく、最後は……?」
「カオス過ぎて困っちゃうよね。あんなことになった原因って言われてもさぁ……?」
結果はある意味で単純だ。焼け野原である。
相澤が設定したロスタイムが尽きた時点で、核は
「あのシュールな絵面の決め手っていうと……峰田ってことになっちゃうよな」
「なんだろな、尾白の言う通りなんだけどすげぇ認めたくねぇわ」
「認めたくねぇし分っかんねぇよ。なんで俺の【セロハン】はダメだったのに【もぎもぎ】は拘束できたんだ?」
そう、なぜか【透過】が【もぎもぎ】を外せなかったのである。
通形もショックを受けたが峰田も驚いていた。そんなことはあの瞬間まで出来なかったはず。
その原因など誰にも断言はできない。ただ、可能性として心当たりを持つ者はいる。カリナや百や太郎──あるいは、その知識に触れた者ならば。
「──『個性の覚醒』、ってヤツかも知れないね☆」
次話からは間章Ⅲとして、小粒な話(青山くんとか)を幾つか。
それが済んだら……大規模騒乱の始まり、です。