【完結】愛慾のヒーローもどき   作:土屋 四方

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※横文字の元ネタはお話にはあまり関係ないので後書きで補足。


け回(Per)りて省(aspera)みる または 犯罪的追従

 三年生とのハードな戦闘訓練があった日の夜。

 

今ここで攻め潰す!

 

 コピーしてもらった映像記録がリビングの大きなテレビで再生されている。最後の二〇〇秒だけ、もう三度目だけど。

 

リナちゃんかぁいいなぁ……♡

 

 リモコンを握ったまま小声で噛み締める被身子は幸せそうだから言うことは無い。あ、でも耳元で色っぽい溜め息つくの今はちょっと自重して欲しい。

 課題の最中なので。被身子もそのはずなので。

 

「……あの、被身子さん? わたくし達の主な改善点はもっと手前だと思うのですが」

 

 私たち仮免組には振り返り(デブリーフィング)レポートが課されている。建前上はそのために映像を見返してるはずなんだけど……被身子は百の言葉をスルーした。

 

「あら。完全無視は久々ですわね」

「いやぁ、無視ってか気付いてないだけでしょ」

「ヒミ様も幸せそうやし止めにくいなぁ」

 

 三人から見ても悪意が無いのは明らかだろう。被身子の雰囲気はテレビにかじりつく小学校低学年にそっくりだ。そしてそうなるのも無理はないっていう納得感もある。

 

『『〔幻妖重星(アストラ・ル=フェイ)〕!』』

きゃーーー!!

 

 昼間の私たち自身の言葉に、現時点の被身子は大喜び。

 私はちょっと恥ずかしい。だってさも必殺技みたいな言い方で声を揃えたけど、この時に特別なことをしてるのは被身子だけだから。

 

『ペンギンが増えた!?』

『渡我くんの【変身】は“個性”も真似るっぽいからヤバいんだよね!』

『そんなことできるの? ふっしぎー!』

 

 映像の中では、ペンギン風の衣装に身を包んだフィンガードが()()暴れている。もちろん片方は被身子。

 

「アカン、そっくり過ぎて見分けつかん」

「ヤオモモは分かる?」

「外見や表情では無理ですわね。動いていれば多少は……」

 

 百でも難しいかぁ。むふふ。

 被身子は私に【変身】するとどうしても笑顔満面になってしまうので、表情だけはこっちから寄せている──“個性”とかじゃなしに真似ている。それが見分けつかないほど似てるなら嬉しい。

 

 先輩方には尚のこと完全同一な鏡像に見えただろうか。でも当然そんなはずはなく。

 

『うぐっ!?』

『サンイーター!?』

『平気だ、けど思った以上に厄介だな……!』

 

 被身子の〔変創(メタメイト)〕が天喰先輩を驚かせ、私の〔身体変造〕は──

 

『攻め潰すとか言ってた割に消極的だよね!』

『『効いてる効いてるぅ』』

『双子なのかこの子ら!?』

 

──尾を引いてなびくほど極細にした爪を無秩序に振り回すことで【透過】をしづらくさせた。

 

(障害物があろうと無かろうと突破できる“個性”だけど、細かくオン/オフを切り替える都合上、『障害物の有無がはっきり分からない空間』が何よりの壁になる)

 

 “個性”抜きでも通形先輩の身体能力・格闘技術は充分に脅威だ。正面きっての一対一だと私も被身子もやや分が悪い。

 だけどタッグマッチなら話はまるで変わってくる。このシンクロ具合は自分たちでもちょっと驚くほどだ──被身子が戦闘中の呟きまで重ねてくれてるのは気付けていなかった。多分、あまりにも自然だったから。

 訓練の最中に感じていたのは、()()()身体の隅々まで意識が行き渡ったような全能感。

 

『『隙あり』』

『これは隙って言わないよね!』

『ミリオが投げられた!?』

 

 一方が殴りかかってガードさせるのと、相手の強張りを利用した合気投げとがほぼ同時という理不尽な攻め。

 もっともここからの追撃は天喰先輩に邪魔されちゃったけど。

 

『好きに暴れさせるか!』

 

 大きな貝の【再現】を鎮圧盾(ライオットシールド)にして来たので──

 

『『ヴィランは好きに暴れる生き物ですよ』』

『ウソだろ!?』

 

──その殻を真っ向から叩き割った。二人同時に同じ点に力を加えればこんなものだ(私は腕力特化のモード:フォートレス、被身子はアイスピックみたいな武器を使った)。

 先輩が驚いたのも分かる。二人がかりでもめっちゃ硬かったから。

 

 

 先輩方もすごく呼吸が合ってたけど……ここは胸を張って自慢しよう。

 

 私達ほどじゃない

 

 以心伝心に留まらず二身(にしん)袒心(でんしん)*とでも言おうか。

 信頼は当たり前、互いの能力も知り尽くし、そして敵対者への悪意をもぶつけ合って(トガ)らせてきた自負は揺るぎない。この時の被身子は私の思った通りに動く遠隔操作ボディで、私も被身子のそれだった。服のボタンを留め外しする時に『左右の手をちゃんと連携させなきゃ』なんて一々考えないように、私達はそこを飛ばして“全勝”だけ考えていられたんだ。

 

 尤もそのせいで、ここにいるメンバー以外は若干やりづらかったらしく。特に攻撃範囲が広めな轟くんや【もぎもぎ】を剥がせないミネタは巻き込みを恐れて、それがかなりのマイナス要素にはなったんだけど。

(『巻き込むつもりで打ってくれればこっちで避けるから平気』とか伝える暇は無かったし、伝えててもやり辛さは残っただろう)

 

 だけど、うーん。

 やっぱりこの時はこうするより他に三人を釘付けには出来なかったように思う。そして場を移しながらの機動戦では三つの核は守りきれなかった。後者は間違いない。

 となると百の指摘通り反省点はこの二〇〇秒間より前ってことで、遡っていくと──しょんぼり。

 

「私が全勝とか抜かしてなければもっとスマートに勝てたね……?」

「えー! 分身挟撃(ダークネスイリュージョン)楽しかったでしょう?」

「天喰先輩のトラウマになってなきゃいいけど。や、私も楽しかったし幸せだったよ? ただ本番の戦闘で幸せとか感じるのはちょっと危険だと思う」

 

 この点では欲求不満もあったんだろう。私に変身してタッグで戦うの、ちょっと強すぎて手頃な訓練相手がいなかったから。

 やってることはただの【変身】とも言えるし、イチャついてるだけと言われても『それはそう』。そこにせっかく〔幻妖(アストラ・)重星(ル=フェイ)〕なんてカッコいい名前考えたのにね。

 

「でも全勝作戦のお陰で気合い入った面もあるやんなぁ」

「だよねー。そこにタラレバ言ってもなんかイマイチじゃない?」

「お二人の仰る通りですわ。開始前という意味では、アレが一つの試合であることは気付けたはずなのですから」

「いやいやいや! 私がちゃんと通形先輩をどこかに隠しとけば──」

「そんなんゆーたら私だって──」

 

 おや、私がきっかけで『自分のせい合戦』が始まってしまった。まぁレポートのネタ出しになるから良いか。

 

 そんなこと言ってる間も画面の中は忙しない。ビル防衛よりもヒーロー殲滅を選んだ私達が十一人揃った直後、一番有利だったかも知れない瞬間。

 駆けつけるや否や、轟くんはかなり大規模な炎を放った。核は近くに無かったし、私と被身子の二人組は私一人の高速機動に見えたそうだ。

 

(いくら速く動いたって分身なんかしません。『兵怜なら出来るかと思った』じゃねーんですよ。『私一人なら焼いても良いんだ?』については実際避けたし焼かれても治すから構わないけど)

 

 通形先輩は彼の火力を脅威と見なした。

 天喰先輩が一人になり──私は当然そこを刈る。だって一番おっかないもん。二人がかりでタコ殴り。

 

 この間に轟くんが落とされるだろうと、私たちの中のロクデナシな部分は分かっていて良しとした。それどころか、轟くんを庇って確保された常闇くんと梅雨ちゃんに文句すら言いかけた。波動先輩を抑えるのに二人には残って欲しかったから。

 もちろん二人は轟くんを見捨てられなかっただけで、それは立派なヒーローの資質なんだけどさ。ヴィラン役が向いてない。

 

 この時、波動先輩も一番危険視した百を捕らえている。

 三対十一から二対八へ。

 決着まで一〇〇秒と少し。

 

 先輩方、しっかり『ヴィランを放置して核を目指すフリ』みたいなのを挟み出して。フリというか対応を誤れば実際にそうされていただろう。

 特に空の備えに四苦八苦する内に、隙を見せた所から通形先輩に削られる苦しい時間。

 

 被身子が勝手に(ナイス判断だったのは確かだけど)波動先輩と相打って一対四──同時に天哉くんが確保されて三。

 残りは四〇秒を切って、もうヒーローチームに勝ち(全ての核回収)は無い。いや一つもさせませんが?

 

 あー……駄目だ、被身子だけじゃなく全員が画面に見入ってしまう。私もだけど。

 ()()()()は本当に、短いのに長ーく感じた濃密な激突だったから。

 

 通形先輩を直接食い止める前衛は私。

 地中に潜って遠くへ行ってしまわないよう塞いでくれてたのが透。

 ──先輩は透に狙いを定めた。とても正しい。

 

「この時の先輩怖かったよー……」

「ねー。強かった」

 

負けっぱなしでいられるか!

 

 笑顔で明るくてポジティブなイメージしか無かった通形先輩。それがこんなに戦意を剥き出しにぶつけてくるなんて。

 

『ぐ、ぅ……!』

『ひゃあ!? 先輩だいじょ──!?』

『確保、だ!』

 

 〔(イン)(パー)(ミー)〕の格子を【透過】しようとして、拳からの大出血。慌てた透はすぐに解除して確保された。

 私もオールマイト相手に似たようなことしたけど、先輩に治癒能力は無い。サイコロステーキまで行ってないとは言え、指の本数が片手だけ倍になりかけたのはもう軽傷じゃ済まないだろう。

 そういえば緑谷くんも何度か*自爆攻撃じみたことしてたっけ。先輩のは彼より酷い気がする。

 

『このォ!』

『合理的だよね。読み易いよ』

 

 慌てた私の攻め手は──完全に予測されて瞬殺くらいました。猛省。

 でもだって、先輩の地中落下→ばびゅーんを独力で防ぐには空に投げ上げるくらいしか無いと……悔しいな。

 

 ──残り、二十五秒。

 最寄りのビルに急行すればそこの核くらいは確保できるだろう時間。

 

 ──そして、一対一。

 通形ミリオvs.峰田実。

 私が確保されるのと同時、彼は先輩の脇腹に頭突きするようにしがみついた。全力で食い止めようとする一心で。

 でも(言っちゃ悪いけど)そんなので止まるとは誰も思ってなかったはずだ。ミネタだって破れかぶれの半泣きだったし。

 

 それが、まさか──

 

「あっ」

「最後まで見ないの?」

「だって後はビョンビョンするだけじゃないですか」

 

今ここで攻め潰す!

 

──被身子の無慈悲な巻き戻しで再生はされなかった。哀れミネタ。

 

 ミネタは無視された。被身子だけでなく先輩にも。【透過】が使われて、彼の腕とかは間違いなく空を切ったのだ。

 なのに【もぎもぎ】だけはくっ付いたまんまで地面にも()()()()()()()()、落下した先輩を同じ場所に()()()()()()()。ビョンッと。

 

 二人ともびっくりしててシュールな絵面だったね。もちろんテープを巻かれた私たちもみんな驚いてたけど。

 先輩はその後もどうにか剥がそうとして叶わず、終了ブザーまでその場に釘付け。被身子の言う“ビョンビョンするだけ”も強ち間違ってはいない。

 

「カリナさん、結局アレはなんだったのでしょう?」

「んー……分かんない。『超常だから』案件だね。でもたまーにあることみたいだよ。被身子が“個性”込みで【変身】するのもそうだと思うし……進化とか覚醒とか、呼び方も定まってない位のレアケースのはず」

 

 終了直前、呆然と見ていたミネタは先輩に確保されたものの、核は三つとも守りきった。全勝かはともかく勝ちは勝ちだ。

 お互いに得たものも多いし、今回はナイスゲームと言っておこう。

 

 次は勝つ。

 

 

 

 (じつ)はその後も大騒ぎで、耐久度まで普段以上な【もぎもぎ】をどうにかするために百も三奈も強力な酸を出し続けることになった。溶かす他にどうしようもなかったのだ。というか液状化してもなお粘着質だった。

 ──コスチュームの一部を裁つしかないほどに。

 

『すすすスンマセンっす先輩! 弁償……オイラで弁償できんのか……?』

『大丈夫、気にすることないんだよね! 真剣勝負の結果だし、いざとなればフルチンで戦うから!』

 

 全裸はどうかと思うけど真剣勝負の結果なのは同感だ。

 

 だからね、今回ばっかりはそのまんま口に出すのどうかと思ったよ。あまりのしつこさに私も思い浮かべたし、梅雨ちゃんも反省して後で謝ってたけどさ。

 

 

『ケロ。まるで〔もぎもぎストーカー〕ね』

冤罪だァ!!!!

 

*
(かたぬ)ぐ:(助力の比喩として)一肌脱ぐ、(物理的に)半裸になる

*
カリナの知る限りでは個性把握テストと体育祭の騎馬戦のみ。




※本編に関係のない元ネタ

◆モリガン・アーンスランド
 CAPCOMの格闘ゲーム『ヴァンパイア』シリーズのプレイアブルキャラの一人。サキュバス。

・ダークネスイリュージョン:
 超必殺技の一つ。射程の短い一撃目がヒットすれば自動的に全段ヒットする瞬獄殺的な使い味。演出としては相手を挟み込んで連続攻撃を行う。
 左右からの同時サマーソルトキックで〆るのが本来の形だが、そういうのを真似していられるほど天喰は弱くなかった。

・アストラルビジョン:
 〔幻妖重星(アストラ・ル=フェイ)〕の命名元の一つ。
 相手を中心に分身を作り出し、そのまましばらく自由に動けるようになるゲージ技。これだけでは相手にダメージなどは無い。


◆モルガン・ル・フェイ
 〔幻妖重星(アストラ・ル=フェイ)〕の命名元の一つ。
 アーサー王伝説に登場する魔女。Fayはfairyなどと縁のある言葉で、そのまま『妖精モルガン』と訳されることが多いが、『妖しい』『人を惑わせる』『この世のものではない』的なニュアンスも持つ。


◆“ad(アド) astra(アストラ)
 〔幻妖重星(アストラ・ル=フェイ)〕の命名元の一つ。
 ラテン語の慣用句で、“星の彼方へ”を意味する。astraは『星』、転じて『天の国』や『永遠の栄光』の意。
 ここに“per(ペル) aspera(アスペラ)”がついて“苦難を越えて星の彼方へ”という形もよく用いられる。

 ともかく“astra(アストラ) le() fae(フェイ)”で“惑いの星々”ぐらいのニュアンス。
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