【完結】愛慾のヒーローもどき   作:土屋 四方

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 箸休めの平和回。


女子会(筋肉)

 突然ですが問題です。

 入学から半年以上経つのに、透とお茶子以外のクラスメイトを我が家に招いたことが一度も無いのはなーんで。

 ──いやうん、百の本家みたいな立派な応接室は無いけどね? それでも庶民の家としては広いんだよ! しかもさっき誰かが言った通り、学校からも近くて集まりやすいのに。

 

 一体ナゼでしょうか?

 ──はい百さん早かった。

 

「それはもちろん、カリナさんの連れ込み宿になってしまうからでしょう?」

「言うと思った、外れだよ。x

「!?」

 

 驚き過ぎじゃない? 皆が呆れた視線を向ける先も百だっつーの。

 

「よく考えたら私、合意の無い相手を襲ったことなんてほぼ無いし」*

「むしろ私達に襲われたまであるよね」

「あれは医療行為扱いかな?」

 

 そんな話をしていたら百が半べそになっていた。正解発表もなく放置は哀しかったらしい。

 あわわ、お茶子が段々うららかじゃなくなってきたぞ。

 

「百ちゃん、私達やうちの親の反応覚えてないんかなぁ? このお家、一般人はちょっとヒくほど大きいからね?」

「──えぇと、まぁ、はい」

 

 伝わってないねー。ちっとも伝わってない。

 でもまぁ、伝わってないことが見て取れるので。百の金銭感覚だけがぶっ飛んでるのだと、皆にも分かってもらえただろう。

 

「見ての通り。

 お嬢様なのは百だけだし、お高い家具や装飾品とかも──三階の百の部屋は別として、ほとんど置いてないからさ。そんなにビビらず普通にしてくれて平気だよ」

 

 まだお家に入っても居ないっていうのにね。玄関先で「ほんとにここでいいの!?」とか狼狽えてたから、まずは緊張を解してあげる羽目になった。

 住んでる人間はともかく外観がご立派過ぎる。だからこれまで気軽に人とか呼べなかったんだよ!

 

 だけど今日はお客さんが沢山。

 A組女子が全員(梅雨ちゃん・響香・三奈)とB組女子が数名(拳藤さん・取蔭さん・小大さん・小森さん)、あと帰り道で「なんか楽しそう! 交ぜて?」と突撃してきた波動先輩。

 

 言うまでもないけどハーレム急拡大とかではない。そんな意思も無い。

 なのに昨夜はしつこい位に満足させられたし、今日も目隠しゴーグル外しちゃダメだって。襲ったりしないのに。

 

 


 

 

「ここが地下訓練場でーす」

「「「(ひろ)ぉ!?」」」

 

 扉を開けると悲鳴じみた歓声があがり、興味津々&おっかなびっくりで散っていく……その様子を見てうんうんと頷くお茶子。

 まぁ気持ちは分かる。

 

「八百万、あんたコレのこと“トレーニングルーム”っつってたの?」

「? はい、申しましたが」

「八百万さん、これはルームって規模じゃないよ……ジムとか名乗れるでしょ」

 

 取蔭さんと拳藤さんは百の常識改革に乗り出している。

 無理じゃないかなぁ、私たちがこれまで放置してたとでも?

 

「ねーねー更衣室もぴかぴか!……? ていうかキレイ過ぎじゃない?」

「ケロ、深く考えたらダメよ三奈ちゃん」

「なんだかなぁ……器具はどう見ても本気で使い込んでるから何も言えないわ」

 

 時間が勿体ないとばかりにジャージに着替えて来た三人は何かに気付いてしまったらしい。

 だって更衣室だよ?→服脱ぐんだよ?→汚れるじゃん?→掃除しなきゃ! ふつーふつー。この家では普通。

 ちなみに響香が見てる(ウェイト)は、ちょっぴりだけど血で変色しちゃってるとこがあって──

 

「ん……!」

「案外ハードなとこも……ノコ!?」

 

──それを見た小大さんと小森さんは厳しい表情。そのあと更衣室の広さに再度ビビっていた。

 

 

「ぬぬぬぬー、もー! はーなーれーてー!」

「一年生のことも振り払えないんですかぁ?」

「あなた二年生みたいなもの……だからって“個性”を体術だけで避けないでくれる!?」

「まっすぐ飛んでくるより避けやすくて助かります」

「初めて言われたよそんなこと!」

 

 着替えもせず制服のまんま格闘ごっこみたいなこと始めてる先輩は──被身子におちょくられている。半分以上は合同訓練の仕返しっぽいな。

 あと、そのうねうねするやつは私も避けにくいわ……共感できなくてごめん。

 

「先輩はとりあえず着替えたらどうです? ……見せパンにしてももうちょっと可愛いの穿きま──」

「見せパンでもガン見しないの」

 

 言い終わらない内に視界を塞がれた。恋人たちが嫉妬深くて可愛い。

 ……それはそうと、この暗闇。

 

「……透、今もしかして匂いも遮断してる?」

「あ、上手くできてる? 空気全部は無理だけど匂いだけとか限定したらいけるみたい」

 

 いやホント〔(イン)(パー)(ミー)〕怖いんだけど。現時点でもヤバいし、透の成長は速いし、まだまだ成長の余地あるし。

 

 

 

 つまるところ大真面目に訓練に来ているのだった。

 というのもここ暫く、雄英の訓練設備は予約でびっしりなのである。治崎の件で危機感が高まってること、余力を残すために授業での肉体疲労が控えめなこと、あと学外に散ってた上級生がインターンから戻ったこと、他にも……色々と*あったから。

 

 私達はここがあるからあんまり困ってなくて、そして五人で使ってもまだ広々。学校施設の予約が取れなくて困ってる友人に貸し出す位は、時間をきっちり区切れば快く引き受けようというものだ。

 お泊りとかそういうのはちょっとナシでお願いね。貞操を保証しかねるから。

 

 

 

「お茶子ちゃん、こんなに強かったのね……!」

「隠してたつもりはないんやけど?」

「学校じゃこんな無茶しないから分かんなかっただけ?」

「渡我さん達と同じ番外じゃんか!」

 

 畳のスペースでは“個性”抜きの乱取りが始まっていた。但しお茶子一人に三人がかりで。

 ほぼ守りに専念させられちゃってるけど、一本取られる気配も無い。危なげなくさばいている。もちろんお茶子も体術オンリーだ。

 んー、流石にお茶子も勝ちきるのは難しいかな……と見ていたら、響香と梅雨ちゃんの進路がもつれた。違うな、お茶子が足運びでそう仕向けたんだ。そして攻め手が一時的にでも減ったなら──

 

「うひゃあ! くっそ、もういっぽーん!」

 

──三奈だけだと瞬殺を決める、と。

 いやはや、いっそ“捻りのない”と感じるほどの堅実な強さだ。治崎の件で不甲斐ないと泣いた、強くなりたいと願った夜は無駄なんかじゃない。

 

「お茶子ナイスー! 三奈は梅雨ちゃんが相談タイム欲しがってるよー」

「ありゃ?」

「ケロ、耳郎ちゃんも聞いて欲しいわ。さっきね──」

 

 三人は相談を始めて、お茶子はいい笑顔で“ピースサイン”をくれた。可愛い。

 

「兵怜やべーな色々と。一佳ぷるっぷるでウケるわ」

「やってから言いなさいよ……!?」

 

 ちなみに観戦しつつ、私は拳藤さんに站樁(たんとう)を教えている。お茶子が激推しする体幹トレーニングだ。

 脚を開いて腰を落とし、踵を上げて背筋を伸ばす。両腕は前に伸ばして水平を保ち、どんな形でもいいけど指先まで力を通してぴんと固定。その状態をひたすらにキープ(本当はお喋りもすべきではない。するけど)。

 

「ぅぅう、もうダメェ!」

 

 ──私が(えっち)なことしたみたいな疑いの視線をやめようね可愛い子ちゃん達。

 拳藤さんついに崩れた。三〇分弱かな。

 

「っあー、自信なくすわ……」

「いえ、普段使わない筋肉を鍛えるものですから。初めてやってそうなるのは当たり前だし、拳藤さんは長い方ですよ」

「重しまで載せて余裕綽々で言われてもねぇ」

 

 そりゃこっちは中学生の頃からやってるので。それに余裕なのは彼女もだ。

 

「取蔭さんはなんかしないんですか? さっきから見てるだけですけど」

「あたしは日中動き過ぎたから。今日は賑やかしっつーか見学」

「おぉー。A組(うち)の男子数人に聞かせてやりたい自己管理」

 

 地味ながら素晴らしい。難しいんだよね。

 今は世相もあるし、昔の私も大概オーバーワークだったから気持ち自体は分かっちゃうんだけど……あれはお父さんお母さんがかなり気を遣ってブレーキ踏んでくれてたおかげ。

 高校生はそれが無い上に、力も強まってるから余計に危ない。

 

「聞かせても無駄だよ。鉄哲なんかとうとう怪我しかけて──」

「えっ」

「あぁいや、ギリギリで大事にはなってないんだけどさ。それでも反省してねえの、ブラド先生も困ってたわ」

 

 焦った、良かった、良くはない。

 そしてなんだか凄く聞き覚えがある流れだ。

 

「切島くんの話と被り過ぎる」

「アホはどこにでもいるな」

 

 呆れつつもニヤニヤと笑う取蔭さんと、「笑いごとじゃないでしょ」と睨む拳藤さん。

 

 ──そんな私達の様子を離れて伺っていた小森さん達が、とうとうこっちへやって来た。

 告白!? 告白かな!?

 

(私の直感としても、透やお茶子がほとんどブロックしないことから見ても、多分まだそこまでフラグは立ってないと思う。えっちな好奇心はビンビンに感じるけど)

 

 しかし二人のタイミングを挫くようにチャイムが鳴った。これは……玄関のインターフォン?

 

「まだ誰か来る予定あったっけ?」

「いいえ。どなたかし……え!? は、はじめまして間違いございません! すぐに参りますわ!」

 

 応答した百は泡を食って、自身と被身子に消臭剤やらをぶちまけてから二人で玄関に上がって行った。

 被身子も私達も何のことやら分からなかったんだけど……すぐに三人で降りてきて、その姿に納得する。これは慌てるわ。

 

 


 

 

「久しぶりに見てやるよ。そっちは“なんでもあり”だ」

「……お願いします」

 

 訓練をつけるような言葉があったけど、そういう意味ではあまり褒められたやり方じゃなかった。この日の晩は被身子に()()()()()()()を断られてしまって(!)、つまり過剰な疲弊を強いられたわけだから。

 それに私達もほとんど見学にならなかったから。単純に見えないのである──疾すぎて。

 

「「「はっ……や……」」」

「え、兵怜たちアレ見えてんの?」

「被身子ほどには見えてません。録画はしてるんで後でスロー再生ですね」

 

 私も直接お会いするのは初めて。

 被身子は前に形態(モード):スプリントのことをこの人に喩えたけど、本物を目にするといやいやとてもと卑下したくなってくる。

 ラビットヒーロー:ミルコ。

 

「いっけーヒミ様ー!」

「っ!?」

 

 被身子も会うのは久々で、だから最近の成長分は知られてないはず。証拠に【変身】からの【無重力】はほぼ無警戒で入った。

 なのにそれでも……厳しい。

 

「なぁんか面白ェもん覚えたんだ、なぁ!!」

「んぎっ!?」

「俺を身軽にしてくれるなんてありがてぇ位だぜ!」

「ほんっとにもうこの人は……っ!!」

 

 忌々しげに被身子が吐き捨てるのも分かる。体重を消してもいやーなタイミングで解除しても、それがほとんど隙になってない。攻撃の激しさは増すばかりだ。

 筋力とか技術とかがハイレベルにまとまってるのは当たり前。でもそれだけじゃあんなことは出来ない。

 

 闘争心、判断力、互いの急所を嗅ぎ分ける勝負勘。そんな種類の強さが際立つ。

 全部ひっくるめて……戦闘者としての純度への、あるいは闘争というプロセスへの、揺るぎない確信。『自分は強いから勝てる』みたいな自信とは少し違って……『勝てる(だから自分は強い)』とは思ってても後半に興味が無さそうな。勝つことだけに全振りしてるような。

 最近の爆豪の闘志ですらヌルいと感じそうになる。

 

 

 ──善悪はどうでも良くて、私達と一緒にいるためだけにヒーローであろうという被身子と、実は良いコンビなんじゃないの。

 ちょっと、なんか、やだな。

 妬いちゃう。

*
細かいことに目を瞑れば?

*
埋島(パワーローダー)が抜けた影響で野外演習場の整備に遅れが出ているなど。




 ミルコは事前にアポとか取らない説。
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