【完結】愛慾のヒーローもどき   作:土屋 四方

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※治崎に倫理とか求めないでください。
※原作キャラがしれっと筺になってますが許して下さい。


シエの逆・シエの裏

 違法な放送が始まってから終わるまでの間、ヒーロー達はもちろん座視していたわけではない。

 

 電波の発信源ははっきりしている。多少の偽装は突破したし、それとは別に救難要請も届いていた。

 民放全国キー局の一つ、赤丸テレビ。出版大手の集瑛社なども傘下に含むメディア帝国の一翼からのSOS。

 

社屋にヴィランが現れたりはしていないんですが……! とにかくすみません、放送内容を取り返すことも電波を停めることもできないんです!!

 

 全国に違法な放送を届けるには充分なインフラが必須。赤丸はハッキング等なんらかの手段で踏み台にされているらしい。

 行き詰まったのはその先だ。赤丸の設備に()()()ちょっかいをかける経路が見つからなかった。

 

 ということは必然的に──誰もが思い浮かべる、ありそうもない可能性。そうであって欲しくない真実。確たる証拠があるでもない。

 それでも他の可能性がすべて否定されれば認めるしかないが、『()()()()()見つかっていない』ことをもって『すべて否定された』と言えるだろうか。いつどの段階で? イベントに呼ばれているトップランカーにも難しい判断だ。

 

 その難しい判断が今こそ必要だろうと、新たな第三位ベストジーニストが促す。

 

「これはスペシャルヴィンテージより稀有な事態かも知れんぞ、すぐ動くか?」

 

 異常事態かつ緊急事態。確かな事実の判明を待って動くのではなく、不確かな決め打ちも考慮すべき時だ。

 となれば全体の意思を統一する(ボス)が必要なのだが──

 

「エンデヴァーさん、エンデヴァーさん!……くそ仕方ない。新ナンバーツーとして指揮します」

 

──ナンバーワンは恐怖に縛られている。それでもホークスと繋がる耐火ロープはしっかと握り締めており、完全には折れていないと信じるしかない。

 

「ひとまず赤丸(テレビきょく)は黒と見なしましょう」 

「……了解した」

 

 大胆な、考えたくもない仮説。

 赤丸テレビの外に見つからないなら、敵は局内から仕掛けていることになる。SOSとの矛盾は明らかだ。

 つまり赤丸テレビは全面的に(放送設備だけでなく警備室なども含めて)陥落済みか、でなければ最初からあちら側ということ。

 

 ……あれほどの大企業が、丸ごと? そんなことがあるのか?

 

 考えたくはないがそう見なす。迂闊に飛び込めば待ち伏せで逆包囲されることもありえるからだ。

 警備部と連絡を取っていた電気系のヒーローにホークスが訊ねる。

 

「電源の全遮断は?」

「指示しましたが渋ってます。デリケートな機材が壊れるからシャットダウンを待って欲しいとかで」

「もう真っ黒じゃん」

 

 そんな理由で拒める状況じゃないだろうに。ホークスは毒づきながら専用の端末で公安職員に連絡を取った。

 会長の映像が流れ始めた時まで捜索に駆けずり回っていた彼らを、休む間もなくこき使って申し訳無いが──『容疑も固まっていない民間企業が使っている給電線を物理的に切断せよ』なんてテロまがいのミッションは彼らに託すのが一番だ。

 

 細かい説明もしなくて済む。依頼からきっかり三〇秒で返信があり、最短の実施可能時刻を告げてきた。もちろんその(なる)時刻(はや)でやってもらう。

 

頼りになり過ぎて怖いっスよ、あなたが育てた子飼い……。

 ──外から電源を断ちます。それで電波が途絶えてもそうじゃなくても、同時に突入して一気に制圧。てことでいいですか?」

 

 ホークスの言葉に力強く頷くヒーロー達。“どうやって?”なんて常識的な質問は誰もしない。

 突入まで五分と少ししかないのだから、大急ぎで準備しなくては。

 

 


 

 

 いよいよ突入した赤丸テレビ社屋内は、停電状態で真っ暗であること以外も平時とは全く異なる。それ自体は予想できたことだが、しかしその奇妙な様子にホークスらは困惑せずにいられなかった。

 テレビ局を襲ったヴィラン達がガチガチの防御態勢を取っているとか、慌てて逃げ出すとかなら理解できるが……そのどちらでもない。

 

「SOSが嘘だったのははっきりしましたけど、これは……?」

「考えても始まらん。抵抗は散発的だ、救急隊の手配を」

「分かりました」

 

 引っ張ってこられたエンデヴァーはひとまず立ち直って──冷のことを頭から追い出して──動けている。

 内部には怪我人が多くおり、また危険度は高くないものの戦場と呼ぶべき状況だったからだ。

 

 忌々しげに抵抗してきたのは、驚くべきことにその怪我人たち。全体から見れば一部ではあるが。

 

「く、今度はヒーロー共か……!」

「“今度は”? 待て、貴様らは誰に襲われたのだ」

「知るか、もうおしまいだ俺たちは!」

「ぬぅッ」

 

 エンデヴァーが危険を感じるほどではなかった。しかし大怪我をさせないよう気を遣いはした。

 ある程度は“個性”による戦闘訓練を受けているようで──素人ではないと考えられる。

 

 ではここで何をしていたのか、いや何が起きたのか。

 何があれば逃げもせず『おしまいだ』と呆けている?

 

 赤丸(ここ)に限らずテレビ局の構造は入り組んでおり、エレベーターを使えない今の順路はますます複雑だ。

 しかしトップヒーロー達の妨げにはならない。抵抗を手早く制圧しながら奥へ奥へ。脚を止めぬまま、エンデヴァーは短く問う。

 

「ホークス、どう見る」

「普通に考えたら『やることは終わっててトップは離脱済み、こいつらは放置された捨て駒』って筋に見えますが……これは違う」

「同感だ。しかし念のため、根拠があれば聞いておこう」

 

 堅実に推理を進めようとする言葉に、ホークスは大げさに驚いてみせた。

 

「エンデヴァーさんが今捕縛した人ら、どっちも赤丸の局アナですよ。かなり前から勤めてる」

「ム、そうか。となると……」

「はい。彼らが主犯なら電波ジャックはもっと恙無(つつがな)く行われていたでしょう」

 

 多くの怪我人や壁・柱に残る傷などは偽装ではない。ここでは確実に戦闘があり、しかし既に終わっているのだ。ヒーローが来るより前に。

 一方は赤丸局員として、もう一方は? 一体どこの誰と戦ったのか?

 

 その間もどんどんと前進し、結論が出る前に最後のスタジオを包囲した。

 違法放送はまだ続いている。現在、緑谷引子の映像を電波として送出しているのは間違いなくここだ。

 

 組織的な抵抗がない状況から予想できた通り、待ち伏せの罠など無かった。

 そこにあったのは事前に用意されたであろう記録媒体と再生機器、そして──見るも無惨な生体改造が施され、“生きた電源装置”として拘束された大男だけ。

 即座に爆弾などが疑われ、そのような仕掛けが無いことを確認される。

 

 

 丁度そこで映像が終わった。

 タイムアップ──全て放送されてしまった、ということだ。

 

 



 

 

 シエの日における赤丸テレビの奇妙な状況。

 これを生み出した遠因、最初のきっかけは九月半ばまで(さかのぼ)る。

 独力で仇を見つけることを諦めた治崎が、解放軍の雑多な情報を漁り始めてから一月ほど経った頃である。

 

 

「おい。お前らが転移脳無と呼んでるものについてだが」

な!? なんだアレは貴様の仇とは無関係なのだろう資料も見せたもので全てだ私に責任など求められても

「別に文句を言うつもりはない。訊きたいことがあるだけだ」

 

 治崎の疑問はシンプルで、『何故こんな便利なものをもっと有効活用しないのか』。対するスケプティックも、言い回しは非常に回りくどいが要するに『距離が伸びると制御できないから』と答える。

 

「その解決策があるとしたら?」

「…………まずは聞こう」

「機械で制御できない曖昧なものは、似たようなもので制御するんだ」

「む?」

 

 ぴんと来なかった。まだ治崎との付き合いが浅く、十一月時点と比べれば人倫が残っていたのだ。

 

「あの脳無を人と〔融合〕させればいい」

「な……!?」

 

 当然ながらスケプティックは拒んだ。

 かといって適当な部下で試すことも禁じた。

 後者──部下に与えるには強力すぎること──については治崎も同感である。融合させるならばスケプティックが最適だ。

 

 そして治崎は実行した。その“最適”を。

 

 スケプティックの就寝中を狙った、無断での〔融合〕施術。正確な転移を補助するための機械部品まで組み込んで。

 

 治崎にとっても初めての試みである。

 ──優秀な医者として解放軍内に根を張り始めると、彼の求める利益(じょうほう)はスケプティックが居ても居なくても得られると判断できたから、らしい。

 

 結果は想定の中で最も良いものだった。

 脳無が──その“個性”が──知覚する(ファ)言語(ジー)()入力(インプット)を、スケプティックが直接感じ取れるようになったのである。

 

 もちろん、言うまでもなく、本人は怒り心頭だが。

 同じく治崎も泰然自若。

 

「口先だけの反省をするつもりはない。問題が起これば分離もできるが、まずそのまま数日過ごしてみろ。変化を感じられるはずだ」

 

 そんな態度に、かつてのスケプティックなら間違いなく聴き取れないほどの速さでネチネチとした難詰をぶつけていただろう。よく見られた行動だ。

 そして治崎の独善(へんけん)はこれを“病気”と断定していた。だから“ついでに治してやった”のだ。結果、腹は立てているものの表し方がまるで違う。

 

 一部に切れ目を入れる*とか頭蓋に穴を空ける*といったものではなく、滞りがちだった新皮質(特に前頭前野)への血流を流れ易くするという処置──検査と説明と同意さえ経るなら医学的にも認め得るものだ。そしてこれが極めて望ましい効果を発揮する。

 偶々(たまたま)、と言い添えるべきではあるが。

 

「…………感謝はしないぞ」

「求めるつもりもない」

 

 


 

 

 治崎の蛮行が『治療』だったのか『破壊』だったのかは、手術(改造?)から二ヶ月ほどが経った今も判じ難いところだ。奴自身も“実験”と言いかねない。

 一つだけ確実なのは大きな変化。これまでと同じということは絶対にありえない。

 

 転移脳無の超感覚を──これも元をただせば誰かの“異能”なのだろうが──得たことは決して小さくないが、こちらは変化というより獲得に近い。

 変わったのは私、近属友保自身である。

 

積み上げる。積み上げる。

異能解放という真理を目指して積み上げる。

時は止まらず奇跡もない。

神などいない──故に人が為し遂げる。異能を解放する。

 

 無神論的(スケプティック)信仰(クリード)を核に持ちながらそれを認めない狂信者。それが私だった。

 仮に病と見做すなら治崎は『治療した』と言えよう。今はかつての視野狭窄を自覚できる。初代デストロに仕えた老人たちから叩き込まれた解放思想を、私は丸呑みにしていたのだと。

 

 今は違う。異能解放は真理()()()()──

 

 

 

十一月十一日(シエのひ)・深夜

 

 電波ジャックの直前*に始めた鬼ごっこ。こちらのタイムリミットぎりぎりまで逃げ回られたが、日付が変わろうかという頃にようやくゴールを迎えた。

 

「諦めてはどうです。もう逃げられはしません」

「何か企んでいるとは思ったが、まさか。まさかこれほど大それたことをしでかすとは、なァ!!」

 

 黒い剛腕が振るわれ、数名の異能戦士が吹き飛ぶ。それを後ろから人形でカバーした。大きな怪我はない。

 

「“大それた”? おかしなことを仰る、むしろ正道を逸れているのは貴方の方でしょう……リ・デストロ」

 

 少数の部下のみを連れた四ツ橋力也。多数で囲むことに成功した今、このまま攻め潰し捕縛させてもらおう。

 

「お前が正道を語るか、スケプティック!」

私をその名で呼ぶな

 

 つまるところ私は、異能解放軍を離反し新たな道を選び取った。裏切りではない。裏切ったのは彼らの方だ。

 

「何が解放コードだ馬鹿々々しい」

「…………まさかお前が解放思想を脱するとは」

「は? 阿呆か貴様。聞き捨てならんぞ」

 

 たわけたことを言うな凡愚なる二代目よ。

 異能解放は真理など()()()()

 ()()()()()()()だ。

 歪んだヒーロー社会が強固だからといって、迎合して政治力を求めたり潜伏して遠回しな誘導に一喜一憂したり……下らない。怠惰。惰弱。

 暗号(コード)化してどうする。(あまね)く明かさずして人を巻き込めるものか。

 

 積み上げる。

 それが難しければ相手を崩す──当然に。

 

「貴方は蜂起の機会を待って、ただ待つだけだった。機会を作れなかった。だから私が代わりにやる」

「短絡的な……同胞の生活はどうなる? 戦士ではない幼い子供たちは!」

 

 ……リ・デストロ。かつては尊敬した相手だが、高層ビルの上に居すぎて腐敗したか。やるせないことだ。

 両肩を竦めて内側に引くような不自然な姿勢で力を入れ、前胸部に埋め込まれた機器のスイッチを入れながら叫ぶ──誤ってオンにしないためとはいえ声を出しづらい。

 

「〔日和ったことを! 今日を明日を差別されて苦しむ子らに同じことが言えるのか!?〕」

 

 ()()()()()()()()()()()()()は怒りに燃え、()()()()()()()()を撃破していく。戦闘能力に欠ける私に[政治(ポリティ)(シャン)]という“能幹筺”は悪くない。

 そしてこんな声(【せんどう】)などなくとも、四ツ橋の言葉は荼毘を苛立たせた。

 

「幸せな奴がいるから我慢しろってのはねぇだろ。それ以外はまんま野垂れ死ねってことかい」

「そうでは──!!」

 

 即座に何か言い返そうとした四ツ橋だが、その先は聴き取れなかった。小規模だが無数の爆発によって目と耳を封じられ──身を守ってやり過ごした数秒の後には姿を消していたからだ。

 

「あん?──逃げやがった、か? どうするスケさん」

「……いや、時間切れだ。監視役に任せて引き上げる。

 あとスケさんはやめろ」

 

 先ほどの介入がもっとバリエーションに富んだものならばともかく、均一な小爆破ばかりだった──そういえば気月は赤丸テレビでの捕縛に失敗している。

 しかし今さらあの二人が逃げ出したところでどうにもならん。彼を支持する者はいるだろうがそれは穏健派であり、武闘派はみな[政治家]でこちらについている。数でこちらが劣っていても戦力は圧倒的だ。

 

「じゃあ旦那と合流しますかね」

「あぁ。場合によってはしばらく籠城になるかも知れん」

「つまんねーなー」

 

 お前が言うか? エンデヴァーの反応を目にしてずっと上機嫌なくせに。

 

「お前は二つの筺を同時に使うのだろう。精々練習しておけ、弟相手に恥をかくぞ」

「ん、あぁ焦凍の方か。あいつが出てくるならそれだけでエンデヴァーの汚点だけどな」

 

 こいつ……その復讐心(どうき)からすれば小さいことではないのだろうが。

 

「それを息子に雪がせるわけにはいかんだろうが」

「それはそう」

 

 楽しそうに唇の端を持ち上げながら、ちろりと蒼をまとう荼毘。

 “異能”の制御が甘いと言えなくもないが……しかし()()()()()()だ。これを“個性”と呼ぼうが免許制にしようが、こいつから炎を抜き去ればもう別の人間でしかない。

 これまでのヒーロー社会は、世の中の大半の人間にそれを強いる。

 

 そんな扱いを受け続けたい者も中には居るだろうが、勝手に自制していろという話だ。安穏としていられる保証は全くないし、治崎という『暴力の象徴』を見過ごせるとも思えないが。

 

 ──再び、不自然な力を込めて[政治家]を動かす。

 

「〔では征くぞ同志たち。旧態にしがみつくヒーローを──()()()()()()()()吹き飛ばせる暴君の下へ〕」

 

 【扇動】は【洗脳】ではない。相手の意思や思考を根本的に捻じ曲げる力は無い。しかしこの場では隅々まで行き渡った。

 言葉に少々の誤魔化しを挟んだとはいえ(治崎は確かに“オールマイト越え”を確約したが“少し時間がかかる”としたのを省略している)既にオールマイトの名は畏怖よりも昂揚をもたらしているのだ。『ヒーローなんか』という認識が引き起こした結果だろう。

 同じ毒薬は国中にばら撒かれ、もう誰にも回収できない。

 

 

 人形との通信で座標情報を正確に把握し、治崎の近くへ転移の泥を展開する。

 異能戦士を一人また一人と飲み込んでいく度、解放の理想(よあけ)に近付けている気がした。

 

 

 ──但しその転移先に待つのは、想定していたものとは異なる状況。

 立て続けの醜聞暴露という情報テロは完遂した彼らだが、全てが思い通りに運ぶわけもない。

 

 抗う者は、()()()()()いる。

*
ロボトミー

*
トレパネーション

*
午後七時過ぎ。




 というわけで本作のボスヴィランは治崎・燈矢・近属の三本柱でお送りします。近属への〔融合〕は転移機能だけで、身体能力や再生能力までは脳無化していませんが、【人形】と【扇動──もとい[政治家]で数を指揮します。
 ……作者が声の好みで決めたわけではないですよ、本当に。

 次回は久々に主人公ズ。
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