【完結】愛慾のヒーローもどき   作:土屋 四方

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 日付にからめた短編とか考えましたがこいつら一人でしそうもないのでやめました。


2. 前提(1/2)

 電波ジャックで流された暴露放送の内、最初に収録されたのは引子のもの。まだ十月のことだった。

 撮影したのは心求党の後援会で、彼らは善良な──いくぶん騙されやすい──市民である。党が議席を増やすことは国の為になると素朴に信じて、また国立機関である雄英の不祥事は政権与党への攻撃になると考えて。

 

 あんな、国全体の平穏を脅かす為に使われるとは思いもしなかったのである。

 というより、撮影時点ではそんな計画はどこにも無かった。

 

 引子の境遇には根津も会長も心を痛めており、根回しを進め()()()明かせる限りのことは明かしてきた。それが『情報を小出しにしている』と不信感を煽ろうとも、オール・オア・ナッシングよりはマシだろうと(小出しにせず全てを一度に明かすとなると、それがどれほど先になるか分かったものではない)。

 

 ……未来視点から言えば、いっそ一切合切を隠した方が良かったが。

 【OFA】の詳細は伏せつつ、緑谷出久の件にオールマイトが“関与している”という事実は(動画を撮った後で)引子に伝えられた。引子は他言無用を破って後援会に漏らし、花畑(トランペット)を経て解放軍の知るところとなる。

 

 オールマイトの“関与”。

 取っ掛かりとしては充分だ──治崎にとっては。

 

 そもそもオールマイトが“後継者を育成”などと言う時点でおかしいのである。

 アメリカでの活動も含め、彼に新人(ニュービー)時代はあっても修練(ノービス)時代は知られていない。だから『生まれ(ナチュラ)ついて(ルボーン)』などと言われるわけで。

 あの隔絶したパワーなくして同じことは絶対にできないのに、もっと幼い内ならまだしも高校生に何を教えるというのか。あまりに遅すぎる──()()()()

 

 “普通でない個性”を知っている治崎は、『(引子に対する)明らかに異常な情報統制』と『オールマイトの関与』という最後のピースを得て普通に納得した。『なるほど、受け渡せるのか』と。

 あとは解放軍の情報網で雄英の出入り業者などから雑多な情報を集めれば、緑谷出久が運び込まれた病院の特定は些細な一手間だ。

 

 これこそ十一月十一日(シエのひ)の本筋である。

 テレビ局の襲撃、大規模電波ジャック、重大スキャンダルの連続暴露。これによりヴィランの活性化と市民の暴徒化を招き、ひいてはヒーローの注意と労力をそちらに引き付け──()()()()()()()()()()()オールマイトの力を手にすること。

 

(厳密に言えば治崎の最終目標は雄英に匿われた霧への復讐だが、その防衛線を突破する力としても不足はない)

 

 十一日の朝に花畑を“能幹筺(カートリッジ)”にし近属が武闘派を取り込み始めた段階で、組織としての解放軍は──リ・デストロを頂点とするこれまでの体制は──終わっている。

 彼を捕らえれば強力な筺になったことは間違いないが、それはどちらでも良いことだ。

 

 そうして彼らは日付変更の直後、ワイン病院へ赴いた。

 ターゲットは言うまでもなくオールマイトの後継者──その“個性”である。

 

 




 

 

■十一月十二日・午前六時半

 

 おばさまに連絡してきたミドリヤという名前だけでも十分に驚きましたが、それはほんの始まりでした。

 ここまでの経緯をざっと伺っただけで、もう驚き過ぎと情報量のパンクでありのままを受け入れるしかないという位に──いえ、カリナさんだけは話の流れをぐいぐいがつがつと曲げようとしていますが。

 

「父は、未歳根太郎は無事だったんですね?」

 

 そこが心配なのは当然ですわね。

 

 

 

 電話での呼び出しに応じて緑谷さんのお宅に伺うと、そこには三人が待っておいででした。

 お一人はもちろん緑谷引子さん。……動画の時より更にやつれたように見受けられます。

 

(彼女は雄英高校と公安委員会に強い猜疑心を抱いており、この場に先生方などを招くことは拒みました。ですのでマーサおばさまの他はわたくしども──学生ばかりです)

 

 もっとも、引子さんが太郎さんの現状をご存知なはずはありません。カリナさんが問うた相手は別の方。

 

「午前一時の時点では間違いなく。直接話してみた印象では元気そうだった」

「直接……その時は、その」

「ええと、説明が難しいな。あの時の僕は普通の状態ではなかったし」

 

 わたくし共が理解する難易度も非常に高い気がしますが……。

 

 彼は『死柄木与一』と名乗りました。『聖火のごとく受け継がれてきた“個性”』、オールマイト先生の力の正体、その『初代』だと。超常黎明期の人間で、“個性”に遺った死者の残滓だと仰るのです。

 また、“ほとんど全てのことはもう明かしてあるから秘密については気を遣わなくて良い”とも。

 

 ……疑おうにもどこから疑ったものやら分からないほどですが、カリナさんは違うようです。死柄木さんからの依頼(=呼び出された本旨)を()()()()()、ご自身とマーサさんにとっての本筋を進める(いとぐち)を探っておられます。

 

 

「──なるほど。『パワーをストックする』というのは正確じゃなくて、『身体を造る』みたいな超常があのパワーを支えてた……今の貴方の身体はそれで造られた?」

「え、すごい。お父上の言葉通り頼りになる」

「何か言ってましたか」

「“娘が真剣に聞けば僕が分かりそうなことは察するはず”」

「あーはい、間違いなく父です」

 

 ご期待の重さに顔を顰めつつ嬉しそうなカリナさん。久々に笑顔が覗きましたわね。

 少し離れた場所ではおばさまが『あたしには何か無かったのかい?』と問いたげにチラチラしておられますが。

 

「貴方の話通り、【OFA】が()()の“個性”からなるものなら……これまでのことと現状は無理やりながら理解できます。過去の死者が再び肉体を得ることもあるのかも知れません」

「無責任なようだけど、意図したことじゃない。“追い出された”感覚に近い」

「あ、責めるつもりなんて全然。

 ……でも、【OFA】は“能幹筺”にできないでしょう、そんなの」

「それはお父上も言ってたね」

 

 この時点ではついて行けなかったので、後から解説して頂いたことですが。

 

 治崎がこれまで筺にしてきた“個性”を機械時計──発条(ぜんまい)と歯車の集合体──に喩えるなら、【OFA】はデジタル時計のようなものだと。演算素子と電子回路からなる全くの別物で、筺を造るノウハウは通用しないはずだと。

 死柄木さんはそれを肯定しました。

 

「一つ間違いなく確かなこととして、治崎は最初失敗した。【OFA】に──とびきり血の気の多い二代目と三代目に手酷く拒まれて、怪我もしたし半ば“繭”に取り込まれた」

「その時に()()()()が出てきたわけですか」

「そう。僕は()を外に出せればそれで良かったんだけど──」

「なにを無責任な」

「──うん、そう叱られたんだろうね。『ヴィランの手に落ちないよう、()()()()()()()()()()』って」

 

 死柄木さんは肉体が無かった為、その時に“個性”で形成されたそうです。ご本人曰く“うぞうぞ”と、五分強の時間をかけて。その間に太郎さんと短い会話をされたとか。

 状況が異常すぎてほとんどのケースでは会話にならないでしょうけれど……お相手が太郎さんならば、まぁ。

 

「──でも、()()()()()()()()んですね?」

「いや、……うん、面目無い」

「……いえ、事実確認です。

 治崎は筺にすることを諦め、【OFA】を取り込む方向に舵を切った。その時あなたの身体は形成の途中で、持ち出しも終わっていなかった」

「それで合ってる。だから【OFA】は……千切れて分かれた、というのかな」

「『個性を継承する個性』と『身体を造る個性』は貴方に。そして『これまで溜め込んできた力』──その大部分は、()()()に」

「ん……ほぼ、その通りだ。今も病院を覆っているという煙幕は六代目の力で間違いない」

 

 これも後から解説頂くまで理解が追いつかなかった──いいえ、信じたくなかったことですが。

 要するに『治崎がオールマイト先生並みの身体能力とその他(プラス)もろ(アル)もろ(ファ)を手中に収める』という話。

 カリナさんが何とも……何とも言い難い反応を示したのも無理はございません。強いとか怖いとか厄介とか、そういう次元ではありませんから。

 

「僕が完全に分離された時、歴代の魂があの男に抗っていたのは確かだ。あのまま耐えきれるといいけど、それは難しいらしい」

「はい、今抵抗できてることが奇跡です──治崎が脳無を連れてたなら尚さら」

 

 カリナさんは頭を抱え……すぐにぶんぶんと雑念を追い払いました。

 

「整理しますね。

 ひとつ、治崎は放っておくと手が付けられないヤバさになる。今は無防備か、そこまでいかなくても全力は出せない状態」

「彼らが離さないはずだ。自由に動けてたら既に【OFA】は支配されたってことになる」

 

 それがどれくらい先かは……誰にも分からないのでしょう。ともかくタイムリミットがあるのは確実。受け身で時間を稼ぐような荼毘の対応にも辻褄が合います。

 

「ひとつ、父も含め多数の人質がいる」

「お父上は別に拘束とかは受けてなかった。“繭”の部屋からは離れてるだろう」

「……間近で観察して記録つけてそうな気がします」

「うわぁ。いや、ごめん」

 

 強行突入は……普通に考えれば難しいと言わざるを得ません。治崎をどうにかできたとしてもそれで終わりではないのですから。

 

「ひとつ、敵方の数は不明。

 “繭”の部屋には近づかないように治崎は誰かに電話で伝えていた」

「僕が直接聴いたわけじゃない。博士から伝えられた情報だ」

「【OFA】の取り込みで想定外が起こる可能性は警戒してたってこと……いや、」

 

 悪条件ばかりが重なっている、とも言えます。時間をかければ治崎は手をつけられなくなり、速さ重視の電撃作戦も──

 

「治崎は孤立してる……いやでも……」

 

──ぶつぶつと呟くカリナさんの、きつく握りすぎた拳にそっと手を添えます。

 

 カリナさんが知っておられることはほとんど分かりませんが、考えていそうなことは明け透け。

 今、言い訳を──建前を探しておられましたね? 『治崎に時間を与えないため』を錦の御旗にして『多数の患者さんを危険に晒し』、そのトレードオフのどさくさに『太郎さんだけは助けられないか』と。

 

「カリナさん。ここで、わたくし達だけで決めるべきことではないと考えます」

「っ…………」

 

 ぎゅうと握り返された手が軋みますが、そんな痛みは良いのです。わたくしは家族の情を後回しにしろと言っています。恨まれても仕方のないことを。

 

「……そう、だね」

 

 それでもカリナさんは、やわやわと手を(ほど)かれました。

 

 

 お話の段階(フェーズ)が一つ進みます。いえ戻ったというべきでしょうか。

 そもそもの死柄木さんからの依頼はこちらでしたから。

 

「そしたら、み──引子さん」

「…………貴女も、色々知っていて隠してたのね」

「はい、非情な対応をいたしました。父がこういうことになって痛感しています」

 

 深々と頭を下げるカリナさんは……これ、本心で謝ってるおつもりですわね。

 ですがカリナさん、呼ばれて最初に頼まれた『引子さんの説得』を後回しにして『太郎さんの無事』や『即時解決の可能性』を探っておいて、それが無理とみるや本筋に戻ったこの流れ……恐らく引子さんからは茶番に見えておられますわよ。『真に迫った、父を思う娘の姿』を見せつけたのだと。断りづらくさせるための空気作りだと。

 

 幸か不幸か、引子さんはカリナさんに疑わしげな視線を向けつつも、正面から糾弾まではなさいませんでした。

 しかしそれは同意を意味するものではありません。

 

「いやです、私は、私はもうあの人達には……出久を危ない目に遭わせたくない……!!」

 

 ……ごもっとも、ではあるのでしょう。

 あの暴露動画の内容に嘘偽りが無かったことは今や疑いようがありません。裏側で普通ではないことが起こっていたとしても、彼女の視点では一人息子を奪われたとしか言えないでしょう。

 それが──つまり緑谷さんが──()()()()()ものの変わり果てていた、と取るか。変わり果ててはいても帰ってきた、と取るか。

 

 いずれにせよ、感情を交えずに言えば、今の引子さんは停滞を打破する上での障害(かべ)になってしまっています。

 治崎の件は明らかに雄英や全ヒーローを巻き込んであたるべき非常案件ですのに、彼女はそれを断固として拒んでいるわけですから。死柄木さんが独力での説得を諦めるほど(かたく)なに。

 

 その全ては家族のため。緑谷さんのため。

 

「………………」

 

 視線が集まります。引子さんが遮るようにしているため少し離れた位置、死柄木さんの横の()()()()()()()()へと。

 

「……さっきからずっと(だんま)りですね、緑谷くん」

ヒェッ

「そんなに怯えられると心外なんですけど」

 

 分かりやすく──相手の緊張をほぐすように──頬を膨らませるカリナさんを、横から被身子さんが宥めます。殺気がダダ漏れでまるで隠せていないと。全くですわ。

 死柄木さんも決死の表情でカリナさんを留めます。

 

「彼を責めないで欲しい。僕たちが未歳根博士を()()()()()()()()()のは、僕のせいが大きいのだから」

 

 これ、後から思うと『殺すなら自分にして欲しい』ぐらいの覚悟で仰っていたのでしょうね。もちろんカリナさんはお怒りだけで命までは奪いませんが。

 しばらく休学して何らかの異常事態にあった緑谷さんに、理不尽をぶつけない程度には自制できておられますし。

 

「腹は立てていても責めるつもりはありませんよ。ただ申し訳なく思うなら……いえ、そもそもこの二ヶ月の出来事を把握する時間はあったんですか?」

「それは、うん。少なくとも治崎が起こした大きな事件は把握できてる、と思う……」

 

 ……初めて、声を聞きました。おどおどとしながらも低く太い声質は別人のものとしか思えません。

 改めて見れば身体的特徴も気になるところばかりです。

 髪質こそ変わっていないものの、一体何年切っていないのかと問いたくなるほどもさもさと伸びた髪。十五歳にはとても見えない、二〇代半ばと思われる分厚い筋骨。

 面差しは……引子さんと並べば血の繋がりはありそうですが。緑谷さんはもう少し優しいお顔立ちだったような気もいたします。

 

 本当に緑谷さんなのかと問うことは……今は差し控えますけれど。それにカリナさんはその点を疑っていないご様子ですから、とりあえず緑谷さんという前提で理解しておきますが。

 

 ほんの二ヶ月でここまで変容させられてしまったのなら、その原因となった【OFA】とやらは──極めて危険な“個性”である、と言わざるを得ませんわね。

 いえ、カリナさんの【自己再誕】も大概ですが。

 

 

 

「そうですか。それで今、引子さんの態度に何か言うことは?」

 

 訊き方。

 ことが落ち着いたらお仕置きですわ。

 

「…………僕は……」




 本日は夜にもう一話投稿する予定です。
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