【完結】愛慾のヒーローもどき   作:土屋 四方

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 相澤先生がんばえー。


4. 深呼吸ときどき酸欠

■十一月十二日

 

 雄英に着くまで……ううん、入るまでのところは割愛してしまおう。気分のいいものじゃなかったから。

 簡単に言えば街の雰囲気は一変していた。治安の悪化とはまだちょっと違ってて、極端に人が居なかったのだ。日曜の朝にしたって。

 例外は酷くぴりぴりした武装市民くらい。この人達はヴィランではない──はずだけど、ヤオモモの顔とかで私達が雄英生だって気づいて絡んできた一部についてはリナリナがかなり雑に黙らせていた。

 もちろん大怪我なんかはさせてないけど……男の人って本当にあんなあっさり無力化できるんだね。ひゅん。

 

 

 

 日曜日かつ非常事態なのに学校に来たことで、相澤先生が面倒そうな表情を浮かべたのは最初だけ。

 顔を隠していた同行者──緑谷ママが素顔を見せればすぐに神妙な態度に変わったし、病院のことや治崎の話をしたらむしろ褒めてくれた(治崎の現在地を最初に報告したのは私たちらしい)。

 

 そして矢継ぎ早に指示をくれる。

 

「緑谷……だよな? お前については俺も知らんことが多いが、よく戻った。後で色々聞かせてくれ。

 八百万、簡単でいいから病院の内部模型とか作れるか。作戦会議に使えるヤツ」

「お任せ下さい」

「助かる、俺は校長に報告して人を集めるから──」

「じゃあ会議室に椅子出したりとかはやっときます」

「助かる、頼んだ麗日。

 兵怜は、あー…………渡我、できるだけ落ち着かせといてくれ」

 

 あ、相澤先生〜。リナリナがぴりぴりし過ぎてるのは確かだけど、それは大ミスですよ?

 

「いいんですか!? じゃあ保健室とかでしっぽり♥」

「オイ待て何するつもりだ」

「? “できるだけ落ち着かせて”って」

「いやお前興奮させようとしてるだろ」

 

 うんまぁ、普通の感覚だとえっちなことって興奮なんだろうけど。ガミさんも半分は自分の慾で言ってるけど。

 

いつもしてることしたら落ち着きません?」

 

「  

  

 

 ガミさんの言葉を遮り損ねて、リナリナは面倒そうに息を吐く。

 

「被身子、それ一応秘密だったの」

「え、相澤センセなら気付いてるとばっかり」

「恋人同士の機微に(うと)くて悪かったな」

 

 疎そう。じゃなくて。

 

「相澤先生、私もリナリナと話しときたいことがあるんで良いですか? 会議室には緑谷くんもついて行きましたし」

(P)……だと……!?

オハナシをするんです! セクハラ!

 

 なんか『理不尽』みたいな顔された。いやそもそも学校でえっちするの認めたわけじゃないでしょうに。だからガミさんも残念そうな顔しないのー!

 

 


 

 

 相澤先生は生徒指導室を開けてくれたけど、鍵は預けてくれなかった。あと中にソファが無いことを確認された。ひどい。するとなったらこの長机でもするけどさ。

 

 ともかく三人きりに──非常識組の三人きりになったので。ここでならリナリナの口を割れる。

 

「リナリナ、なんか我慢してるよね。『思いついてる一番効果的なやり方』が善くないことだーとか、そんな感じのを呑み込んじゃってない?」

「え……すごいね、透」

「ふっふーん。

 ごめんガミさん調子乗りました赦して」

 

 意外そうな反応プラス、かなり不愉快そうな視線も頂きました。ひぃん。

 

「ガミさんはほら、リナリナ全肯定だから。“そんなの気にすることないのに”とかで流しちゃってるんじゃない?」

「む、あー。もしかしてリナちゃん、()()()()()悩んでるの隠してたんですか?」

「う……」

「……ガミさんさぁ……」

「?」

 

 いやキョトンとされても。さっき睨まれたのすごく納得いかないんだけど?

 リナリナが考えてる内容(なかみ)について察してるガミさんは、その考えを言えないこと(善くないと戒めてること)が分かってなかった。あと察しが良すぎて隠してたことにすら気付いてない。

 私はその逆。周りが分かっても中身が見えないのよ。

 ……いや、うん、両方分かりたいね。睨みたくもなるか。

 

「“誰にするか”って?」

「……その……」

 

 リナリナが口ごもる。だからガミさんは勝手に言わない。

 だけど救けを求めるような視線を向けられたらすぐに頷いた。そういうとこォ!

 

「病院、色々ムツカしい状況でしょう?」

「うん。太郎さんのことで焦ってるのも分かるよ」

「じゃあ新しい“技能”が欲しくなりますよね」

「新し……あー。あー、そういう」

ごめんね……

 

 なるほど新しいお相手(こせいいんし)のお話。“誰にするか”ね。

 これは言えないのも納得だ。私達に対しての引け目だけじゃなく、その誰かに対しても“技能”のためだけに抱かせろみたいなことをこの人は言えない。先に愛情があればまだしも違うんだろうけど。

 

「考え、ちゃうんだ。A組B組の皆も、先輩たちも普通科の人も、なんならこれまで戦ったり捕まえたりしたヴィラン達も……組み合わせを考えて、治崎相手の有効度を予想して……その度に、人を部品(パーツ)扱いする自分に嫌気が差す」

 

 ガミさんはリナリナを椅子に座らせて、後ろから頭をぎゅうと抱いた。ズルい。私は隣に椅子を寄せて腕を抱く。

 

「ごめんねリナリナ、気付けなくて。

 ……でもそれ、その“個性”なら誰でも考えるんじゃない?」

「だからって……」

 

 リナリナの【自己再誕】は他人と交わってこそのものだ。相手によってできることが変わってくる。

 成長(レベルアップ)を目指せば自然と『相手を増やす』になりうるわけで……そりゃ私個人はあんまり嬉しくないけど。リナリナが本気でそれを求める時にやめろとは言わないつもりだ。

 そして今は間違いなく本気も本気なわけじゃん。

 

「アイデアがあるなら聞いてもいい?」

「──ううん。逆に『この組合せならどうにかなる』ってのが思いついてたら、もう頼み込みに言ってるかも知れない」

「それが無いから余計に困ってるんだ」

「……うん」

 

 はて、微妙な間があったような──あ、ひょっとして?

 

「もしかしてリナリナ、その候補の人達に『使えねー』みたいなこと思った?」

っそ、んな、こと……

「いや責めてない私は責めてないよ!? 思っちゃって、だから自分で自分を責めてたんでしょ!?」

 

 迂闊に図星を突いてしまったせいでガミさんが手を出してくる直前だった。当たってたのは嬉しいけど、内心なんか読めない方が平和かも。

 

「口に出すのはダメだけど、思うでしょソレは。むしろリナリナは『自分が一番使えない』とか言い出さないか心配」

「いやそれは全然思わないけど」

「「えらい(です)っ!」」

 

 二人がかりで褒めたら怪訝そうな顔された。いや、今のはちょっとムラッときた自己嫌悪かな?

 

「リナちゃん大丈夫です? おっぱい揉みます?」

「揉まない。あーてーるーなー」

「キスしていい? あや」

「今それどころじゃなーい!」

 

 んー、唇は避けられたし言葉もちょっと強いけど身体ごと逃げようとはしない。えっちなことは真面目に拒否ってるけど自分が尖り過ぎて余裕なくしてる自覚はあって、私達がそれを(ほぐ)そうとしてることも分かってる。

 みたいな感じかな? とアイコンタクトしてみたら、ガミさんは頷いてリナリナの顔面を固定した。

 

「どうぞ」

 

 あんまり通じてないなぁ!? いや視線を送ったことに気付いてくれるだけでも凄いんだけど!

 あとせっかくだからキスもするけど!

 

「リナリナ、平気だよ。他人を“技能”の素材扱いしたって、()()()()で済ませない人だって知ってるから軽蔑なんてしない」

「と、おっ──んむ──え、どうなっ──!?」

「あとぶっちゃけ、それっきりの素材扱いで愛情ゼロの方が私には好都合だったりするし?」

「待っ──!?……もー!

 

 やったぜ応じてくれた♡

 ちなみにキスしながら喋ってた件はガミさんも「それどーやってるんです?」と訊いてきてるけど今は答えられない。攻め専用なので。もう息も絶え絶えなので。

 それに直接体験したリナリナには分かっちゃったみたい。

 

「なんで〔(イン)(パー)(ミー)〕が透の舌みたいな感触になってるの!? めっちゃ動いてたし!」

 

 なんでって、リナリナの〔快楽の根(ラストルーツ)〕が羨ましくてさ。指の届かないとこまで責めたいじゃん?

 んで普通の〔不透膜〕だと硬くて痛いかなーとか考えて。

 

「なんか色々頑張った!」

「凄いね透!?」

 

 いやーまだまだです。

 

「相手が侵入(はい)ってきてる時に使うと変なとこ挟んじゃったりしそうで危なっかしいからさ。反撃には使えないの。

 されるがままになっちゃうんだよ?」

 

 だから、続きする? と。弱々しい舌の動きを見せつけてみたりする。ちろり。

 けど振られちゃった。

 

「……ありがと、二人とも。少し、少しだけ落ち着いたから……」

「いや今はキスしたいだけかな」

「透も正直になっ──」

 

 あ、ガミさん無理やりしてる。いーけないんだぁ。

 

「っぷは」

「……あー、うん、被身子にも心配かけたね」

「過去形ですかぁ?」

「うー……」

 

 そうだよね。病院の件を片付けないと──ぶっちゃければ太郎さんだけは助け出さないと──リナリナは落ち着けない。ある意味では暴露動画の時の引子さんぐらい追い詰められて、えっちなことにも励めない。大問題だ。

 

「じゃあさ、作戦会議がんばって少しでも早く──ガミさん?」

「え、なに被身子。怒ってる?」

「怒っては……でも、なんでしょう」

 

 無理やりキスした後の、座ってるリナリナの後ろに立って見下ろす姿勢のまま……ガミさんは瞳を覗き込んで。

 私を嫉妬させる。

 

()()()()隠してますね?」

「ぅ…………ごめん……これは言いたく、ない……ヒドすぎる」

「はい、言いたくないなら良いんですよ」

 

 むー。分かんない。悔しい。

 

「リナリナ、」

「透ちゃん」

 

 刃物の鋭さで遮られた。言いたくないとはっきり示された以上もう踏み入るなと。

 だけどまだ退くわけにはいかない。私が知りたいのはガミさんが無視しがちな部分だ。

 

「何を考えたかは言わなくていい。それがどれだけヒドくても関係ない。これだけ教えて、リナリナ」

「透…………」

 

 ほとんど初めて見る心細そうな表情に心が痛む。拒絶感だけははっきりと分かる。なんにも訊かれたくないんだね。

 ……でもここは、(えぐ)っておかなきゃずっと気にするんでしょう。やるやらないは別として。

 

「分かったよ、質問はなぁに?」

 

 ガミさんの圧にも引かずにいると、リナリナは被告人みたいな顔で頷いた。怖々と、でもはっきりと、問いを放り込む。

 

「そのアイデアの有効性はどんなもん?」

「っ、……もー、鋭いなぁ二人とも。

 高いよ、すごく。実現できない可能性もあるけど、成功すれば銀弾(シルバーバレット)*に近い」

 

 わお。かなりの覚悟が要ったけど、訊いてみて良かったやつじゃん。

 ソレを実行に移したら『かなり有効』だとリナリナは思ってる。そういう作戦が何かしら浮かんでて、でも何かの理由でそれをナシにしてるらしい。

 何かの理由。それは後悔や恨みの種だ。

 

「それが出来ないのって私達のため? 駄目な理由はどうにもならないのかな」

 

 

 リナリナは最初、かなりふわっと『倫理的にダメ』みたいな言い方をした。けどその答えでガミさんもこっちについて聞き出しにかかる。何かがおかしいと。

 どうも『私達以外の特定の誰か』に対して物凄く酷い扱いってことらしいんだけど、それなら『まずその人に相談してみて、包み隠さず説明した上で頷いてくれるならそれはアリでしょ』となるのが普段のリナリナだ。銀弾なんて言うほどのメリットを期待できるなら尚のこと。

 

 とりあえず今回は、『頷いてくれるとは思えない』『頷いてくれても危なっかしいし失敗時のリスクが読めない』『上手くいっても流石に倫理を穢し過ぎだと思う』とマイナス要因が次々出てきたから、これ以上深堀りはしないけれど。

 

 ──つまりリナリナは結論を出してるわけよ。そんな手段はナシだって。

 

「じゃあほら、別の銀弾を探さなきゃ。なんか見つかれば解決なんだから、やりたくないことで悩み続けるのって──“時間の無駄”とか言ってたじゃない」

「むぐぅ……うん」

「でも──」

 

 文字通りに閉口しつつ、頷いて頭を切り替えてくれた。そこへすかさずガミさんがかけようとする言葉に私も(かぶ)せる。大事なことだ。

 

「「今のオハナシが無駄だったわけじゃない(です)から」」

「──うん、うん。ありがと、二人とも。ありがとう」

 

 

 結局、それが何なのかは訊かなかった。でもよっぽど凄い奥の手なんだろう──それをナシとして押し流すためには誰かに聴いて貰わなきゃ難しい位に。

 だから今の会話は、気持ちの区切りをつけて集中して挑むために、必須の工程だったのだ。

 

 てなわけで、ちゃんと区切りつけられたのかは確認しときたいよね。

 

「今度こそ大丈夫です? おっぱい揉みます?」

「もーまーなーいー」

「まだ何か悩んでますね透ちゃん」

「そうに違いないね、吐かせようガミさん」

「揉めばいいんでしょ揉めば!?」

 

 気分は大丈夫そうだけど、ホントにちょっと撫でてくれただけだった。やぁん。

 ……焦らしかな?

 

 




 

 

 カリナの頭にあったのは【巻戻し】と【ワープゲート】だった。

 つまり(霙理が頷くとは思えないし、そんなことができるか不明だし、できるとしてもリスクが読めないけれども)()()()()()()()()()ことができるなら、人質の救出は容易いと考えたのである。

 まさしく銀弾。都合の良い奇跡。あると知っていれば、可能性を思い浮かべれば、つい頼ってしまう弱さの受け皿。

 

 カリナの葛藤は深かった。

 透たちが理解している通り、大抵のことは『本人が良いって言えばアリでしょ』と認める柔軟さ──悪く言えば放埒さ──故に。また霧という人間は条件次第で無茶も引き受ける可能性が(カリナの中では)考えられた故に。そして圧倒的に大きいメリット故に。

 何度も何度も『押し通せば行けるかも』と考えた。考えを止められなかった。

 

 これを『やっぱナシ』と片付けられたのは紛れもなく二人のお陰──ではあるのだが。

 カリナは『本人さえ良ければアリ』という原則を()げていない。この件を例外にした理由=カリナ曰くの“倫理”とは、霙理の年齢()()だ。

 

 相手が霧だけならば益と益を交換するような『交渉』ができよう。条件次第では折り合えるかも知れない。他にも根津にしたような『お願い』でも合意は結べる。

 しかし霙理(こども)相手にそれはできない。本気で説得すれば口八丁手八丁で頷かせることもできてしまうから。そんなものを合意とは呼びたくないから。初手でダメと言われたら──そう答えるに決まっている──もうダメ。

 

 ()()()この案はナシ、と却下した。

 

 これこそ兵怜カリナという少女の内に巣食う、善意に基づく歪みと悪性である。色欲は言うまでもなく傲慢の大罪とも分かち難い。

 大人が自らの意思で認めるなら生きた人間を改人に変化させることさえ『アリ』としてしまう。それが世間一般の倫理からどれほど外れていようと、()()()()()()()()()()()

 

 

 カリナはこれを自覚し、なおかつ改めるつもりが欠片も無い。周り(こいびとたち)もそれを願っていない。善性を信じきれないヒーローもどき。

 

 

 ──そんな人間であるので。

 

 大人を丸め込んで頷かせ、一般的には不倫理そのものの扱いを強いるのも。

 その動機が太郎を助けたいという家族愛だけでなく、“個性”の衝動と個人的な好みが大きな割合を占めるのも。

 

 

 カリナは元々そういう人間だ、というだけの話である。

 

*
銀弾:『難局を打破する決め手』を示唆する喩え。




 透、すっかり逞しくなって……!
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