【完結】愛慾のヒーローもどき   作:土屋 四方

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5. 空中戦・印象操作・沼男(アイデンティファイ)(会議の前・1/2)

 オールマイトが立ち向かった無数の事件の中には『マスコミ等の記録に残らず緑谷にも伝えていないもの』がかなりある。これはカリナでも“エグい話”と口が重くなるような残虐行為が多い故だが、与一はこれらを細部まで把握していた。

 このことから『初代である』との自称をオールマイトが認め、連鎖的に『治崎がその力を得る』ことの信憑性が増す。

 

なんという……!

 

 彼はもちろん激しく自分を責めた──が、仮に全盛期であっても病院に突撃させるわけにはいかない。ひとまず彼の最優先は別にある。

 

 緑谷親子との対話だ。

 それはヒーローオブヒーローとしてではなく、八木俊典という個人ならびに教師として向き合うべき責務だろう。

 

 

 オールマイトの裏付けが得られたことでワイン病院立て籠もり事件は一気に優先度を引き上げられた。行きがかり上となったが雄英高校に対策本部が設けられ、ヒーローと情報が集約される。

 そう、まずは情報収集だ。

 

 

■十二日 正午頃

 

 

 雄英に立ち寄って事件の概略だけ把握したホークスは、すぐさま病院の上空へ飛んだ。

 そこで大きな朗報が一つ。

 

「凄いな、あの模型めちゃくちゃ正確じゃないか」

 

 アイスエイジが可能性として挙げていた通り、煙幕は低いところほど濃く上空は薄いようだ。真上からでもサングラスを挟んだような暗さはあるが、建物の輪郭ぐらいははっきり見て取れる。

 インカム越しに百が応じた。

 

『恐縮です。模型にした全体が見えておられますか?』

「残念ながら視界良好とは言えないけどね。煙幕の中心は君たちの予想通り職員棟みたいだ」

『すると……中心から最も離れた入院病棟の端などは』

 

 重力の影響かは不明だが、煙幕は低い位置に偏っている。そして全体が半球のドーム形なため、真上からは外縁(リング)()に煙が(こご)って見えた。

 

「うーん確かに、そこらは暗くてよく見えないな。見えてる範囲に建物の破壊とかは無い」

『それでしたら──』

 

 空から得られる情報は全て集めてやろうとカメラなどを構え──そこに妨害が入った。何かしらあるとは想定されていたが。

 

「これは……ドローン?」

『一般的な通信電波も使われていますが、市販のものではありませんわね』

「それは見れば分か──おっと!」

 

 複数のローターで飛びながら機関銃のようなものを向けてきたソレの外見は、ドローンとしてはかなり特徴的だ。武装が目立つだけでなく、何より大きいのである。

 これは近属の【人形(ヒトガタ)】が『人と同程度の大きさのモノ』を操る故だが、ヴィランとして登録されていない彼の“個性”はさほど知られていない。

 

「分かりやすくデカブツだ。火力はまぁまぁ動きはノロマ!」

『増援がきます、ご注意を!』

「なぁに、心配ないさこの程度」

 

 軽口は強がりではなく、しかしトップヒーローの──中でも際立ったスピードスターの──実力あってのこと。八機にまで増えた大型ドローンによる弾幕は決して薄くないし、近属の意思による統率も完璧だ。

 その動きがホークス(と百)にある疑念を抱かせる。まさかこれは有人兵器なのだろうか、と。

 

 折り重ねられた射線を踊るように掻い潜りながら、ホークスはちらりと下方を見やった。何者かが職員棟の屋上にいて、おそらくこちらを見上げている。

 あの人物がドローンを遠隔操作しているのか、あるいは指示でも出しているのか──いずれにせよ情報が欲しいところ。

 ドローンを一つ捕まえて持ち帰るのも情報収集としてはアリか? 人質の安全は?

 

 その思案を隙と取ったか、ドローン群は王手をかける。半数は距離を詰めて弾幕を押し付け、残り半数は離れながらミサイルを放ったのだ。

 

 空中に紅蓮の花が咲き、赤褐色の羽根が舞い散った──しかしホークスは火傷と軽傷を負いつつ真下へ急加速。

 七〇(ななじゅう)メートル以上あった屋上との距離はみるみる詰まり、常人より優れたホークスの視力は『()()()()()()()()()らしい』と判別。

 

 それと同時か、それとも直感が先だったか。

 ──ヤバい。

 考えるより先に身体は動き、しかし()()()()()()()

 

「っぐぅ……!!」

『ホークス!?』

「落ち着け! 自力で帰投できる、むしろ俺より遅い奴に救助とか()させるな!」

『わ、分かりました! どなたか常闇さんを止めて下さいまし!

 

 殺意を隠さぬ上下からの挟撃。危険過ぎるキルゾーン。

 

学生に心配かけてんじゃねぇよ第二位(ナンバーツー)……!!

 

 ホークスは自身に毒吐きながら全速で退避を図り──いや、強く上体を捻る。片翼が動かせないせいで直進を維持できず大きなロール機動になり、飛行としては不格好ながら致命の熱線は空を切った。初撃はわけも分からぬまま貰ってしまったが、屋上の巨漢が強力なレーザーを放ったらしい。

 当たりどころによっては即死間違いなし。それが少々の間隔は空けつつもドローンと連携して狙ってくる。

 

「こりゃどうも──気張らにゃ不味(マズ)かとねェ!」

 

 

 

 この空域からほぼ独力で離脱・生還できたのはホークスなればこそだが……傷は浅くない。雄英にはリカバリーガールがいるとはいえ、体力回復の時間は取られてしまう。

 

 

 ヒーロー達はもちろん近属らも把握しえないことだが、この脳無は別の時空において『ハイエンド:ロボットちゃん』*と呼ばれた。ドクターによる改造が中途半端に終わったため、性能面では僅かに劣るし理性も思考力もなく暴れるばかりの危険物……だったが。

 制御の方法などは語るまでもないだろう。毎度のごとき無惨非道だ。

 

 ここでは兵士として運用できている点が重要である。

 すなわち、『空から見下ろす』という分かりやすい偵察方法は却下せざるを得ない。ホークスでさえあの痛手なのだから。

 

 極めて悩ましい難題だが、ただし──

 

「いやマジでしんどかった。今回は演技とか全然してないんで……でもお陰で、怪しまれてはいないみたいッスよ」

 

──転んでもただでは起きないのがヒーローだ。

 

 

 舞い散ったそれらの大部分は燃え尽き、例外は僅かばかり。耐火ジェルを塗られた少数はひっそりと、煙幕の内側に落着した。

 空中戦を囮にしたもう一つの狙い、ホークスの耳となる【剛翼】が。

 

 



 

 

 十二日の午後からは、ホークス以外にも音響に秀でた“個性”による情報収集が行われた。それらを元に夕刻には作戦会議が開かれるだろう。

 

 以前に“筺”対策会議でスーパーバイザーを務めた太郎はいない。与一では(情報自体に信用が置けても)身分が不確か過ぎて余計な警戒を招く。治崎がどうなってしまうのか説明できるとすればカリナをおいて他におらず、忙しくその準備に取り掛かった。

 

 百は根津の補佐として諜報を支え、マーサは目良を急かしつつ自らも()()()()()、公安委員会は人を集め……各自が出来ることをしている。猶予がどれだけあるのか誰にも分からないのだから。

 

 

 

 雄英を拠点とするヒーロー側は攻勢準備というべき段階だが、状況が止まってくれるわけではない。立て籠もり側にアクションがあった。

 

 それは再びのビデオメッセージ。

 ただし雰囲気はがらりと違っている。

 

 拡散もネットの動画サイトを介したもので、電波ジャック犯と同じ連中であることも一般人からは分からないだろう。

 この動画は『ヒーローに不信感を抱き、抗っているだけ』の『市民の敵ではない集団』による発言……という(てい)を取っている。

 

ご覧ください! 人質がいると分かっていながらの強行偵察、アレが旧弊に縛られた頑迷なヒーローの実態なのです!

 

 発言者の姿は無い。

 映っているのは小一時間前の、“無力にも敗走する”ホークス。

 

 

 映像を観て、被身子はなるほどと納得した。

 強行偵察の後に()()()()()()()などを行わなかった理由はこれかと。

 

『実際、やるんじゃないかと思ってました……外れたのはよかったですが』

 

 ホークスは確かに(半球状の)煙幕範囲に入っていないが、彼がきっかけでヴィラン側のドローンは四機破壊されている。

 仮にそんな被害が無くても『真上には入ってるじゃねえか舐めやがって』などと殺し始める可能性はあったし、そもそも『偵察をしなければ安全』とも言えない。

 故に積極的に動くしかヒーロー側の選択肢は無かった。それでも大きな危惧があったのは確かだ。

 

『でも自分たちはそういうんじゃないってポーズですよね。うーん……?』

 

 対して立て籠もり犯らは公開処刑などを行わず、逆に『患者らを守っているのは自分たちで↔害しているのがヒーロー』かのような印象操作を行っている。人質にしたのは彼らだというのに。

 多くのヒーローが憤りを覚える中、被身子は思い切り首を傾げる──カリナも百も忙しそうなので暇潰しに。

 

『何がしたいんでしょう。わざわざ手枷を嵌めるなんて』

 

 生来()()()寄りの気質を持つ被身子にとっては巨大な謎だ。ヴィランの強みは『何でもアリ』なこと。彼らはその自由度を手放して『善人のフリ』など始めた──その窮屈さを良く知るからこそ理解不能。

 もちろん被身子も、『これで人質が安全になった』などとは受け取っていない。突入時に立て籠もり犯が患者を害するおそれは依然としてある。しかし──

 

『その土壇場で投げ捨てるんなら、ここで善人ぶった意味ないですよね。無駄な自制ってやつです』

 

──自制(がまん)はつらい。社会生活を送る上で必須なことは分かっていても、耐え忍ぶ姿勢を平常(デフォルト)になんてできない。

 だから──というのは前後関係が逆*だが──被身子は見返りを求める。無駄な我慢などお断りだ。

 

 

 もっとも『不思議ですねぇ』以上の感想は無い。分かろうともさほど思っていない。

 そもそも……仮に本気で理解しようとしても、近属と話す機会を持てたとしても、被身子には不可能だろう。二人の認識が揃うことなどほとんど──『病院の不法占拠は常識(いわ)的に(ゆる)“悪”だ』ぐらいしか──無い。

 

 被身子はその動機を欲得と決めつけてしまう。そうでもなければわざわざ“悪”に手を染めない。なんか色々面倒だから。

 

 近属はむしろ禁欲的に動いている。欲得からはほど遠い。

 彼はただ、『現在の価値観では“悪”と呼ばれる正義』を為しているつもりなのだ。“正しい未来”のために。

 

 『正しいことをしたい』。被身子には分からない動機である。だって大抵は面倒だから。

 

 




 

 

 ──ところで十二日(このひ)は日曜日であり、また雄英から生徒に対しては『緊急時以外は自宅待機』の指示が出ている。

 つまり本来なら学生は居ないはずで、カリナ達や緑谷が例外。

 

 とはいうものの例外は他にもいる。特にA組には、他に三人も。

 

 


 

 

 一人は爆豪勝己。

 

 彼は理由を知らされずに呼び出され(自宅待機令を破ってワイン病院の近くに居たこともあり渋々従った)、学校につくと『緑谷くんが、いや無事ではあるんだが、変わり果てた姿になっていてね……』などと意味深に聞かされた。

 どういうことか、流石に冷静とは言えない思いで案内された部屋に入ると──

 

「…………は?

「あ、かっちゃ──ええと、緑谷出久、です」

 

──そこにいたのは長い癖っ毛を後頭部でくくった青年。常識で考えれば明らかに別人だが、直感は“デクだ”と断定している。そのへらりとした表情、微かに浮かぶ()()()()()気遣い、それに反応する無意識の苛立ち、鬱陶しさ、ザワつき。

 

ンだそれキメェ! ちょっとばかし育って体格だけでもジョック*気取りかクソナード今すぐ縮んで死ねダラァ!!

 

 爆豪は叫んだ。

 この暴言は予想済みなのでショックを受けるだろう引子はこの場に居ない。

 そして余りにも()()()()だったため、緑谷は何とも微妙なテンションの拍手を浴びることとなり、わけの分からない爆豪は更に機嫌を損ねた。

 

 この奇妙なやり取りの発端は緑谷家からの移動中に遡る。金的を浴びてのたうちまわる男達の悲鳴に紛れる形でこっそりと、カリナが問うたのだ。

 

『難しいでしょうけど、自分が緑谷出久なのを証明しろって言われたらどうします? できれば引子さん以外が確信……納得できるような何かって』

『あ、うん実は考えてた。必要だろうと思って』

 

 その緑谷のアイデアというのが爆豪の反応(リアクション)だった。『外見が大きく変わってしまったことだけ伝えておいて、今の自分が姿を見せたらかっちゃんはまず何と言うか』。

 

『──そんなアイデア出す時点でもうこれデクくんやろ』

 

 その時点でヤバい奴を見る視線を一定の納得を集めていたが……緑谷が述べた予想は爆豪が実際に吐き出した暴言に一致したのである。それはもうぴったりと。

 こんな芸当(?)をできる者が他にいるとも思えず、というか思いたくないので、めでたく青年は緑谷出久だと認定された。少なくともカリナ達はもう疑わない。

 

 もちろん爆豪は説明を求めた。

 そして少し後悔した。ドン引きである。

 

 


 

 

 残る二人の例外はもう少し深刻だ。学校が呼び出した爆豪と違い、彼らは学校への()()()()

 自宅にいることに危険を──家族を巻き込む危険を──覚えたので、護るために逃げてきた。

 

 ホークスと通信する百の後ろにもいた常闇踏陰。

 加えて到着直後に保健室に寄った障子目蔵。

 

 この二人なのは──どちらも俗に言う“異形型”であることは──()()()()()()

 

*
唯一脳が剥き出しではない脳無。

*
時系列としては『カリナ達からの受容やご褒美→我慢を獲得』という順。

*
jock:人物類型のひとつ。典型的には体格の良いスポーツマンでクラスの中心にいる陽キャ。しばしばナード(おたく)の対極に位置づけられる。

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