【完結】愛慾のヒーローもどき   作:土屋 四方

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 カリナがモノローグで割ととんでもない可能性を示唆しますが、あくまで可能性です。


7. 会議は踊らず、されど心は(1/2)

 ジャージを着た、つまり学生の私が壇上にいることが幾らか注目されてるっぽいけど、私は終盤まで置物だ。しばらくは校長先生に任せておこう。

 

 大事な会議だっていうのに最前列のエンデヴァーのせいで腹筋がつらいから、今の内に落ち着かせないと。

 

 

◆戦場と要救助者について

 

 

「現場は和等大付属・田等院病院。建造物についてはかなり正確に分かってるから頭に入れてほしいのサ」

 

 百の作ったアレ、びっくりしちゃったよ。頼んだ相澤先生だってあんな精度のものが出てくるとは思ってなかったはずだ。

 本人は『壁の中、パイプスペースなどは全く把握しておりませんので』とか謙遜してて……もう意味が分からない。普通ほぼ真っすぐの廊下は真っすぐと記憶しちゃうもので、並んでる柱の太さや本数が正確に出てくる時点で【ハイスペック】顔負けだ。

 

 ──ただ、それでも状況は厳しい。

 

「病院のスタッフと入院患者、多数が内側に囚われている。一つ良い報告は、どうやらあまり無体な扱いは受けていないらしいこと」

「具体的には?」

「監視付きながら医療が行われてるのサ。食事もスタッフが調理したものが配られている」

「なんだと……?」

 

 エンデヴァーが訝しむのも当然というか、彼らは(ヴィラン)としてはかなり妙だ。通信機器を取り上げて脱走を禁じた以外はかなり……人道的というか自由というか。少なくとも患者さんへの医療の提供を許している。

 監視付きなおかげで効率は最悪。外来患者が来られないからどうにか回っているものの、何人かのスタッフは抗議したそうだ。その要望は通らなかったけど、でも別に殺されたりはしていない(少なくともその場では)。

 

 これを悪いこととは言いたくないなぁ。でも悩ましくはある。

 

「つまり要救助者は」

「一箇所にまとめられたりはしていないってことサ。バラバラに散っている──あぁ、中央の職員棟だけは例外。ほぼ無人のようだ」

 

 多くの立て籠もり事件では人質を一箇所に集める。監視がしやすいように。

 そうなってたらヒーローにとっても救助しやすい状況で、今回はそうじゃない。

 

「……安全の確保が難しいな……」

「大きな課題の一つだネ。これについては専用のサポートアイテムも手配してるけど、基本は人数とスピード頼りになるだろう」

「時刻を決めて一斉に突入、分担して迅速に避難させると」

「その通り」

 

 要救助者が散らばっている問題。そしてワイン病院は決して小さくはない。

 

 入院病棟は七階建て。一階以外には病室が並んでいる。ベッドは満床じゃないものの空室も少ないはずで──つまりほぼ全室に患者さんがいると想定されるから……むぐぐ。

 外来棟は地上七階+地下二階。外来診療が閉まってても無人かと言えばそんなことはない。常に何組かの入院患者とスタッフが(監視付きで)移動しているらしい。各階に散在している診療科ごとの検査・処置機器を利用するためだろう。だから検査技師なんかもこちらにいる。

 整備棟──そんな正式名称だったんだ──に患者さんが入ることはない。調理室やボイラー室でスタッフさんが働いてるだけ、のはず。

 そして職員棟はほぼ無人。普段なら事務寄りの人達が沢山いるけど、中で人が活動してるような音がまるで感知できないそうだ。

 

 ……多分、お父さんはここにいる。最上階近くのセキュアルーム、緑谷くんが運び込まれたあの部屋に。

 

 

 患者さんが最低限の医療を受けられてることが悪いとは言いたくない。危なくて怖いだけだ。

 

「まさか手術なども?」

「それは全てキャンセルされているようだよ」

「そうか……」

「でも集中(ICU)治療室(/NICU)には普段通り患者さんも医療スタッフもいる。ここの避難には一層の注意と人手を割くべきだ」

 

 ここで校長は、要救助者の数をかなり具体的に挙げた。病床数くらいならまだしもスタッフも入院患者も把握してる*って何。こわ。

 だけど予め数が分かってるのは好材料だ。こちらの人数配分は最適にできるだろう。

 

 

◆敵リーダーと一般戦力について

 

 

「次に、ヴィラン方のリーダーと思われるのがこの男だ」

 

 画面に映し出されたのは長髪の……いやもう長髪なことしか分かんないな!? 先輩方(ヒーロー)の多くも馴染みがなさそうに首を傾げている。

 

「彼は近属友保。犯罪歴なし。IT系企業の社長なのサ。【人形(ヒトガタ)】という能力は──」

 

 “個性”と技術力を合わせて人型ロボット(アンドロイド)を複数操るそうだ。病院内には彼のロボットも多く闊歩しているらしい。

 

「そして彼が率いる人間も、その多くは──後で話す特記戦力は別として──犯歴が無い者たち。これまで一般人として社会に溶け込み蜂起の機会を伺っていた、革命家でありテロリストといったところだね」

 

 ……正義のつもりでやってるパターンか。患者さん達を無闇に傷つけようとしないのも、あとそんな命令を末端まで守ってるらしいのも、それなら一応納得。

 

「情報が少ないということか」

「そうだネ。個性届から分かる限りのことは資料にまとめたから参考にして欲しい。もっとも誰が幾つ“筺”を持ってるか分からない点は注意が必要だ」

「ぬ、う……敵の数は」

「厳密には不明サ、だけど多く見積っても三桁には届かない。病院の規模と比べれば少ないとさえ言えるだろう」

 

 二桁と言われれば確かに少なく感じられる。こっちは緊急招集にも関わらず五〇(ごじゅう)名以上が集まったし、そこにはランキング上位がひしめいてるんだ。

 ──もちろん、ランキングからは抜けたオールマイトも。

 

 ただ、だから楽勝かと言うとそんなことはなくて。

 

 

◆治崎()()()特記戦力について

 

 

 特に手強いと思われる敵が、治崎以外に三人もいる。

 

「この作戦の最大の目標にして脅威は治崎廻だけど、彼については長くなるから後に回すヨ。先に次の三人だ」

 

 三人とは言うものの一つは顔も名前も分からない。正体不明の泥ワープ能力者だ。

 

「ワープ能力については不明点があまりに多い。不確かながら空中ではワープができないかも知れないという程度だネ。とはいえもちろん放置はできない。

 敵戦力は多くないといったけど補充・増員されてしまうおそれはあるから、まずはスピーディな避難が第一だ」

 

 確かに。

 

 続く二人目はイラストで、顔面を完全に覆い隠したロボットみたいな印象。

 

「無視できないヴィランだけど背景が不明だから、今後は“レーザー”と仮称しようか。殺傷力は即死級で回避も難しい熱線のようなものを連発してくる恐ろしい相手だ。

 ん、何か補足があるかいホークス?」

「口挟んでスミマセン、回避は“難しい”より“出来ない”ぐらいに思って下さい。撃たれてからじゃ無理です、先読みしないと」

「ありがとう、皆も聞いたね。

 ──それと兵怜くん、いやここでは未歳根くんと呼ぼうか」

「はい?」

 

 え、いきなり話を振らないで欲しい。なんだろ、お父さんの名前を持ち出して?

 

「じっくり観察できたわけじゃないしボディースーツか何かの可能性もある。でもこの“レーザー”は筋骨隆々で真っ黒な肌に見えたらしいんだ」

「え」

「これが脳無という可能性はあるかい? USJに現れた個体と同じ【超再生】を持つ可能性は」

 

 むぅ、またエグい話ですね。

 

「それは『“個性”を複製できるか』って意味ですよね」

「その理解で構わないのサ」

「…………できます。時間と設備があって、倫理が無ければ」

 

 どよ、と空気が揺れる。常識でいえば“個性”は個人に紐付いていて、複製なんかできるわけがないからだ。

 

「どうやって? 詳細は省いて概要と所要時間を教えて貰えるかな」

「一般的な手順とはかなり違いますが、クローニングが一番確実ですかね」

「か、確実だと!?」

 

 おっと、言葉足らずでエンデヴァーを驚かせてしまった。……これ詳しく説明したらもっと驚かせそうだけど。ええい、はっきり言うしかない。

 

「失礼、誤解を招きました。その九割以上では狙った“個性”は発現しないでしょう。でも()()()()()成功します──試行回数を四桁五桁と増やしていけば」

「「「──!」」」

 

 倫理的な驚き。ですよねー。

 

「ともかく時間はかかります。『個性を複製する個性』でもあれば話は別ですが」

「それが無いとして、最短どれくらいかかりそうかな」

「十ヶ月を切る方法は思いつきません」

「なるほど、ありがとう。

 なら“レーザー”と()()()()()()()は【超再生】を持つものと仮定しよう。ただし土壇場で突然脳無が増えるようことはなさそうだ」

 

 校長の言葉に頷き返す。

 今は敵戦力としての脅威度評価だ。私がヤベー奴扱いを受けるなんて大した問題じゃない。

 それに……これはきっと校長からの気遣(きづか)いでもある。ヤベー奴という評価はありがたく受けとっておこう。

 

 

 さて特記戦力の三人目。

 

「次に、自称・荼毘について──」

俺に任せてもらおう

「エンデヴァー……」

 

 意気込むのは分かる。罪悪感や責任感も。だからこそ委ねて良いものか不安なんだけどね。

 

「……まず偵察結果を共有しておくのサ。彼はほぼずっと中庭にいて、氷の操作を続けているらしい。恐らく慣熟(れん)訓練(しゅう)だ」

 

 それは新しく得た“能幹筺(カートリッジ)”ってことで。()()()()()()()アレは冷さんだろうし……。

 ()()()()()()()()()()()()は、屁理屈を捏ねれば()()()()()()()()()というだけで根拠なんて何も無いから誰にも伝えていない。こんな場面ではますます言えない。

 

 だから荼毘は、炎司さんの息子は、次男(おとうと)(はは)の力を使っているということ。

 ──いや、それだけじゃないね。

 

「おい。俺を除け者にするな」

「ショート、しかし……」

「親父を一人にしたら俺が冬姉に殴られる。万一死なせたら指輪も買えってよ」

「冬美ぃ……!!」

 

 轟くん(すえっこ)にとっても他人事ではありえない。会話の内容は良く分からなかったけど、炎司さんの目元は冬美さんの仕業らしい。

 心配してた中での最悪はなさそうかな……殴る位の元気があることを喜んでおこう。

 

「冷えた空気や水分を急加熱することで爆発的な暴風が起こると考えられる。多数で囲むよりは少数精鋭で当たるべきだろうネ」

「望むところだ。俺が、俺とショートが確保してみせる」

 

 これはもう説得しても無駄な感じ。校長もそう考えたっぽい。

 

「分かったよエンデヴァー、荼毘は任せる。

 ただし君には今回『単独行動の禁止』を申し渡そうと思う」

「なんだと?」

「昨日の様子は自覚しているね? 君は弱さを見せた、だから弱さを気遣われるのサ」

「ム…………やむを得ん、承知した」

「あぁ。とはいえ頼りにはしているよ。荼毘との戦闘は広範囲に影響が出るだろうから、移動しながらやられると避難に支障が出る。

 ──いいね?」

 

 頷き、隣に視線を向けるエンデヴァー。「火事は俺が防ぐ」と頷き返す轟くん。

 校長が最後に問いかけた後方のヒーロー達も無言で頷いてみせる。つまり熱波がドカンドカンしてるのとは逆側が避難経路だよっていう認識共有が素早く行われた。時は金なりだ。

 

 

治崎廻(オーバーホール)について

 

 

 いよいよ治崎について。それなりに準備をしてきた出番だ。

 ただし私から話すべきは『治崎が()()()()()()なってしまうのか』。

 

 それが()()()()──オールマイトなのは明らかにせよ──()()()()敵の手に落ちたかは、私の領分じゃない。一から十まで説明する時間もないしね。

 

 それにオールマイトは引子さんとの話し合いで忙しかった──はずなんだけど、大人はどうにかして時間を作って相談したらしい。

 

 

 校長は私に待てのサインを送り、代わりに二人を壇上に招いた。公安の偉い人とオールマイトだ。

 ……ただしガリガリ君モードの。

 

 あぁそうか、秘密を明かすんだな。確かにそれは必須と言える。

 だって治崎が【OFA】を掌握したら、その力を別のヴィランに渡してしまう可能性がゼロじゃない。そんなことが出来ると知られたら不味いから隠してたわけだけど、現在すでにあちらにはバレている(おそれが強い)のだから、こちらだけ知らせずにおくのは馬鹿げてる。

 

 

 だからこの時は冷静でいられた。骨と皮みたいな八木先生が活力の塊オールマイトの真実だと目の当たりにしてどよめく会議室を、『びっくりだよねー』なんてユルい気分で眺めたりしながら。

 自分でも何故なのか分からない、全く間抜けな見落としをしていたから。

 

 いくらお父さんの件で切羽詰まってるとは言え、普通に考えれば当たり前に分かるはずのことだったのに。

 

 

 私は『治崎に時間を与えたら何が起こるか・どうなってしまうのか』を話し始める。

 ()()()()()()()()()()()を、きちんと把握せぬまま。

 

*
注視していたのは【OFA】継承者のいる病院だから。流石に全国の病院を把握しているわけではない。




■補足:近属への容疑確定について
 脇道なので本文からは省きましたが、ホークスの件で空中爆破されたドローンから部品の一部が回収され、警察の素早い調査により前々から公安が目をつけていた近属の会社に容疑が絞られました。既に近属はその身分を守るつもりがないので、会社から証拠もあがっています。
 関連してデトネラットでの事件(リ・デストロが襲われた時のこと)なども把握していますが、病院の件と直接の関わりは薄いため『敵リーダーは近属友保』という結論以外は会議でもスキップされています。
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