【完結】愛慾のヒーローもどき   作:土屋 四方

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十二日・午後七時Ⅲ〜回収班

 

 集中治療区画での言い争いは冷静なものではなかったが、まだしも整然とはしていた──それ以外の一般病棟と比べれば。

 

 

◆入院棟・一般病棟エリア

 

「お前らの言うことなんか聞くもんか!」

「ヒーローの皆さんを困らせるんじゃない!」

 

 直接ヒーローを面罵し救助を拒む者。あるいはそれを叱りつける声。

 そして──

 

「いつまで奴らを信じ続けるつもりだ、目を覚ませ市民たちよ!」

 

──もちろん(ヴィラン)もいる。

 カリナ達が見たのと同じ鎧。“異形型”のメンバーは一部を外したりもしているがおおむね統一されている。そのヘルメットのバイザーを上げて、言い募る批判は途絶えることがない。

 

「お前らはいつもそうだ、外れ者の声など聴こうともしない!」

 

 彼らの一部は心底から『正義の革命』を信じているのだろう。人質を取るようなことはしなかった。言葉と力をヒーローにのみ向けた。

 そんな相手にヒーローはどう対するか? 決まっている。

 

「口を閉じて! 少し手荒になりますが──

「ごめんね固定具を巻かせてね。もう大丈夫──

 

 無視……というのは違うが、少なくとも口論には応じない。可能ならば戦闘さえスルーして民間人の保護を優先する。当たり前のことだ。

 

 一方でそのような革命家ばかりでもない。ヴィランらしく人質を取るケースも多数出ている。これをやられるとヒーローは足を止め言葉を交わしはするものの──

 

「許せねえ、許せねえよ! 俺らはただこう生まれただけだ、なぁ!?」

「落ち着け! その人が君に何をしたって言うんだ?」

 

──それは救助のチャンスを探る時間稼ぎであって、真に相手に心を寄せるものではない。

 

「今は俺の! 俺たちの話をしてんだよぉ!!」

 

 

 つまるところ、集中治療区画でなされた指摘がそのまま現実になっていた。

 

 ヒーローは人の言葉に耳を貸さない

 

 感情も論理も後回しにして命と安全を優先する。

 ──もちろん常にそうではないが、今は明らかに非常時だ。

 

 先ほどから屋外では二色の焔が激突を繰り返し、そちら側の窓には熱くて近づけないほど。多くの患者はこんな場所を一秒でも早く抜け出したいと願い、だからヒーローもそれに応える。

 

「怖くありませんから、暴れないでくださいね!」

「……へ? ひぁぁああ!?

 

 エンデヴァー達が居ない側の窓から放り出す、これが一番早かろう。もちろんそれが可能な患者にしかやらないし、そちら側の屋外には回収チームも待機している。

 

「ほいっと!」

──ぁぁあ、あ? ありゃ?」

「怖い思いさせてごめんなさい、でも絶対ケガさせませんから!」

 

 悲鳴を上げる女性患者を抱きとめたのはお茶子。力強く勇気づけながら【無重力】で緩やかに落下し始める。

 一方、たった今叫んだばかりの患者は地面を見下ろして──

 

「あらやだファットガムじゃない! あたしファンなの、あのお腹に落ちてみたかったわ〜」

 

──などと言い出す図太(たくまし)さ。お茶子は思わず笑ってしまう。

 

「ふふ、分かります。

 でも今は避難指示を良く聞いてください、適当なとこ走ると危ないので」

「ぇ──」

 

 眼下には大勢のヒーローがしっかりと陣地を確保しているように見える。何が危ないのかとお茶子を見上げると、丁度夜空を火線が走った。

 屋上で常闇(ツクヨミ)と対峙する“レーザー”の砲撃である。

 

「なん……なの、あれ」

「この下は死角です。上で仲間が引き付けてますけど、勝手に逃げたりしないでくださいね?」

 

 地面に降りてもお茶子は相手を離さず、目を合わせて念を押した。こくこくと頷くのを受けてようやく手放す。

 そしてまたワイヤーを使い窓の外で待ち構えるのだ。

 

『常闇くんむっちゃ頑張ってくれとる、けど──』

 

 地上はおおむね安全だ。突入時刻とほぼ同時に一度だけ地面を穿ったものの、以降“レーザー”はずっと水平より上へ向いている。他のヴィランによる襲撃も散発的で統率が取れていない──これはヒーロー側が仕掛けた通信妨害の成果。

 それは良いことなのだが……目標としていたペースからは大分遅れている。

 

『救助のペース、もっと上げてかな……!!』

 

 お茶子がいるのは最も多くの患者を相手にする回収チーム。ただし問題は……数よりもヒーローに対する非協力だった。

 少しばかり(?)乱暴な方法で建屋から脱出しただけで(アンチ)ヒーロー的な患者が鞍替えするわけもない。それどころか病棟内では医師・看護師がブレーキになってくれていたようで、患者の周りがヒーローやサイドキックばかりの現状は混乱を増してさえいる。

 

 大人しい過半数からは『死にたいのか?』という目を向けられているが──彼らは[政治家(ポリティシャン)]の影響下にあるわけではない。

 近属が花畑(トラン)孔腔(ペット)の力により【扇動】したのは解放戦士だけだ。

 

 

 この時、その近属はどうしているかというと……。

 

 



 

 

◆外来棟

 

 ヒーロー側としては『ヴィラン達の連携を少しでも邪魔するため』に仕掛けた通信妨害だが、この男には覿面(てきめん)に効く。直接戦闘力は無いに等しく、そして無線通信を併用していた人形も普段通りに動かせない。

 だから誰よりも早く撤退を視野に入れ始めた。

 

『ヒーロー共のやることだ、妨害電波はそう強いものじゃない!』

 

 技術面の推測は的確である。医療機器への悪影響を懸念して妨害は最低出力。だから上空のホークスらは言葉を交わせていたし──

 

『高さを稼ぐだけでも通りやすくなるはず……』

 

──空を飛ばないまでも地面から離れるだけで、電子機器同士なら誤り補正が追いつくだろう。そう考えて上層階を目指している。

 ……傍目には逃げ惑っているだけにも見えてしまうし、それも間違いではないのだが。

 

『最悪の場合は治崎だけ連れて逃げるとして……ここにいる同志もできれば切り捨てたくないしな』

 

 “異能”【人形(ヒトガタ)】もそうだが、近属に埋めこまれた小型脳無による転移(ワープ)能力は電波の影響など受けない。自分と治崎だけなら今すぐにでも可能だ──治崎は『外から妙な影響を受ければ尚のこと理不尽が起こりうるから』と拒んでいたが緊急時なら仕方がないだろう。

 そして別のアジトになら【扇動】済みの解放戦士はまだまだ居るのだ。ここにいるのは(比較的)穏健な上澄み──患者たちに暴虐を振るって無駄なヘイトを稼ぐようなことを(比較的)しそうもない連中だけなので。

 逆に言えば、彼らをここで切り捨ててしまうと対外的に良い顔をできる面子が大幅に減ってしまう。それは避けたいので、転移で連れ帰るために各々の正確な位置を知りたいのである。

 

 

 彼が居たのは外来棟。患者やスタッフは一塊にならず動き回っており、そのためヒーロー達も散開して攻め入ってきた。

 近属にとっては不幸中の幸い。【人形】を駆使してどうにか最上階に辿り着く。

 目論見通り電波を拾い通信を始めると──ロボットからの警告(アラート)が溜まっていたようで、一気に流れてきた。

 

 その中の幾つかに。

 絶句した。

 怒りであり呆れであり焦りであり、言葉にはとてもならないがとにかく。

 

「ふっざけ……おって……ェ!!」

 

 治崎が銃撃──狙撃された。ほぼ同時にオールマイトが職員棟に突撃している。

 以前のヒーロー委員会ならば。理想に縛られた“平和の象徴”であれば。

 こんな現実的(プラグマティック)な最適解は絶対に選べないはずなのに。

 

 建前を投げ捨てて実を取れるならもっと早くにやれ。憤激に駆られた近属はすぐに駒を動かした。使い捨てられる戦力の大部分を職員棟へ。

 こんなことで倒せるとは思えないが、せめてその矜持を傷つけてくれよう──慈悲をかけてやっていたが、そもそもソイツは患者でも一般人でもない。

 

 人質(はかせ)を、殺せ。

 

 




 

 

◆整備棟

 

 走る。この建物にいたヴィランは片付けた。その上で走る。幼い頃の記憶はびっくりするほど鮮明だ。

 

「被身子そのパイプの裏、左側覗いてみて」

「はぁい……えっなんですかこの隙間? 無人です!」

 

 古いのよ、この建物。かなり。

 あと患者さんが入らないからさ、割と場当たり的な改築とか繰り返したみたいで。複雑というか混沌というか。

 

「透、この(かげ)──ぃよいしょお!」

「きゃあ!?」

「あっ大丈夫ですよ救けに来ました! リナリナしばらくそのまま!」

 

 お、また一人隠れてた。

 働いている人が多くてヴィランが少なかったみたいだから、監視を掻い潜った人がきっといると睨んでた通りだ。皆さん強かに頑張ってたらしい。

 

「重さは大丈夫ですから、ゆっくり落ち着いて出て下さいね」

「どうもありが──あれ、やっぱりカリナちゃん?」

「お? わぁお久しぶり!」

 

 さっきからこんなのばっかりだわ。ここ、小学生の頃に探検し尽くしたもんなぁ(調理室だけは別だけど)。*

 

「すっかり大き……く?」

「皆さん同じリアクションされますねぇ! 私は元気なんでご心配なく!」

 

 身長だけでいうとあの頃の方が大きかった位だから仕方ないけど! とにかく安全地帯に誘導して他の職員さんと合流してもらう。

 

 

 見落としが出やすい構造(わかりにくさ)だから、それを知り尽くしてる私はここの担当になった──建物の正式名称なんかは知らなかったけどさ。裏口からのチームに犬井(ハウンド)先生(ドッグ)がいるのも同じ理由。

 隠れたまんまの人を漏れなく見つけ出したら、揃って回収チームへ引き渡す。お茶子がいるはずのそっちは手が足りてないそうで、ハウンドドッグは相談する前に駆けていってしまった。はや。チームメイトも危うく置いてけぼりだ。

 

「今、七時六分ちょいだよ」

「ありがと透。ペースは悪くないね」

「私たちは予定通り入院棟ですかね。それともお茶子ちゃんに合流します?」

「ん〜……屋上、気になるんだよね」

 

 ひっきりなしに続いていたはずの“レーザー”の火線が途絶えている。常闇くん……何かあってもホークスがフォローしてくれるはずだけど、大丈夫だろうか?

 だけど見に行く前に合図が響いた。

 

YeeeeaaaahhHH!!!!

 

 山田先生だ。けど聞き間違いかと思っちゃったよ。今のは『入院棟にヘルプ不要』。早くない?

 同時に被身子は何か見つけたらしい。

 

「リナちゃん、あれ」

「?……ごめん見えない。教えて?」*

「羽です。赤茶色の──人を運び出してますね」

「え、ホークスあんなにヘロヘロだったのに」

「だよね、盗聴で使い果たしたって」

 

 あの羽のお陰で突入作戦を決行できてるとさえ言えるので、ゆっくり休んでて欲しい位だけど……ともかくホークスが働いてるってことは屋上に危険は無さそう。

 入院棟は手が足りてて、その下の回収チームにはハウンドドッグ達が向かった。

 

「外来棟に行こう」

「了解です!」「うん!」

 

 


 

 この時ホークスは屋上で【剛翼】の操作に集中している。「その方が効率的だから」と常闇(ツクヨミ)に防御・警戒を丸投げし、懸案だった入院棟からの運び出しを急速に押し進めたのだ。

 そんなことが可能なのは屋上に“レーザー”がいないから。その理由が太郎の抹殺指令であることなど、カリナは知る由もない。

 

 

 では“レーザー”が向かったその先、職員棟はというと──

 

*
アイスエイジと未歳根医師の娘だからというより、頻繁に遊びに来る無表情で孤独な子供として優しく扱われていた。

*
〔身体変造〕すれば見えるが因子と時間の節約。





山田「〈Yeah(イェーァ)!〉がヘルプ不要で〈Yah(ヤー)!〉が入院棟集合な?」

※二つ目は別の掛け声にされました。
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