【完結】愛慾のヒーローもどき   作:土屋 四方

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十二日・午後七時Ⅳ〜轟親子

 

 治崎が【OFA】に向けていたのは危険視というより異端視だった。何が起こるか分かったものではない異常存在と見なしていた──間違ってはいない。

 ともかくそれが理由で職員棟からは(太郎以外の)人間が遠ざけられており、代わりに近属のロボットが多く配置されている。

 

 午後七時、ヒーロー側の突入開始。同時に妨害電波によりロボットと近属は通信不能に。

 この場合(スタンドアローン)の行動ルーチンはかなり雑なもので、『節電モードで待機。要警戒対象を発見したら抱きついてでも足止めしろ』というもの。

 

 ──結果的に、これが非常に奏功した。

 

 

◆職員棟

 

『これまでのところロボットばかりだが……SHIT!!』

 

 オールマイトの進撃を大いに遅れさせたのである。

 ホークスによる最初の偵察から懸念されていた、『これはまさか有人兵器なのでは?』という疑いによって。

 

 ロボットの多くは(マッスルフォームには劣るものの)大男といった体格で、揃いのスーツにサングラスなどで人工物らしい外見を隠している。

 中には装甲やチューブといったロボット感を隠さないものも居るが──、

 

『外にいたヴィランのパワードスーツと同型か!? 全身タイプを人が着込んでる可能性も……くそ、急がねば!』

 

──仮に全身型のパワードスーツなら機械的な駆動音も聴こえて当たり前。中に人が居ないとの確証は得られない。

 

 オールマイトは治崎を殺す覚悟を固めてここにいる。少なくとも彼の中では。

 しかしその誓いはむしろ『治崎以外は絶対に死なせない』との強迫を深めたのか、その進みは遅い。

 

 職員棟は五階建て。まして目的地はオールマイト自身が幾度も足を運んだ部屋。本来なら狙撃直後に太郎と(まみ)えていたはずだ。

 

 しかし実際には、次から次へと殺到するロボットを壊し過ぎぬよう慎重に進み──

 

YeeeeaaaahhHH!!!!

 

──実に七分ほどもかかってしまった。

 

 その結果、屋上から降りてきた“レーザー”とほぼ同時にかち合う。

 

「博士、ご無事で──ヌゥン!

!?? っ、感謝します、私は無傷です」

「それは良かった、しばしお待ちを!」

 

 一度はホークスを貫いた熱線が放たれ、そしてオールマイトに弾かれて天井を穿った

 ……熱よりも拳や筋肉の方が強いのだろう、きっと。太郎は宇宙の深淵を覗きかけたが考えるだけ無駄である。

 

『博士を抱えて逃げるか? いやこいつは放置できないな!』

 

 後ろから撃たれたところで対処はできる。自分を狙ってくれるなら。むしろ避難中の市民や他のヒーローに狙いが移ることを憂慮すべきだ。

 会議で特記戦力に挙げられただけあって、並のヒーローなら複数であたるべき強敵。エンデヴァー達のところに行かれても不味い。

 ここで自分が倒すべき。そのように即断した。

 

 オールマイトvs.“レーザー”。

 一対一であれば──オールマイト側に護衛対象がいるにせよ、それはたった一人なので──結果は目に見えている。勝負にならない。

 少し時間がかかったのは【超再生】があったから、および“レーザー”が近属の命令に忠実だったから。つまりオールマイトをも無視した完全な捨て身で太郎を狙ったせいであって、実力は隔絶している。

 

 

 ……判断ミス、というのは酷だろう。確かに“レーザー”を放置することのデメリットは大きい。

 しかしながらオールマイトの選択が招いたのは、放置していた方がずっとマシと言い切れるほどの──

 

 




 

 

 少し時間を(さかのぼ)る。

 場所は入院棟の横、お茶子らがいるのとは逆側。元々は様々な草木が患者の目を楽しませた遊歩道だったが、今は全て灰に帰した荒れ地である。

 

 

■同日・午後七時一分頃〜

 

 

◆(元)遊歩道

 

ンだその間抜け面は!?──てっめぇ、人が糞シリアスに復讐考えてたってのによぉ」

 

 ごもっともである。両目に青痣(あおあざ)を備えたパンダ親父相手では締まらないことこの上ない。

 

「ぬぅっ!? こ、これは──」

 

 もちろんリカバリーガールに治してもらうことはできた。しかし僅かな体力でも使いたくないと固辞してそのまま来たのだ。

 

 ──実は内心には『この顔を見たら燈矢も笑顔を見せてくれるのでは』などという、とんでもなくズレた期待もあったが。

 その目論見は失敗したようだと即座に切り替える。トップヒーローなので。

 もっとも切り替えたところで炎司は炎司である。

 

「──これは、家族の絆だ!!!!

煽ってどうするクソ親父! そんな上等なもんじゃねえだろ……」

 

 絆というか普通に長女(ふゆみ)のブチ切れだと焦凍は知っている。

 しかしそれを知らぬ長兄(とうや)にとっては──いや、実際のやり取りを知ったとしても──怒りと嫉妬の対象。弟の言った通り挑発に他ならない。

 

「灼け死ねぇぇええ!!」

「俺は死なん、死なせもせん!!

 お前も冬美を止めてくれ!!!

「こいつら……!」

 

 言葉だけ抜き出せばほのぼのホームコメディのよう(?)で、その周囲は……焦熱地獄である。

 赫と蒼の激突、巻き上がる火柱。

 突入時は荼毘の近くにいたロボットも今は遠巻きにして眺めているほどだ。

 

 熱を操る繊細さならばエンデヴァーがはっきりと優る。しかしそれが大きく活きるシチュエーションとは言い難い。攻撃力に直結する最高温度は……荼毘に軍配があがった。

 

「ぐ、ぅう!?」

「ぬりぃ、ぬりぃな【ヘルフレイム】! 昔の方が熱かった気がすんぜ!」

 

 厳密にいえば、最高温度よりむしろ冷却力というべきかも知れない。エンデヴァーは全力の手前でブレーキをかけているからだ。

 

「おいクソ、手ぇ抜いてんじゃねえ! 幾らでも冷やしてやるっつっただろうが!」

「ショート……そうだな、今は頼らせてもらおう!」

 

『──っく……!!』

 

 一段上の熱量に焦凍はどうにか苦悶の声を飲み込む。

 エンデヴァーの背中に当てた()手の出力を上げても上げても蒸気の勢いが増すばかり。熱を奪えている証拠であり、かつ凍りつく間もなく融かされている敗北の証。それが荼毘との競り合いで足を引っ張っている。

 

 冷却力という点では分が悪いと言わざるを得ない。

 まず荼毘は“能幹筺(カートリッジ)”を二つ使っている。いずれも人体構造を無視して効率を突き詰めており、少なくとも古い方の[冷却器]は生前の夏雄より力が強い。

 更に加えて、荼毘は自分さえ冷やせば済む。自分と父親と病棟とを一人で冷やすなんて馬鹿げた負担は、弟と違い背負っていない。

 

 

 もっとも、エンデヴァーに言わせるとショートは十二分に役目を果たしている──親の欲目ではなく。入院病棟内が『遊歩道側の窓には熱くて近づけない』程度で済んでいるのは焦凍の功績だし(でなければ内部はサウナより暑くなっている)、(ショート)のミッションには時間稼ぎ的な側面があるのだ。

 今は荼毘の炎熱を正面から受け止めるしかない。下手に躱せばどの方向にだって患者がいうるのだから。その前提さえ覆れば機動戦に移れるし、そうなれば自身の経験(つよみ)を押し付けて戦えるだろう。

 幸い荼毘は自分に執着しているようで、ここを離れて無差別殺傷など始めそうな様子は無い。

 

 無いだろうと思えた、が。

 

「ひ、ヒヒ、家族! 協力! いいよなぁ末っ子は失敗が活かされててよォ!!」

 

『──油断は禁物だな。この狂奔具合では……!』

 

 荼毘の攻撃はエンデヴァーに放たれつつ、その狙いは安定しない。そのせいで焦凍は冷気をあちこちへ割り振らねばならず、余計に負担が増していく。

 

 爆発に近いほどの空気の膨張、またそれを冷やし縮める冷却、またその融解・蒸発。小規模な膨冷(ぼうれい)熱波(ねっぱ)が無数に起こっているようなもので、二人には山田(プレマイ)からの合図もまともに聴こえて来ない。

 それだけの時間持ち堪えたということでもあるが、いずれ決壊することは避けられない危ういバランス。

 荼毘の優勢という形で──にも関わらず、彼にはお気に召さないらしい。

 

「まぁだ余計なこと考えてんな? それで息子に向き合ってるつもりかよ父さん」

 

 痛いところではある。確かにエンデヴァーはヒーローとして市民を護っており、父親として息子と対峙してはいない。

 

「! 燈矢、待ってく──」

「待たねぇ」

 

 荼毘は距離を詰めた。

 自殺行為である。これまで左右と上方へ逃げていた熱は行き場を失い、その只中へ飛び込んだわけだから。

 

「死ぬ気か馬鹿ものぉ!?」

 

 思わず火勢を緩めるエンデヴァー。そこへ向けられた掌はちろちろと焼かれながらも──放つ。

 

「あんたらが殺したんだろ」

「ッグ、ヴ……!!」

 

 顔面へ向けられた蒼炎を躱しきれず、エンデヴァーの右目側が厭な臭いを発した。人の肉が灼ける、火事場や火葬場のそれ。

 

「クソ親父!!」

「前に出るな!!」

 

 重度の火傷を負いはしたがエンデヴァーもただではやられない。焦凍を叱りつけた上に、直接掴んだ相手の手首に更に力を籠める。

 

 ……昨夜の映像では、新たな“筺”を右腕に埋め込んでいた。となれば握りしめたこの左腕には、恐らく夏雄が。

 

「ダメな父親で済まない。せめてこの手で弔わせてくれ」

 

 そちらの冷気が右より弱いことは正確に見切っている。その限界を上回る温度で一息に眠らせようとして──

 

「夏くんになんてこと言うんだ。そいつぁ困るぜ」

 

──それに失敗した。逃げられたのだ。

 掴んでいた手首を放したわけではない。

 前腕に埋め込まれた[冷却器]を護るために、荼毘が()()()()()()()()()()()()のである。

 出血はない。蒼炎の高温ならそれが可能なことも驚くに値しない。

 

 しかしエンデヴァー達は改めてショックを受けてしまう。

 躊躇いもなくそんなことが出来る精神性に。また『次男を焼こうとした父親』と『弟を護った兄』かのような構図にも。

 

 

 その表情は──今度は荼毘の愉悦に適ったらしい。機嫌良さそうに嗤う。

 

「いいねぇいいじゃねぇか。じゃあここらで趣向を変えてみるか!」

 

 残った右手で地面に触れる。すると地面からあまりにも巨大な一塊の氷筍が──氷山というべき規模のものが迫り上がった。

 

『!? なん、だ、これ!?』

 

 遊歩道エリア全体を巻き込み三人まとめて持ち上げられそうになりながら、強烈な違和感。言語化はできないが何かが引っかかる焦凍。

 対して父は──エンデヴァーは流石である。三人分の足下を融かして上昇を防ぎ、にも関わらず病棟に沿う氷は残ったまま。完璧な熱のコントロール。

 

「あまり舐めるなよ燈矢ァ!」

「っはは、器用だなオイ!」

 

 自らさえ(さいな)む【ヘルフレイム】に冷気で挑むなど愚かなこと。だがこれほどの、氷河・氷山のごとき規模となると温度だけの問題ではない。ただ高熱をぶつけるだけでは真下から蒸し上げられるだけだし、さらに悪ければ水蒸気爆発さえ起こりうる。

 だからこれは【ヘルフレイム】の力というよりエンデヴァーの力。

 ──そして、更に。

 

「ショート、少し離れろ。これなら冷却は不要だ」

 

 それもそうだと焦凍はすぐに離れ、すぐに後悔した。

 ()()()()()()()()()()炎司(ちち)エンデ(ヒー)ヴァー(ロー)であることを脱しつつある。

 

「済まなかった燈矢。目が覚めた、俺も本気で向き合おう」

「おま、え……!!」

 

 驚きに満ちた呟きは兄のものか末子のものか、あるいは二人の声が揃ったか。

 己を灼く熾命の拳。腕を炭化させながらなお力強さを増す輝きは直視もできない。

 “個性”(ヘルフレイム)でも努力(エンデヴァー)でもなく、父親としての覚悟。炎司という個の力。

 

 荼毘に向けられた瞳は厳しいものだ。甘さも柔らかさもまるで感じられない。しかしそれは間違いなく、燈矢がずっと望んでいたものの一つ。

 体質が分かるまでのあの道場以来──やっと自分を見てくれた。

 ぺたり、とその場で尻餅をつく。恐れたわけではないが……膝の力が抜けた。

 驚きではある。望んではいても狙ってはいなかったものを得られたから。

 

「燈矢、まず俺の罪を灼かせてもらう」

「…………」

 

 激痛に耐えながら炎司が掌を向けても反応は無い。これなら命を奪わずに“筺”だけを破壊できよう。

 

 

 極炎が放たれるのと同時──厳密にはその直前。

 親子の間に立ちはだかる何者かがいた。

 

 それも一人だけではない。飛び込んできたのは、二人。

 

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