被身子とバクゴーが衝突しかけたというので何があったか聞いたら、思わずちょっと引いてしまった。
「え……それはちょっと怒り過ぎなんじゃ」
「えーっ!?」
どちらかと言うと『私の為に怒ってくれてありがとう』系のリアクションを期待してたらしい被身子が不本意を丸出しにする。
百も咎めるような視線を送ってきた──私の方に。今回は被身子の味方らしい。ゾクゾクしちゃったので私はNTRもイケる口かも知れない。
「いやうん、被身子の気持ちは嬉しいんだけど。でも正直戸惑うというか……髪のことは別に気にしてないんだよ、本当に」
「ホントにホントだったんですか……」
しょんぼりとした被身子の頭を撫でながら頷き返す。まぁ確かにトラウマとかコンプレックスを引き摺ってても気にしてない風を装う人は珍しくないからね。鵜呑みにしづらいのは分かる。でも私、そもそもトラウマってほどには傷付いてなかったような。
確かに小学生の──特に低学年の頃は色々言われてた。よく覚えてるのは『絵筆を洗ったバケツの水』とか『洗う前のパレット』とか……つまり色が混じりきってなくて彩度の低い、あんまり綺麗じゃない比喩。
今になって思い返すと気付く。割と酷いな!?
その頃って“個性”に応えるべき子宮の準備が整ってなかったせいか、自分でも理解できない欲求を持て余して自分を追い込んでたから……情緒とか感受性とかが死んでたのかも。周りからも孤立して完全にヤベー奴扱いだったし。
自分でもこのままじゃマズいと思って中学からはガラッと改めたけどね。歳上のお姉さんに助けを求めて、意図的にキャラ変した。
ともかく結果オーライだ。今この髪を嫌わずに済んでるのは喜ばしい。
「青と赤はお母さん、緑はお父さんの色だからね。それにさ、もし私が嫌だったら
「あ……そっか」
「言われてみればそうですわね」
「あれ、百も気付いてなかったんだ」
実演してみせた通り、〔身体変造〕を使えば髪の色くらい変えられる。つまり私は好きで斑髪でいたわけだ。
今はお父さんの髪色──ライムグリーンに統一してみたので、戻す前に鏡を覗いてみる。へ〜。
「ほー、うわー」
「なんですのその反応?」
「違和感!」
「……まぁ、カリナさんが気にしていないなら何よりですが」
頭痛でも堪えるように百が頭を振る。どうも思ったより心配かけてたっぽいな。本当に気にしてなかったから見過ごしちゃってた。
背中側から薄緑の髪を撫でてくる被身子は、もう分かりやすくしょんぼりしてて、ムラッと──もとい、申し訳なくなる。
「ごめんなさいリナちゃん……」
「こっちこそ。ていうか被身子が謝ることなくない?」
「……でも、その。ついバクゴーを殺したくなっちゃって、手が出ました。悪いこと、しちゃった」
その言葉に思わず目を丸くする。百だって驚いてる。被身子がこんなこと言うなんて出会った頃は思いも寄らなかった。
彼女の心根はきっと──明らかに──ヒーローのそれではない。なのにこうして『正しさ』を学び取ろうと藻掻いている。
彼女の意思が私達と寄り添う未来を選んだから。ただそれだけの理由で。
こんなに愛おしい悪があるだろうか。小悪魔ちゃんめ。
「いつかの私と違って被身子は自分で止まれたんでしょ? 凄いことじゃん。偉いよ被身子」
「そうですわ、爆豪さんは怪我ひとつしていませんもの。誇ってくださいまし」
百の言い方にちょっと笑ってしまった。だってそれ、大怪我しかけてたバクゴーを被身子が庇ったみたいな言い回しじゃない?
「……でもバクゴーには怖い思いさせちゃいましたし。謝らないと」
ん〜〜〜、どう答えよう。子育てに悩む親ってこんな気持ちなんだろうか?
被身子が他人を(それもやや嫌っている相手を)気遣えるようになったことは喜ばしい。だからまずそこを沢山褒めた。よーしよしよしよし。
と、その上でだ。『煽りにしかならないのを承知で謝る』って嫌がらせも考えたけど教育に悪そうなのでナシとして。
「──ただ、アイツには謝る必要ないでしょ」
「あれ? そうなんです?」
きょとんと首を傾げる被身子に、百と二人で言い聞かせる。
「あのね被身子、アイツの発言は普通にクソだから。私はたまたま気にしてなかったから良いようなものの、人の見た目をやいやい言いやがって。クラスメートの名前くらい覚えろって話よ」
「カリナさんの言う通りですわ。彼が轟さんのことを『半分野郎』などと呼ぶのもわたくし腹が立ってしまって」
「それ訓練の時も言ってた……轟くんは聞き流してたけどかなり地雷の匂いがするよ」
被身子を挟むようにして百と頷き合う。
今の轟くんは何やら余裕なさげで──あぁ、言ってみれば私の小学生時代みたいに──ストレスすら受け止められないかも知れない。まぁ私みたく気にしてない可能性だってあるけど、だとしてもバクゴーの言い方は無い。
「これでアイツの口の悪さが多少マシになるならアイツは被身子に感謝すべきだよ」
「えぇ、全くです」
被身子はしばらくムムムと唸って、結局「じゃあ謝るのはやめます」と答えた。笑顔が戻ったから構わないけど、考えるの面倒臭くなったな。
──それに加えて、どうやら他にやりたいことを思いついたらしい。
「それじゃリナちゃん、リクエストしても良いでしょうか!」
エロい気分になっただけじゃん。ウェルカム!
被身子とお揃いの金髪
♡♡♡
「あれ? こっちは元のままなんですね。うりうり」
「っん……だってその、下が金髪ってなんか恥ずかし──ぁう!?」
「いきなり煽らないで下さいまし。カリナさんの恥じらいのツボが分かりませんわ」
「ホントですよリナちゃん」
「あおっ、て、なんか──」
煽ってねーよ!!!
後日、黒髪でもシた。
♡♡♡
百「普段堂々としてる方がたまに照れるの、グッと来ますわよね」