【完結】愛慾のヒーローもどき   作:土屋 四方

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※前話から引き続き、カリナに緊張感がないのは病院での顛末を『とりあえず一段落ついた』ものと誤認させられているせいです。


2. 無理めな嘘は暴くまでもなく

 

「私の分まで()()()のこと問い詰めといてな?」

「ひぇ……♡」

 

 お茶子が言い残したのは個人的にとんでもないことなんだけど、透は──あと被身子と百のも──当然のように頷くだけだった。いやん愛されてる。

 

 ところでお茶子は部屋を出ると廊下で誰かにぺこりと頭を下げ、戸を閉めずに行ってしまった。そこから顔を覗かせたのは。

 

「お父さ──んっと」

「こらこら、無理して動かないの」

 

 駆け寄ろうとしたらがっちり腿を抑えられて、ソファから立たせてもくれなかった。言われてみれば下半身は裸みたいだから被身子に助けられた形だけど……引き戸から一歩入っただけでまだ距離のあるお父さんからも、お布団の盛り上がりや二人の脚とかは見えてる、よね。なにこの羞恥プレイ。

 

「怪我はすっかり治せたみたいだね」

「いくらお父さんでもセクハラ」

「え、あぁそうなっちゃうか。ごめんごめん」

 

 軽口を叩きながらしっかり顔を見た。無理してる風ではない。お母さんも張り付いてるし心配は要らないだろう。

 あっちもこちらの無事を確かめて、それだけでするっと必要な会話に移行する。再会のハグ? ないない。

 

「それでカリナ、悪いけど了解だけ取りに来たんだ」

「了解?」

「カリナの“個性”について情報開示を求められてね。根津くんが頑張ってるけど拒み切れない可能性が高い」

 

 ? なんのこっちゃ。

 気にはなるけど、聞いても結果は変わらないっぽいから……後回しでいいかな。

 そしてどうせ誰かにバラすなら、お父さんの後ろをぴったりと離れないお母さんにも言っておこう。

 

「分かった、無理ならしょーがないし。

 それとお母さん。後で私からも説明するけど、もし()()()が早く知りたがるなら話して構わないから」

「……気にはしてるね。ざっと伝えとくよ」

「ありがと」

 

 ここで初めてお名前を訊いた。筒美(つつみ)火伊那(かいな)さんっていうのかムフフフ。

 透に睨まれたり被身子に噛み付かれたり。そんな空気を察してさっさと退散しようとするお父さん達に、慌ててもう一つ伝えておく。

 

「えっと、その……二人ともシャワー浴び直した方がいいよ、鼻の利く人にはバレるから」

「「」」

 

 両親の仲が良いのは嬉しいし状況的にそりゃ盛り上がるかって納得もいくけど、ちょっと反応に困ってしまう。

 ……いやまぁ、二人の方こそ本気で気恥ずかしいだろうけど。

 

 


 

 

 さて、改めて部屋には四人きり。これから火伊那おねーさん♡ のことを問い詰められるのは分かり切っている。

 目を見て話したいなーと思っていたら、二人の唇が私から離れて……濃ゆい水音(キス)のあと、百だけはお布団から出て来てくれた。

 

「被身子は?──♡ 続けたいのね、分かったよ」

 

 えー、舐められたまんま喋るのか。これはアレだろうか、のんびりしてると【先物代謝】の限界突破させるぞってことかな。隠す気は無いけど。

 

「えーと……初めてのことだったから憶測混じりにはなっちゃうんだけどね」

 

 

 

 【自己再誕】。その副作用である性的な衝動のせいで、私はみんなを散々振り回してきた。とはいえそのほとんどは『性的な昂り/欲求不満』であって、特定の誰かにターゲットを定めた経験って実は少ない──少ないどころか。

 

()ういうことれふ(です)?」

「っ♡ 被身子と百、というより〔身体変造〕が唯一だったんだよ、これまでのところ」

 

 〔熱遷移〕は必要に駆られて得たものだ。〔ベクトル透過〕については透とお茶子を同時に視ないよう気をつけてたから分からないけど……仮に視えてても多分〔身体変造〕の時ほどの理性蒸発までは行かなかった気がする。

 

「あの最大級の衝動が、初回(はじめて)だからなのか二人との相性由来なのか、判断材料が無かったわけ」

「……では筒美さんについては、極めて相性が良いと」

 

 百の言葉に頷き返す。

 

「私は順位付けなんかしないけど【自己再誕】的にはそう。火伊那さんの“個性”をなんとしても手に入れろって。

 あ、もちろん無理やりとかしないよ? みんなも交えてよく話してみてから」

 

 【自己再誕】からの評価はダントツだ。

 組み合わせうる“個性”の幅広さ(はんようせい)

 作られる“技能”の馴染み易さ(てきごうせい)

 どっちも抜群に高い。

 

「お相手はお決まりなんですの? つまり、筒美さんではない方の」

「まだ。特に良さそうな組み合わせだけでも複数いるから逆に迷っちゃって……あ、そう言えばこれは〔身体変造〕でもそうだったんだけどさ」

 

 懐かしい中二の夏、お見舞いに来てくれた百を襲った時*のことだ。

 

私の“個性”には見て取れる。渡我さんと八百万さん、二人の“個性”はとても強力で、しかも相性が良い。凄いものができる。

 

 未経験ゆえに言葉にはできなかったけど、【自己再誕】はどんな“技能”ができそうかを予感していた。(あらかじ)め、というところがポイント。

 ……透は不満そうだ。ごめんねと唇を重ねる。

 

()める』のに丁度良い“技能”に成ったから前衛にでるよ。

 

 巨人に襲われたあの日*は違っていた。『適合』まで済ませて初めて、どんな力なのか理解したわけだから。

 

「──ぷは。とはいえ、ぶっつけ本番で思い通りに使えた〔ベクトル透過〕だって相性は良かったはずだよ。〔身体変造〕みたいな方がレアケース*なんじゃないかな」

「…………そして、筒美さんはそれ以上なわけですか」

 

 それは、答えにくいけどイエスだ。

 火伊那さん以外に相性の良い誰か──例えば()森さ()()()大さ()()()出く(ミッ)()*とか──と組み合わせたとして、それぞれの結果を予見できるから。どんな“技能”ができそうか、かなり細かい部分まで。

 だから余計にペアをどうするか困ってるというわけ。

 

 正直に答えて、正直に泣きついてみる。怖い。

 

「怒んないでよ〜〜」

「怒ってはおりませんわよ、カリナさんの意思ではございませんし」

 

 あぁうん、百は不機嫌なだけなのね。んで透はそれを口に出す方だ。

 

「リナリナだって好みだったんでしょ?」

「ん〜、まぁその、はい」

 

 

 ここからは“個性”の話ではない。【自己再誕】は相手の性別も年齢も外見も全く考慮しないけど、私にとってはその辺も重要だってこと。

 

(もちろん内面だって大事だけど、火伊那さんのことは何も知らないんだから今は外見だけでの話だ。透もそのつもりで訊ねている)

 

「私たちみんな、リナリナのタイプじゃなかったってこと……?」

「まさか。透の顔はめちゃくちゃ好き。一日中眺めてられる」

「……ガミさんとヤオモモは?」

「被身子は可愛い、噛みつきたい。百は綺麗、美味しいものお腹いっぱい食べさせて太らせたい」

 

 理不尽で傍若無人な話だけど私は普段から言ってることだ。百も今さら驚かない。

 

「筒美さんは何が違ったの?」

「顔もみんなとは系統が違ったけど、ああいうクール系のキリッとお姉さんが並外れて好きかって訊かれたら……たぶん違う。だから顔ではないんじゃない?」

「? 顔ではないって?」

「相手の外見のどこに一番()かれるか、みたいな話」

 

 そう答えると透たちはお互いの身体をまじまじと見比べ始めた。今さら見なくても隅々まで知ってるでしょうに。

 

「髪……混色(バイカラー)がお好みでしたか?」

「髪は関係ないよ。変えられることなら頼んでる気がするし」

「それはそう。うーん、どぱーんは大きかったけどヤオモモほどじゃないし」

「カリナさんが大きさ至上主義なら被身子さんに削ぎ取られてますわよ……」

「「やりそうでこわい」」

 

 お布団から出てきた手がグッと親指を立てた。『正解です!』じゃないよ。

 まぁあんまり引っ張るものでもないからさくっと告解しておこう。

 

「厚みというか大きさというか……骨太さ? 筋骨が頑丈そうで何しても壊れなさそうというか、思いきり衝動をぶつけても平気そうな感じ──ってもみんなは今でもそれなりに筋肉質だし骨格の問題だから肉体改造とか無理なトレーニングとかしないでよね、健康第一。

 あーもしかしたら病院のボランティア経験も関係あるのかな、線の細い人を見ると『もっと食べて』が先に立つ……塩崎さんにピンと来なかったのもそれかも? だからその逆の体格に安心感みたいな。今はともかく雄英に来る前は自分より頑丈そうな人ってお母さんしか知らなかったし。天晴さんレベルでも頼り甲斐みたいなものを感じにくいんだよね」

「めっちゃ喋るじゃん……」

「…………」

 

 待って百、無言でマッサージ機【創造(つく)】らないで。被身子もノールックで受け取らないで。

 え、ほんとにやるの? 今ここで!?

 

 ──流石に冗談だったらしく、かなり強い振動が三回ほどあっただけでその機械は動きを止めた。

 生体発電板(バイオパーツ)の無駄遣いだなぁ。今度改めてお願いします。

 

「骨格となると確かに、髪色などのようには変えられませんわね……しかしどうされるおつもりです? 筒美さんに事情を話してお願いするのは確定として、それで頷いて頂けても──」

「そうなんだよねぇ。もう一人を決めておかないと」

「? あ、そっか。二人セットで『取得』しないとマズいんだっけ」

 

 そうそう、透のことを待たせちゃったのと同じ。

 まして火伊那さんレベルの因子だけをお胎に蔵めておくのは真剣に危ない気がする。

 

「候補は居るけど、誰を相手にしても説明と了承のプロセスは要るしねぇ」

 

 いやまぁ、急いで決める必要は無いんだけど。そう続けようとしたら──

 

「ですがカリナさんは我慢などできないでしょう?」

「なんてこというの」

 

──酷いこと言われた!

 

「今こんなに穏やかにしてるじゃない!」

「「被身子(ガミ)さんのお陰でしょうに」」

 

 それはそう。だけど説明の手間が省けるとも言えるんじゃないかな。今もソファに身体を預け、下半身を被身子に慰めてもらっているこの姿の圧倒的な説得力!

 

「この体勢のまま話したら色々と伝わり易い気がしない?」

「断られる確率も上がるのでは……?」

「ダメだヤオモモ、頭回ってないよリナリナ」

「失礼な」

 

 断らせるもんかい。おっと本音が漏れた。

 だけど──

 

「ごめんなさいリナちゃん、流石に私もお尻で初対面はちょっとイヤです」

「それもそうか」

 

──あぁ、なら却下だね。嫌がることを無理強いするような状況じゃないもの。

 

「やっと顔見せてくれた」

「んぃー……」

 

 被身子はようやくお布団を這い出て来た。そしてどーんと甘えてくる。

 

「おはようございますっ」

 

 なんだかべちょべちょになっていた顔面を(ごめん)綺麗にしてから。百にタオルでぐしぐしと拭いてもらうのを、大人しく待ってからだ。

 

 …………? 被身子にしては……?

 違和感、ひとつ目。

 

 それから更に色々と話して、晩御飯の後に火伊那さんの時間をもらうことにした。

 ……夜までの間、ソファから立ち上がることも許してもらえないのは──というか私の下着とか何処にあんのよ──心配かけたせいだと納得もできる。違和感ってほどじゃない。

 だけど。

 

邪魔するよ……邪魔するよ」

「──こんばんは、はじめまして♡」

 

 あっダメだ目の前にすると違和感とか吹き飛ぶわ♡

 

 もちろんすぐに目隠しと拘束をされ、襲い掛かるなんてことはしなかったけれど。

 (立ち上がりにくく感じさせるために)下着も穿かせてもらってなかったせいで、仮眠室のソファを汚してしまった。反省。

 

 タオルを作ってお尻の下に敷いとくとかできたはずなのに、こんな単純なこと*を百が見落とした?

 違和感、みっつ目。

 

 

 皆が揃って私に嘘を吐く……普通はありえないと言い切れることだ。

 そんなことがあるとしたら。私の誕生日は過ぎたばかりだけど、十一日があんなことになったからパーティやり直しサプライズとか?

 

*
第3話『捕食』

*
第32話『見落としにやっと気付いても』

*
正しい。仮にカリナがもっと見境なく因子を交わして“技能”を作っていたら、その半数以上は『作ってから色々試してみないとなんだかよく分からない』となったはず。

*
身近過ぎる相手で想像すると色々生々しいのであえてB組だけから挙げている。

*
カリナが火伊那を目の前にしたら()()()のは当然の帰結である。

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