【完結】愛慾のヒーローもどき   作:土屋 四方

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開戦(2/3)

 

 被身子経由の四ツ橋さん情報、それと私が連れてきた迫さん情報。これにより私たちが攻めるべき場所ははっきりした。

 じゃあ早速出撃だ──というわけにもいかない。

 

 信じたくないことに、敵は監視衛星を保有しているという。人工衛星!? 文字通り想像の遥か上だよ!

 だけど校長は怯まなかった。

 

「逆に裏をかきやすいよネ! 空から見えない動きは“無い”と思ってくれるわけだからサ!」

 

 いやまぁ、あっちからしても高校の地下に大規模な隠し要塞があるとか想定しないか。多少の地下設備があったとしても『長い地下道を掘って衛星の目を振り切る』なんて……時間的にも騒音的にも普通は不可能。警戒する方がおかしい。

 

 だけど実現した。十六日深夜からのたった五日ほどで。

 長ーい直線で監視対象の雄英から離れ、秘密の出入り口を設けたのは人目につかない山奥。当日はそこから地上へ出て群訝山荘や各方面へ散る。分かっている限りの拠点を同時電撃的に襲うのだ。

 

 つまり地下に道を拓いた。

 ……主に霑くんが。

 

「人を重機扱いしやがってクソが」

 

 文句たらたら言いながらもずっと地下にいてこつこつ*働いてくれた。言われてみれば【崩壊】は確かに適任。対象物の硬さとか問わないし、衝撃も何も無いからとっても静かだし。

 

 

 補助的にだけど物間くんも頑張ってくれた。霑くんを【コピー】することで。

 ただ……最初は「やっと活躍の出番が来た」みたいに喜んでたはずが、半日後には顔が真っ青。

 

「うわ、どうしたんです?」

「兵怜……君の知り合いどうなってんだ? なんであんな“個性”を涼しい顔でぶん回せる?」

「【崩壊】ですか? 霑くんはごく自然に使ってましたけど……」

「おかしい、絶対おかしい」

 

 物間くんはファイヤーダンスとかトゲ付きヌンチャクとか、要するに『一歩間違えたら自分が大怪我をする』みたいな例を色々と重ねた。

 

「あー、確かに霑くん自身もケガしてたような」

「やらかしたことあるのにあんな風に使えてるのか……?」

 

 きっと【崩壊】はそういう危うさを秘めているんだろう。暴走した時は実際に自壊してたし、他人の“個性”を使い(こな)すことにかけては一家言ある物間くんがここまで言うんだから。

 その危うさを霑くんが踏み越えられる理由っていうと……慣れと自暴自棄だけじゃないかなぁ。万が一怪我しても霙理ちゃんが治すだろうし。

 物間くんが真似たり見習ったりするべきものではない……と思う。

 

 だけど私は何も言えなかった。

 迫さんの時と同じだ。偉そうにアドバイスとかするのがなんか怖くって。

 

 ……翌日から段々目つきが悪くなっていって、気づいたら弟子というか手下みたいなムーブを勝手に始めてた。止めといた方が正解だったっぽいね?

 拳藤さんがものすごく心配してたし、“戸村のアニキ”こと霑くんも鬱陶しがって私に文句言ってきたけど……別に唆したわけじゃないし。知ーらない。責任取れません!

 

 


 

 

 地下で色々やってることは気付かれてはいけない。空からはもちろん、校内の避難民からも。既に校内にいることが知られているヒーローや学生は──物間くんとか目立つ方だし──地下に長時間こもって姿を消すわけにはいかないわけだ。

 その意味でも霑くんは極めて好都合だったし、迫さんが口説き落としたヴィラン達のマンパワーも大きい。崩落対策の柱を立てていったり、砂みたいにパラパラだけど大量にでる残土を運び出したりね。

 

 あ、ちなみに迫さんの【圧縮】でも静かな掘削はできたのかも知れない。というか本人はそのつもりだったみたい。

 もちろん止められた。リカバリーガールに。

 

「バカ言ってんじゃないよ半死人が!」

「……婆さん……強引すぎだろ……」

 

 どうも拘束代わりに(もちろん負傷が重かったのもある)強めの【癒し】をかけて体力を奪ったらしい。何やら物凄く頑張ってるけど足腰が立ってない。

 だけど流石は年の功。リカバリーガールは厳しいだけじゃないんだよね。

 

「どうせアンタ、止めたって現場に出てくつもりなんだろう?」

「……へぇ。止めないのかい?」

「止めるさ、でもアタシが止められるのは怪我人だけだ。【癒し】が効く余地がなければそんな風に──腰振り過ぎた猿みたいになりゃしないよ」

言い方!

「迫さん興奮し過ぎですよー」

言い方ァ!!!

 

 元気あるじゃないか。

 

 


 

 

■十一月二十二日・午前零時頃

 

 

 そんなこんなで当日、出発の少し前。

 

 今回の私は暗殺者スタイル──つまり被身子のコスチュームだ。

 黒の上下は動きやすさだけじゃなく伸縮性も追求したもの。本来は【変身】のための仕様だけど〔身体変造〕にも都合が良い。構えを誤魔化すことを目的にした外套も色々隠せるだろう。

 顔は晒すつもりなので狐面は着けていない。

 

 

「皆さん、ご武運を」

「無事に帰ってくるって信じてるからね」

「こっちのことは任せておけ」

 

 見送ってくれる百・透・火伊那さんは居残り組──防衛班だ。こちらが敵の拠点を攻めたら高確率で狙われるので空っぽにはできない。

 

 防衛班は一般人を護るって大きな負担がある。

 でも人手が足りないのでいわゆるトップヒーローはゼロだ。オールマイトとホークスも居残り組だけど残念ながら戦力外だろうし。

 それを踏まえても……うん、心配はしていない。校長や百がいて、仮免がなくてもヒーローの卵が沢山いて、透と火伊那さんがいるんだもん。

 

「ありがとう、私たちは大丈夫。どっちかっていうと──」

 

 班分けは防衛班を含めて三つ。

 私たちは群訝山荘を攻める本拠班

 最後の一つが……なんか空気硬いなぁ。

 

「──封鎖班がちょっと心配かも?」

「そう? ……あぁ、言われてみるとせやねぇ」

 

 これから本拠班と封鎖班は急造の地下道を通って衛星の目を掻い潜り、地上に出たら密やかに各方面に散る。午前二時になったら一斉に解放軍の拠点を攻める手筈だ。

 

 封鎖班っていうのはつまり、群訝山荘以外の拠点という近属の逃げ場を潰すのが役割なんだけど……あぁ、多分あっちにも殺害指令が出てるんだな。『もし近属がワープしてきたら即座に殺せ』みたいなのが。

 サンイーターとか顔真っ青じゃん……あ、グラントリノが喝入れてる。大丈夫かなあの組み合わせ。

 封鎖班は人数も多いけど標的も多いから少人数の小隊に分かれるしかないのもあって、なおのこと心配だ。ちなみにインゲニウムとテンヤも封鎖班。

 

 一方、ぐっと拳を握って気合いを入れるお茶子は本拠班。しかも──

 

「でもそれ私ら次第やんな? 本拠地から逃がさんかったらええわけやし」

「それはそうだけど。お茶子も気負わないでね? 一番危ないとも言えるんだから」

 

──ある意味で最前線の侵攻小隊。立ち塞がるであろうヴィラン達を半ば無視して山荘へ踏み込み、近属だけを狙う槍の穂先だ。

 

「……ちゃんと周りを頼るんだよ」

「それカリナちゃんに言われたないんやけど」

「えー」

 

 侵攻小隊にはミルコやクラストも一緒だから滅多なことは無いと思うけどね。敵戦力を把握できてるわけじゃないから確実なことは何も言えない。

 

 ただ、任せると決めた。決めたんだ。

 私たちは治崎の相手に集中する──なんて、これも肩に力が入り過ぎだったのかも知れないな。

 

 封鎖班の一角から何やら楽しげなざわめきが上がった。

 

「口調や動きまで真似るのはやめて頂けないでしょうか!? そもそも僕はそんなカクカクとした動きはしていません!」

「真似ているのはそちらだろう!? 兵怜さんの厚意で特別に参戦しているのだから弁えたまえ!」

「特別なものか正式な仮免持ちだ!」

 

 何も知らずに見るとテンヤとテンヤが言い争っているようにしか見えない。フルフェイスのメットで顔が見えないとはいえ……凄いな、口調も動きも再現度が高い。

 

「百、あれボイスチェンジャーとか入ってないんだよね?」

「ええ、見た目が同じだけですわ」

 

 じゃあ声音も声帯模写ってやつかぁ。身長がほとんど一緒だったのはたまたまにせよ、本当に多芸だなあのオジさん。

 

「兄さんも言ってやってくれ! いやもう拘束してしまおうか?」

「僕の兄を勝手に兄さんと呼ばないでくれないか!?」

 

 巻き込まれたインゲニウム──天晴さんまで「やばい、どっちが天哉だ……?」などと自信なさげになっていくので皆で笑ってしまった。

 迫さんなりに緊張を解してくれてるんだろう、多分。

 

 もちろん、彼を連れて行くことには大いに議論や懸念があった。でもねぇ……迫さんを生かしたまま捕らえておくのって、リカバリーガールじゃなくたって中々難しい。下手するとルミリオンなみに脱出性能が高いから。

 ミッドナイトがつきっきりで睡らせ続けるとかすればいけるけど、そんな人手の無駄遣いはできないし。こんな人を雄英に残していったら……逃げ出すために内側から混乱を引き起こすとかやりかねないし。

 なので本人同意の下で体内に発信機を埋め込んで──もちろん爆破機能とかは無い──連れて行くことになった。

 

(知られている限りでは『人を殺してない&ヒーロー以外を意図的に傷つけてない』ことも大きい)

 

 ちなみに“兵怜さんの厚意で特別に”とか言ってた方が迫さん。確かに天哉くんはちょっと言いそうだけど今この状況では言わないだろう。緊急事態だからではなく、本来戦場に出るべきでない人が()()()()から

 私や天哉くん自身を含む仮免持ちだって本来なら守られるべき側だろうし。自衛できる力を持つヴィランくらいはアリだろう──()()()()()()()()に比べたら

 もちろんその人たちも顔色は良くなくて、迫さんのエンターテイナー魂がその暗い表情を許さなかったのかも知れない。

 

 

 ──あとは、適度に緩んだ空気を校長とエンデヴァーが引き締め直して。

 本拠班と封鎖班は雄英高校から出撃した。

 

 



 

 

本拠班

群訝山荘に攻め入って治崎や近属らを打倒する。配属の基準は主に『直接戦闘力に優れる者』。

カリナ、被身子、お茶子、ミルコ、クラスト、エンデヴァー、ショート、ルミリオンなど

封鎖班

群訝山荘を除く拠点を抑えて近属のワープ先を制限し、もし近属がワープしてきた場合には速やかにこれを殺害する。『移動速度』または『対集団制圧力』で選ばれている。

テンヤ、インゲニウム、ネジレチャン、グラントリノ、ミッドナイトなど

防衛班

雄英高校の防衛を担う。プロヒーローの大多数は出撃したため、防衛戦力の多くは仮免を持たないヒーロー科生徒となる。

百、透、火伊那、ほか多数

 

*
原作の弔と違い【崩壊】が伝播していかないので、地道に歩きながら掘り進む必要がある。




※被身子がどこでなにをしているかはまだ秘密です。
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