オイラ、仮免ヒーローのグレープジュース。ネタを挟む余裕も無え緊迫の
ウラビティが追い立ててきたワープ野郎にLRADをぶちかましたのに、それを二発三発と重ねても奴は気絶しなかった。
仕方なく大爆殺卿(笑)とピンキーが樹から降りて、ウラビティと三人で囲んだからもう決まりだろう──と思いきや、まだしぶとく粘りやがる。隠れて見てると『喋ってねえで叩きのめせ』とか思っちまうけど、そんなん言うまでもない爆豪がいるわけで……予想外に手強いってことなんだろう。
その内に急な雨が降り出して、すぐにゴロゴロ鳴り始めたから慌てて樹を降りた。
ギリギリ目の届く距離に隠れなおす間、近属には見つかってねえ……と思う。
はっきりは分からん。そんなん確かめてられなくなっちまったから。
落雷の直後にやってきたやべえ地揺れ。地震のようでそうじゃない。震動は下からじゃなく横から伝わってきてる。入試の時のお邪魔巨大ロボが何十機暴れたってこんなに酷くはならねえだろうが。
そんな恐ろしいのが──東西の
一体何がと思う内、西からの足音はすぐ視界に迫ってきた。危うく悲鳴あげそうになったぜ。
「え、なに!?」
「冗談キッツいで……?」
ピンキーとウラビティが呟いて、ソイツは更に加速した。その進路には──爆豪。
「死ィねええええ!!」
慣れてるオイラたちでもビクッとしちまうような、つまり本気の【爆破】に見えた。
だが……ソイツは
まぁ易々とヤラれる野郎じゃねーし、躱して反撃しながらもそれが誰なのか見抜いたらしい。
「チィィ! このクソ鳥が特大ヘマこきやがってェ!!」
クソ鳥……
だって、爆豪の閃光で闇に浮かび上がるあの姿は、まるで──まるで、
キメラの筋肉ははち切れんばかりに肥大し、彼の身体は元より二回りほど大きい。バランスが変わったためか腕を前脚のように使っているが、駆ける姿は軽快だ。外側に備えた羽毛は刃のよう。
また背中では、翼とも腕ともつかない黒膜が忙しなく動いている。続けざまに爆豪に襲いかかる様子は手当たり次第にも見えるが、大きさもパワーも危険極まりない。
筋骨隆々とした胴体の上半分や、キメラ元来の狼のような頭部は見えていない。
覆い被さっているのは──【黒影】が変じた闇の衣。
それは竜。まつろわぬ黒竜。
普段は【黒影】の制御に向けている力を、ツクヨミは仮に【
最初は根拠など無い仮説だったが、実際にポテンシャルはあった。例えば『寒い時に梅雨が感じる強い眠気を軽減すること』は実験で成功している。
ただ、言葉の上ではどうであれ【黒影】と【繰手】は不可分の超常だ。だから【繰手】の影響を及ぼすには【黒影】で相手の身体に触れる必要がある。
触れるだけでなく、今回は爪を突き立てた。振り落とされないために、また干渉もし易くなるから。
なにせ“個性”は身体機能である──だから。
遠隔操作でひっそりとキメラに注入された悪夢もまた、ツクヨミに流れ込んでしまう。
“個性”の出力を極大化する
「「ガ、ガ!? ァ、ァァアア!!」」
「ツクヨミ、どうしたのツクヨミ!?」
竜を追ってきたフロッピーが、ウラビティたちに早口で経緯を伝えている。雨音と地響きのせいでほとんど聴こえねえけど、これまで(夏合宿以降)は絶対にフロッピーを襲わねえって話だった【黒影】から既に一度攻撃されたらしい。
ガードに使ったんだろうな、片腕は折れちまってるように見える。クッソ鳥がヨォ唐揚げにすんぞ……!!
しかし、このぐちゃぐちゃな状況はどうすりゃいいんだ。
近属は今んところ動かず竜を観察してる。まさか協力とかしねえでくれよ……?
その竜は爆豪の正面に立ってるが、閃光を受けてもさほど怯んでねえように見える。つーかあの様子、攻撃してるってよりは──進路上の邪魔者を振り払ってるだけ、みてえな。
「アァ!?」
オイラの印象は正しかったようで、距離が開くと竜はあっさり
「っまさかあっちに!? ミネタくん!」
「おうよ! 〔グレープラッシュ〕!」
デカブツの足止めってことならオイラの出番だろ。
東にはフィンガードがいる。治崎の相手はギリギリなはずだ。ウラビティが(思わず本名を)叫んだのも当然ってやつよ。
地面にバラ撒いた【もぎもぎ】を、黒竜はあっさり踏んだ。
鳥っぽくはあるが常闇の足とは思えない蹴爪*が地面とひっついて、しかし止まりはしない。土や泥をボコンと持ち上げて強引に進もうとする。
分かってたぜそうなることは。だが【もぎもぎ】には触れている。一つや二つじゃ不安なとこだが数も充分だろう。
「行かせねぇ! 〔
あのルミリオンを止めるために
「ケロ。ストーカーより犯罪度あがってないかしら」*
うるせぇうるせぇ、今忙しいんでぃ!
黒竜の進行は……止まっちゃいる。だが抵抗がとんでもなく激しい。
空間が壊れるなんてことはない。【もぎもぎ】も剥がれはしない。ただ見たこともねえほど伸びるだけだ。……そんなの、前は何の問題にもならなかったんだが。
ブシュウ、なんて音は空耳だと思いたい。視界が赤く染まったのも何かの見間違いに決まってる。
「っぐぅ! んぐぎぎ……大人しくしやがれ!!」
この覚醒技を使って『固め』てる間、切り離した【もぎもぎ】へのダメージはオイラの頭皮に伝わっちまうのだ。LRADの振動くらいなら良いマッサージだし、ピンキーに溶かしてもらうために力を抜けば
そうなったらコイツは東へ一直線。治崎をボコってくれるなんて可能性もゼロじゃねーが希望的観測が過ぎる。
「もうちょい固めてろクソブドウ!」
「バッカ──」
爆豪の奴、オイラのフォローのつもりか黒竜に襲いかかりやがった。そりゃ判断ミスだろ、近属から目を離すなんて。
ほら、後ろから何か仕掛けてくる。
ウラビティが瞬間移動みてえな速さで妨害に入って……よっしゃあ! 叫ぶ余裕はねえけど!
「ナイスウラビティ!」
ピンキーが代弁してくれた通り【無重力】が入った。
これでヤツは地面に立つこともできねぇし、泥にだって沈んで行きづらくなったはずだ!
──と、思うじゃん?
ウラビティが触れたのは近属の腕の辺り。そこにあった和風な鎧は……ヨロイムシャの【具足】によるもんだろう。
“個性”で作られたそれを消すと、ふわりと浮きかけていた近属はあっさり地面に降り立った。
「なっ!?」
……【無重力】は、服の上から触れたって本体に作用するはずだ。前に上鳴のアホが『脱衣作戦!』とかやって無駄だったから間違いねえ。
だが、【透過】を持つルミリオンがサイコロステーキになりかけたり覚醒【もぎもぎ】に捕まったりしたように──超常と超常は干渉する。【具足】はただ頑丈な鎧ってだけじゃなく、中に“個性”の影響を通さないってことか……!?
黒竜だけでも忙しいって時にクソ……あまりにもクソ……!
「オラオラオラァ!!」
「たんま爆豪! 一旦ストッ──
聞けやバ
「ンだとバカパープルがァ!!」
テメエの連続爆破、【もぎもぎ】に地味なダメージが入ってるだけで黒竜にはろくに効いてねえんだよ!
「溜めろ! デケェの一発かませ!」
「っ……!」
悔しそうに奥歯を噛む爆豪。……あぁ、そういうことか。ヤベェじゃん。
この雨が問題なんだな? 身体が冷えて汗が出にくい。どうにか絞り出しても溜める前に洗い流される。手榴弾型の手甲の中がどうなってるかは知らねえが、今すぐ充分な威力では射てないんだろう。
とすると同じ理由でフロッピーの動きも鈍るわけで……おいおいおいおい、マジで不味くねえかコレ。
黒竜はパワーとタフネスが問題だ。【爆破】でも足りねえとなると倒す決め手が無え。
当面はオイラが止めてられるが……いや、何時間だって食い止めて見せるし、その内に大人のヒーローだって合流してくれる、か?
一方で近属は、絶対に絶対に逃がしちゃいけねえのにその切り札を失ってる。【無重力】は防がれた。【もぎもぎ】は黒竜で手一杯。
今んとこ気丈に頑張ってるフロッピーは寒さと怪我とで万全じゃない。それでも他の三人で──爆豪とウラビティとピンキーで囲めば……ってそれさっきもやってたじゃねーか。倒し切れてなかったわ。
ってことはこっちも逃さず持ち堪える持久戦になる、のか……?
戦況分析の結果──余裕は無い。オイラだけじゃなくみんな似たような評価をしたはずだ。
だから、そんな中で高らかに嗤うのは
「く、くく……ふは、ふははははは! なんたる滑稽、なんたる傲慢! 無様だな常闇踏陰、まさか自分からクスリの影響下に入るとは!」
「「「クスリ……!」」」
ブーストだかトリガーだかいうヤツか。ショッキングではあるが驚きは薄い。そうでもなきゃアイツはこんな風にならない。
「感謝してやろう! 貴様の狂奔は私に、真の“解放”を思い出させてくれた!」
「ピンキー、爆豪くん!」
「指図すんじゃぬぇえ!」
近属が何かしようとしてるのは明らか。ウラビティの合図で三人が阻止にかかるが、消えては現れる──その度に直ってやがる──鎧は実に厄介だ。切島の〔
クソうぜぇ。その鎧のせいで
「
近属は一見バカみてぇなことをやってる。意図は分からん。だが何かマズいのは分かる。
兜の上にまた兜、更に兜……と幾つも重ねて何がしたいんだ? 似たようなことを手足の
……
「──暴力と闘争、勝者の正義! 敗けたくなければ、強くなればいいだけのこと!!」
そして、鎧の隙間を泥が
汚泥で金属を繋げたような姿は、豪雨のせいでちっとも安定しないから余計に不気味だ。
足元の泥もざんざん散っていくから沈んで消えるようなこともできねーみたいだが。それは心底助かるが。
だけどその泥は──恐ろしく軽く、とんでもなく柔らかいらしい。長い首を鞭のように薙いだそのスピードときたら……あの爆豪が避け損ねたくれえだから。
「──ガッ!?」
「そうだ、私はできる! もっと戦える、【
勘弁してくれよ、黒竜だけで手一杯だっつってんだろ。
なのにもう一体の泥竜も、どうやら楽な相手じゃなさそうだ。
194話『異形の双竜』
※近属の能力で操れるのは『ヒトの形のモノ』ではなく『ヒトと同程度のサイズのモノ』です(これは原作の設定)。