【完結】愛慾のヒーローもどき   作:土屋 四方

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 真のラストバトル。



再■(はじまり)被渡我身(ヒトガミ)()

 

 【黒影】(ダークシャドウ)は【OFA】の肉塊を闇の内側に収めてしまった。治崎の身体からもブツリともぎ取られる。

 

「【黒影】ちゃん!? ペッしなさい!」

 

 ────?

 わざと見逃したんじゃないよ!? 本当に!

 さっきまでの【変速】が、その過剰発動によって治崎を苦しめてたのは確かだ。そして常闇くんが【(ハンド)(ラー)】に託したのはそういう苦しみを止めたい・防ぎたいって祈りだった。まるで守護者のような。

 だからこの展開も予想できたっちゃできたけど……無いと思ったんだ。だってこれ、()()()護ろうとしての行動なわけ。この状況でそんな風に考えるのは私ぐらいかと──(おご)りだったね。

 それと私や〔妊身(プレグナント)〕が危険認定されるかなって自意識もありました。反省。

 

 ともあれ【抹消】は切れている。今は悩んでいられない。

 

「治崎、後日また面会に行きます」

「カ、ハッ──!」

 

 抵抗を許さず意識を奪い、【創造】で厳重に拘束していく。

(被身子よりはマシだけど私にとっても【創造】が強いる知的な負荷は重い。通信機を創るとか無理)

 

 【黒影】は……暴れては、いない。たぶん【OFA】を黙らせることに集中してる?

 なら先に暴れてる方からだ。

 

「爆豪?」

「──手ェ貸せ!」

「了解」

 

 ヨロイムシャの【具足】を幾つも重ねてやたらと硬い近属のことも制圧・拘束。簡易()()()()に入れたら足下をお湯で満たして泥対策をしておく。

 

 次は、えっと西かな。

 

「Mt.レディ、山火事の方は」

「怪我人は多いけど、仮免組がすぐフォローに来てくれたしどうにかなってる。火もかなり弱まってるわよ」

 

 その答えに「良かった」と頷きながら……さて、これどうしたもんかな。

 

「カリナちゃん! 常闇ちゃん無事なのよね!?」

「落ち着いて梅雨ちゃん。お茶子、容体は?」

「キメラから引き離した時よりは呼吸も脈拍も落ち着いてきとるよ。それから──」

 

 【黒影】から目を離さないまま耳だけ傾ける。応急処置とかは百と同じくらい熱心なお茶子だから、ピックアップしてくれるのは欲しい情報ばかりだ。

 ……なんか懸念してたより症状が穏やかだな? ともかくそのまま水分と電解質の補給は続けてもらおう。

 

「身体のどこかがひどく乾いたりヒビ割れたりはしてない? 目元、首筋、指の関節あたり見て欲しい」

「んん? んー……無いと思う」

「ありがと」

 

 急激な老化現象も見られないか。今分かる範囲だと大きな問題は無さそう。

 

「常闇くんは病院に連れてけば平気でしょう」

「でもカリナちゃん、ブーストとトリガーの混合だって聞いたの。心配だわ」

「うわエグ。でもそれにしては……あ、もしかしてその薬ってキメラと半々だったり?」

「それは──、ありえるわね。常闇ちゃんが直接注射されたわけじゃないから」

「そっか」

 

 それは不幸中の幸いだ。キメラも命を拾えるだろう。常闇くんが全方面に守護霊してる(二回目)。

 そんな彼の【黒影】はというと、今は猫みたいに丸くなってるんだけどね。ちょっと可愛い。見た目だけは。

 

「【黒影】ちゃ──ケロッ!?」

「ストップ梅雨ちゃん。下手に近付くと駄目みたい」

 

 手を伸ばしかけた梅雨ちゃんに、黒翼は鋭い迎撃で応えた。私が弾かなければ怪我をさせていただろう。ただし背中を引いて距離を取らせればそれ以上の追撃は無い。

 

「抱え込んだモノを護ってる感じかな」

「取り上げるべきよカリナちゃん」

「……んーむ」

 

 【OFA】を安全と言い切ることは誰にもできない。だけど梅雨ちゃんに頷き返すのも難しい。

 取り上げるとしたら力尽くでやることになるわけで、その時に【黒影】にダメージを与えて【繰手】の抑制が緩んだら? 【変速】の状態次第では老化現象が起こってしまう。

 

「治崎みたいにオールマイトの力を取り込むかも知れないじゃない」

「仮にそうなっても常闇くんなら悪いことには使わないでしょ」

「制御を離れて暴れたら?」

「私が殴り飛ばすだけだね」

「ケロ……」

 

 【黒影】+【OFA】、仮にそうなったら脅威は脅威だけど治崎と比べれば楽だろう。

 

 それに、梅雨ちゃんにははっきり言わないけど……取り上げる側にも多大なリスクがある。

 だって【黒影】が取り込んだのって、器質的な構造は肉塊としか言いようがないんだよ。骨も脳も心臓も無い。ここから超常が放たれるなんて考えにくいモノだ。

 こんな非常識を為しえそうな例外を、私は一つしか知らない。……与一さんだ。

 

 彼は全身漏れなく超常器官で、その細胞は恐らく身体全体を把握し溶け込もうとする特性を持っている。とすると──触れた側に『個性を奪う個性』みたいなものが無くたって、勝手に入ってくるおそれが(特に薬の影響下にある今は)否定できない。

 それなら【繰手】で抑えてる現状が一番安全かも知れないっていう。常闇くんマジ守護神(三回目)。

 

「さっきの反撃は私が知ってる【黒影】の攻撃力だったよ。オールマイトの力を取り込んだりはしてない。歯痒いけど……経過を見るべきだと思う」

「……分かったわ」

「ごめんね、見放すわけじゃないから」

「大丈夫よ」

 

 ──?♡ そうだねフラグだね。そっとしておこうね。

 

 

 

「とりあえずここはこんなもんですか……じゃあ私、山荘いってきます。あの中だけまだ戦闘が続いてそうなので」

「あン? 南側は収まってんのか」

「流石にアレの後じゃ──あ、そっか」

 

 訝しむ爆豪たちに掻い摘んで説明する。

 この辺りにいたら暗さと雨とで山崩れが見えにくいんだな。【テレパス】も範囲を絞ってたんだろう。

 

「ヴィランとの戦闘がすぐ止んだだぁ?」

「そういう反応になるのは分かる。でも常識を覆して手を取り合う位に、とんでもなくインパクトの強い光景だったんですよ」

 

 だから、あの天変地異を見てない人たち──屋内にいた人たちだけが、今も殺し合いを続けている。

 

 

 説明もそこそこに、付いて来ようとする爆豪やお茶子を置き去りにして急行したのは正しかった。誇張抜きで殺し合いなんだもん。

 ヴィラン側は筺を装備してる上に薬物まで隠し持ってて、しぶとく抵抗したり一度捕まっても脱走したり……諦めるってことをしない。それはヒーロー側も同じだけど。

 

 どうも山荘内の総戦力は向こうの方が上だったのかも。大怪我を負っても下がろうとしない悪癖がそこら中で悪さをしてて、私は敵も味方もぶん殴って回るのだった。不思議。

 ちなみに一番手を焼かされたボスキャラは、もはや意識を失って無意識だけで闘争を続けるミルコだった。とっても不思議。

 

 もう仕方がないのでリカバリーガールの【癒し】キッスで体力を奪い尽くして制圧──

 今のは浮気とかじゃないでしょ!?*

 

 


 

 

 一段落ついたら休むことを強制された。

 

「いや、怪我人とか沢山──」

「「「休め」」」

 

 なんか似たやり取りを体育祭の後にもした気がする。お言葉に甘えるかどうかの選択肢すら無い。まぁ被身子も疲れてるみたいだし、このお腹だと救助される側も落ち着かないか。

 私もちょっと、()()()に備えて気力体力とっときたいし。

 

 山荘内の荒れていない一室をあてがわれて……というか押し込められて、救助状況とかが何にも把握できなくなってしまった。

 もちろん大人しく寝てろっていう気遣いだったとは思うけど、おかげで通信機の故障が私のせいだって報告する機会が無かったのは不幸な行き違いということで。わざと隠したわけじゃないですよ?

 戦闘終了の連絡にも難儀しただろう。雄英側も心配でならなかっただろう。だからお迎えが来るまでそんなに待つ必要も無かった。

 

 予想通り、真っ先に来たのは百。通信を回復させる意味でも私を()()()()()意味でも手っ取り早いもんね。

 でも根津先生まで連れて来るとは思ってなかった。ここを本部にしちゃえってのは確かに合理的なんだけども。

 

「どうせ今回も色々と隠蔽が必要でしょう?」

「百さん?」

 

 私が関わると秘密が増えるみたいじゃないか──本当のこと言われると傷つくんだぞ。

 

 

 先輩ヒーローの皆さんや霧さんたちとの挨拶もそこそこに、お茶子と合流して一足先に帰還させてもらった。

 

 まだもう一つ、頑張りどころが残っているから

 

 



 

 

 身内以外で唯一〔妊身(プレグナント)〕を明かしてあったのがリカバリーガールだ。

 戦闘が終わったら必要になると分かってたから、予め完全に除菌したクリーンルームを用意してもらっていた。

 さぁ始めよう、最後の戦い(ラストバトル)

 

 

「被身子ぉ! 言うこと聞きなさいッッ!」

「ヒミ様、ワガママ言うたらアカンよ〜?」

「これってちゃんと聴こえてるのかな?」

「どうでしょう。届いていても聞いていない可能性はございますわね」

 

 恋人たちに囲まれて、私は()()()()の上。

 ──あ、リカバリーガールが出て行っちゃった。扉の外にはお父さんがいるらしい。

 

修善寺さん、娘は!?

心配要らないよ。あんたも表に出て手伝いなね

助産師のご経験があるのは貴女だけなんですよ!?

アレがお産なモンかい! 胎児がわざと中に(とど)まってるんだ、じゃれ合いみたいなもんさ放っときな!

 

 うわ、あれ割とガチギレだよ。まぁ外には怪我人たくさんいるから、お父さんが連れてかれたことも含めて納得ではあるんだけど。

 

「ガミさーん、リカバリーガールも怒ってたよ?」

 !────っ♡

「っこら! 余計に中に入るなァ!」

 

 確かにこの光景は出産ではないか……私は分娩台処女も被身子に捧げたわけである。嬉しいのは分かったから出ておいでって。

 

「カリナさん、お気持ちは分かりますが腹圧を切らさないで下さいまし。敵はこちらの呼吸を読み切っています」

「とうとう敵扱いし始めた!?」

「透さんの言葉に反応したではありませんか。事故などではなく意図的なものです」

 

 作戦指揮官モードになった百が私の目にタオルを乗せるとみんな無言になった。なんかハンドサインでやり取りしてるな。

 一人にされてしまったみたいで、私は顔の横の大きな掌をギュッと掴む。

 

「…………」

 

 何も言ってくれないし握り返してさえくれない火伊那さん、完全に呆れ果ててるっぽい。最初はもうちょっと心配してくれてたのに。まぁ欠片もしてくれなかったお母さんよりはマシか。こうして手を握ったからには放さないぞ。

 

 

 いきみ続けるために無言になったら、被身子の情念がより強まった気がする。そう感じられるだけかな。〔妊身〕中の被身子とは言葉を交わせるわけじゃなく、単純で強い気持ちが伝わるだけ。それを勝手に解釈してるだけだから。

 

「お上手ですわよ、呼吸のリズムを崩さずに。そうです、力を入れ続けて」

 

 百のことが好き。けれど邪魔にも思う。

 恋人と二人きりで愛し合えない障害。寝食にアレコレと口出しをしてくる鬱陶しさ。

 正しくてキライ。おっぱいがキライ。

 

「ガミさん、リナリナのお腹びろんびろんになっちゃうよー?」

 

 透のことが好き。同時に目障りだ。

 自分のそれとは違うキラキラした恋。その透明感と穢れの無さ。詰めてくる距離の近さ。

 堂々としててキライ。可愛くてキライ。

 

「わぁ、子宮口ってあんなに開くんや……すっごいなぁ」

 

 お茶子のことが好き。でも気持ち悪くないわけじゃない。

 どうしてそんな慾を嫌わずに肯定できるの。愛される確信は子供の頃にしか得られないの。

 前向きで、現実的で、地に足がついてて、なのに私と似てるなんてズルイ。キライ。

 

「麗日、さすがにその写真は後で消すからな」

「火伊那さんも見たいならこっち来たらええのに」*

「 消 す か ら な 」

 

 火伊那さんも好き。きっかけはズルかったけれど。

 罪と自己嫌悪に縛られて積極的になれないお姉さん。(いい)(わけ)(むり)(やり)が無いと(かい)(らく)にも溺れられない不器用な人。

 歳上の妹キャラとかズルイ。かぁいくてキライ。

 

 ぐずぐずで、とげとげして、だけどひどくもろい剥き出しの(やいば)

 被身子の悪性も愛でてたつもりで、私は踏み込みが浅かった。思ってたよりも更に二段階くらい被身子は悪い子だった。

 そして思ってたより十倍は素敵な人だ。

 

 好きながら嫌う。被身子の感情はツンデレとかじゃない。

 百の公正さ、透の清明さ、お茶子の堅実さ、火伊那さんの篤実さに触れる度、被身子は本当の本気で傷ついてる。嫌な思いをしてる。

 ──なのに信じられないほど、嫌悪や憎悪が無い。『嫌なだけで悪くない』なんて、本心で言い切るのは誰にとっても難しいのに。

 

 少し前までなら自己肯定感の低さ(『自分みたいな悪い子を傷つけるのは悪いことではない』みたいなの)を心配したけど、今はそうじゃないだろう。

 ただ好意が上回っている。みんなの善性に灼かれるのは間違いなく痛みで、それでも喪うのは寂しいと。

 

 ──実は私さ、ほんのりと罪悪感があるんだよ。被身子を縛り付けてしまった、捻じ曲げてしまったって。

 薬物中毒にさせて悪の道に引き込む売人みたいだよねぇ。快楽と安眠を餌にこっ(﹅﹅)()に拉致した感がある。だって被身子はヒーローになんか興味無かったじゃん。

 

 あなたのことが好き。なのにあなたの意思を聞けていない。

 一緒に居たいだけなら私がそっち(﹅﹅﹅)に行く道もあったわけよ。それを拒んで結論を出した──相談もせずに。

 確かに、あの頃の被身子に自分の将来を選ばせるのは難があったと思う。現実的には洗脳に近いことをするしかなかったし、実際にそうした。

 だけど本当はしたくなかったんだ。不可能が叶うなら願いは別のこと。

 

 

 ステキなことをステキと言い切れる、そんな素敵なあなたと……もっと早くに出逢いたかった。

 私はあなたの、幼馴染みになりたかった。

 それか、あなたの──

 

 

 

 言うまでもなく、私の気持ちも被身子には全部バレバレ。

 だから彼女は抵抗を止め、突如すぽーんと出産された。あわわわ、予めとってあった被身子の血を流してあげないと。

 (へそ)の緒を血が流れるごとにぐんぐん成長した嬰児(みどりご)は、標準的なゼロ歳児ほどの大きさになるとすぐ、はっきりと自分の意思を表してみせる。

 

 

「ママ!!

 

 

 そう、私は幼馴染みか──あなたの親になりたいと願った。

 ……あくまで中学生の頃、子供っぽい怒りとしてだけどね!?

 

*
リカバリーガールに【変身】して【癒し】を発動させたのは被身子だが、その唇をどこに触れさせるか決めたのはカリナ。『内腿になったのはたまたまし易かったから』などと供述。

*
火伊那だけがカリナの頭側にいるのは、足の間に立つことをなんとなく遠慮したから。




 ハッピー・セカンドバースデー!
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