【完結】愛慾のヒーローもどき   作:土屋 四方

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※三話連続投稿


愛いっぱいのエピローグ
最終話(1/3)カップリング・ヒーローズ


 

 ダブルイレブンとか呼ばれるあの騒乱から三年ほどが経った。

 無事に雄英高校を卒業し、今は新設のエリクシル事務所に“事務員”として勤めている。

 

 

 今日はお休みを取って、一人でちょっとした遠出。とっても目立つ三色(﹅﹅)()()を帽子で隠し、片道三時間ほども電車に揺られた。

 訪問のし易さなんか全然考えてないし、外観も実に寒々しい。

 まぁ当たり前だね、監獄だし。

 

「こんにちは」

「また来たのか……」

「毎回言いますねそれ?」

 

 連れてこられた治崎はどうみても乗り気じゃないけれど、タルタロス収監中の彼に面会を断る権利は無い。決められた時間が来るまではこの面会室から出られないのだ。

 

(本来なら面会も滅多にできない場所だ。私は治崎撃破の報酬としてここに出入りし易い特権を求めて許可されている)

 

 とはいえ気さくに雑談してくれるような人でもない。防弾ガラスで仕切られた両側にタブレットが用意されているので、早速こちらの端末を操作して将棋アプリを起動した。

 

「今日こそ勝ちますから」

「…………7六()

 

 返事もお辞儀もなく、拘束衣を着せられた治崎は音声入力で駒を進める。

 

 事件の後の最初の面会で、沈黙を繋ぐために誘ってみただけなんだけどね。そりゃあもうボッコボコに負けた。私はルールを知ってる程度だから自分が強いなんて思ってなかったにせよ、あそこまでいいように遊ばれて嘲笑われると悔しくもなる。

 ちなみに今日までは全敗である。

 

「……兵怜カリナ」

「はい? 待ったは無しですよ」

「刑の執行日が決まった」

「……ニュースで見ました」

 

 治崎は死刑囚だ。裁判はとっくに終わっていて、まだ執行されてなかっただけ(政治とか外交とか色々あったらしい──筺の知識って意味で)。

 

「係官にメモを預けてある。親父の墓に供えて欲しい」

「お墓、といっても」

 

 メモとやらは既に検閲が済んでいたようで、スキャンされたものが手元のタブレットから読めた。供えて欲しいお酒の銘柄と、お墓の場所と……。

 

「その方のお(こつ)は入っていませんよね?」

「葬式さえ出せていないからな。だが組代々の菩提寺だ。そこが最も相応しい」

「そう、ですか。分かりました、お引き受けします」

「……頼む」

 

 お寺の立地はかなり良い。ここ(タルタロス)と比べたらお掃除とかで通うのもずっと楽。

 それから──んん?

 メモには命日も記されている。でもそれは八斎會の事務所が壊滅した日ではなく、霙理ちゃんが拐われた日でもない。もっとずっと以前(まえ)の日付だ。

 

 “親父”さんの仇として霧さんを恨んでいたことを踏まえると辻褄は合っていない。その人が前から亡くなっていたならあの激烈な殺意はなんだったのか。

 

「感謝はしない。しないが──」

「……」

 

 まぁ、訊いても教えてはくれないだろう。私たちはお友達じゃないし仲良しでもない。

 もちろんこちらも感謝なんて求めない。求められやしない。

 

「──今の俺は、納得して死を選ぶ」

 

 たった一つだけど、何年も待たされたけれど、問いに答えてくれたんだから。こっちこそ有り難い位。

 でも『良かった』と言えるようなものでもなく、私は無言で頭を下げて席を立っ──

 

「おい。ちゃんと投了ボタンを押していけ」

「はいはい私の負けですよ! ありがとうございました!

 

──ちくしょうめ! ずいぶん手ぇ抜いてたな!?

 

 


 

 

 タルタロスを出て電車で帰る途中、乗り換えのターミナル駅で降りてデパートに寄る。治崎のメモにあったお酒を探してみようと思って。

(ヒーロー免許を提示すれば購入はできる。飲むのはNG)

 

 調べたら九州の焼酎みたいで、そんなにレアなものではないっぽいけど──

 

「置いてない、か」

 

──全くの空振り。覚悟はしてたけどさ、ここらで作ってるものじゃないって時点で。

 

 

 三年が過ぎてもまだ、この国は元通りにはなっていない。電気ガス水道ネットは割と何とかなってるけど物流はまだまだだ。特にお酒みたいな嗜好品は。

 

 群訝山荘での戦いが終わった後、変わり果てたエンデヴァーが謝罪と共に引退を表明、ホークスやミルコも一時休業を余儀なくされた。クラストは(相変わらず元気一杯だったけど)身体的には両手両足を喪ってて、そんな状況に無理をおして退院&復帰したベストジーニストも痛々しい姿のまま。

 つまり“象徴”の不在

 治崎たちを捕らえたことで状況は確実に変わったけれど、『十一月十一日以前』に戻ったとはとても言えない。

 

 

 デパートの中も様変わりしている。服や食べ物みたいに当たり前なものとして自衛用のサポートアイテム──はっきり言えば武器が売られるようになった。

 私たちが使うものに比べれば威力とか控え目とはいえ、ある程度は危険で……だけど今は合法。国民の声におされて規制が緩められた結果だ。

 

 以前は考えられなかったようなコマーシャルもそこら中に流れている。

 

 


絢爛豪華・切れ味錚々♪ \絢爛錚々社/


 

 

 絢爛崎先輩のとこ儲かってるなぁ。一部からは“新たな平和の象徴”扱いされててプレッシャーえぐいらしいけど。

 それを知っててもなお、治崎を倒した誰かさんが名乗り出ないせいで象徴が継承されてないってんだから酷い話だよね。

 

 もちろんそれは校長や目良さんと相談して決めたことで、私的なワガママではない──私の希望通りでもあるけれど。

 これまでは個人(オールマイト)への依存が過ぎたからその反省だ、と。

 

 それもあって余計に絢爛崎ブランドが売れている面は否定できない。がんばれー。

 

 

 ともかくお酒は見つからない。こういうのは造ってる辺りへ行って現地で探す方が早いんだよなぁ。

 仕方ないから駅へ向かっていると──おや? 戻ってきてたんだ。

 

「兵怜、暇なら鼻貸せ」

「久しぶりリベレイター。構いませんよ」

 

 特に説明なくリードつき首輪を差し出してくる爆豪。暴言はだいぶマシになったけど説明がさぁ。迷い犬の捜索なのは分かるけどね。

 匂いを嗅ぐと……むう、近くには居ないな。

 

「んーと。……大まかな方向は分かりました、ちょっと歩かないと特定できないかも」

「闇雲よりは良い。案内しろ」

 

 へいへい。今日は空いてるし、たまには旧交を温めますか。

 

「南は一段落です?」

「もう大丈夫だとよ」

「フロッピー現役復帰かぁ。連絡しとこ」

 

 爆豪は先日まで南の海上を飛び回っていた。海難救助とか国境警備とかしてる梅雨ちゃん常闇くんが産休&育児休業の間、そのヘルプに入っていたのだ。結構長く一箇所に留まってた方かな。

 

 卒業後の爆豪は特定の事務所に所属していない。あちこちをふらふらしている。

 フリーランスサイドキック……とか自分では言ってるらしいけど、やってることはほぼミルコである。行く先々でのさばるヴィランとたまった事務書類を片付けては去っていく(リベ)(レイ)(ター)

 

「しばらくはこの辺りに?」

「ああ」

 

 ふぅん、フリーランスなのにすぐどっか行かずしばらく留まるんだ。ついニヤニヤしちゃう。

 

「三奈が喜ぶね」

「…………」

「おい黙るな。今以上に寂しがらせたら本気で怒りますよ」

 

 本人的には下積みと実地調査で、納得いくまで全国巡ったら公安委員会に入って一気にのし上がるんだとか。

 そういう計画と目標があるって聞いてるから文句は言わずにいるけど、感情的にはとーぜん三奈の味方なんだからね?

 不利な空気を嗅ぎ取って、爆豪は露骨に話題を逸らす。

 

「色ボケ(がらす)、【OFA】のこと未だに不安そうだったぞ」

「えー。常闇くんに影響ないことは何重にも確かめたのに」

 

 特殊な状態だったせいで物理的にも取り込む形になっただけで、【(ハンド)(ラー)】に【吸収】みたいな効果は無い。【OFA】の力を引き出せるわけでもないから、『休眠させてる』って説明が近いだろう。

 与一さんのデタラメ体組織(本人もこう呼んだ)についても、お父さんとじっくり研究して特性を把握できている。その上での大丈夫だって結論だ。

 

「別にパワーが急上昇したとか無いんでしょ?」

「あったら連絡しとるわ。ガキに遺伝してないか不安なんだとよ」

「じゃあなんで子供作ったの」

「だから色ボケってんだ」

 

 常闇くん……。まぁ梅雨ちゃんが幸せそうだから良いか。

 そういう意味での責任感なら爆豪にも不安はない。信用できるからこそ──私は(そそのか)したりしないけど透やお茶子は言いかねないから──三奈から渡されるゴムには精々気をつけることだ。精々。

 

っ寒気が……!?

 

 何か気取られそうになったので、今度はこっちから話題を逸らそう。

 

「そういえば、今日は治崎に会ってきたんです」

「……あぁ、決まったんだってな」

「はい。爆豪は、近属のお墓とか行ったことあるんですか」

 

 近属は事件のあとすぐに刑死している。

 彼らがやらかしたことを考えれば死刑は妥当なのだろう。殺傷した人の数、その残虐性、社会に与えた負のインパクト……どれも目を覆うほどだから。

 ただし彼の行いは、何か大きな種も遺したらしい──

 

「ンな暇あるかよ。行くならバシッと成果出してからだ」

「……そうですか」

 

──爆豪の現在と未来に。

 

 


 

 

 犬探しは特にトラブルもなく完了。

 爆豪と別れて電車に乗ると、車内ニュースが轟くん(ショート)の話題だった。

 というかほとんど粗探し(バッシング)だ。ショートが──エンデヴァーの息子で荼毘の弟が──優秀で完璧なことがそんなに気に食わないのだろうか。とうとう(実名は出ていないものの)冬美さんのプライベートにまで食らいつこうとしている。

 イラッとしながら手伝えることはあるかとメッセージを送ってみると、返ってきたのは実に甘いノロケ。

 

 そうですか、警察への被害届とか全部ミノルンがやってくれましたか──順調そうですね!

 改めてニュース画面に目をやると、轟くんの無表情がものすごい不機嫌(づら)に見えてきた。複雑だよねえ、アレが義兄になるなんて。

 

 

 そんなこんなでお家も兼ねてる事務所に帰宅。

 

 高校時代のあのアパートではない。百としてはそういう用途も見越して建てたらしいけど、色々あってエリクシル事務所は別の場所にひっそりと開業した。

 ひっそり……うん、百基準でのひっそり。庶民に近寄りがたく思わせてしまう高級感はあのアパート以上だ。ヒーロー事務所としての実績や知名度が低いこともあって、お客さんとかほとんど来ない──普段は。

 

おかえりなさいママ!

ただいま被身子! よいしょっとぉ」

 

 玄関まで迎えに来てくれた被身子の全力ハグを受け止め、せがまれるまま抱え上げた。

 重さはともかく身長が二〇センチも離れてない*からちょっとコツが要る。まぁ被身子がバランス崩すとかありえないので、くるくる回りながらちゅっちゅするけど。

 

「今日は何かあっ──()()来てる?」

 

 私の肚から産まれた娘にして恋人、自称・兵怜被身子ちゃん(戸籍まで変えたりはしていない)。その甘々な香りの中に、(かす)かだけど特徴的な(にお)いを嗅ぎ取れた。

 

「いつもの家出です。今日は他にも二人」

「お客さんが多い日だね」

「ですねぇ」

 

 

 被身子の言葉通り、客間にはお客さんが三人。奇遇にも将棋を指していたようだ。

 

「いらっしゃい、霙理ちゃん霧さん」

「カリナお姉さん!」

「お邪魔しています」

 

 ぱっと顔を上げてくれた霙理ちゃんだけど、すぐ盤面に目を落としてしまった。ものすごく真剣に考えているらしい。ちなみに対局相手は霧さんではなくて──

 

「おーい、俺は?」

「ようこそ暇人」

「ひでぇ」

 

──不良息子の轟燈矢くんである。霧さんの警戒心というか敵意が刺々しい。【蒼炎】が失われたのは周知のことだけど、それでもね。

 

 

 彼は……こう、なんというか。

 言うまでもなく、治崎や近属と行動を共にしていた荼毘その人だ。今も(ほの)かに血の焦げた臭いを身に纏う。殺人犯でテロリストで誘拐犯で薬物不法投与者で──それら全てを我がこととして覚えたまま。

 

 そんな彼が、どうしてこんなところで放蕩してるかというと──、

 

*
一二五センチほど。八歳女児の平均。

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