【完結】愛慾のヒーローもどき   作:土屋 四方

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最終話(2/3)フェイキング・カップル

 

 燈矢くんがどうしてシャバに居るか。

 なんでそれが許されているのか。

 

 はっきり言えば〔白焔〕の()()

 『彼と荼毘が同一人物であること』も『彼が複数の人を焼き殺したこと』も、裁判において立証できなかったからだ。医学的な所見に基づけば、【蒼炎】を失った彼は生まれついての無個性にしか見えないのである。

 そしてその個性喪失を起こした〔白焔〕ないし【ヘルフレイム】の方も既に喪われ再現はできない。こんな事態を狙ったんじゃないのは分かるけど、炎司さんさぁ……!

 

 DNA検査で炎司さん冷さんとの親子関係は証明できたものの、その“轟燈矢”が既に法律上死んでいたこともあって──今は死亡届が誤りだったとして復帰させてある──彼は微罪でしか裁けなかった。少しの間は刑務所にいたけどそれだけだ。

 だからってショートをバッシングして良いわけじゃないけど、原因の一つはこの長兄だろう。

 

 しかもこの人、本心を誤魔化すのに慣れ過ぎなのが厄介だ。反省してるのかいまいち定かじゃない。自分でも分かってないんじゃないの。

 そんな彼を、轟家は──(しあわ)せを味わってる冬美さんはやや見放し気味だけど──厳しく気にかけている。それと、たまたま縁があって轟一家の隣人になった二人も。

 

「被身子、冷さんはなんだって?」

 

 燈矢くんを迎えに来ようにも、炎司さんも冷さんも健康とは言えないから外出は一苦労になる。

 だから代わりに()()()()がよく来てたんだけど──

 

「今日はお迎え二人らしいですよ」

は!?

 

──今日は()()()()も来るってことか。

 

 そして今の反応からして、燈矢くんが一番頭が上がらないのは引子さんなのね。そうかそうか、冷さんに報告しておこう。

 

 

「燈矢さんが度々ご迷惑おかけしまして──」

「いえいえ引子さんが謝ることではないですよ。ねぇ燈矢くん?」

「…………」

 

 【黒鞭】に捕らえられて身動きが取れない彼は思い切り憮然としたまま。

 暴れたりしてないのは反省の表れじゃなくただの諦めだ。無個性じゃ脱出できないことをこれまでに何度も理解させられた結果に過ぎない。

 

「反省してへんやろこの人。デクくん、もっとキツく締め上げたったら?」

「そういうわけにも……それに燈矢さん、痛みに慣れちゃってるみたいでさ」

「あ、試したんだ」

「いや、日常生活のちょっとした怪我とかも本当に気付けないらしくて」

「それは危険ですわね。やはり家の中に閉じ込めて差し上げるべきでは?」

「八百万さんまで容赦が無い……」

 

 お茶子、透、百も燈矢くんへの扱いは散々である。優しくする理由が無いし、厳しくしてくれと冷さんから言い付かっている。家の中では炎司さんが“ダダ(あま)らしいので(冷さんがあんなに語気を強めるなんてよっぽどですよ?)。

 

 その甘やかしも家出を繰り返す大きな理由かも知れない。かと言ってそれだけでもないんだろう。

 SNSを“荼毘”とか“轟燈矢”とかで検索すると今日の目撃情報が数件見つかった。場所はこの近辺だけ。

 反省の表し方として歪すぎないかな。

 

「燈矢くん、うちの近くでわざわざ顔晒すのやめません?」

「ずっと顔隠して歩くなんて鬱陶しいだろ」

「それは同感ですが──そんなに袋叩きに遭いたいですか」

「…………」

 

 背後でお茶子が「えっ♡」と悦んで(たしな)められてるけど、実際マゾヒズムと言われても仕方がないんじゃないの。贖罪よりは自傷に近いものに思える。

 (シリ)(アス)なマゾよりは(しり)(あな)のマゾの方が人生楽しんでるだけマシじゃない?(意味不明)

 

 とはいえ、丸きり全部を放り投げた自暴自棄とはきっと違うものだ。引子さんが来るって聞いた時の反応を見る限りでは。

 

「他はともかく、引子さんを危険に晒すことには引け目を感じるんでしょう?」

 

 


 

 

 治崎を倒したことで、全部が良い方に転がったわけじゃない。

 各地で暴れてたヴィランには結構な萎縮効果があった反面、自分たちを『必要に駆られて自衛してるだけの一般市民』だと思ってる人たちはむしろ過激化したほどだ。

 

 特に狙われてしまったのが──炎司さん、冷さん、燈矢くん、引子さん。

 ネットなどに顔写真つきで晒された『戦犯』であり、かつ自衛戦力が無い四人。

 

 事件の後は雄英高校で保護されてたんだけど……そもそもあそこは学校であって警護施設とかではないから、国難が明けてもずっとそのままとはいかない。それで緑谷くんの卒業と正式なヒーロー免許取得、燈矢くんの刑期明けとかを機にお引越しした。

 

 とはいえ緑谷家はご近所から普通に知られてるし、轟邸はもっと有名。無人の間に荒らされたりで住める状態ではなく──そこで私たちが住んでいたアパートである。

 ヒーロー事務所としても使えるよう堅牢に造られた(地下にはパニックルームもある)建屋に出入り口や内壁を増やして、使い方としては二世帯住宅に近い。

 緑谷くんは住み込みで、地域のヒーローも持ち回りで警護を分担する感じ。ちなみに“地域の”には雄英の教員も含まれたりする。すぐ近くだもんね。

 

(まるごとお買い上げ頂いたし工事費も轟家持ちなので、私と被身子は百への借金を踏み倒すことに決めた。最初から請求されてないし)

 

 


 

 

 ともかくそんなわけで、三人を送り出すには人目を気にする必要がある。服にせよカツラにせよ変装を施さないと。それに【黒鞭】も隠さないといけない。

 というわけで今日もラブラブカップルになって頂こうか。見た目上ね、見た目上。

 

「いつも思うんだけど僕が女装する必要なくない!?」

「男同士よりは目立たんやろ?」

「いい加減慣れないもん? 見てよ燈矢くんの平然ぷり」

「それは死んだ目っていうんだよ葉隠さん!」

「緑谷、これ着けてみないか」

「筒美さん今度は編み物にも目覚めたんですか!?」

 

 うふふ、人を飾るのは楽しいなぁ。

 私の着道楽とお父さんの着せ道楽(()たち(﹅﹅)限定)が感染したのか、みんなもノリノリで楽しむようになっていた。火伊那さんなんか趣味で始めた手作りアクセサリーを通販で売り始めてる位だ。

 ちなみにウケ狙い要素はゼロなので出久ちゃんは普通にスポーティでマッチョな女の子になる。人を貶めて愉しむ趣味は無い。

 まぁ緑谷くんの反応が毎回新鮮で愉快なのは否定しないけど、それは結果的に得られるだけだ。主目的はあくまで(ファッ)(ション)(あん)(ぜん)である。

 

「今回こそ男女逆転してみようよ、一度もやってないでしょ?」

 

 緑谷くんは苦し紛れに訴える。気持ちは分からなくもない。

 要は【黒鞭】が人目に触れないようぴったり寄り添って歩きたい(もっとはっきり言えば燈矢くんの脱走を阻止したい)のであり、かつその姿が目立たない必要があるってだけだからね。

 だから確かに緑谷くんは男装でもいい。でも燈矢くんに問題がある。趣味の面で良過ぎるが故に、実益の面で却下一択だ。

 

「前も言ったじゃないですか。燈矢くんの女装は洒落にならない美妖女になっちゃいますから。逆に目を引くんです」

「そこはお化粧とかでどうにかなるんじゃ……」

「元々綺麗なものを色褪せさせるなんてイヤですが?」

 

 趣味全開の発言に緑谷くんは唖然。だけど周りはうんうんと頷く女性ばかり。

 なお引子さんも我々の同志なので尚のこと逃げ場がない。

 

「出久が男役のところ、あの人に見られたら困るでしょう?」

──そんな関係じゃないからね!?

「隠さなくたっていいじゃないの」

 

 実際、引子さんが愉しんでるのはあからさまだ。だって仮に男役でも元の顔を誤魔化すような変装はさせるから、噂の女性に見られたってそれほど問題は無いはずだもん。

 

 ──燈矢くんはそのことにも気付いてるだろうけど、歯向かっても無駄だと良く分かってるようだ。虚無である。

 

 


 

 

 三人を送り出した後、霙理ちゃん霧さんと一緒に夕食を囲んだ。

 ちなみに二人が来てるのは“霑くんへのお仕置き”らしい。

 

「迎えに来て謝ったら帰ってあげる。それまで一人で寂しくしてたらいいんだ!」

 

 ぷりぷり怒ってる霙理ちゃんと、最近ますます仲良しな被身子が頷きあう。

 

「ですねぇ」

「ね!」

 

 霙理ちゃん的にも背が近い相手は接しやすかったのかな。ちなみに九歳になった彼女は先日被身子の身長を追い抜いた。すくすく育っててえらい。

 

 要するに『実家に帰らせていただきます!』的な状況だ。実家じゃないけど。

 原因は後回しになっていた。霧さんが“明らかに霑の愚ですが、緊急性や危険性はありません”って言うから。

 改めて火伊那さんが問うと──、

 

「で? 具体的には何やらかしたんだあいつ」

「霙理の交友関係に口を出しました。新しい友人が男子と聞いて、“連れてきて挨拶させろ”などと」

 

──思ってたよりずっとハートフルに馬鹿馬鹿しい感じ。まだ小学三年生だよ?

 

「霙理ちゃん、学校は楽しい?」

「うん!」

「良かった」

 

 とってもいい笑顔いただきました。一年ぐらい前に通い始めた頃はストレスが上回ってる感じだったけど心配要らないかな。

 

 霧さんの答えに、百・透・お茶子は噴き出しそうになった笑いを必死で堪えている。被身子は霙理ちゃんと一緒になってご立腹。

 そして火伊那さんは──子供は好きだけど苦手、霧さんとは馬が合うらしい──もう呆れることさえないようだ。期待が枯れ果てている。

 

「あいつ、自分から謝れるのか?」

「出来るようになってもらわねば困ります」

 

 応えた霧さんも『今は出来ない』って見做してますよねソレ。霙理ちゃんが手のかからない子だからか、世話焼きなところが霑くんに振り向けられているようだ。

 

(なお霙理ちゃんは学校の算数や理科が退屈らしい──簡単すぎて。霧さんとかなり先まで進めてたせいだろう)

 

「しかしあまり遅くに出歩きたくはないので、そろそろ迎えに来て欲しいところですが……」

 

 面倒見の良すぎる霧さんは時間を理由にしつつ、結局は霑くんの尻を叩いてあげることにしたらしい。

 夕食後、『ベッドへ向かう霧さん霙理ちゃん&そのベッドで待つ兵怜カリナ』みたいな写真を撮って送ったのである。わざわざムーディな照明にして『これから抱かれてきます♡』みたいな雰囲気を強調したやつ。

 

 ──効果は実に覿面(てきめん)で、彼は大急ぎで迎えにきたのだった。

 

 



 

 

 同日、夜十時頃。

 

 夜のトレーニング(性的な意味でない)を終え、そろそろ汗を流してベッドに入ろうか(性的な意味で)というタイミングで警報が鳴った。

 

 エリクシル事務所のヒーロー業務──その裏の顔だ

 

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