【完結】愛慾のヒーローもどき   作:土屋 四方

22 / 202
2. 解れはじめた これやそれ

 USJがヴィランの襲撃を受けた日の夜。

 わたくしと被身子さんは、兵怜のおじさまが勤める大学病院の廊下で、ただじっと祈ることしかできずにいます。わたくしが創れるようなものは最初から揃っておりますから。万全の医療体制は喜ばしいことです。

 少し前に特別処置が始まった一室には、多くのスタッフと共にあのエンデヴァー氏も入っていかれました。最後にはおばさまと、見知らぬ白髪の女性が入室して扉が閉まり──それから何時間も経った気がします。実際にはまだ三〇分も経っていませんが。

 

 一時間とかからないはずだと、おじさまは仰っていました。

 そう聞くと簡単なようですが、全身の血管を解凍しなければ血液は巡ることができず、解凍してしまえば細胞は酸素を必要とし始め、手早く心拍を取り戻さなければ命に関わります。他方で手足が濡れていては電気ショックを施すこともできず、前もって人工心肺を繋ぐことも難しく──つまるところ、時間との勝負なのです。一時間ほどしか『かからない』というより『かけられない』と言うべきでしょう。

 難しい施術です。前例もありません。

 ……それでも。カリナさんなら。あの方達なら。

 

 これほどに長い夜は初めてでしたが、時が止まるわけではありません。

 とうとう開いた処置室から笑顔のおじさまが現れると、私達は矢も盾もたまらず駆け込もうとして──感染対策はどんな時も(おろそ)かにするなと、厳しくお叱りを受けました。はい。申し訳ございません。

 

 

 

 

 ガラス越しではあるものの、カリナさんの寝顔に赤みが差し、胸も穏やかに上下するのを確認させてもらった後、被身子さんとアパートに帰りました。入院中の着替えなども必要ですし、わたくし達も仮眠を取りたかったからです。

 

 明けて翌朝、七時過ぎ。

 この日は臨時休校となったのでもう少しのんびりもできましたが、わたくしは一足先に起床して食事を済ませると、クラスの皆さんにお送りするメールを書き始めました。

 

 皆さん、あの惨状を目にしてしまったのです。彫像のように固まった級友を。被身子さんの哀願に押された轟さんが慎重にカリナさんに触れ、『心臓まで凍りついてる』と告げたのも聴こえたでしょう。

 轟さんは口に出してから『しまった』という顔をしていましたが……確かにあれはショッキングでした。直前までオールマイト先生さえ跳ね飛ばしそうなほど暴れていた被身子さんがくったりと力を失い、あの爆豪さんでさえ顔色を真っ白にしていたほどです。

 ……まぁその被身子さんは今、カリナさんの枕を抱えてよだれを垂らしているわけですが。

 

 ともあれ皆さんのご心痛を長引かせる意味はありません。明け方近くにおじさまから届いていた最新情報もあわせて整理しつつ、意識は戻っていないものの心拍と呼吸は戻ったこと、ひとまず命の危機は乗り切ったことなどを全員に送信します。

 反応はすぐに、大量に届きました。

 

『よかった!』『いや良かったっていうか』『ごめんね嬉しくて』『嬉しいも違うかな』『喜ぶべきことだろう』『すまねェ、俺が余計なこと』『早く良くなるといいね!』『さっさと治せ』

 

 くすりと微笑みつつ、略儀ながらまとめて御礼を伝えておりますと。

 寝室から、引き絞るような悲鳴とドタバタという騒音が聞こえました──ああ、着信音で起こしてしまいましたか。寝起きで愛しい人が居ないことに慌てて……今ごろ落ち着いて赤面している頃でしょうか。

 

「おはようです、百ちゃん」

「おはようございます、被身子さ──っと」

 

 照れ臭そうに笑いながらダイニングにやってくると、そのまま上半身を預けるようにぐでーっとわたくしに(もた)れてきました。正面に抱き留めたその身体は普段より体温が低く、隠しきれない震えも不安を表しています。

 無理もないことです。ですがわたくしに甘えてくるのはとても珍しくて……場違いにも、本当に猫のようだと愛おしくて。

 

「食事にしましょうか。まだ温かいですし」

「ん……も少し後にします」

「食欲がありませんか?」

「あんまり。でもちゃんと食べますよ」

 

 良かった。昔の被身子さんは気が向かないとすぐ食事を抜いていましたからね。

 ぽんぽん、と褒めるように頭を撫でて。……それでもまだ、彼女は不安に苛まれています。

 

 どうしたらそれを和らげられるでしょうか? わたくしが最初に抱いたのは、誓って、彼女を(いたわ)る純粋な祈りでした。

 次にこう考えたのです。カリナさんならどう励ますだろうか、と。

 

 そうしたらその、答えは一つしか浮かびません。これはわたくしの欲ではないと主張したい所存です。

 ですがわたくしの首にしがみつく被身子さんはいつも通りサイズオーバーなパジャマを着ていて、ちらちらと白い肌が覗くのです。その冷えた肌に血を通わせる手管もよく知っているのです。ならばこれは善意なのでは?

 

 しかしわたくしは動けませんでした。

 被身子さんやわたくしが望んだ時、どちらかの体調が思わしくない時、カリナさんは一対一でお相手をしてくれることもあります。が、わたくしと被身子さんが彼女抜きで睦み合ったことはありません。意図的に避けていたわけではなく、あの方が年中無休なだけですが。

 

(“個性”の応用──と言って良いものか、カリナさんは生理を半日で済ませて後も引かないような便利技(?)を身につけています)

 

 わたくしは……被身子さんを抱いても良いのでしょうか。お誘いしたら頷いてくれますでしょうか。断られたら気不味くならないでしょうか。

 そんな迷いで、こちらの体温まで下がりかけた時です。

 

「んっ……? んむ」

 

 いきなり唇を塞がれました。戸惑うものの、押し返すようなことをすれば被身子さんは傷つくでしょう。今の彼女は割れ物のように儚げなんですもの。受け入れて応じたのはわたくしの弱さなどではございません、ええ断じて。

 

「っふ、百ちゃん、お願いです」

 

 わたくしを真上から覗き込むような被身子さんの瞳。この昏い熱を彼女の中に見るのは初めてな気がします。カリナさんがしばしば浮かべる、“個性”による欲動の炎なのでしょう。

 

「血を、くれませんか」

 

 …………口付けには許可を求められなかったことを、どう受け止めたものでしょう。呆れはありつつ悪い気分ではないのですから、我ながら始末に負えませんわね。

 わたくしは微笑み返して自ら服をはだけていきます。待ち切れないというように、被身子さんの唇が鎖骨や首筋に降り注ぎました。

 

 ──そのまま血を吸ってくれれば、それで済んだはずですのに。

 

「私のことも、百ちゃんの好きにしてイイですから──んむ」

 

 カリナさんといい被身子さんといい、人を煽るのがお上手過ぎではありませんか?

 口を塞がれたら血が飲めないなどとぐずるので、彼女の八重歯に強く舌を押し付けてやりました。これで文句はないでしょう、もっと吸ってください。もっと。もっと。

 

♡♡

♡♡

♡♡

 

 同じ日の……お昼過ぎ。わたくし達は入院に必要なものを揃えて病院にやってきました。

 カリナさんはまだ特殊な病室にいて、わたくし達はガラス越しのモニタールームまでしか入れません。そこにいた兵怜のおじさまおばさまからは、とてつもなく生暖かいような、少しだけ責めるような、それでいて申し訳なさそうな、そんな複雑な視線を頂戴してしまいました……。

 

 そうですわよね、昨日までのわたくし達の様子を思えば今日も朝イチ、面会受付が開く前から押し掛ける位が予想されるところ、寝坊にしても遅すぎる時刻ですものね! 完全にお察しされましたわ!

 それでもご両親だけならまだ良かったのです。今さらといえば今さらですから。

 

 しかしそこには、クラスメイトも二人いて。片方には明らかにバレている様子です。

 

「ヤオモモ、制服じゃないんだね……ふーん」

「今日はお休みですし、別に病院に不適切な服でもありませんわよ?」

 

 一人は制服姿の透さん。もちろんお顔は見えませんが、なんとなく首もとにじっとりと視線を感じます。制服が学生にとっての正装なのは承知しておりますが、ハイネックを着てきたことに特別な意図はございませんったら。

 

「お前らのことだ、心配して朝まで眠れなかったとかだろ」

「まぁその、ええと……」

 

 返事に困るフォローをくださるのはラフな私服の轟さん。

 というか、彼は何故ここにいるのでしょう? 来ていけないこともありませんが、やや唐突で意外に感じられます。

 

「俺は──お袋が、ここに入院してて」

「まぁ、お母様が。お見舞いの帰りに寄って下さったんですね」

「いや……」

 

 轟さんのお話に耳を傾けます──いえ、ほら、何やら深刻なようですし。決して話を逸らしているわけではないんですよ透さん。

 ちなみに被身子さんは、部屋に入った直後からガラスに張り付いて動かないのであてにはできません。自由ですわね。

 

 

 轟さんとお母様との関係は何やら複雑そうではっきりしませんでしたが、どうも彼はお母様に頼まれて(?)カリナさんのお見舞いに来たようです。そうしたら兵怜のおばさまと二人になって、お父上(エンデヴァー氏)の悪口で盛り上がっていたとのことですが(それはそれでどうなのでしょう)──それより聞き捨てならないことを仰いましたね。

 昨晩、カリナさんの蘇生を、手伝った? エンデヴァー氏だけでなくお母様も? あの白髪の女性──それはつまり、ご夫婦揃って命の恩人ということではありませんか!

 非常に多忙なトップヒーローに直接お礼を申し伝えるのは難しいですが、入院しておられる奥様なら体調さえ許せばお会いできるでしょう。さぁ轟さん、案内してくださいませ!

 

 


 

 

 百ちゃんってこう、本当に時々なんですけど、本っ当にポンコツなんですよねぇ。

 

 

 轟くんとお母さんの間に何かあったのは私でさえ分かったのに、お母さんの病室に轟くんまで引っ張っていくんですもん。お礼を言いたいのは私達なんですよ?

 マズいんじゃないかな、でも百ちゃんだから何か考えがあるのかな、と思ったらノープランでびっくりしちゃいました。お相手の容体とかはきちんと確認してましたけどね? クラスメイトの話も聞きましょう?

 

 病室に突撃してしまうと、引きずってこられた轟くんは今さら出ていきづらいものの視線が定まらず、お母さんは多分轟くんが会いに来てくれて嬉しかったけど無理やり連れて来られただけなのを察してがっかりしてて。

 その中で、百ちゃんはぼろぼろ泣きながらお礼を言うんですよ。

 この空気どうしろっていうんですか、地獄ですか?

 

 轟くんのお母さんが(したた)かな人で助かりましたけどね。

 一通り百ちゃんの話を受け止めた後、轟くんと席を代わらせた上で……彼が逃げないようにしてくれと頼んできたのです。

 轟くんがあまりにも困った顔するのでどっちの味方しようか迷っちゃいました。そこから始まったのがお説教なら私は彼を逃がしたかも知れません。

 でも違いました。

 謝って、悔いを漏らして、自身を(なじ)って。ついでに旦那さんへの不満をぶちまけて──いえ、ついでというより本題ですかね──随分と長いこと(もつ)れっぱなしだったらしい感情の糸玉を、解きほぐすんじゃなくてハサミでじょきじょき捌いてしまうような暴露話。轟家の闇というか、とんでもなくプライベートなことを聞いてしまった気がします。轟くんも感極まって泣きそうになるし。

 やっぱり地獄ですかね?

 百ちゃんもなんか貰い泣きしてましたけど、この状況ほとんど貴女のせいですよ?

 

 

 

「本当に、本当に申し訳ございませんでしたっ!」

「頭上げてくれ八百万。結果オーライってやつだ」

 

 病室を出てすぐ、百ちゃんが冷静になって深々と頭を下げます。轟くんは確かに、ちょっとはスッキリした感じになりましたね。少なくとも固まっていた状況が動き始めたのは確かなのでしょう。

 でも、ずっと空気についていけず冷静になっちゃってた私からすると──最大の問題が手つかずなんですよ。何かって? 決まってるじゃないですか、炎ですよ炎。すっごく勿体ないですよね、ソレ。

 

「轟くん、今から私とっても悪いこと言いますけど、最後まで怒らずに聞いてくれます?」

「…………聞かせてくれ」

 

 百ちゃんは止めたそうですが、彼が聞くと言っているんです。口は挟んで来ません。

 近くの休憩所がたまたま無人だったので、隅に集まってぽそぽそと話します。あんまり聴かれたい話ではありませんから。

 

「学校のみんなは知らないことですが、私の“個性”には大きなデメリットがあります。今はそれを抑えてもらってるだけで、昔はすっごい振り回されて、苦しくて……危うくヴィランって位でした」

「それは……」

 

 轟くんが悲しそうな顔で何か言おうとしてきましたが、首を横に振って遮ります。これはそういう、哀しくて泣けるお話ではありませんから。私の苦しみは単なる前提です。

 

「そしてこの“個性”、両親のどちらとも全然似ていません。こういう突然変異みたいなの、たまにあることらしいですね。ただそうなると私視点では、本当に親なのか疑ったりもできるんですけど」

「…………」

 

 轟くんの場合ははっきり遺伝だって分かりますよね。“個性”の効果も外見も。本人からも周りからも。それなのに──

 

「でもね轟くん。自分の“個性”の源流(ルーツ)がはっきりしてなくて良かったなーって、私は思うんです」

「?…………なんでだ?」

 

──なのに考えても分からないのは、たぶん彼がイイ人だからなのでしょう。

 “個性”による苦しみが嘘でないのなら、ワルイ子はきっとこう考えるはずですから。

 

「私にこんな“個性”を継がせて苦しめた()()がはっきりしてて、それが眼の前にいたら──殺しちゃってたかも知れませんから」

「!?」

「あは。予告しましたよね? 悪いこと言いますよって」

 

 不思議です。本当に不思議。

 どうして轟くんは、あのメラメラおじさんを殺そうとしないんでしょう? 怒りも恨みも不足はなさそうなのに。

 

「父親の“個性”を封印? そんなことしてヴィラン以外の誰が喜ぶんです? むしろその炎で! お父さんを焼き殺してしまえばいいのに!」

「おま……それは…………」

 

 轟くんはしばらく絶句して──それから、フッと表情を緩めやがりました。あぁ、本当に根っからのイイ人じゃないですか。

 

「そいつは、クソ親父が何より嫌がりそうなことだな」

「でしょ? トップヒーローになってあげたら喜ばせちゃいますよ」

「そうだな、大火傷させてやるか……ならこっちも鍛えねえと」

「そうですか」

 

 彼の脳内だときっと、私が悪者めいた極論で応援したみたいな解釈になってるんでしょうけど。私は文字通りそのまんまの意味で言ってますからね? 百ちゃんは冷や汗かいてるのでちゃんと伝わってる様子。嬉しいです。

 

 

 

 轟くんは何やらやる気に満ちた感じで帰っていきました。ロビーからその背中を見送りつつ、(かたわ)らの百ちゃんにそっと寄り添って甘えます。

 

「──被身子さん?」

 

 …………残念なことに、私がどうしてこんなに尖ってるかまでは伝わりませんでした。なぜだか、リナちゃんなら分かってくれる気がするんですけど──ううん、お友達を較べるようなのはダメですね。言わなきゃ伝わらないの、当たり前ですし。

 

「イヤなこと言いますけど、いいです?」

「隠される方が嫌ですわ」

 

 ありがとうございます。ありがとう、ごめんなさい。

 これはきっと百ちゃんのことも刺してしまう刃です。けれど言わずにはいられません。

 

「望まれて産まれたくせに何が不満なんですかね……」

「! 被身子さん、それは!」

 

 百ちゃんが止めるようなことを言うのは、なんとなく分かるんですよ。

 轟くんだって産まれた後に辛いことはあったんだ、とか。私だって望まれなかったわけじゃない、とか。

 分かりますよ。きっとその通りなんでしょう。どうであれ前を向けと、百ちゃん達は言うんでしょう?

 

「私も、あんな風でいられたらなぁ。親の執着を拒みながら応えたり、人の言葉をいい方に捉え直したり、自分が努力を貫いた先を信じられたり。

 そういう善さを、私も持ってたらなぁ」

「──」

 

 望んだわけではありません。こんなヒーローらしからぬ、悪さで歪んだ私になろうだなんて、一度だって願った覚えはない。私がもっといい子だったら──なんて、そんなのとっくに諦めてはいるんですけどね。

 でも、だから、轟くんや百ちゃんの正しさは時々鬱陶しいほど目映いのです──んむ?

 口を塞がれました。それもがっつりと舌を絡めてきています。受け身が多い百ちゃんにしては積極的ですね。

 やがておでこをぶつけあって少しだけ唇を離すと、真正面から睨みつけてくる百ちゃんの眼光はこれまでで最高に鋭いものでした。

 

「わたくしはですね、被身子さん」

「あの、百ちゃ──」

「お黙りなさい、わたくし少々怒っておりますの」

 

 むぅ。それなら聞くしかありませんね。

 

「カリナさんはどうか知りませんが、わたくしは。被身子さんの過去を好きになったわけではありません。そして実のところ、現在もさほど重要ではないのです」

「…………えっと?」

「仮に明日、被身子さんが罪を犯しても。健康や美貌を損なっても。何かの事故で記憶を失ったりしても。わたくしの親愛に変わりはありません」

「それ、は……」

 

 そんなの嘘です、とは言いませんけど。

 でもそれ、じゃあ何を愛してるのかって話になりません?──なんて、私が疑問に思う程度のことは先回りされています。百ちゃんなので。

 

「わたくしは、貴女が選び取ってくれた未来を(とうと)く思ったのです。過去がどうであれ、今が悪であれ、被身子さんは並び歩く明日を目指しているではありませんか。

 それとも貴女、何かあれば諦められるとでも?」

 

 それは卑怯というものです。私にリナちゃんを諦められるか、だなんて。それこそ罪を犯しても、身体を壊しても記憶を失くしても。

 きっと私はまた恋をする。

 同じ道をまた選ぶでしょうね、確かに。

 

「轟さんに見せたような底意地の悪さは見ていて不安になります。ですが決して、被身子さんの悪性(ソレ)を嫌ったことはございません。善く産まれたかったなんて、哀しいことを言わないでくださいませ」

「……哀しいこと、ですかね?」

「仮にそうなら出逢えていたか分かりませんわ」

 

 ぽそりと呟いて、百ちゃんは私の胸元に顔を埋めます。それでようやく、彼女も不安だったに決まっていると思い至りました。

 リナちゃんがいない、この状況で。不安を露にする私を慰めることで、百ちゃんは多少の強がりを得られたのかも知れませんが……甘えてしまって、いましたね。

 

「ごめんなさい、百ちゃん」

 

 なので今は、彼女の求めるままに、優しく抱き留めてあげましょう。

 今更ですけど歳上ですからね──私だって恥ずかしくないわけじゃないですが。

 

 

 

 百ちゃんは忘れてそうですが、ここは大学病院の玄関口ですよ。キスしてくれた時点ですっごい注目されてたから、私はちゃんと止めようとしましたよ?

 少し落ち着いてから状況に気付いた彼女は、この世の終わりのような顔で退散する羽目になりました。

 仕方がありません。百ちゃんなので。

 

 




 本作の被身子はこんな感じです。よろしくお願いします。
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