ポンコツ百ちゃんはすっかり使い物にならなくなってしまいました。
公衆の面前で私の唇を奪い、ほとんどプロポーズみたいな情愛を囁いた上で縋り泣いたのがよほど恥ずかしかったようですが、それならやるなという話なので慰めてはあげません。私だって恥ずかしかったんですから。
仕方が無いので、真面目な話があるという透ちゃんと三人でアパートに帰ってきたわけですが。
リナちゃんは本当に平気なのか、目覚める見込みはちゃんとあるのかから始まって、その辺りの不安を私なりに頑張って拭ってみたところ、飛び出してきた透ちゃんの本題は──
「いつになったらえっちなことして貰えるの!?」
……本人は大真面目なんでしょうけど、これはちょっと予想外でした。
マスコミ侵入騒ぎがあって食堂で頭を打って以来、透ちゃんとは良くおしゃべりをしています。どうも歳上の私を呼び捨てにはしづらいと言って、『さん』付きの面白いあだ名も考えてくれました。
リナちゃんの“個性”のことも百ちゃんから説明を受けて、それでも好きだって言うんですから私は歓迎です。麗日さん(でなくても、【透明化】と相性の良い誰か)と話が付くまではえっちな関係はナシってことにも納得してくれましたし──してましたよね?
「そのつもりだったけど、今日病院に来る前、ヤオモモとガミさん絶対お楽しみだったでしょ?」
「そうですねぇ」
「そんなの羨ましくなるじゃん!」
「……そうですかねぇ?」
「なるの! なったの!」
ぷんすこしている透ちゃん。
個人的にはそういうのって、場の空気にあてられでもしない限りは好きな相手にしか抱けない気持ちだと思うんですが。
というか普通に心配です。
実は透ちゃん、USJの中央広場にいたらしいんですよ。黒モヤのワープ(?)に巻き込まれたみたいで。…………つまり、リナちゃんがひどい目に遭っているところを傍で見ちゃったってことで。
まぁ楽しい話ではないので蒸し返しませんけど。
「透ちゃんは私達ともシたいと思うんですか?」
「え? ヤオモモから“個性”の話きいてずっとそのつもりだったよ」
「でも今、リナちゃん寝てますけど」
「それなんだけどさ、その……笑わないでね?」
言いづらそうにしていましたが、聞いてみれば単に
「でもほら、初めては面倒とか嫌われるとか雑誌で読んで……」
「リナちゃんは気にしませんよぉ」
「でも、えっと──」
──なんだか話がモタモタするなぁ、とは思ったんですけど。色々理屈をこねてるのは全部後付けで、結局『いつになったら』が本音でした。つまりムラムラきちゃってるのですね。
落ち込みの反動で空元気ふり絞ってるとか、その手の心配はあんまり要らない気がします。となればこちらも本音で答えないと…………でも、うーん。
やっぱりちょっとだけ誤魔化しましょうか。
「ごめんねぇ透ちゃん。それでもやっぱり今は待ってほしいのです」
「それって……リナリナが目覚めて、お茶子ちゃんと話がつくまで?」
「いえ、透ちゃんがリナちゃん抜きでもいいなら麗日さんは関係ないです」
待って欲しい理由は他にあります。それを話して欲しくてさっきから百ちゃんに視線を送ってるんですが、気付いてもらえません。私のすぐ横にいて話は聴こえてるはずですから、肩を揺すって正気に戻ってもらいます。
「ほら百ちゃん。例のメガネ、どの位でできそうなんです?」
「メガネ?」
「あぁ、そう、そうですわね──」
頭を振って咳払いをして、ようやく百ちゃんが帰ってきました。照れ屋さんなところもかぁいいのですが、今いじると話が進まないので我慢ガマン。
「申し訳ございませんが、現在開発中の『透さん観察グラス』、略してTKGが完成するまで待って頂きたいのです」
「なんでそんな略し方しちゃったの?」
食堂の一件以来、百ちゃんが頑張って創ろうとしているのは、その名の通り透ちゃんを見るためのメガネです。
ふざけた
「だってこれが広まったら貴女の“個性”が無力化されてしまいます」
「っそれは、」
「ですから企業などには頼まず、わたくしだけで創れるようにしたいのです」
「……ヤオモモ……」
そうです、根っこにあるのは透ちゃんの安全に対する気遣いです。『実物が何なのか推測できない呼び方が良いよね』といって
それと、百ちゃんが言いにくそうな厳しいことは私から言っちゃいましょうか。
「欲を言えば、透ちゃんにはそのメガネも欺けるくらい“個性”を使いこなして欲しいんですよねぇ」
「ハードル上がったよ!?」
「じゃあ、百ちゃんの創ったアイテムが奪われて透ちゃんが傷付けられたら?」
「そ、んな、の……」
『私のせいじゃん』とか言おうとしましたか? たとえそうでも、百ちゃんが気にしないはずなくて。それは透ちゃんにも分かったようです。肩を落としてしまいました。
慰めるように百ちゃんが畳み掛けます。
「いずれにせよ、わたくし一人ではまだ時間がかかります。恐れ入りますがもうしばらく、お待ち頂けますか?」
「……うん……」
よし、納得してくれました。メガネの完成待ち、それまでえっち無し。
と、思ったのですが。
「うん…………?」
あ、透ちゃんが腕を組んで……首を傾げてます? ダメっぽいですね。
「なんか良い話っぽくされたけどさ、別にそのメガネ関係なくない?」
「何を仰るんですか、透さん」
いやぁこの場合は透ちゃんが正しいですよ。百ちゃんは真顔ですし真剣ですが、言おうとしてることはトンチキな内容です。
「透さんのお顔やお身体が見えなくては、
「なゃ!? そこが問題だったの!?」
「大問題でしょうに。それとも、わたくし達の手がどこに触れているのか、それをどう感じているのか、常に詳しく実況して下さいますか?──そういうのもアリですわね」
「ヤオモモそんなキャラだったっけ!?」
思い切り影響受けてますよね。リナちゃんはこういう言動がジョーシキとは違うことを分かってて、口にする場合は大体が本音+ツッコミ待ちなんですけど、そこにツッコミを入れてたはずの百ちゃんがいつの間にか染まりきってるんですねぇ。こういうところが危なっかぁいいんです。
「え、ガミさんも同意見なの? 私がおかしいの?」
「や、私は見えなくてもイケる──イカせ──まぁその、できると思いますけど」
「それもなんかやだぁー!」
やだって言われても、百ちゃんだって出来るはずですよ? 私達の間で目隠しは定番アイテムの一つなんですから。
「じゃあじゃあガミさんはなんでダメなの?」
「だってこっちだけ裸みられるなんて恥ずかしくないです?」
「そこなの!? 気にするとこおかしくない!?」
おかしいと言われて、私はちょっとムッとしたようです。配慮に欠ける言葉を返してしまいました。透ちゃんは透明だからって裸に慣れ過ぎだ、なんてちょっと言い過ぎでしたね。
ちょっと半泣きで大騒ぎしちゃいましたけど、透ちゃんの初めてのお泊りは楽しく賑やかに、そして健全に過ぎていったのでした。
──そうなんです、透ちゃんったら予めご両親に外泊の許可とってきてたんですよ、こっちには言わずに。しかも初体験済ませるつもりで。
なんか凄い下着もってきてましたし。通販で買ったけど履く勇気は出なかったんですって。面白い子ですねぇ。
※この夜はまだえっちなことしません。