この章は全体が『八百万百:ライジング』でもあります。
1. まず自らを追い込みます
きわどいタイミングで到着したお父さん達にことの次第を報告する。
「『止められなかった』んだね?」
「『間に合わなかった』かな。今はもう止めてる状態」
予想通り、アパートに来たのはうちの両親だけだった。但し色々とお察しされた。はいはい今さら今さら。
「前にも訊いたけどもう一度。〔身体変造〕や〔熱遷移〕の時はカリナ自身の意思で『適合』を始めたんだよね?」
「──うん、それは間違いないよ。因子を取り入れたら勝手に始まるとか、そういうんじゃないはず」
そう、これまではそうだった。
今回だけが違っている。
「何か、覚えのない“個性”……みたいなモノ? が増えてて。それが『適合』を勝手に後押ししてきた感じ。その知らないナニカを咄嗟に止められなくて、こんなに……膨らんじゃった」
それより今は、ほんの三〇分ほどでぽっこりと膨らんだ私のお腹のことだ。妊婦さんでいうなら六ヶ月目くらいだろうか、元の体型とははっきり違っている。
眼が覚めて被身子達とわんわん泣いてる途中から、なんだかお腹に違和感があって。そんなつもりなかったのに気付いたら『適合』が始まってしまった。しかもなんだか凄いスピードで。
私から話すべきことを話すと、お父さんは「ちょっと待ってね」と断ってから……何かのリストを
「……これかな、【個性高速発動】。他人の“個性”の効果自体を速めたり、使用後のインターバルを縮めたりできる“個性”。相手の状態は問わないらしい」
「あーうん、そんな感じ。『適合』する気は全然なかったのに、ぐいぐい来たんだ」
頑張って停めたらすぐに私のお腹も落ち着いたから、多分それなんだろう。膨らんだお腹が凹む気配もないし。
「……あ、私が凍ったのもそれのせいなのかな?」
「なるほど、制御できなかったなら説明はつくか」
USJでの私は完璧に凍りついていたらしいけど、狙ってそうしたわけじゃない。というか必死すぎて良く覚えてない。
ただ〔熱遷移〕をそんな強さで発動するだけの因子は持ち合わせがなかったはずだ。【高速発動】みたいな何かが無いと、百達からざっと聞いたような結果は生み出しようがない。
「コストとして対象者の体力を消費するとあるね。カリナ、疲労感は?」
「感じない……けど、自信ないかな。さっきまで再会ぼろ泣き祭で、今も高揚感が強いから」
それはそうだろう、と頷いてから──お父さんはじっとりと私達を眺める。うわーなんて分かりやすい視線。
「………………」
「分かってるよ! 軽く食べたら大人しく寝るよ!」
流石に病み上がり──死にかけ上がり──からエロいことに精を出したりはしないって。
あ、お父さんからすると因子が無くなってて被身子達を襲うことを心配してるのかな。『ヤることヤれって言うべきだけど女の子達には言いにくい』、みたいな?
実はその心配も要らないんだけど、それって被身子達が私を
「じゃあ後は安静にね。また様子を見に来るよ」
「え? あ、うん、ありがと……?」
お父さんにしてはあっさりしてたな……? まぁ助かったからいいか。*1
ちなみにこの後、私は少しだけおかゆを食べると意識を失うように眠ってしまったらしい。喜びと【先物代謝】で分かりにくかっただけで相当体力を削られていたようだ。
四〜五日とはいえ昏睡状態。私は知らない間に色んな人のお世話になっていた。
エンデヴァーさんともう一人、冷却系の協力者さんには病院経由でお礼状を送ったし、学校の先生方やクラスの皆にはメールで無事を伝えたけど……それじゃ済ませられないと感じるのが、透とお茶子だ。
特に申し訳ないことになってしまったのは、私が昏睡した後で『いつになったらえっちなことして貰えるの!?』なんて素晴らしいことを叫んだという透。そういうの大好物なのでぺろりと頂いて──しまいたかったんだけど。
本っ当~~に申し訳ないし残念なんだけど、体力の温存を優先させてもらった。お腹の大きい状態で不測の事態に巻き込まれたら困るからだ。
〔身体変造〕の時も〔熱遷移〕の時も、こまめに検査してもらって推移は記録してある。それに照らし合わせると、今のまま安静にしてれば残り二週間くらいで終わりそうな見通しだ。
対して、【高速発動】で『適合』を強引に進めた場合のデータはない。どうなるか分からない。だから基本的にはやらないつもり。
そもそも今はそれが出来るほどの体力もないのだ。とにかく安静にして【先物代謝】に活力を溜め込んで、もしものことがあれば【高速発動】でぱっとお腹を引っ込められるようにしておきたい。安心と安全のために。
そういうわけで、今回の体育祭は泣く泣く見学することに決めた。そして透のお相手をきちんとするのも、日程的に体育祭の後になりそうだ……ごめんよう。
「これはこれで楽しいから良いけどね?」
「そこで喋るのやめっ……んん」
実はお腹が大きい間はほとんど性衝動がないんだけど、因子を溜めておいて損はないので程々にシてもらっている。上手すぎるとこっちの体力が削られるので自重して欲しい。
♡♡
お茶子はまだ良いんだ、被身子に可愛がられて──本人的には──幸せそうだから。
でも透は
そんな彼女の願いに答えて、夕方に一時間くらい、ただゆっくり見つめ合うだけの時間を作った。もちろん〔身体変造〕で眼を改造した状態で。
「…………透、私は良いけど、これ楽しい?」
「うん! 人と目が合うのってすごいステキ!」
「じゃあにらめっことかしてみようか」
「! やってみたかったの!」
……透の体質を思うと、ちょっと泣きそうになっちゃったよ。
ちなみに眼をこの状態にしてると、普通の可視光はほとんど感じられなくなる。つまり文字通りの意味で
予想はしてたけど、彼女が帰った後は眼を戻して被身子や百とも見つめ合うことになった。すごい照れ臭いんだけど、これ毎日やるの? いや二人がやりたいなら良いけど。嫌ではないけど。
♡♡♡
──ちなみにお茶子にもかなり申し訳ないような、そうでもないような。どうなんだろうなアレ。
被身子によると主に性的なことへの興味本位で、私の衝動を抑えるのと覚醒を促すことを口実にしつつ、これっきりのつもりでウチに来た……らしいんだけど。私が目を開けた時にはほぼ全裸で──首輪と手錠と口枷だけ着けて──顔面に跨がってたんだよね。なんでかなぁ、不思議だねぇ。
それ以来お茶子は被身子のことをヒミ様と呼んでいる。調教しちゃってない!? これ無理強いしてない? 平気?
「一番喜ぶことをしてたら自然と……」
「ヒミ様を責めんといて! 私からお願いしたんやから!」
被身子の側が困惑してるっていうね。本人が言うなら無理やり止めさせる理由もないんだけど……うん、なんか、ごめん。
目覚めてから数日後の朝。私はやけに緊張していた。
クラスの皆と会うのは体感で数日ぶり、皆にとっては約十日ぶり。さほど長く離れてたわけじゃないけど……今日は特別な日だしなぁ。
えーと、そもそも私って皆の前だと敬語キャラだったっけ? ここ何日かラフな話し方しかしてなかったから自分でも違和感だけど……そうそう、小学生の頃に憧れた年上お姉さんの話し方を真似したのが始まりだったっけ。
被身子がノックしてから開けてくれたドアに、百に
うし、元気に行くぞ。
「おはようございます! 皆、心配かけてごめんね!」
選手控え室に、わっと喜びの声が溢れる。
「兵怜さん!」「おはよう!」「ケロ、元気そうで良かったわ」「薄幸系女子、イイ……」「峰田いい加減にしろ」
そう、今日は体育祭。
私は残念ながら不参加である。そして、もしかしたら私以上に残念がっているのが──言うまでもなく彼だ。
「さっさと治せや。治り次第ぶっ殺す」
「私も残念ですよ、バクゴー」
口にしている内容を別にすれば、普段よりはほんの少し優しげな気配がしなくもないけど。それでも九割以上は純粋な戦意をぶつけてくるところ、変に同情されるよりはよっぽど安心感がある。
同情が悪いってことはないんだけど、
「八百万は二週間もすれば良くなるって言ってたが……」
「立てぬほど悪いならテレビ越しでも良かったのではないか」
轟くん、常闇くん、他にも何人か。そんなに真剣に心配されるとちょっと反応に困る。
今の私は車椅子で、しかも秋冬用のだぼっとしたポンチョみたいなものを被っているから、寒がりの病人みたいに見えるのは分かる。
でもごめん、これお腹を隠してるだけなんだよね。この状態でも立てるし歩けるんだよ、お腹の膨らみがバレるってだけで。激しい運動は遠慮するけど体調自体は万全だ。
「まぁまぁ、家族も一緒だし心配ないですって。それより皆は体育祭に集中してください。でないと──」
にっこり、笑顔で溜めをおいて注目を集めてから。
煽る。
「──バクゴーに
「…………アァ?」
「てめーが出ねぇなら俺が優勝に決まってんだろ殺すぞ」
「待て爆豪。それは俺が貰う」
「んだぁ半分野郎。このところ随分やる気じゃねぇかアァ?」
なんか男子達が勝手に盛り上がり始めた。待て待て。
「ここ数日の訓練のVTR、相澤先生に見せてもらいました。その上で贔屓目なしに、勝率は百が五〇%。バクゴー二十五%。轟くんは十五~二〇ってとこでしょうか」
轟くんを十五としても三人合わせて九〇%。つまり名前の挙がらなかった他の皆は、全員一割未満。
私は一方的にそう決めつけた。その数字に──皆の視線が私の頭上を飛び越え、車椅子の後ろに立っている百に突き刺さった。顔は見えないけど彼女の空気は揺るぎない。いいぞ、喰われるどころか呑んでやれ。
「わたくしに勝てないようでは、カリナさんと競うまでもないでしょう」
「煽るねぇ百。ま、そういうことです。百を退けて優勝できたら、私がサシで模擬戦でも訓練でも付き合ってあげますよ」
「今なんでもって言っブグェ」
──凄いな。視界の隅で紫っぽい何かが被身子に踏み潰されてるのに、誰もそっちに意識を逸らさない。百と皆の間に灼けついていく闘志が、ハウリングを起こすみたいにどんどん熱を高めていく。
うん、気合い注入はこれで充分でしょ。
「じゃあ私は失礼しますね。クラスの皆とは離れた席ですけど、ずっと観てますから」
にこやかに言うと百が車椅子を引いてくれた。
被身子と三人で廊下を進んで……控え室を充分に離れると。
「カリナさん……ハードル上げ過ぎではありませんこと……?」
「挑発するのは百だって納得したじゃん?」
「あんな数字は聞いておりませんわ! 第一、わたくしの勝率が五割ってご冗談でしょう!?」
「被身子はどんくらいだと思う?」
「三割ちょっとですかねぇ」
「私は三割五分くらいあると思うな~」
へらへらと笑っていると、百が泣きそうな声で聞いてきた。バクゴーはどの位かと。私と被身子の声が揃った。
「「四割」」
「…………」
少ししたら頭上から、「“Plus Ultra”……ですわ……」とか零れてきた。そんなにか細いプルスウルトラ初めて聞いたよ。
そこは厳重なセキュリティに護られた秘密の空間。入ることはもちろん知ることさえ許されない魔王の居室。
だから当然、今そこは無人である。生き物の姿はなく照明なども最小限。サイドボードで控えめに明滅するデジタル時計の表示が、動き続ける唯一のものだ。
──正確に言うなら、それは時計ではなくタイマーである。数字は刻々と減っていく。
章の変わり目の反応乞食です!
百合展開を阻害するというだけの理由でラスボスを早期退場させた本作を見放さずに読んでくださる皆さま、よろしければ感想・ブクマ・評価・ここすきなど何かしらでお伝え頂けると嬉しいです。
この章は一日の出来事を描く関係で(=夜が挟まらないので)R指定要素は控えめですが、百が
以上乞食でした。次話はもちろん体育祭開会します。