障害物競争に続く第二種目は騎馬戦。
そのチーム編制のために設けられた相談タイム中のフィールドを見渡しながら、お父さんを呼んで近くに来てもらった。
冷さん達がいるのにちょっと感じ悪いけど、ヒソヒソと言葉を交わす。
「(ねぇ、私の元々の“個性”に何か変化ってあった?)」
「(百さんに渡したレポートが全てだよ。何か違和感が?)」
あのレポートは当然全て読んである。本来は子宮内に集中してるはずの個性因子が、何故か全身に散らばったこと。昏睡してる間に元通り子宮に集まっていったこと。その際に正体不明の何か──【高速発動】と思われる──を取り込んだこと。
たぶん最後のやつの影響だとは思うんだけど。
「(前より良く見える気がする。他人の“個性”が)」
「(知らない“個性”の効果が見えてしまうのかい?)」
「(そこまでは。今見えてるのは………個性因子の多い部位、なのかな?)」
被身子や百は満遍なく全身が。お父さんは内臓全般と中枢神経が。お母さんは胃の辺りが。
「(身体の一部が光ってるというか、目を引かれるというか?)」
お父さんは少し考えてから、やっぱり【高速発動】に関連づけて答えた。
その“個性”は元々、触手のようなものの先に生えた針を相手の特定部位に刺すことで、意思を問わずに加速させるものだったという。その際に個性因子の多い部位を狙う必要があったなら、必然そういう鑑別眼もついてくるだろうと。
私はそれを子宮に引き込んでしまったせいか、お父さんが【自己再誕】と呼んだ私自身の“個性”しかターゲットにできないみたいだし、どう頑張っても触手なんか出てこないけど。
触手……欲しかったな。欲しかったなー!
「(カリナ、思ってることが顔に出てる)」
「(お父さんだって分かるでしょう!?)」
「(僕はどう反応すれば良いんだい)」
などと馬鹿な話をしている間に。
眼下では騎馬の組分けが決まっていた。
ざっと全体を見渡して。
注目の騎馬は……四組かな。
「戦闘訓練の時も思ったけど、君ら二人が組むのヤバくない!?
騎手バクゴー! トップ切島くん! バックに轟くんと瀬呂くん!
いやー意外な組合せですね、解説の渡我さん」
「そ~ですね~、轟くんは断りそうでしたけどね」
脈絡なく実況ごっこを始めたのに即座にノッてくれる被身子。大好き。
「性格的にも騎手やりそうだし、それ抜きにしても片側が塞がれるの不利だよね?」
「そうですね、あれだと
「最近は
「ですです。でもバクゴーになんか言われて結局頷いたみたいでしたよ」
「あのバクゴーが! 人を説得! 間違いなく一千万ハチマキ狙ってるね~」
「あの人は一人でも狙いそうです」
「分かる〜〜」
完全にノリで始めたんだけど、A組のことを余り知らない冷さん達が興味深そうに聞いてるので、なんか
「えーっと百達は
「リナちゃん?」
アイテムの持ち込みができるのはサポート科だけだ。そして彼女はどうやら両目に超常性が集まっている。ムフフ。
ぎむぅ、と頬が強くつねられた。
「注目のポイントはどこですー兵怜アナ?」
「えっあっとっ、騎手の緑谷くんだね。彼、使うと反動で怪我しちゃうから障害物競争は“個性”封印してて、それでも二位なんだよ。勝因は主に機転と無茶」
「フィジカルはそこそこですけど、騎手としてはどうですかねぇ」
「予想は難しいけど突拍子もないこと考えてそうって感じだね。騎馬の機動力も高そうだし」
普通に評価するなら機動力以外に突出したものは乏しいとも言えるけど。とはいえ意外性ってのは割とイヤな武器だ。
「私あそこが気になります。梅雨ちゃんの」
「私も気になる、あれ騎手どっちなの? 騎馬は【複製腕】障子くんのみ! 背中に【もぎもぎ】峰田くんと【蛙】梅雨ちゃんで、圧巻の防御体勢!」
「二人とも小柄ですもんねー」
障子くんの多腕がハエトリグサのように背中の二人を包んでいる。そして僅かな隙間から粘着性の球とか舌とかが飛んでくるのだ。
「……あそこが一千万とったらぴったり閉じて引きこもっちゃいます?」
「あー。それはあるね、困るね、なるほど」
騎馬への直接攻撃は禁止だから、それをされると一位確定だろう。ゲームの敵なら定期的に蓋が開いて弱点が晒されるものだけど、彼らにそんなことをする理由はないんだし。
機動力と得点力は平均以下としても、補って余りある防御力だ。
「じゃあ最後に大本命──騎手、【透明化】の透!」
「ジャージの袖、肩から切っちゃったんですね。両腕が完全に見えません」
「トップは【エンジン】の天哉くん!」
「走る速さならダントツですよねぇ」
「バックは【酸】の芦戸さんと【創造】の百だぁ!」
「なんていうか手堅いです。真っ当に強そうというか」
「うんうん。床を溶かしながら【エンジン】で滑ってくの、速いだけじゃなく騎馬も安定するみたいだね」
百達の騎馬はフィールドを滑るように円を描いて移動している。馬上の透は前後左右に身体をよじって……動作の慣らし、かな。
食堂で頭を打った一件から、彼女も私達の自主練に参加するようになった。まだ筋トレとかがメインなので目立った成果はでてないけど、元々の運動センスは悪くない。ぶっつけで騎上のアクロバットとかは無理そうだけど、練習すればすぐできるようになる。そんな感じ。
「開始から三分、練習タイムって割り切ったみたいです」
「騎馬の方も飯田くんに引っ張られることに慣れて、透の足場としてもどんどん安定してきてる」
ちなみにこの騎馬戦の試合時間は十五分。そろそろ本格的に動く頃かな?
──そう、とっくに試合は始まっている。三分以上前から。
「初めて組むチームなんだから練習するに越したことはない……とはいえ、ねぇ?」
「まさか、ですよねぇ」
流石に実況のマイク先生も会場もどよめいていた。
騎馬戦の開始直後、透は自らハチマキを投げ捨てたのだ。
点数が大きいから勇気はいるけど、やってみればメリットだらけなんだよね。
他のチームから狙われなくなる。チーム練習の時間を取れる。
そもそも、恐らくこれは決勝戦ではないから、次へ進むだけなら一千万に拘らない戦略もアリだ。
でもここで開会式の宣誓が効いてくる。あんな
「うひー、中央の乱戦がひっどいね」
「山田先生が大忙しですねー」
一千万の所有権は次々移っていき、周りのチームのスタミナを奪う。
そして同時に、もう一つ重要なものを漏洩させる──情報だ。
戦場の外周をぐるぐると巡りながら、冷徹に見渡す百。あれは怖い目だ。どんなに強い
「あは。なるほどアレは『
「分かるー。百が攻めてくる時って勝ち筋見えた後なんだもん」
開始直後にも、バクゴーチームは当然のごとく透に突撃した。けれどその豪腕を振り降ろすことはできなかったわけだ。ハチマキを持ってない騎馬への攻撃は反則だから。
彼は当然苛立つ。そして恐らく分かってるだろうけど、その苛立ちは百が仕掛ける罠の一つに過ぎない。
正面から殴り合えた私との戦闘訓練なんか全然ラクだったでしょ、これと比べたら。
「さて解説の渡我さん、注目の騎馬を二組ほど追加しましょうか」
「ですね、あの金髪くんは流石に外せません」
「B組の人だね。名前は確か物間くん」
B組四人で構成されたあの騎馬は現在の首位。そして一千万ハチマキを最も長く保持しているチームでもある。あのバクゴーにしつこくつけ狙われながらだ。
「“個性”は【物真似】とかでしょうか。器用ですね」
「そうだね。それに大胆」
彼はあのハチマキを、バクゴーほいほいとして利用している。
空中をどっかんどっかん跳ね回るバクゴーは確かに脅威なんだけど、それが一番厄介なのは接近されちゃった時だ。目の前から視界の外に出られると対処が間に合わなくなる。距離を取ってちゃんと視野に収めてる分にはまだ凌ぎやすい。
物間くんチームは空中に壁みたいなものを作る“個性”を二人がかりで使い続けてバクゴーを退けつつ、離れすぎないよう距離を調節している。それが怒りを誘い続け、その爆発は他のチームを近付きづらくさせる──つまり
効果的なプランニング。大胆な実行力。それらは高く評価できる。……でもなぁ。
「ただ、見下すのは良くないです」
「うん。……だけど実際、バクゴーがああいう手に出るのは意外だよね」
いくらブチ切れ爆太郎でも、あんなに見境なく爆煙を撒き散らかすことはない。事実バクゴーは何かを察知して騎馬に戻り、あわせて動こうとした物間チームが……つんのめって転びかけて、しかし転ぶこともできずに固定される。その足下には
それなりに離れた位置から、梅雨ちゃんが一千万のハチマキを抜き取った。
バクゴーがクラスメイトをアシストした。あるいは使った。いずれにせよ彼がやりそうもないことだ。
本当は独力で勝ちたいんだと思うし、物間くんもそう読んでたから驚いてる。A組勢も先生方も驚いてる。
でも意外というなら轟くんに声をかけた時点で『らしくない』。第一種目で百に千切られて、形振り構っていられなくなった故の苦渋の決断。今の彼は周りを利用することを躊躇わない。
完全防御体勢を取れる障子くんの背中にハチマキを引き入れさせてなるものかと、周囲の全チームが群がる。電撃が、荊が、黒い影が、梅雨ちゃんの舌から奪おうとし──その全てを、爆圧が蹴散らした。
特別観覧席の前を覆うガラスがビリビリと揺れて、冷さんと冬美さんが悲鳴をあげる。
「きゃっ!?」
「ひうっ!?」
「ッ!──う、わぁ」
私も感嘆の声が漏れた。
これまでとは一線を画する大爆発。何をしたのかと目を走らせると──妙に汗だくのバクゴーと、薄く氷をまとっている切島くん達。
「なるほど。冷さん冬美さん、とど──焦凍くん、左側も使いましたよ」
「えっ、炎は見えなかったけど」
「それに凍ってるよ?」
「炎は出さずに熱だけ操って、騎手の発汗を促したんです。今は騎馬の冷却中ですね」
確かにバクゴーのやつ『ニトロみてーな汗』って言ってたけど、汗だくになると威力が上がるとは。
しかもそのパワーをちゃんと制御下に置いてる。さっきまでの目眩ましを兼ねたものよりずっと煙が少なく、爆炎も(梅雨ちゃんの舌を気遣って?)控え目で、代わりに全てを圧倒的な爆風で──いや、爆轟で*1──押し潰した。
反動で本人は真上に打ち上げられたけど、零れ落ちたハチマキは瀬呂くんのテープが絡め取っている。もちろん今度も他のチームが群がろうとするが──二筋の氷壁が挟むようにテープを守った。
「焦凍!」
「やったやった、一位だよ母さん!」
降りてきたバクゴーがハチマキを首にかけ、当然首位に躍りでる。それを喜んではしゃいでる冷さん達には悪いんだけど──あまり長続きはしないかも知れない。
「透達が動くみたい」
「はい。やっぱりあのチームの逆側から」
不穏なものを感じたのか、冬美さんが訊ねる。
「『あのチーム』って? あの透明な子以外も要注意な感じ?」
「後から追加で挙げようとしてた『注目チーム』のもう片方ですよ。……騎手は知らない人なんですけど」
ヒーロー科はB組も(名前が怪しい人もいるけど)顔を覚えてるから違う。サポート科ならアイテムを着けてるだろうからこれも違う。となると普通科なのかな、あの紫髪の男子は。
「普通科なのに注目ってことは、沢山ハチマキ集めてるのかな」
「えっと、元の一本プラス二本奪って、今は三本ですね。でも順位は低めです、低い点のハチマキばかりなので。堅実路線、に見えますけど……」
どの辺が注目なの? と冬美さんが不思議がるのも無理はない。というか私や被身子にもはっきりは分かってない。
でもあのチームに何かあるのは確実だ。
「百がずーっと警戒してるんですよ。注視してる時間で言ったらバクゴー以上かも知れません」
「うわぁ、それは何かありそう」
「でしょ? でも……腹を決めたみたいです。仕掛けますよ」
騎馬戦開始から五分。残り時間は十分。
透達の騎馬は現在〇ポイント。動き始めて最初のターゲットは、一千万ハチマキを確保したバクゴーチーム。
逆転が、始まる。
タイマーは刻限へと至った。
ありうべからざることだが、
その情報は事前に設定された宛先へと送信された。
受信側では録音してあった音声が自動再生される。
『不測の事態が起こったようだ。この音声が流れたなら、僕は敗北ないし死亡したものと捉えなさい』
『もう君を止められる者は居ないだろう。君は自由だ! 僕の仇討ちや義理立てなど考える必要はない』
『もし腹いせをしたいというなら行きなさい。君の
信じがたい内容。しかし疑いようもない
ならば。ならば。
人知れぬ山奥から。
進撃が、始まる。
『AFO早期撃破』というフラグが何もかも変えてゆきます。