【完結】愛慾のヒーローもどき   作:土屋 四方

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2.捕食

 家に帰ると、当然がっつりとお説教を食らった。

 

「カリナ、分かってると思うけどそういうのは後から同意を確認するものじゃないんだよ」

「はい……」

 

 お父さんの言うことは尤もだ。

 いや、ほんの少しだけ『理性吹っ飛んでたんだから仕方なくない?』とも思うけど。でも──そう言い返せる筋合いが私にはない。

 

「渡我さんと目が合うその時まで、“個性”の衝動は全く無かったのかい?」

 

 お父さんももう分かってるみたいだから、素直に深々と頭を下げた。

 

「隠しててごめんなさい。一週間くらい前から自覚してた」

 

 ちゃんと報告・相談して、その上で理性が飛んだなら『私にはどうしようもなかった』って開き直りもできたかも知れないけど。恥ずかしがって抱え込んだ私には無理だ。

 それでも、「次からちゃんと大人を頼って欲しい」の一言で済ませるお父さんは器の大きな人だと思う。体格は我が家で一番小さいけど。

 

 

 お説教を短く済ませてから詳しく事情を聞いた両親は──私と渡我さんのことを、警察沙汰にはしなかった。

 事実としては報告すべき事件があったんだから、これは揉み消しに近い。お父さんもお母さんも随分悩んだみたいだけど……最終的には届け出ないと決めた。

 

 被害者(?)の私達が揃って自分を加害者だと思ってて、反省が見られたこともある。でも、より危ぶまれたのは私の“個性”や性的な衝動が周りに知られること。そしてそれと同じ位、渡我さんの家庭への影響を考えてのことだ。

 

 私も案じてたけど、彼女は吸血衝動のせいで人に馴染めず、家庭でも居心地が良くないらしい。それを知ったお母さんは渡我さんのお宅に連絡を取って、話し合いの席を設けた。夜中ではあったけど、お母さんはそれだけ事態を重く見たのだ。

 

『子供の“個性”で悩むのは当たり前のことで、中でも渡我さん達のご心痛は深かったでしょう。ですから尚のこと、似た悩みを抱える保護者と助け合ってみませんか』

 

 そんな話をしたらしい。保護者会だかNPOだか、そういうのに誘ったんだって。

 まぁ闇落ちオールマイトみたいな外見の元ヒーローから頭を下げられたら断れる人も少なかろう。

 

(自分のことだからアレだけど、私の“個性”で悩んでたのは私だけじゃなかった、お母さん達も苦しかった、ってことだよね……当たり前といえば当たり前だ)

 

 すぐには難しくても、渡我家の関係は少しずつ善くなっていくだろう。ご両親は何らかの形で妥協すると決めてくれたようだし、私が少し血を与えるだけでも彼女の吸血衝動はかなり抑えられるみたいだし。

 よかったよかった。めでたしめでたし──渡我さんについては。

 私の方は、そうとも言えない。

 

 

 渡我さんとの初対面は水曜の夜だった。

 翌日は、病院で頭の傷を診てもらった以外はずーっと寝てた。

 金曜も大事を取って休もうと決めてあったけど、朝起きたら渡我さんの“個性”であるはずの【変身】が半端な形で使えちゃってて、大慌てで制御を身につけることになった。土日の休みがあって助かったよ。

 

 結果、四日ぶりの登校になった月曜の朝。

 

「おはようございます兵怜(べいれ)さん。急に二日もお休みになるので心配しましたわ」

「ヤッ、オ、ヨロズさん……おはょ……」

「まだ体調がよろしくないようですわね。熱は──急に上がりましたわ!?」

「ごごごめん、平気だからちょっとちょっとだけ離れてくださいお願い」

 

 距離が近い匂いが良い顔が好き優しい好き。

 ──なんで私の衝動は治まるどころか強まってるわけ!??

 

 

 どうしようもなくてお昼で早退した。八百万さんはなんにも悪くないけど、もう彼女と同じ空間にはいられなかったのだ。

 帰宅しながらメッセージを送る。

 

『今日の放課後ってヒマですか?』

『もちろんです! 今からでも良いですよ!』

『放課後ですってば』

『もう学校でちゃいました』

 

 相手はもちろん渡我さんだ。ダメでしょサボったら……助かるけどさ。

 丁度よく、今日はお母さんが渡我さんのご両親を例の集まりに連れて行くので家を空けている。初日なのでゆっくり時間をかけると言っていた。

 軽くシャワーを浴びてからタオルやシーツの準備をしているとすぐにチャイムが鳴る。渡我さんだ。

 

「カリナちゃん、呼んでくれてありがと!」

「連日ごめんなさい。どうぞ」

 

 ……そう、私達は昨日も会ったばかりなのだ。だってお互い、それぞれの衝動を抱えたまま学校に行くのは辛い。

 

「渡我さんはどうでしたか、学校」

「これまでよりずぅっと楽でしたよ。カリナちゃんのお陰です」

 

 だから、平日に備える意味で。日曜日の夕方に二人ともしっかりと()()した、はずなのだ。

 

「それはよかったです」

「カリナちゃんは辛かったんですね。ごめんなさい」

「渡我さんのせいじゃ」

 

 発散したはずなのに、どういうわけか私の身体は()いている。意味が分からない。ぼふんとベッドに腰掛けて、両手で顔を覆ってしまう。

 髪の斑色がやけに鬱陶しい。変だ。苛立ちが、不満が、欲望が……止まってくれない。

 

 “個性”ってなんなんだ。

 私はこれまで通りでいたいのに。八百万さんに酷いことしたくないのに。だから渡我さんにも協力してもらったのに。

 どうして大人しくなってくれない? 私の“個性”のはずなのに、どうして私を苦しめるんだ!

 

「カリナちゃん、私なら平気ですから」

「渡我さん、渡我さ……あれ。口に、出てました?」

「私も小さい頃、そんなこと思ってましたよぉ」

 

 私の頭を優しく撫でながら、並んで座る渡我さんは否定してくれない。うそぉん。

 そして、そうか。私の衝動は芽生えてからせいぜい十日だけど、彼女はその点で大先輩と言える。こんなのを十年も耐え続けるなんて考えたくもない。

 

「どうやって……?」

「最初はトマトジュース。次はお刺身とか生肉。それからお魚なんかの血で誤魔化してました。ヒトの血はこないだが初めてですよ」

 

 ……それは。彼女の場合はともかく、私はダメじゃないだろうか。

 八百万さんに対して感じる欲を渡我さんにぶつけて誤魔化すというのは。本人はそれを承知で構わないと言ってくれてるけど、流石にかなり気が引ける。

 

「私は本当にウェルカムなんですけど……でも確かに困っちゃいますね。カリナちゃん学校に行けなくなっちゃう」

「最悪、転校とか……」

「したくないんでしょう?」

「それは、はい」

 

 確かに、どうしたものか。

 日曜に発散して、月曜の朝も問題なかったのに、八百万さんの顔を見ただけでまた火が点いてしまった。これじゃどうしようもない。

 その辺りの考えをだらだらと口にしていたら、渡我さんは完全にベッドに上がって後ろから抱き締めてきた。頭のナデナデは継続中である。

 

「私、気になったんですけど」

「なんですか?」

「そのヤオヨロズさん以外はどうなんです?」

「…………言われてみると。無いですね、全然そんなこと思いません」

 

 当たり前だけど、登下校中にすれ違った人やクラスメイト、学校の先生……男性も女性も、人との関わりは今日だけで沢山あった。

 八百万さんとは去年から続けて同じクラスだからそこそこの付き合いがあるけど、それだけ。唯一無二の親友とかではない──そもそもそんなの居ないし。

 なのに私の情欲は八百万さんだけに向けられていた。だから最初は、もしかしてこれが恋なのかとも疑ってたんだけど。

 

「私は、どうです? 最初の日以外は嫌々でした……?」

「そんなことないですよ!」

 

 落ち込みそうな渡我さんに、これははっきり伝えておく。確かに初対面の時の我を失うような興奮はもう無いけれど(あったら困る)、昨日だって今だって彼女は特別なままだ。

 口で言っても納得してなさそうなので、彼女の片手を拝借して確かめさせる。

 

「ほら」

「きゃあ大胆。……ホントだ、すごいドキドキしてくれてますね」

 

 分かればよろしい。

 でも私の衝動についてはよく分からないままだ。

 渡我さんはとっても可愛らしいと思う。私が彼女に一目惚れしたと仮定すれば、八百万さんも含めて『恋愛感情を持った相手と“個性”を使いたくなる』とすっきり解釈できるんだけど、一目惚れなんてそうそうあることじゃないよね。

 かといって『誰かれ構わず』でもないことは明らかで……どういう基準なんだろ? それが分かれば抑えられるだろうか?

 とか大真面目に考えてたのに、渡我さんの暖かい手がブラウスのボタンを外し始めた。

 

「渡我さん、もうちょっと後で──」

 

 口答えしたら物理的に口封じされた。……うん、まぁ、うん、良いけれども。息継ぎの間もない位に貪られて、唇ぷるぷるだなーちゃんとリップ塗るようになったんだなーなどと思考がぼやけていく。

 

「、っぷは、はぁ」

「それでねカリナちゃん、気になったことっていうのは」

「?」

 

 八百万さん以外はどうか、という質問だったのでは?……うわ。なんか初対面の時みたいな顔してる。瞳がギラッギラしてるんだけど。

 

「そのヤオヨロズさんて、かぁいいんですか?」

「それってヤキモ──」

 

 質問しといて答える暇もくれないのは酷くないかな?

 

♡♡

 

 …………後から思い返せば、渡我さんを迎え入れた時。それが大きな綻びだった。

 

『カリナちゃん、呼んでくれてありがと!』

『連日ごめんなさい。どうぞ』

 

 この際、鍵をかけ直しただろうか。覚えがない。我が家の玄関なんだから渡我さんにそれを求めるのも筋違いだ。

 まぁ後のことから考えるに開けっ放しだったんだろうな。

 

 それ以前に学校での私も良くなかった。

 あからさまに八百万さんを避けてしまったし、挙げ句一言もなしに(担任の先生にだけ断って)こっそりと早退したのだ。

 誠実で責任感の強い彼女が気にかけてくれるのは自然な成り行きじゃないか。まぁ私の家を調べてまでお見舞いに来てくれるのは流石に予想外だけど。

 つまるところ私の自業自得である。

 

 ともあれ、来てくれた。来てしまった。

 八百万さんはきっと呼び鈴を鳴らして、でも返事がなくて、心配してドアに手をかけた。鍵がかかっていない。もしや何かトラブルかと驚き、声をかけるべく玄関扉を開ける。

 開けてしまえば確実に聴こえたはずだ。時刻は三時半頃。両親の帰宅予定はまだまだ先だと、何の遠慮もなくアレコレする私達の声が。

 

 でもさぁ、そこでさぁ、普通なら帰らない?

 『悲鳴のようなものが聴こえたので心配で』って、よっぽど初心なお姫様じゃなければ性的な鳴き声だって分かりそうな──あ、マジでピュアピュアなお嬢様だったわ八百万さん。

 

 それじゃあ寝室まで来ちゃって『()()()()』を目撃しちゃうのも仕方ないね!

 

 ……いやもう本当に勘弁して欲しい。

 以上、ここまでで回想終わり──だったらまだマシなんだけど。困った状況はまだまだ続く。

 

 初めて、渡我さんと八百万さんを同時に視界に収めた。それでようやくピースが揃った。疑問の靄が晴れた。

 私の“個性”は、『一つの“個性因子”を子宮に(おさ)める』ものじゃないんだ。正しい使い方は『複数を同時に子宮に置く』こと。

 渡我さんの因子を身に入れたことで八百万さんへの情欲が強まったのは半端な状態になってたせい。早くもう一つを加えて完全に条件を満たせと訴えていたわけだ。

 理解(わか)る。私の“個性”には見て取れる。渡我さんと八百万さん、二人の“個性”はとても強力で、しかも相性が良い。凄いものができる。

 だから欲しい、欲しい、欲しい。これが私だ。私の本質だ。“個性”の渇望だ。

 

『ン、ギッ……!?』

『落ち着いてカリナちゃ──あぁ、かなりキちゃってますね。てことは、貴女が八百万さんなんだ』

 

 どうして止める。“個性”の片割れだ。埋めるべき半身がそこにある。手を伸ばせ。因子を交わせ。そうするより他に何がある。

 

 ──いやもう、本当に穴を掘って埋まりたい。

 渡我さんが関節を極めて拘束してくれなければ、私は今度こそ強姦魔になっていただろう。彼女との初対面時と同様、完全にネジが吹っ飛んでいた。

 

(思えば渡我さんの時も、『既に目をつけている八百万さんに丁度いい因子を見つけた』故の活性化だったのかも知れない)

 

 で、暴走しようとする私を渡我さんが止めてくれて。

 それでもまだ事態は終わらない。終わってくれたら良かったのに。

 

『カリナちゃんの“個性”のこと、聞きますか? 知りたくないかも知れませんけど』

『教えて下さいませ』

 

 八百万さんは即答した。

 渡我さんはじっと彼女を見定めるようにして、『一人占めしたかったですねぇ』と呟いてから答えた。

 

『カリナちゃんの“個性”は、えっちなことしないと使えないみたいで。無理やりそんなことしたくはないのに、こういう“個性”はワガママなんです』

『……自制が難しいということでしょうか』

『です。だから身体を張って受け止める覚悟がないなら、今すぐ消えてください』

 

 渡我さんが八百万さんにジェラシーめいたものを抱いてるのは分かってた──分からされた──けど、想像以上に敵対的な態度だった。八百万さんも気圧されてちょっと後退ってたし。

 でも、それなのに。

 

『…………兵怜さんは、私のことを案じて下さったがために、苦しんでおられるのですね』

『……ですね』

『でしたら』

 

 八百万さんは、服を脱ぎ始めたのだ。

 

『見過ごせません。全霊で兵怜さんに応えてみせます』

 

 おっぱい。

 途端に私の暴れっぷりが酷くなって、同時に渡我さんも拘束を緩めた(後で聞いたら『同意を取れたので』らしい)。

 そこから先に、語れるようなことは何もない。

 

♡♡♡

 

 …………どうしてこうなった?

 

 正気に戻った時、私はタイプの異なる美少女に左右から挟まれていた。

 まぁ腕を挟めるほど大きいのは右側だけ──

 

「むぅぅぅ」

「ごめんごめん、ごめんって! 私が悪かったから心読むのやめて?」

「え、もしやお二人はテレパシーが……?」

「私の“個性”にそんな効果は無いよ、被身子のはただの女の勘。仲間外れとかじゃないから安心してよ、百」

 

 どうしてこうなったの。

 根本は私のせいだけど、二人の行動にもツッコミ所が多すぎない?

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