【完結】愛慾のヒーローもどき   作:土屋 四方

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 びっくりするほどバレバレでしたね(当たり前)。


4. 天運(かいせい)地運(たゆたい)人運(まばゆい)

 騎馬戦のチームを編成する間、わたくしは妙に高揚した気分でした。

 

 飯田さんの勧誘に成功して好スタート。彼の機動力・頑健さ・“個性”の安定性……いずれも信頼を置けるものです。

 芦戸さんはあちらから声をかけて下さいましたが、わたくしも誘おうとしていました。この時点で作戦は半分決定しています。

 が、肝心な部分が埋まっていません。どんな策を備えようと爆豪さんは瞬間的に対処してしまう気がしたのです。

 

『透さん、まだチームが決まっていないなら』

『……私でいいの?』

 

 最後に声をかけたのは透さん。自信なさげにうろついているところを捕まえました。いいも悪いも、わたくしがお情けでチームを選ぶとお思いなのでしょうか。

 

『──透さん、貴女が鍵です』

『っ…………やるよ、やってみせる!』

 

 騎手を任せると伝えると、貴女は怯みながらも答えてくれましたね。

 でもごめんなさい、実はわたくし、何か確信があったわけではないのです。透さんが隠れて特訓しているのは知っていましたが……どれほど成果が出ているのかは把握しておりません。

 情ではなく確信もなく、全く非論理的な直観で、貴女に任せようと決めました。

 

 あえて言うなら、今日が雲ひとつない快晴だから。

 きっと透さんも──カリナさん被身子さんの遠すぎる背中に、自らの不甲斐なさに、苦い感情を抱いているから。

 そんなあやふやな理由で。

 わたくしは正解を引き当てたのです。

 

 

 

 

 見るべきは見ました。仕込むべきは仕込みました。伝えるべきは伝えました。

 後は伸るか反るかです。ギャンブル要素はかなり多いのですが、不思議と不安はありません。

 

「皆さん! 今この時から誰に何を言われようと、声に出して返事をなさいませんように!」

「分かった!」「了解!」「…………」

 

 早速ちょっと不安になりました。無言で頷いた飯田さんも苦笑いがひきつっていますよ。

 透さんと芦戸さんに軽く注意しつつ準備を進めましょう。所持ポイントがゼロというのはゆっくりできて最高ですわね。

 まず特殊なゴーグルを全員に配ります。次に防具となるものを透さんに手渡し、最後に特殊な薬液で満たされた一斗缶を【創造】しました。

 これでもう昼食を挟まなければ何も創れません。脂質を使い過ぎて少しだけフラつきます。

 

「皆さん、合図をしたら爆豪チームから一千万を取り戻します。以降はお伝えした通り……飯田さんの導くまま、手当たり次第ですわ」

 

 目先の目標を伝達。その後のことは微妙に伝達ミスが怖いので飯田さんに丸投げしてしまいます。今度は応答ゼロでした。

 改めて要注意対象の位置を確かめると──避けるべき紫色の髪は、爆豪さんを挟んで丁度反対側。

 今です。足下の缶を蹴り倒してから号令を発します。

 

「行きますわよ!」

 

 飯田さんに力強く引っ張られて前進すると、各チームからの強い視線が突き刺さります。かといって立ち塞がる騎馬はありません。そんなことをしたら爆破の餌食でしょうからね。

 

「やっっっと来やがったなクソポニテェ!!」

 

 やはり透さんを舐めている。敵と見なしていない。

 彼女はそれを諦めと共に受け入れています。自身の実力からすれば無理からぬことだと。

 と同時に、それを『ラッキー!!』と利用できるのが透さんの強さですが。

 

「爆豪さんの左手側へ抜けます!」

 

 僅かに進路を右に取って轟さんを避けます。あちらもそれに逆らわず、互いに速度を上げました──そう、こちらも直進! 爆豪さんの破壊力に怯むことなく!

 

「ッ舐めてんじゃねぇぞコラァァ!」

「おい落ち着けって爆豪!!」

 

 切島さんの制止で止まる人ではありません。左腕を大きく振りかぶって、透さんの正面に見舞われる【爆破】──飯田さんの頭上で、衝撃が弾けました。

 

 

 透さんに渡した防具は剣道の前垂れを厚く大きくしたような形です。お腹に巻いておき、垂れの部分を手で持ち上げて使います。

 

『こんなお布団みたいなのが盾になるのー?』

『案外有効なんですよ。衝突時間を伸ばせば衝撃は分散しますから』

 

 ただし爆豪さんも馬鹿ではありません。こういった防御への対処は理解していました。それは『大きな一撃を中心にあてる』こと。

 柔らかく変形する防御面に凹みができれば圧力の大半を受けることになるので、こちらは吹き飛ぶなりよろめくなりしてしまうでしょう。

 ですがこれはわたくしの創造物。衝撃を受けた瞬間、内部を満たすダイラタント流体*1 がカーボン製の骨組みを噛み合わせ、爆風を逸らす傘状の凸面に硬化します。

 

「く──ぅうッッ!」

 

 爆風の大半は目論見通り逸らしましたが、それでも。飯田さんの速さがなければ跳ね飛ばされていたでしょう。彼の(つよ)さがなければよろめいていたでしょう。

 どうにか(こら)えて、ただし速度は殺されました。爆豪さんの近くで棹立ち──そこで【エンジン】が火を噴いて再加速。

 

「チィッ、雑魚がァ!──っ!?」

「今です!」

 

 ここで折良くわたくしの仕込みが効果を現しました。一言で言えば目潰し──

 

『な、なんじゃこりゃ? ぉぉぅ、ぎもぢわるぅ』

『っ、いや山田お前グラサンしてるだろ』

『山田って呼ぶなYO!! あとこれサングラス関係ねぇぞどーなってんだァ!?』

 

──いいえ、目眩ましと呼ぶべきですわね。

 

 

 騎馬戦開始からこれまで、連携訓練をしながら芦戸さんの【酸】を潤滑剤代わりにぐるぐると周っていたわけですが……それは毎回ほぼ同じ軌道でした。つまり円形にコンクリートが溶けています。

 とはいっても靴底が溶けない程度の酸をお願いしたので深い溝ができるほどではありません。コンクリートに含まれる雑多な砂利のうち、溶けやすい部分だけが溶けた状態。裸足ならともかく靴を履いていれば平らなままだと感じるでしょう。浅く細かな溝が無数にできた、ただそれだけです。

 要となる液体を流し込まない限りは。

 

 『無慈悲に(リレントレス・)揺蕩う(ウェイヴィー)もの(・リキッド)』とでも名付けますか*2

 突撃前に蹴倒してきた缶から流れ出た液体は、油のようにどろりと揺蕩いながら太陽光を乱反射して虹色に輝きます。光化学反応でも熱と光を発しながら、絶え間なく踊る液面から投げかけられる光は不規則そのもの。

 それだけでも眩しくはあるのですが、光の強さはサングラスや片目を瞑るなどで防げてしまいます。この光の狙いは、振れ幅による()()

 選手の動きがステージにランダムな振動を加え、それは液体からの反射光を細かく変化させ続けます。赤から藍へ。紫から黄色へ。激しくあるいは緩やかに。

 絶え間も規則性もなく行き来する色調は、光過敏性発作などと呼ばれる不調を引き起こす危険な視界なのです。

 

 客席や実況席から見下ろしているだけでも違和感を生じるかと思いますが、ステージ上はもっと酷い。何せ全方向から感覚を歪ませる光を浴びているのです。予め偏光フィルターつきのゴーグルを装備して視界をモノクロにしているわたくし達以外、全ての騎馬が足を止めてよろめきました。

 一千万ポイントは目の前。完全な好機──ですが。

 

「わ、たさ、ねぇっ!!」

 

 ここまで不利な状況でも、爆豪さんは吠えました。

 瀬呂さん側の足場がグラついていても、自身の視界も不規則に乱れ果てていても、ハチマキを狙う透さんの腕が全く見えなくても、彼は諦めない。そして真っ向勝負では、ここまでやっても尚こちらの分が悪い。

 理性的で客観的な評価はそんなところです、が──笑止ですわ。

 

「即興必殺! ダズリング☆ビィーム!!」

 

 透さんの身体が一瞬だけ極光に満たされて。指先から放たれた虹の束が爆豪さんの顔面を直撃しました。

 

「っガァ!?」

「おおっし、獲ったどおおぉぉ!!」

 

 会場が大歓声に揺れます。さぁ、皆さんが光に慣れる前に集められるだけ集めてしまいましょう。

 

「なぁ今そこに女神がいたんだよ! オイラはっきり見たんだ、嘘じゃねぇって!!」

 

 ……あの方の視覚はどうなっておりますの?

 

 


 

 

「えげつな……」

 

 あんな光に囲まれるとか考えたくもないし、最後のビームに至ってはバクゴーのタフネスも執念も全部ぶっ飛ばして無防備にさせた。つよい。

 

「リナちゃん、私酔いそうです」

「じっと見てるとそうなるよ、無理しないでおきな」

 

 とっくにみんな目を逸している。私は観ていたいから〔身体変造〕で視細胞をイジった。普通はあんなの見続けていられるもんじゃない。

 だからある意味で当たり前なことに。透がハチマキを奪った直後、どこからか現れたロボットがインカムを押し付けてきた。

 

『相澤だ。兵怜(べいれ)に協力を要請したい』

「?……あー、透の不正防止」

『そうだ、いけるか』

 

 体調に問題はないし、確かに他の人には難しいことだ。私はすぐに頷いた。

 騎馬戦のルールで、ハチマキが相手に奪われないよう握り締めておくような行為は禁止されている。透がこれやってても見た目には分かんないからね。

 

『マイクつなぐぞ。ついでに解説いけるか。この光について』

 

 流石は相澤先生、突発的でも遠慮ゼロ。でも会場のお客さん達を思うと知らんぷりは申し訳ないし。大人は汚いなぁ。

 

「解説って言われても、百が創った液体が光を乱反射してるだけですよ?」

『それだけでこうはならんだろ』

 

 …………いやあの、もうちょっと聞き手らしい質問とか合いの手とか……期待するだけ無駄っぽいので一人で喋ることにした。

 事前の周回でコンクリを溶かして溝を作っていたこと。そこに流し込んだから液体がそこに留まっていること。選手達が動くごとに振動が色彩を揺らすこと。

 

『目を瞑るのは?』

(まぶた)ってそこそこ光通しますから、多少マシなだけで完全には防げないかと。“眩しさ”じゃなくて“色の絶え間ない()()”が問題なので──」

 

 流石に手で目を塞げば完全に遮断できると思うけど。それじゃハチマキを奪うことも守ることもできない。

 

「こうした光は吐き気・頭痛・目眩などを引き起こします。円の中の選手達は騎馬を崩さず保ってるだけで凄いくらいですよ。

 テレビ等で観戦中の皆さんは、画面から充分離れて部屋を明るくしてご覧くださいね。カメラさんも引き気味にお願いできますか?」

『YO!! リスナーへの気遣いを忘れないナイスDJじゃねぇか!』

『兵怜は大体なんでも任せられて助かる』

『「相澤先生(イレイザー)がデレた!??」』

 

 びっくりして大声出しちゃったよ。マイク先生ほどじゃないけど。

 案の定、短いデレ期の終わった相澤先生から冷たく続きを促される。

 

『考えられる対策は?』

「細かな溝に入り込んでる上にただの水より粘度が高いので、風や衝撃波で吹き飛ばすのは難しいでしょうね。地面を柔らかくしてもコンクリより液体の方が軽いでしょうし……下手に手を出すと悪化しかね──」

 

 言いかけたところで轟くんがやらかした。液体がある円の上を塞ぐように氷の柱を何本か生やしたのだ。

 結果。

 余計に乱反射する。阿鼻叫喚。

 

「あー……轟くんの氷、不純物がなさすぎて光を遮る効果はほとんどありません。まっ平らな氷の板なら良くも悪くも変化は無かったと思います。でも今みたいに多面体(ポリゴン)状だとプリズムになっちゃうので……余計に散乱しますね……」

 

 今の私は片目が紫外線特化の透専用モード、もう片目が無色彩の観戦モード。だから被害ゼロでいられるけど、選手達はだいぶツラいようだ。一斉に抗議(ほとんど罵声)を浴びせて、轟くんに氷塊を片付けさせた。

 ちなみに問題の液体は水より重いので、上から濡らす位では洗い流せない。ジャージに吸わせるとか……百なら考えてるか。

 

『しっかしアレ、出てくのは難しいのかぁ?』

 

 マイク先生の疑問はもっともで、少し滑稽にも思える。光に囲まれてるのが問題ならその円から出ていけば良いじゃないかと。小さくはないけどフィールド全てを囲んでるわけじゃないんだから。

 でもそれは見下ろしてるから言えることだ。

 

「だと思います。上から見てるのとは全然違うでしょうね」

『円に近付くほど光も強く浴びちまうからな』

『シビィーーッ! 見た目よりキッツい罠じゃねえの!』

『だな。運良く円の外にいた騎馬、見た目で大したことないと判断して踏み込んだだろ』

「そのチームも出られなくなってますね……」

 

 先生二人と(軽く引きながら)しみじみ語る。いや本当にエグい。

 だって実はもうこの光輪が現れて五分近く経つのだ。その間どうにか透からハチマキを守りきったチームは幾つかあるものの、有効な対策を取れたところは皆無。しかもあれ、中にいる時間が伸びるほど症状は悪化していくはずだ。

 このまま透チームが逃げ切ったなら、百の選手宣誓が俄然説得力を増してくるなぁ、なんて思いつつ──そんなわけ無いのだった。

 

 ある騎馬が状況を変える。

 光の円に(ほころ)びができた。

 

『ミッドナイト、ルールの確認だ。崩れてる騎馬からハチマキを奪うのはアリか?』

『とーぜんアリよ! そして逆はナシ、奪いたければまず騎馬を組むこと!』

 

 相澤先生がそんな質問を挟んだのは、意図的に騎馬を崩したチームが出たから。

 初期ポイントのまま増減のなかった緑谷くんチームが這うようにして円周上へ行って……そこに、寝そべった。身体で太陽光を遮ることでその周囲から惑乱の虹が失せる。多少は漏れてるけど大幅にマシになった。

 

『競技終了時点で騎馬が崩れてるのは?』

『問題なし! ペナルティも減点もないわ!』

 

 ちなみに元気よく答えてるミッドナイト先生は現在フィールドの端っこに立って客席側を向いている。私に丸投げ過ぎじゃないかな、ちゃんとやるけども。

 

 

 円の一角から光が消えると、囚われの騎馬群がそこから抜け出してゆく。緑谷くん達が踏み潰されちゃうんじゃないかと焦ったけど、跨ぐ時はそれぞれ減速して踏まないよう気をつけてるみたいだ。『輪の外に出るまでは争わない』的な紳士協定が無言の内に結ばれてるっぽい。それだけキツかったんだろう。

 だからなのか、緑谷くんからただ一つのハチマキを奪おうとする人もいなかった。障害物競走二位の緑谷くんがいるから割と高得点なのに。

 

 百達だけが欠けた円の中に残って彼らを見送った。ハチマキを沢山首に巻いた透が肩で息をしている。

 少し休みたいのだろう──いや、逃げてったチームの方がよほどしんどそうだけどね。全員が百達に(というか虹色の円に)背中を向けて、網膜にへばりつく目眩から逃れようとしてるのはかなり不思議な光景だ。

 

 残り時間、約四分。もう百達の勝ち抜けは決まったようなもの。

 独占されていない僅かなハチマキを、円の外の限られたスペースで、大きくは動けない騎馬同士が奪い合うというカオスな試合になる──かと思ったのだが。

 

 百達以外の全騎馬が円から出ると、緑谷くん達は起き上がって騎馬を組み直そうとした。するとまた例の光が見えてしまうので、誰かが文句でも言ったのだろうか? 言い争いのようなものがあって──直後、不可解なことが起きた。

 今度は緑谷くん達ではない騎馬が複数、一斉にバラけて光を塞ぎ始めたのだ。

 

『お? なんだァ?』

『一位を落とす為の協力体制……か?』

 

 相澤先生の推測通りに見えなくもない。彼らは広い範囲に散らばって、百達の安全地帯を狭めるように動いたから。それに彼らは所持ポイントがゼロの──つまりここで敗退する可能性の高い──選手達ばかりだから。

 『俺達の代わりにあのいけ好かない一位をやっつけてくれ』みたいに解釈しても筋は通る、けど。

 ……いやー、それはないでしょ。

 

「あの金髪くんがそんな殊勝なことします?」

 

 完全に同じこと私も思ったけど。

 被身子は正直過ぎるぞ。マイクに入らなくて良かった。

 

「雄英の生徒がこんなにあっさり諦めるわけないですから、誰かの“個性”でしょう。避難誘導とかで大活躍しそうですね」

『Yah! Exactlyだなァ!!』

『避難時のパニックは恐ろしいし、防ぐのも苦労するからな』

 

 先生達が乗っかってくれて何となく綺麗に流したけど……これ、【洗脳】とかそんな感じの“個性”っぽいよね。プロの視点だと使い道は多いけど、皆の憧れる『ヒーローらしさ』からは遠い──だから必然的に、怒る人もいる。

 

「何をした! 必死で戦ってる皆に!!」

 

 ……選手達はマイクなんかつけてない。

 ただ腹から出た生の大音声(だいおんじょう)が、スタジアムを揺らしたのだ。

 

 

*1
大雑把に言えば、急激に圧力が増した時に一瞬だけ固まる液体。

*2
声には出していないので透や三奈からのツッコミはない。




 虹色粘液は架空の物質です。念のため。
 次話はまだぎりぎり平和。
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