今回はほのぼの回(?)。
スコアボードによると心操くんというらしい紫髪の彼が、洗脳っぽい“個性”の持ち主のようだ。
そう生まれついてしまった以上、勝ちを狙うならそれを使うしかない。少なくともこの騎馬戦内ではルールで許されている。
まして今、彼にはそうする必然もある。
円の中で多くのチームが透にハチマキを奪われて、でも心操くんのチームだけは一切狙われなかったから──ていうか百が意図的に避けたから──、せっかくこれまで目立たないよう立ち回ってたのに二位に躍り出てしまったのだ。引き上げられてしまった、というべきか。
このままでは確実に狙われてしまう。だから動ける範囲を拡げつつバクゴーなどが一位を狙えるように、敗退しそうな複数の騎馬に“個性”による命令を下した。実際バクゴー達は少し躊躇してから透の方へ向かったので、上策と評しても良いんじゃないかな。
「何をした! 必死で戦ってる皆に!!」
……緑谷くんがブチ切れなければ。
まぁ騎馬にされてる尾白くんとかは競技開始前から操られてたみたいだから、心操くん側もグレーと言えばグレーかもだけど。
ともかく緑谷くんの猛攻で尾白くん達が意識を取り戻し、騎馬としての統制を失くした心操くんは全てのハチマキを奪われた。無念の〇ポイントだ。
というわけで、騎馬戦の結果は以下の通り。
首位は透チームが守りきった。そこから幾つかのハチマキを奪ったものの、一千万には手が届かなかったバクゴーチームが二位。心操くんからの奪取で緑谷くんチームが三位に上がり、四位は初期ポイントから増減なしの梅雨ちゃんチーム。
……他は全チームが〇ポイント。これは蹂躙劇だわ。
お昼休み。
私達が観戦していたスペースは結構広くて余裕があるので百達をお弁当に呼んだ。冬美さんはわざわざ『うちも家族呼んで平気?』なんて確認してきて、もちろん快諾したんだけど、轟くんだけじゃなくエンデヴァーまで集まったのは予想外。確かに家族だし文句はないけどさ。
もちろん丁寧に頭を下げて御礼を言ったんだけど、それに対して『こちらも世話になった』的なことを返しつつも普段とあまり変わらない──つまりやや尊大な──態度だったため、冷さんに氷点下の眼を向けられていた。私は別に気にしないし心から感謝してるのに、逆に株を下げたみたいな結果になってしまった……どうしろと。
轟家の食事風景はどう見てもギクシャクとしていて、冬美さんが話を転がさなければ今にも剣呑な域にまで転げ落ちてしまいそう。でも冬美さんは幸せそうだし、冷さんはぷりぷりと不機嫌そうなのにそんな母親をみる轟くんはどこかほっとしているようだった。
炎司さんは……が、がんばれ。
──私もがんばるから!
「緑谷くんチームのサポート科の人お名前分かります?」
「発目さんのこと?」
「リナちゃんがその子に目をつけてました」
「……覚えておきましょう、皆さん」
「リナリナ、サポート科にまでハーレム拡げるんだね……」
「お盛んやなぁ」
普通ここはさ、皆の健闘を称えると共に騎馬戦での百の大活躍とか、特に透の新技とか、そういうことで盛り上がるタイミングだと思うの。なのにどうして私の性欲弾劾裁判が始まってるわけ?
「あのね、私は皆のことハーレムだとか思ってないから。どっちかって言うと私がお願いして色々してもらってる立場だよ」
「私はそんなことないのに」
不満げにそう言ったのは──言ってくれたのは──透。
「ううん、我慢させちゃってる。透は私を独り占めしたいって分かってるのに」
「うぅぅ〜リナリナがズルい。断れるわけないのにぃ」
惚れた弱みにつけ込んで、なんてつもりじゃないんだけどな。むしろ私の方こそ透に惚れ込んでいる。もちろん被身子や百のことも好きなんだから一般的な誠実さは皆無だけど、それでも私なりに、皆を蔑ろにはしたくないんだよ。
「あのビーム、びっくりしたよ。身体の屈折率を操れるようになったの?」
「あ、うん。例のメガネが完成したら出来た方が安全だろうって、ガミさんが」
「確かにそんな話は前にしたけど……もっと遠い目標のつもりだったんだよ。凄いじゃん透」
「いやいやまだ一瞬しか出来ないしへとへとに疲れちゃうし……」
ぶちぶちと謙遜する透を褒め殺しにしていたら、「……もう私の話は良いからぁー!」と拒否されてしまった。悲しい。
一方でお茶子は被身子の給仕に忙しい。私が目覚めて以来ずっとそんな感じだ。
「ヒミ様、私あんまり活躍できんかった……」
未だに居心地の悪そうな被身子は、時間をかけて口の中のものを飲み込んでから、当たり障りの無さそうな言葉を選ぶ。
「でもチームは三位ですし、落ち込むことありませんよ」
微妙に緊張感が走る。もしここが家だったら、きっとお茶子は『お仕置き』を求めてくるからだ。
私達もやんわりと
幸いお茶子はちゃんと場を弁えてくれた(だったら外では『ヒミ様』呼びも控えて貰いたい)。
「そうかなぁ、チームで私だけ何もしてない気がするん」
ほっとする私達にお茶子が語り始めたのは、緑谷くんチーム視点での騎馬戦振り返りだ。
透が捨てた一千万ポイントを拾うのは高リスク過ぎると判断した緑谷くんは、まず低得点のハチマキを漁夫の利的に集めようとした……が、これに失敗する。同じ狙いで動いていた心操くんが
物間くんが一千万を持っていた間はバクゴーが広範囲を跳ね回るせいで戦線が拡がり、騎馬の密集度が下がったので不意打ちが難しくなる。しかも得点を持っているのは中位以上の騎馬ばかりで易々と奪える相手なんかいない。
透が一千万を取り戻した辺り、つまり例の虹の輪が全チームを苦しめ始めた頃。緑谷チームは初期ポイントのまま。指を二本ほど犠牲にして透達を退けはしたものの、特に常闇くんの弱体化が激しく、とにかく状況を覆したかった。
そこで緑谷くんが騎馬を解こうと言い出したらしい。
「あれ言い出したの緑谷くんだったんだ。納得」
「最初は何言いよるんって思ったけど、私も他の二人も足下ふらふらやったし、とにかくその通りにしてみてん」
「周りのヒーローシップに感謝だね」
「ほんまよぉ……」
騎馬を組んでない状態でハチマキ奪われたらどうしようもなかったもんね。
円から出た後はほとんどずっと心操くんチームと火花を散らしてた感じ。他の中位騎馬も割と透の方へ向かったからね。
つまり透は、バクゴー含む複数チームから集中的に狙われても一千万を守りきったということ。自分たち以外を弱体化させる虹の輪(半欠け)があったにせよ凄いことだ。
それを褒めると透はまた謙遜したけれど、今度は隣からも援護射撃が飛んできた。
「いや、葉隠の動きは最後の数分でどんどん良くなってた。爆豪の奴も攻めあぐねてた……と、思う」
「よく見ていたな焦凍。騎馬の三人も良かったが、透明な君──葉隠くんの対応も見事だった」
「なっえっ、その、恐縮です?」
轟くんだけじゃなくてエンデヴァーからも褒められたらそりゃ恐縮するよね。でもお世辞とかじゃないのは誰もが同意するところだ。
──息子の意見に乗っかることで立場向上を狙ってるフシはあるかも知れないけど。ついでに、人を褒めたことで冷さんからヨシヨシされている炎司さんはエンデヴァーとは別人にしか見えないけど。
そんな平和な昼食が終わり、忙しいだろうエンデヴァーが一足先に出ていって、まったりと食休みをしていた頃。
お母さんへの緊急コールが、平和の終わりを告げた。
騎馬戦決着。
あんまり話が進んでいないので今夜はもう一話投稿します。
次話より雄英体育