※カリナの外見については後書きにて。
インゲニウムについてはお父さんから搬送先に問い合わせてもらっている。私や百が役に立てるかも知れないから。
とはいえ今日すぐに出来ることといえば巨人の進路上にいた被害者の救助や支援である。
こういうシチュエーションでも雄英の先生方はすさまじい。
リカバリーガールは数えきれない人を救っている。持病があるとかかなりの高齢とかでもなければ、ほとんどの怪我は短時間で一気に良くなる。すぐに治せない人が酷く痛がっていたらミッドナイト先生が睡らせる。セメントス先生は仮設住居をどんどん増やしていく。もちろん毛布や食料なども次々と運び込まれて。
痛みが大幅に減って雨風を凌げてお腹も温まると、それだけでも気分はドン底から上向いてくるものだ。見た目には寒々しい避難所の雰囲気は、被害の深刻さに比べればまだ明るいと言えるかも知れない。
誰もが私にオーバーワークだといい肉体労働を許してくれなかったので、歯がゆく思いながら──避難してきた人の名簿作りや日用品の手配みたいな事務を手伝いながら──眺めていた。
大変な目には遭ったけどひとまず安全を確保できて、戸惑いながらも前を向こうとする空気のある避難所側と……彼らから視線が通らないようにきっちりと区切られた現場側の、その落差を。
現場側で何より優先されているのは当然ながら生存者の捜索と救出。それに役立つ“個性”は色々とある。ハウンドドッグ先生が大活躍してるように。
それは……良いことだ。間違いなく。
でも逆説的に、それ以外のやり方で──地道に瓦礫を撤去して、なかば虱潰しのように見落としをなくしていくと──見つかるのは……どうしたって悲しい結果になってしまう。
個人の力よりも人海戦術に頼る作業なので沢山の生徒がこれにあたっていて、その中には泣き崩れたり吐いてしまったりする人も少なくない。
けれど、私は見た。
人数から言って普通科や経営科も多く混じっているだろうその生徒達が、乾くほど泣いても声が濁るほど吐いても、なお立ち上がって救助活動に戻っていく──ヒーロー達の姿を。
じっとしていられずに手を貸そうとしたら、それは駄目だと止められてしまったけれど。
反省も後悔も今は必要ない。日が落ちて帰宅を促されても、明日だって救助活動は続く。
であれば今日は、心身を休めることこそヒーローとしての最善だ。
「やったー! 今日泊まって良いって!」
重い空気を吹き飛ばすように元気に振る舞ってくれる透。もちろんそこには虚勢というか、空元気もあるとは思うけれど──心に浮かんだ『不謹慎』という言葉を握り潰す。私達が鬱々と落ち込んでいたところで何かが好転するわけじゃないし、透の気遣いも無駄になってしまうから。
「透のご両親、危機感にぶくない?」
「『周りにヒーローの卵がいるなら私達の傍より安全だろう』って」
「それはどうだろう」
透の貞操にとっては私が一番危ないんだよ? まぁ確実に合意だし、随分待たせたし、私だって待ち侘びてたし。ありがたく頂きます。
私と透、そして被身子の三人でアパートに帰り着く。
百とお茶子は随分残念がっていたけど、あれだけのことがあったんだもん、とりあえず家に戻って無事な姿を見せて欲しいってのは常識的な心配だと思うよ。被身子でさえ(面倒そうにしつつ)ご両親とテレビ通話してた位だ。
「「「ただいまー」」」
「「透(ちゃん)は違うでしょ」」
さりげなく住人に混ざろうとする透にツッコミを入れつつ、今朝出発したばかりの我が家に戻ってきたところ──うん、違和感。
「広ーい。天井高ーい」
「んふふふ、大丈夫ですかリナちゃん、お風呂とか一人で入れます?」
「馬鹿にしないでって言いたいけど、思った以上に変わってるから手伝ってもらおうかな」
ほら、お風呂はね、危険が危ないからね?
「(ガミさん、これどっちなの?)」
「(どっちって?)」
「(お風呂でえっちなことするつもりなのかな)」
「(するに決まってるじゃないですかリナちゃんですよ?)」
「(あんな真顔で……素敵)」
「(透ちゃんもブレませんねぇ)」
二人がひそひそ話してるのは、こっそり犬耳を生やして全部聞いてるんだけど。そして被身子の言うことも間違ってないけど。
一人でお風呂が危ないのも本当だ。今の私、今朝よりもかなり
あの巨人の体内に飛び込む際、爪で造った弾殻の内側に身体を収めなきゃいけなかったんだけど……私は女子の中では大柄な方だし肩幅もある。宇宙服スーツで着膨れもする。そのままでは食道を通れるか不安があった。
だから〔身体変造〕で、体重のかなりの部分を身体の外側──細い管だけ繋がった瘤みたいな塊──に移しておいたのだ。本体が無事胃の辺りまで潜り込めたら元通りに取り込み直すつもりで。
実際にはそうする前に巨人に切られてしまって(導火線か何かだと思ったんだろう)、そうされても大丈夫なように重要器官は全部本体側にあったとはいえ、結果的に体重が激減する羽目になったのである。
慣れないなりに動きやすいバランスの身体に整えたところ、今の身長は一四〇cmくらい。これまでより三〇センチ以上も低い、十歳女子の平均だ。クラスメイトが大いに戸惑ったのも頷けてしまう。意識して変えてはいないつもりだけど、顔立ちも多少は幼くなってるし。
まぁタンパク質とかたくさん摂れば戻るのは難しくないんだけどね。
「元に戻るなら三日くらいかな……でも我慢できないし、こんなちんちくりんでも良いかな?」
「気にしないし私も待てないよ!」
「良かった。最初は二人がいい? 被身子も一緒にする?」
「お任せで〜!」
嬉しいお返事だなぁ。じゃあ行こうすぐ行こう。
「て、え? 私もお風呂行くの? 三人は狭くない?」
「大丈夫大丈夫、それに丁度良いからさ」
「丁度良い??」
脱衣所に引き込んで服を剥いでも透は混乱してるようだ。考えたら分かりそうなものだけど、やっぱりこの子は自分の身体に対する認識が少し薄いのかも知れない。
まぁ私達の意図は入ればすぐに伝わるから、言わなくても良いか。
──レッツエンジョイ!
「こ、こういうこと……っ♡」
「うわ、透ちゃんすっごいスタイル良いですね」
「でしょー?」
シャワーを浴びせたり泡を乗せたりすれば、被身子にも透(の輪郭)が見えるってわけ。湯船につかると【透明化】が上手いこと働いて見えなくなったけど。
一杯待たせてごめんね透、好きなだけ気持ちよくなってね?
♡♡♡
目覚めて以来、私たちの間でUSJでの出来事はなんとなくタブーになっていた。最低限の情報交換だけしたからもう掘り返しません、みたいな。
そこには色んな気遣いがあったんだろう。透があそこにいたことも被身子は知ってたみたいだし。だから隠し事だなんて責める気はないけれど。
「て言っても、速すぎて私にはほとんど見えなかったよ。リナリナがやられてるのは分かったし、キツい思いもしたけど……こう、視覚的なトラウマは見てないって言うか」
「そっか」
それは嘘かも知れなかった。少なくとも身体が震えたり冷えたりはしてないけれど、だから本当とは限らないよね。
返す言葉も──これが本心の全部かって訊かれたら答えはノーだ。
「あの時の透が、悲鳴を上げたり庇いに入ったりしてたら……きっと危なかった。そんなことになってなくて、私は嬉しいよ」
「リ──」
「謝らないでね。私も謝らない」
私も透も──もちろん被身子やみんなも──元気に生きている今がある。それを喜ぶ気持ちがある。
大きな声で言ったりはしないけど、かといって否定なんかするものか。家の中で、ましてやベッドの上で、ここにある喜びを隠したりするものか。
「何の遠慮も要らないからね、透。思いっきりおかしくなってね?」
後はもう、何も言わせないことにした。
♡♡♡
途中で透がへばるのは予想通りで、お布団に放り込んだら後は被身子と二人きり。
私の覚醒から今日までずっと、あれこれ細々と気を回してくれてたのはありがたい限りで……でもこの子は本質的に寂しがり屋さんだから、色々と溜め込んでるのは分かっていた。
どうも年長者として気を張って、自分でも上手く緩められなくなったみたいな。それがようやく解き放たれたんだから、目一杯に甘やかしてあげたい。
「リナちゃん、リナちゃん……」
「く……いいんだよ、我慢しないで被身子──っ゛」
鋭い痛み。普段の吸血ならこんな風にはされない。でも今はあちこち
今の被身子はいつも以上に危なっかしい。噛みつかずにはいられないのに傷を見ると──恍惚としながらも──自分も罪悪感で傷ついてしまう、自家中毒じみた悪循環。それを断ち切れるとしたら?
「──
「え、リナちゃん?」
甘く見ないでよ。被身子がしてくれることで嫌なことなんか、ひとつも無い。
「は♡ は♡ 傷をすぐ消すのと
「……リナちゃん──!!」
「お願いちょっとゆっく、ヒッ♡♡」
好評みたいなのでこの方向で。噛み付かれると快感を覚える身体にされちゃったぜ。
♡♡
──被身子の様子が少し落ち着いた後。
「心配かけてごめんね、何でも言ってね」
「あ、じゃあ【先物代謝】の限界測定を」*1
「それ以外で」
「そうですね、百ちゃんも居る時にしましょう」
「それ以外で!」
「身体が小さくなったんだから測り直さないとダメでしょう?」
「…………むう」
微妙に正論。言い返しづらいじゃないか。
ていうか、何。私がこのまま小さい身体でいるものと思ってる? 私がそれもアリかなって考えてるのが、被身子にはバレてるの?
「むぅー……」
「あは。分かりますよ、リナちゃんのことだもん」
根拠もなしに勘だけで正解に辿り着くところ、被身子はズルいよね。
「私、そんな素振り見せてたかな」
「コスチュームの時とか」
「あぁ、あのしろくまね」
「ですです」
雄英入学前。被身子と百がゆるキャラみたいな可愛いくまに変えたデザインを見せてきた時、私はどんなリアクションをしたっけな。『私には可愛すぎる』とか何とか口走ったかも知れない。
上手く流せなかった自覚はある。それについては。
「それにリナちゃん、私が『かぁいい』って褒める度に後ろめたそうにするんですもん」
「えっ」
そっちは知らないんだけど?
「気付いてなかったんですねぇ」
「えっそれホントに?」
不満そうに頷く被身子。あぁ疑ったわけじゃなくて信じたくなかっただけだってば。
私が無意識にそんな反応してたならそりゃバレるか。
ゴツい身体がイヤってわけじゃないけど、売ってる服がクール系というかマニッシュ系に偏りがちなのは、確かに結構気にしてた。要するに私も可愛い系は好きだったのだ。自分で服を作るってほどではなかったけど。
……どうせサイズ直しは必要だし、コスチュームも作り直そうかな。
「『可愛いものが好き』なんて恥ずかしがることじゃないですよぅ」
「隠せてるつもりでバレてたのが恥ずかしいの。分かってるでしょ意地悪」
「あはぁ♡ 私だけのリナちゃんですね──んむ」
被身子を貪る。この子の身体はいつも熱でもあるのかって位に熱い。ガツンと頭が揺れるほど甘くて、その味がねっとり残って、私の内側は優しく侵される。いつの間にか攻守が逆転している。
私も負けじと攻め返そうとして──改めて低身長の不便さに気付いた。
「届かない〜〜」
「そんなとこ舐めてもくすぐったいだけですよぅ! んふふふ」
「そっ、こらぁ!」
人の股に顔突っ込んで笑うのやめてくれる!?
♡♡
♡♡
♡♡
翌朝、透のお目覚め第一声は「死ぬかと思った……」だった。
もっと鍛えないとね。一緒に被身子をやっつけよう!
※カリナが『ロリ化』したかというと少し違って、この変化を短い言葉で表すなら『ドワーフ化』が近いです。背は縮んでも筋肉の塊であることは変わらないので。
※次話、本編中ではあんまり出てきそうにないヒーローネームのお披露目。