【完結】愛慾のヒーローもどき   作:土屋 四方

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※痛い話につきご注意ください。


消えた女の子と救急車炎上事件
1. プルスウルト痛い!


 体育サイ*1 の翌日は丸ごと救助活動。

 夜には一晩だけご実家に泊まった百がアパートに帰ってきた。

 

 

♡♡♡♡*2

 

 

 更に翌日は臨時休校。

 

 

♡♡♡*3

 

 

 更にその翌日。今日は普通に授業がある──んだけど、私は馴染みの病院に来ている。事情はちゃんと説明して許可を得ているから公欠扱いだ。

 もっとも今回は、たとえ公欠でなくともこうした気がする。

 

「お久しぶりです、天晴さん」

「?……やぁ、カリナくんか。久しぶり、こんな格好で済まないね」

「怪我人が何言ってんですか」

 

 ベッドから見上げてるせいか、私の身長についてはツッコミがなかった。あるいはそんな余裕もないのか。

 

 今は上体を起こすこともできないこの人は、インゲニウムこと飯田天晴さん。天哉くんのお兄さんで、私にとっては尊敬できる先輩だ。

 彼はベッドの上で笑顔を作ったけど、そこにかつての明るさは見られない。脊髄損傷・下半身不随で回復は絶望的なんて診断されたら無理もないとは思うけど。

 

 でも、打つ手が何も無いんだったらここに──お父さんの勤め先の附属病院に──移ってもらったりはしていない。

 私達はまず全身しつこい位に消毒を受けてできるだけ清潔な状態になり、無菌室で合流した。この間に諸々の説明はお父さんが済ませたみたいで、天晴さんの表情は見違えるようだ。

 まだ治ると確定してはいないんだけど。それは彼だって分かってるはず。

 

「……よろしく頼む!」

「全力を尽くします」

 

 幾つかの薬によって天晴さんの免疫力を抑制していく。このせいで極めて感染症にかかりやすい状態になり、だから予め雑菌を排除したわけだ。

 そんな危ない状態をなんでわざわざ作ったかというと、これから彼の身体に異物を挿し込むため。免疫機能にはしばらく黙っててもらわないと大変なことになる。

 異物というのは──私の体組織だ。

 

「はーいチクッとしますよー」

 

 ……あー、USJの脳無とかいうヴィランを思い出しちゃうな。

 うつ伏せに寝て身体を固定された天晴さんの腰の辺りに、爪の針を挿し込む。カメラ越しに見ているお父さんから指示を受けて慎重に位置と角度を決めて……背骨の間を貫くように、ぶつっと。

 

「──ッッ!!」

「……チクッてレベルじゃなかったと思うんですけど、よく声我慢しましたね?」

「カリナくんのマイペースには救われるよ……」

 

 ぶっとい神経の束である脊髄に針を刺したんだから、とんでもなく痛かったはずだ。普通なら麻酔下でやることだけど、今回はそれじゃ目的が果たせないので我慢してもらうしかなかった。更に言えばこの後もえげつない痛みだと思う。

 〔身体変造〕。挿し込んだ爪の先端部分を神経細胞に造り変える。百みたいに相手の細胞に合わせるような器用な真似はできない──だから免疫抑制が必須──けど、私のコレは速くて自由度が高い。お試しには最適だ。

 

「とりあえず隙間を埋めてみま──」

「おぉ!?」

「お? 天晴さん?」

「足が! 爪先が冷たく感じる!」

「おぉー、幸先が良いですね」

 

 喩えていうなら、私の役目は型採り用の石膏みたいなもの。彼自身の神経組織にできてしまった隙間に、神経細胞群を充填してその輪郭を正確に写し取る。

 

「両足共ですか? 片方だけ?」

「んん……右は感じない、みたいだ」

「分かりました。記録したら微調整しますから」

 

 こうしてどこまで埋めれば一番繋がりやすいのかを本人に確かめながら──もちろんできる限りの図像化機器も使い倒して──現状を精確に把握していく。

 

「ちなみに痛みはどうなんです?」

「とんでもなく痛いな! だが何も感じないよりはずっとマシだ」

「それは確かに。でもまだ前半戦ですからね」

「お、おう。覚悟はできてる」

 

 それが済んだら後半だ。

 傷ついて機能を失って、でもまだ脊髄の中に残ってしまっている細胞を──あるいはそれが壊死した残骸を──慎重に慎重を重ねて()()()()()

 歯医者さんとかでやるのと似たようなこと。もちろん普通は局部麻酔をかけてね。

 

「っ゛っ゛────!!!!」

「叫んだりしても大丈夫ですよ。天哉くんには秘密にしますから」

「ガ゛ッ゛リ゛──」

「え、天哉くん以外? やだなぁ私をなんだと思ってるんですかー」

 

 いやー、すごい精神力だわ。結局最後まで痛いとも休憩したいとも言わなかった。

 ミクロン単位の操作で額に汗しながら*4 彼の気分を和ませ続けた私も頑張り甲斐があるというものだ。

 

「……痛いのが気持ち良いとか言い出さないでくださいね」

「カリナくんはその手の話題に慎みが足りなくないか?」

 

 適度に雑談と休憩を挟みながら。納得の行く形を見出した時にはもうすっかり夜も更けていた。

 

 明日からは放課後に百が通ってくることになる。もう精確な型は採れたから後は彼女の仕事だ。私が石膏だとすると百は3Dプリンターにあたるのかな。

 私の〔変造〕は身体から離したら崩れちゃうけど、本家【創造】はそうじゃない。時間はかかるものの、免疫に攻撃されない天晴さん自身の細胞として、必要な形にぴったりの神経組織を創り出せる。

 

 後はそれを外科的に移植すればいい。これがお父さんの考えた、インゲニウム回復プランの概要である。

 

 

 

 型採りを終えた翌日、私はやっと普通に学校に来ている。

 普通にというか、身体が一気に縮んでるのは改めて驚かれたけれど、それはさておき。

 

「昨日の感触からして、移植が済めば日常生活レベルはいけそうな見込みが高いって。ヒーロー活動はリハビリ次第になっちゃいますが」

「感謝に堪えない……!! 兵怜さんも八百万さんも、本当にありがとう!」

 

 直角より深く頭を下げる天哉くんを皆で宥めて笑い合う。良かった良かった。

 

 

 一段落したところで昨日の授業について聞くと、職場体験に備えてヒーロー名を決めたらしい。

 

 天哉くんの『テンヤ』は……お兄さんの件で思い詰め過ぎな気がする。

 百はあらゆる命を繋ぎたいとの願いから『エリクシル』。

 透は『インビジブル・レイ』、お茶子は『ウラビティ』と“個性”由来の命名だ。

 

 被身子は何でも良いとか言って全然関心を示さないので、去年は『ヒミコ』を仮称にしていた 。

 今年になってようやく決めた名前は『クダギツネ』。腰の周りに沢山備えている筒状のアイテム(中身は血液なので当然ながら不透明)から来ているようで、お面も狐っぽいものに作り変えている。【変身】っていう“個性”も狐っぽいしね。

 まぁそれは表向きな理由で、本当はマスコミ対応とか危なっかしいので無口・ミステリアス系でも許されやすい方向を目指したものだ。狐なので人間の言葉わかりませーん、みたいな。

 ……それと、ヒーロー社会の規範や価値観に本当は全然馴染んでいない獣じみた精神性、とかね。

 

 

 ちなみに他のクラスメイトはと言うと──こういうの笑っちゃいけないとは思うんだけど。思うんだけどさ。

 

「『爆、殺、卿』っっっ」

「あんだ文句あんのかゴルァ!」

 

 バクゴーのそれは笑うでしょ。明らかにヴィランネームじゃないか。

 

「そういうテメェはどうなんだアァン? さぞご立派な名前なんだろーなぁ!」

「爪を使う“個性”はヴィランっぽく見られ易いですから、そこを和らげようと──」

 

 私はそこが悩みどころだったから、まさか自分からヴィラン風に寄せるとか考えもしなかったんだよ。

 『指長ヒーロー・フィンガード』。

 色んな使い方するけど、一般人に刃としての爪を向けることはないからね。ならこれは、用途としては長ーい指みたいなものである。救助とかに使う時は太くて丸い形にするし。

 あとは指と防護をかけてフィンガード。

 

 クラスの皆が色々と褒めてくれる中、バクゴーは目を逸らして舌打ちしていた。だから子供かと。

 

「それはそうと、あんなことになっちゃいましたけど指名ってどうでした? 例年通りに来てます?」

 

 被身子から聞いた限りだと、新人の奮闘を見たヒーローから声がかかればその事務所にいけるみたいな流れだったと──ん?

 なんだろう、何故か皆からじっとりと睨まれている。どういうこと? こういう時、いつも梅雨ちゃんや百がフォローしてくれて助かる。

 

「ケロケロ。カリナちゃんにもかなりの指名が入ってたのよ」

「え゛。巨人とのアレコレは中継ヘリも避難してて撮影されてないって聞きましたよ?」

「指名を入れるのはヒーローですもの。Mt.レディがあちこちでカリナさんのことを褒め倒しておられましたから……」

「何してんのあの人」

 

 確かに彼女の危ないところを庇いはしたし、その後も貢献できた自信はある。最後に巨人の口から這い出た時は大勢のヒーローから暖かい拍手を頂いて嬉しくも思ったよ。

 あの場にいた現役ヒーローのほとんどが私か百のどちらかに指名を入れたっていうから、その時の印象は大きかったんだと思う──私は体育祭出てないんだしね。

 仮免持ってるのは非公開情報だから、知らずに指名入れちゃうのはまぁ仕方ないのだ。皆から指名を奪っちゃったようで悪いけど。

 それにしても、仮免持ってる私が今更体験って段階でもないよね。どうするんだろう? インターンっていうのがあるんだっけ?

 

 

 

 

 放課後に職員室を訪ねて相澤先生に訊いてみたら、大きな溜め息を頂いてしまった。

 

「兵怜、そう急ぐな」

「そんなつもりは。あー……」

 

 急いでるつもりなんてないけど、彼に止められると酷く申し訳ない気持ちになる。

 

 ──アパートで意識を取り戻してから体育祭までの数日間、自宅療養中にお見舞いに来てくれた相澤先生は、別人かと思うほど(やつ)れていた。仮免があるから・怪我しても治せるからって理由で戦闘を任せた生徒(わたし)が目の前で死にかけるなんて体験は、悪夢を見せるほどだったらしい。

 とはいえ彼は謝らなかった。私も謝らなかった。あの時はあれが最善な判断だったと、私達は今もそう考えるからだ。あんな規格外を想定する方がおかしい。

 でもその時から、先生はちょっと過保護気味になった気もする。

 

「職場体験の期間中、お前に何かカリキュラムを課するつもりはない。そもそもお前、提出されてる休校届けはもう少し先までだぞ。また何か無理したんだろ」

 

 あー……【高速発動】で加速してなければ、『適合』完了にまだかかる見通しだったからか。

 説明……説明しようと思うと込み入ってくるなぁ。相澤先生には“個性”の性的(センシティブ)部分を明かしてないから面倒臭い。

 

「プルスウルト痛い!」

「校訓を誤魔化しに使うんじゃない」

「軽い冗談じゃないですか」

「だから軽く叩いたんだ」

 

 そうだけどさー。

 ともかく私は、皆が職場体験に行っている間を療養&自主トレーニング期間とするらしい。

 

「未完成の技があるとか言ってただろ。身長を戻す気がないなら基礎を固め直したらどうだ。この期間は設備の予約も取りやすいし、俺達教師側も時間の融通が利くからな」

 

 私は思っても言わなかったのに、山田(マイク)先生が『またイレイザーがデレてやがる』などと(からか)ってアイアンクローを食らっている。仲良いなこの人達。

 そんな様子にほっこりしてただけなんだけど、無言の私が相澤先生からは不満そうに見えたらしい。

 

「どうしても動かずにいられないなら、雑用も一つあるが」

「雑用?」

「そうだ。単位にはならんし、もちろん強制もしない。教師としてじゃない個人的な頼みといったところ──」

「! 聞きたいです」

 

 相澤先生が個人的な頼み!? これはスルーできない!──と被せ気味に食い付いたものの。

 しかし残念なことに、依頼主は別の先生だった。相澤先生は単なる伝言役だ。

 

 

 

 

「オールマイト先生の……元サイドキック?」

「そう。兵怜少女には唐突な話で申し訳ないんだけど、君にお礼を言いたいらしいんだ」

 

 

*1
一部、『あんな悲劇の日を“祭”と呼ぶな』的なクレームがあるらしい。

*2
透まさかの二連泊。

*3
流石に透は帰した。

*4
アシスタントロボットが拭いてくれる




 本日は直後にもう一話投稿します。
 バカ話です。
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