【完結】愛慾のヒーローもどき   作:土屋 四方

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 シ リ ア ス 誰ですか〜ナとか〜ヌスとか思ったのは。元々尻もassも(略)


2. 【自己再誕】の罪業(カルマ) 2

■検証二日目の日中

 

「私、何かやっちゃいましたぁ?」

「あー…………いや、働きぶりとしては実に良くやったぞ、うん」

 

 職場体験後の職員室にて。

 呼び出しを受けた被身子は本当に理解できておらず、相澤先生を困らせている。

 

 保須で“ヒーロー殺し”ステインを捕えた一件、正確にはその後の舌禍騒ぎのことだ。

 通称『救急車炎上事件』。まるで本当に救急車が焼けたみたいで紛らわしいけど、ネットニュースとかって話題性(キャッチーさ)重視でこういう名前つけるよね。

 

 被身子はネットの評判とか全く見ないし、私は心の底から被身子を褒め倒したし、百達も気を使ったのか言わずにいて。久々に教室で顔を合わせたクラスメイトに言われるまで被身子は何も知らなかったし、今もよく分かっていない。

 相澤先生がジロリと睨んで来るけど、こっちこそジト目で返してやった。

 

(おい兵怜、渡我はお前の担当だろ。ちゃんと教えとけよ)

(被身子が何か不味いことしましたかぁ? 私も分っかんないですぅー)

(絶対分かってるだろうが)

(第一なんで私まで呼び出したんです? 被身子が爆発しかねないこと言うつもりでしょ? そのストッパーを頼みもせずにやらせようとしてますよね? ね?)

 

 もちろんテレパシーみたいな“個性”があるわけじゃないけど、多分こんな感じで大体は通じてると思う。気まずそうに目逸らされたし。勝った。

 

 ……まぁ、難しい話ではあるよね。特に相澤先生は自分もマスコミ嫌いだし。被身子の炎上発言も内容としては何も間違ってない。

 

『そんなことより誰か救急車呼んでくれましたか? “個性”が使えない一般市民は救急車も呼べないんですか? これだけいて全員が『人を守らない』側なんですか?』

 

 あのアナウンサーさんはその日の内に病院に行って固定具を巻かれたらしい。深刻な怪我ではなく全治二週間との診断。

 ただそれは結果論だ。もっと大きな怪我だったかも知れない。二週間っていうのも即日治療を受けたお陰であって、天哉くんが言おうとした通りムチ打ち症を甘く見てはいけない。

 

 とはいえ被身子(クダギツネ)の言い方はダイレクト過ぎた。あの場にいたのに救急車を呼んでなかった人すべてを非難してしまったわけだから。

 

 撮影に夢中になってた人達は責められても当然だ、って見方はできる。そう言ってクダギツネを擁護する人もいる。

 一方で話を複雑にしてるのは、“撮影に夢中になってた人達”の顔が生放送で電波に乗っちゃったこと。

 その人たちの顔はネットで再拡散とかされちゃってて、怪我人(アナウンサー)を見殺しにしたかのような扱いを受けたり受けるのではと怖くなったり、そういう実害が発生してしまっている。

 

 それらの責任が被身子に求められるのはこれっぽっちも納得いかないけど、SNSとかで燃えてるのと雄英に苦情が来てるのは確からしい。

 とか考えてる内に、相澤先生がようやく口を開いた。

 

「渡我、お前は良くやった。マニュアルさんからの報告は読んだが、きちんと校長が示した優先順位を守れてる」

「飯田くんを止めなかったことを叱られてるわけじゃないんですよね」

「微妙なところだが俺はお前の判断を支持するよ。飯田のことはキツく叱っておいた」

 

 うん、天哉くんが単身で敵を追ったのは明らかに不味い。最低限サイドキックに一報を入れるべきだった。被身子の護衛を知ってたならまだしも気付いてなかったらしいし。

 被身子は彼を引き止める選択もできた。ただそれはマニュアルさんを見捨てることになる。おまけにできれば監視がバレないようにって努力目標もあったわけだし。

 

「じゃあ何が不味かったんです?」

「……生々しい話になっちまうが。お前自身や一緒に働く連中の評判、それと将来事務所を開いた場合の経営を思うと、お前の言動は良くなかった」

 

 仰る通りではあるんだけど、すかさずフォローを入れた。

 

「私は気にしませんけどね」

「外から見ての話だ」

「分かってます」

「なら口挟むなよ」

「被身子が悲しむので嫌です」

 

 相澤先生の期待通りの働きをしてるのに何が不満なんですかねぇ。

 

「評判、経営……」

「そういうのは本っ当に面倒臭いし、現時点でピンと来ないことを責めもしない。今後学ぶにしても、正直優先度は高くないと思ってるよ」

「それはイレイザーの私情混ざり過ぎじゃねえ?」

 

 山田先生が入れてきた茶々を完全にスルーして、相澤先生は続ける。

 

「だが、お前の言動は否応なくお前の周りに返ってくる。まともな反応ばかりじゃない。理不尽なのがヴィランばかりだと思うな」

 

 うわぁ。

 それ、『一般市民は下手するとヴィラン以上に厄介だ』って言ってない? 録画して拡散したらよく燃えそう。

 

「つまり、『他人は全員敵』……?」

「待って被身子、それは笑えない」

 

 ちょっと慌てて背中をつついたら被身子は舌を出して首を竦めた。冗談みたいだから良かったものの、大切な被身子に危なっかしいこと教えないで貰いたい。

 嫌がらせしちゃうぞ。

 

「落ち着いて被身子、今から相澤先生が『カメラやマイクを向けられた時の極意』を教えてくれるからね」

「そんなのあるんですか、知りたいです!」

 

 阿吽の呼吸で先生をイジる方向に乗っかる被身子。奥の席で山田先生がお腹を抱えている。

 相澤先生はかなり嫌そうな顔をしながら、とんでもなく合理的なアドバイスをくれた。

 

「ひとつ、『何も言うな』。ふたつ、『必要なことだけ済ませてすぐ立ち去れ』。みっつ、『余裕があれば手でも振ってやれ』」

「…………リナちゃん、これ真似していいやつです?」

「おいどういう意味だ」

「冗談抜きで被身子にはぴったりだと思う。相澤先生、本当にありがとうございます」

「ありがとうございます!」

 

 二人してきちんとお礼を言ったのに、相澤先生はしっしっと私達を追い払う。失礼しちゃうなぁ。

 

「──おっと、そういや渡我」

 

 帰ろうとしたところへ、相澤先生はもう一つ訊ねてきた。答えは分かりきってるただの確認だけど。

 

「『変幻ヒーロー・クダギツネ』への取材申し込みが山ほど入ってるが……全部断っといて構わないな?」

「も──」

 

 もちろんです! と応えそうになった被身子、それを呑み込んで咳払いを一つ。

 無言のまま、ぐっと親指を立てたサインを先生に返すと、手を振りながら速やかに職員室を去ったのだった。相澤先生のアドバイス通りに。

 

 あわれ山田先生は捕縛布の刑に処せられた。職員室で爆笑しちゃったんだから仕方あるまい。

 

 


 

 

■検証の終了後

 

 そんなことがあった後の週末──百と二人で早退した翌日。

 

 【自己再誕】と〔変創(メタメイト)〕〔造身(クリエフォース)〕との関係がはっきりしたのと、透もお茶子も揃って遊びに来てるので……黙っているわけにはいかない。

 空気をお通夜にしちゃうのは本当に心苦しいんだけれど。こんな楽しい輪に何食わぬ顔で混ざるのは……あまりにもズルい。

 

 深く、重く、頭が下がる。上げられない。合わせる顔がない、というやつだ。

 

「ごめん、みんな。百と確かめてたことの結果がちょっと──ううん、良くない感じだったから、聞いて欲しい。……謝らせて、ください」

 

 四人がびっくりして頭を上げさせようとするのを退けて、早口に続ける。

 

「私が……私がみんなの身体を()()()()()()()かも知れないなんて、考えたくなくて、目を逸らして…………ごめん、謝っても仕方ないけど、ごめんなさい」

 

 私の“個性”は子宮に在る。これは普通の子宮ではない。()()()みんなの因子を吸い上げて取り込めるのだ。

 じゃあ私の因子は? みんなの消化器系で取り込まれるなら良かった。そうだと思いたかった。実際は違っていた。

 

 私から──恐らくは私の子宮から──分泌された因子が、被身子たちの膣道(いりぐち)に留まって作用してるとは考えにくい。それなら食道や口内からでも効果が出そうなものだ。

 みんなの子宮も吸い上げている? それこそありえない。

 となれば()()()()()()()(のぼ)()()()()と考えるべきだ──言うまでもなく、子宮(おく)に向けて。

 

 普段だったら『何それエロい』とか興奮するところだけど。大興奮だけども。

 

 部位が部位だけに無責任なことは言えない。

 超常っていうのは、──何らかの法則性は見いだせそうなことが多いけど──個別の例ではほとんど『何が起こるか分からない』から超常なんだ。

 ましてや元々は私の子宮で働くはずの因子が、私を差し置いてみんなの()()に入り込んで何かしてるだなんて。もしみんなが子供を作れなくなってたりしたら、そんなの──償いようがないじゃないか。

 

 幼い頃、ある時なぜだか、『自分は将来子供を持てないんだろうな』と確信したことがある。

 もちろん未来予知とかじゃないし身体機能に問題があるでもなく、成長と共にこの“個性”の面倒臭さを分かってきたことで、その理解が『無理だろうな』と諦めの形を取ったのだ。

 それを哀しいとか思ったことは無い──と思う。そもそも欲しいかって話から、まだ分からないし。

 

 でも、そんな諦めを好きな相手に背負わせるだなんて──絶対にごめんだ。

 

 


 


 

 

 …………えーと。

 リナちゃんが半泣きで頭を下げ始めてから、二〇分くらい経ちましたかね。

 

 リナちゃんは今ちょっと──言葉にならない驚きとか怒りとか感情の落差とかで──虚無ってますし、百ちゃんは何かがツボに入ったようで笑い転げているので……戸惑う透ちゃん達には私から説明するしかないみたいです。

 

「えっと、透ちゃんお茶子ちゃんはついて来れてます?」

「百ちゃんから言われたことは覚えてるけど……」

「カリナちゃんがどうしてあんなに驚いてるかは……よー分からんなぁ?」

「そっか、そですね、そう思いますよね」

 

 二人がそれを知ったのはUSJの後、リナちゃんが目覚める前のことです。百ちゃんがみっちり授業みたいにしてました──あのお父様からの難しい話をちゃんと説明できるなんてすごいことです。

 その時に言われたのと()()()()()を、()()()()()()()聞かされたところで、リナちゃんの涙に共感なんかできませんよね。疑問が勝ってしまうのも『それはそう』って話です。

 

「私たちがそれを知ってることを、リナちゃんは知らなかったみたいですね」

「えーっ!?」

「なんでぇ!?」

 

 いやーなんでと聞かれると……誤解とかすれ違いとかそんな感じです。リナちゃんはとっくに察してるものと思い込んでましたし。

 【自己再誕】の因子が私たちの身体に大きな影響を──場合によっては深い傷を──残すかもしれないというリスクを、私たちはみんな承知してますよ、なんてことは。

 

 全部わかった上で、少なくとも私には大した問題じゃないんですよってことは。

 …………確かにちゃんと伝えてはいなかったですね?

 

 




 次話、被身子なりの伝え方(こくはく)
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