余計な知識が増えるおそれがあります。
私と百ちゃんは、リナちゃんと出会った年の夏にお父様の病院に呼ばれて精密検査を受けました。中でも特に詳しく調べられたのが下腹部──子宮です。その後も三ヶ月に一度くらいは検査を受けています。
あ、もちろん目的とかは先に詳しく教えてくれましたよ? 私は詳しいトコ曖昧ですけど。
要点だけ言えば今日リナちゃんを潰しかけてたのと同じ懸念なんですよ。つまり私たちの子供を持つ機能に悪影響があるかも知れないと、お父様はあの時点で気付いていました。
最初の検査で、何の問題も無さそうだという結果が出て。それをお父様が説明してくれて。
すると百ちゃんはすぐに言い返したんです。
『ご心配下さったことはありがとう存じます。ですが……
『アンフェア、ですか? そう感じさせたことはお詫びします、本当に誠実に説明したいんですよ。なんでも訊ねて欲しい』
『では遠慮なく。博士には
あの頃はまだお父様とも今ほど仲良くありませんでした。そんな良く知らない大人の話に、中学二年生の百ちゃんは噛み付いたのです。
ちょっと険悪な空気だったのを覚えています。あ、百ちゃんからの一方的なトゲトゲでしたけど。
『……見分けというと?』
『仮に今回、わたくしの
『…………』
お父様は目を見張って、それから降参だと両手を上げました。
『いいえ。その二つの見分けはつかないでしょうね』
『でしたらそれも仰って頂かなければ。まるでわたくし達にカリナさんを嫌わせたいようではありませんか』
要するに、はっきりしないことまでリナちゃんのせいみたいに言うなと。リナちゃんに背負わせるなら実の親だって黙っちゃいないぞと。
百ちゃんはそう言ったのです。
『……えっと、百ちゃん。でもそれ『うちの娘のせいじゃない』って言ってるみたいで感じ悪くないです?』
『それでもです。……勘繰ってしまうのです、わたくし達の関係にやはり反対なのではないかと』
『それは──申し訳なかった、勘違いさせてしまいましたね』
思い返すと昔の百ちゃんて今より随分カタい感じ。今や私たちのダメな部分がすっかり
──“個性”に限らず子宮に限らず──私たちは
……ともかく、私と百ちゃんはその時から。透ちゃん達はリナちゃんを起こす直前から。
お腹の様子はずっとお父様が気にかけてくれていて、さっきリナちゃんが言ってたような『説明もせずに危ない目に遭わせてた』なんてことぜーんぜんないんですよ。
なのでさっきのリナちゃんの涙と謝罪は、完っっっ全に杞憂なのです。多分『なんでお父さんはそういう肝心なこと教えてくれないわけ……!?』とか思ってるんでしょうね。
百ちゃんはそれが可笑しくなっちゃったことを謝りながら笑い転げていて手がつけられません。
「えー。私がリナリナ以外の誰かと結婚とかすると思われてたってこと? なんか面白くない」
「まあまあ。これはカリナちゃんだって心配するよ」
「そういうお茶子ちゃんはどうなんです?」
「え、だって
……それに、今更えっちなことから抜け出せない、ですか。まぁその沼に引きずり込んだのは主に私なんですけど。
「ヒミ様はどうなん?」
「私もリナちゃん以外との子供なんて考えたことないです。それに……仮にできなくなってても、」
そして仮にそれがリナちゃんのせいだと確認されたとしても。
「しょーじき誰のせいとか元々とか、どっちでも関係ないんですよね。それがリナちゃんと一緒にいるコストだっていうなら、喜んでお支払いしますし」
「えっ私めちゃくちゃ愛されてるじゃん」
「そうですよリナちゃん。やっと分かりました?」
お、ようやく正気に戻りましたか。その頬を両手でしっかりと挟みます。
「気分は悪くないです?」
「ん──ちょ──っあのね被身子、質問しといて口塞──っ」
よけーなこと言ったり考えたりするのが良くないと思うんですよ。物事はシンプルに。
「いいですかリナちゃん、どっちを選んでも正解の二択ですよ」
「に、たく?」
「産むのと産ませるの、どっちやりたいですか?」
「産ませる方で」
周りで「「「えっ!?」」」と驚いているのは無視して
こちらもぎゅうぎゅうと身体を寄せて、でもリナちゃんの脚の高さにある
私のここはあなただけのものですよ、と。
「かっ、カリ……*1 カリナさん!? 陰茎も生やせるんですの!?」
「え、え!?」
大慌てなのは百ちゃんとお茶子ちゃん。透ちゃんは分かってますね、私たちが
……ただ、
「なぁに、百たち
「ひゅっ!?」「っ♡」「欲しい!」
──リナちゃんの流し目は冗談に見えないんですよ昔っから。まぁ冗談というか、みんなが真面目に欲しがったら生やす練習(?)とかして本当にしちゃいそうですけど。少なくともこれまでそんなのを生やしたことはないですし、試したことさえないんじゃないでしょうか。
そもそも今この瞬間、脳ミソの使用率
リナちゃんの瞳が久々に欲で濁っていますし──私がたった今伝えていたのは、それでいいんですよってことですから。
「リナちゃん、拐われた女の子のことが気がかりなんでしょう?」
「…………そう、なのかな……」
「保須に来てくれた時もちょっと変でしたよ。すぐに会えて嬉しかったですけど」
「あぁー……普段の私なら何があったか位は電話で聞き出すかなぁ」
「リナちゃんは私を子供扱いしませんから。ちょっと違和感あったのです」
「
「今日も気分がアップダウンして疲れたでしょう? もうちょっと甘えましょうよ」
「甘える〜」
「そのストレスで因子の取得にも支障をきたしていたのでは? 被身子さんとは欠かさずしていたんですし」
「ストレスっていうならお父さんが説明済だったっていう健康被害の方もだね。全くあの人は……!」
「それは親子の問題ですわ。太郎さんも思春期の娘さんに伝えにくいことはおありでしょう」
「あんだけ笑い転げといてちっとも悪びれないね!?」
「あら、不足があれば肢体でお支払いしますわ?」
「…………いただきます」
「リナリナが関わって解決しなかったことなんてあんまり無かったもんね」
「そんな大したもんじゃないよ……無理なことは無理って放り出してる面も大きいし」
「ならその女の子のことも。『できることをやれ』、だよね?」
「…………うん。そうだね」
「ねぇねぇ、ちょっと私のこと見えないように戻ってもらっていい?」
「うん? ほい、もう見えてなヒャウ!?♡」
「あ、ただのプレイだから特に意味とかないよ」
「♡……ありがと♡」
「話聞くとどー考えても【ワープ】とかよなぁ。追っかけられんくてもしょうがないよカリナちゃん」
「ありがとう。後悔とかはし過ぎないようにするよ」
「自分を責めちゃう気持ちも分かるけど、ね」
「自分を責める──違う意味に聞こえるなぁ」
「え、責めてくれるん!?」
「…………『ご主人様に気遣いを求めるの? 欲しいモノをねだることもできないのかな?』」
「ごめんなさいっ♡ 縛ってほしいです♡♡」
「……『こんな扱いがキモチイイなんて。ヘンタイだね』。可愛いなぁ」
「♡ ヒミ様やカリナちゃんが上手過ぎるから──ッ」
「私たちのせいにするんだ? こっちこそお茶子のために色々と勉強するのに」
「そんなん、そんなん
「! …………お茶子のマゾってどこまで演技なの?」
「演技やったらとっくに投げ捨てとるわこんな難儀な性癖っ!!」
「わぁごめんごめんよ!?」
そう、お茶子の進化(?)がヤバいのだ。
私が自分の思い込みを自覚して虚無ってどうにか落ち着いた後、改めて見ればやけに大きな荷物を持ってきてたのが目についた。
すごい頻度で来ててもう歯ブラシまで置いてる透と違って、お茶子は今日が初めてのお泊り。だから気合い入っちゃうみたいな気持ちは分からなくもないけど、こっちにハンドル切っちゃったかー。
「…………えっと。お茶子、色々用意してきたんだね」
「自分でやろうとしたけど上手くできんのよ」
「そりゃそうだ」
彼女の持ってきた荷物の中身は──緊縛グッズ、といえば良いのかな。目隠しくらいはともかくここまでちゃんとしたものは馴染みの薄いジャンルだ。入門書みたいな本まで揃ってるし。興味本位でぱらぱらとめくってみる。
「えーと……縄の種類──基本的に麻縄を使うって書いてあるけど何種類か持ってきたんだね?」
「
「お、おう……こっちの──
「できたら新品使ってほしいな、ゴワゴワチクチクして刺激が強いんよ。だから厚手の軍手も持ってきたけど、手が痛かったりするようなら古い方で」
えぇ……より痛い方が良いんですか、そうですか。
「…………お茶子ちゃん、この新品のやつ農作物とか樹木用って書いてありますよ……?」
「緊縛用の縄ってお高いんやもん」
余計な知識が増えてしまった。
既に息の荒いお茶子をじっとり睨むとそれさえ嬉しそうにしている。手遅れだなぁ。
「農作……?? あの、どういったお話でしょう?」
「百は何に使うかも分かんないかー」
「知りもしない世界だと思いますよー」
あははーうふふーと目を逸していられたら良かったんだけど。お茶子は嬉し恥ずかし極まった表情で服を脱ぎ始めて。
白い肌にはっきりと残る縄の跡。自分で頑張ってみたのだろう、一部は結構痛ましい感じになっている。なのに当人は誰がどう見ても痛みと恥辱に恍惚を覚え、しとどに下着を濡らしているのだ。
それを見て言葉を失った百は──やがて、呆然と呟いた。
「お茶子さん…………貴重な常識人枠が…………」
なんと。
私・被身子・透は非常識枠だったらしい。三人仲良く視線を交わして頷き合う。うん、今日の最初のターゲットは百で決定だね。
お茶子はもう放置しても悦びそうだし。
(なお実際にはみんな順繰りに私を甘やかしてきたわけだが)
職場体験から帰ってすぐは、私と死穢八斎會(そして行方不明の女の子)や被身子と“ヒーロー殺し”(ついでに炎上の件)の話を優先していたので、平穏に終わったらしい百達のことはざっとしか聞いていない。
今日は時間もたっぷりあるのでゆっくり聞かせてもらおう──腰も痛いことだし。
百はかなりの指名を集めていながら、希望に近い体験先がなくてリカバリーガールに相談に行っていた。ずばり医療系ヒーローの伝手を求めて──でもそれも空振りに終わった。
“個性”の有無に関わらず、医療分野は専門性が高い。百が目指すような『最前線で戦いもこなせる医療系ヒーロー』なんてほとんどいないのだ。大抵は研究所とか病院に詰めていて、一般にイメージされるヒーロー像とはかけ離れた働き方をしている。
「それで無理を言って──太郎さんの勤める大学病院でお世話になりました」
もちろんこれは例外的な措置だ。一部の医師は特別な手続きを踏んで“個性”を医療に役立ててるけど、彼らは(いわゆる)ヒーローとして働いてないし病院だってヒーロー事務所ではない。
だけどインゲニウム事務所の人達がご厚意で事務所経営のイロハを座学で叩き込んでくれて、校長が許可を出したことで職場体験としての単位が認められたという。
結果的には百の希望通り『個性を使った先進医療』に幾つか触れられたようだし、天晴さんの予後*2 も気になってたから有り難い限りだ。
一方、職場体験から戻るまでヒミツだといって教えてくれなかったのが透。
ちょっと意外なことに、都市災害での救助活動なんかを専門にする事務所に行ったらしい──正確に言うと複数の事務所が加盟する組合みたいなものだけど。
「透ちゃんが災害救助?」
「ふっふっふー、意外ですかなガミさん」
「ですです、どうしてそこにしたんですか?」
「教えて教えてー?」
──もちろん体育祭の影響はあるんだろうな。敢えて言うものでもないそれを飲み込んで、私も被身子にノってあげると、透は鼻高々に新技を明らかにした。
「なんと私、暗視とかができるようになったの! 目に入る光を調節する感じで!」
「おぉー、じゃあ停電とかしてても動きやすそうですね?」
「そうなの、ちょっとでも光があればね!」
なるほど、それは確かに順当な進歩だ。
「──む、リナリナの反応がイマイチ」
「や、ごめん予想はついてたから驚きはなくって。でも本当に便利だと思うよ」
透明人間に視力がある時点で、何らかの超常が無意識に働いてるのは明らかだった。透明ってことは網膜が光を捉えられないんだから。
それを意識的に変えるのはかなり難しい──とはいえ、透は体育祭時点で身体の屈折率をいじれていたから、頑張ればどうにかなりそうだなぁとは予想してたんだよね。
暗所での救助はもちろんだけど、戦闘でのアドバンテージもかなり大きい。それに同じ原理で眩しすぎる光なんかもスルーできるはずだ。
だから本当に感心してるんだけど、透はお気に召さないらしい。
「そんなこと言われると意地でも驚かせたくなっちゃうね! 次の訓練でお披露目するつもりだったけど、ちら見せしちゃうんだから」
「お披露目?」
「えーと、“技能”? 昨日リナリナが泣きそうになってた……ヤオモモやガミさんにもある、【自己再誕】からのボーナスみたいな」
おー?
確かに〔身体変造〕が〔
興味を惹けたことを嬉しそうにしつつ、透はソレを行使した。
「…………んんんんんん!?」
何これ、何だろう、謎技? 透も細かいことが分かってない辺りが怖ろしい。
思いっきり驚いたから透も満足そうではあるけど。
日曜だけじゃ全然検証しきれない位に疑問点だらけの技だったから、時間をかけて調べていくしかないかな──あぁ、もうすぐ中間試験があるからその後にまでズレ込みそうだけど。
──ちなみに、お茶子の職場体験。
とある超有名ヒーロー事務所をお茶子の方から熱烈に志望して、何とか認められたらしい。着実に全方面でレベルアップして戻ってきたのは流石大手と言うべきか。
でも本人はあんまり満足してないみたい。
「“個性”で縛れるから、ロープワークには詳しくないんやって。それは別にええけど、『いくら職場体験とはいえ捕縛される経験までさせるのは違法デニム』だって、一度も縛ってもらえへんかった……」*3
「違法デニムとは……? ジーニストファンに怒られるよ?」
トップクラスのヒーローに何を頼んでるのかなこの子は。
ともかく、流石にお茶子はもう戻れない感じがするので……私と被身子は責任を取って、緊縛の技術をきちんと習得しようと決めたのだった。
※ナニとは言いませんが、生やしません。
R17.9は一段落となりました。次話からはバトル展開です。透の“謎技”お披露目も数話以内に。
さぁ──お待たせ、バクゴー。