一学期の中間試験。
ヒーロー科のこれまでを思うと意外なくらい筆記の比重が大きかった。実技は個性把握テストみたいな個人別の記録会だけ。
まぁそれが妥当とされるのも分かる。
生徒同士を競わせて評価するにはまだ実力のバラつきが大きいから。納得。
お祭りとはいえ体育祭で競い合ったばかりだから。納得。
だから中間試験はそれでおしまい──なんて、それで納得するわけないのが少なくとも一人いる。
言うまでもなくバクゴーだ。
「ここではっきりさせねぇで
「同感だ。改めてやろうぜ」
彼だけならまだしも、轟くんが同調して切島くんや天哉くんまで取り込まれると無下にもできない。
彼らの主張はつまるところ、『巨人騒ぎで中止になった体育祭の続きをやろう』だ。
相澤先生も条件付きで頷いたので開催自体は決定。
流石に中間試験の一部としては認められず、扱いとしてはレクリエーションみたいなもの。観客はクラスメイトのみ。テレビの生中継なんかあるわけない。
それでもこれが、生徒同士が火花を散らすガチ勝負であることは言うまでもないだろう。
体育祭から遅れること二週間ほど。
あの日の続きが、ついに──!!
などと実況解説ポジションも延長するノリでいたら、当たり前のように私と被身子も参加者にカウントされていた。雰囲気的に分かりきってはいたけど。
体育祭の続きじゃないんかーい!
「私達が入っていいなら全員参加で良くない?」
「てめぇらに発言権は無ェ」
「はいはい」
参加者はトーナメントがやりやすい十六名。騎馬戦を勝ち抜いた十四名プラス、私と被身子だ。
改めて挙げておくと、十四名の内訳と騎馬戦時のチームは次の通り。
葉隠透。飯田天哉。八百万百。芦戸三奈。
爆豪勝己。切島鋭児郎。轟焦凍。瀬呂範太。
緑谷出久。常闇踏陰。麗日お茶子。……流石にサポート科の発目さんは巻き込めないので除外。
蛙吹梅雨。峰田実。障子目蔵。ここは元々三人組だ。
私と被身子をトーナメント表の両端に置いて、後はクジ引きで決める。シードも敗者復活も無い。運の要素も大きいだろう。
……それでも。
抽選の様子を見ながら、私はしみじみと呟く。
「そういえばさ、初めてなんだよね」
「何がですかぁ?」
「クラス内ではっきり順位つけるのが」
ぎん、と空気が鋭さを増した。
「やっぱりリナちゃんは煽り上手ですねえ」
「私が言うまでもなかったと思うんだけど?」
ピラミッド状のトーナメント表を見れば誰だって意識する。
試験最終日、二科目のテストを終えた私達は午前中から演習場に集まっている。
先生方はテストの採点とかで忙しいので、少なくとも大怪我や大破壊は禁止。それを踏まえて相澤先生が試合の形式を決めた。
その名も『雄英式スポーツチャンバラ』。
『それじゃさくさく始めていきますよー、実況解説は持ち回りで、ひとまず渡我と百ちゃんでお送りしまーす』
『被身子さん、わたくしこういうのはあまり……』
『まぁまぁ賑やかしみたいなものですから。無理に面白いこととか言わなくて良いんですよ』
『それでしたらどうにか』
『百ちゃんは素でも結構面白いですからね』
『心外ですわ!?』
楽しそうだなぁ実況席。
『さて第一試合はリナちゃん対障子くんですね。最初なので指差し確認しながら道具のチェックお願いしまーす』
被身子の指示で、私と障子くんは声をかけあいながら確認を行う。
「ボールの位置は決まりました?」
「悩ましいが……あぁ、これでいく」
選手は身体にボールを三つ取り付ける。大きさはテニスボールくらい。位置はある程度選んで良い。ゲームの勝利条件は『自分のボールを守りつつ相手のボールを割る』ことだ。
私は首と両手首。障子くんは首、左手首、左上腕。
「武器は……私は短剣を二本で」
「俺は剣と大楯にしよう」
おおまかに武具の形をしてるけど、特殊な低反発素材でできた訓練用のものだ。一般的なスポーツチャンバラ用よりは硬いものの木刀とかよりは柔らかくて怪我をしにくい。
びっくりするくらい色んな形が用意されてて──使い道が想像しづらい物も多い──、試合ごとに二つまで選べる。
障子くんが選んだものの一つは楯の形だけど、この競技では“武器”だ。相手の武器にちょっとでも触れるとボールは即座に割れる仕組み。
「最後にカメラチェック……はい、スキャンできてます」
「こちらも大丈夫だ」
最後にヘッドギアを被った。これは頭部と眼を保護するだけでなく、ルール違反をチェックするカメラを備えている。
この競技では、相手の身体やボールを直接攻撃する時は必ず武器を使うと決まっている。
丁度障子くんが騎馬戦でやったみたいにボールを腕の中に隠しちゃうと、その防御を頼りない武器でこじ開けなきゃいけない──そんなの無理があるので、身体でボールを隠すのはルール違反だ。
このヘッドカメラはその反則行為を自動検知する為のもの。
三つのボールは原則、相手の
つまり障子くんは大楯を構えてその陰にボールを隠す戦術なんだろうね。これはルールで認められている。
対する私はその防御を押し退けてボールまで攻撃を通せば良いわけだ。相手の武器に対してなら素手で殴ったり“個性”による攻撃をぶつけたりしてもOK。
まとめると、ボールが割れてしまうのは──
相手の武器に触れた時。
ルール違反によるペナルティ。身体を使ってボールを隠してる時間が規定の秒数を越えた場合とか。
基本はこの二パターン。
最後に──あんまりないとは思うけど──ボール同士が直に触れた時。
これは双方が同時に割れる。体当たりみたいなラフプレーは控えましょうって意味だろう。
この三つ以外(直接殴られたとか、転んで地面と挟んだとか)なら割れても点にならず、競技を中断して同じ位置につけ直す。場合によっては割った側にペナルティ。
ルールはそれだけ。
だから私が裸足なのも特に問題ない。
「……さて、道具とルールの確認も済んだところで、障子くん」
「なんだ」
「新技でいきます。一瞬で終わったらごめんなさいね」
「!……やってみろ!」
『両者気合い十分! それでは第一試合、カウントダウンです!』
『行きますわよ! 五、四、三──』
『百ちゃん、そのボタンは五カウント挟んでブザー鳴るヤツなので即押しちゃってください』
『先に教えてくださいまし!?』
し、締まらないなぁ。ともかく機械音声のカウント後に開始ブザーが鳴った瞬間。
〔身体変造〕を起動する。上半身は細く軽く、下半身は太く
「モード:スプリント」
「な……!?」
『でたぁー! リナちゃんミルコさんモード!』
高機動特化──対被身子ガチンコモードでもある──
とん、と柔らかく後方へジャンプして、着地に合わせて深く沈み込む。下半身のバネを使って吶喊し、正面から大楯を──蹴っ、飛ば、す!
「っぐおぉ!?」
「身体が浮かないだけ大したもの、ですっ!」
障子くんは衝撃を逸らそうとしたけど、結果的に重そうな楯が跳ね上がって防御がガラ空きになっている。すかさず懐に飛び込んでボールを割──っと、二つしか割れなかったか。
「なんて
「初見で避けられましたか。まだ練習不足ですね」
防御に徹しても先は無いとみたんだろう、障子くんは狼狽えることなく楯を構え直し、重心を低くして突進してきた。
戦術としては正しい。私は以前より大分軽くなってるせいで、さっきみたいな威力を出すには速度を乗せる助走が必要だ。距離を詰めるのは理に適ってる。
「モード:フォートレス」
上下のバランスを元に戻し、即座に
迫りくる楯を真横から殴りつけると、吹き飛びそうになった障子くんだけがバランスを崩した。隙あり。
〈勝負アリ! 三対〇デ兵怜カリナノ勝利!〉
ロボットによる結審を受けて、わっと会場が沸いた。私は障子くんと硬く握手を交わす。
「く……あれほどの体型変化を一瞬で済ませるとは。良くまともに動けるものだ」
「つい最近です、できるようになったのは」
USJの時は未解決だった
身長体重がありすぎたから無駄に難しかったのだ。体重を削って身長を一四〇に落としてからは、重心が下がったお陰で笑えるほどやり易い。これもあって身長を戻す予定はないのだった。
「完敗だな」
「いえ、最後はルールを利用しましたから」
彼のラストボールを割ったのと殆ど同時、私のボールも割られている。それも首のものが。
仮に先に割られていてもスコアが二対〇になるだけで、私の勝ちは変わらない──ルール上は。
けど実戦で言うなら『取り抑える瞬間に捨て身の反撃を受けて致命傷』みたいな話だ。完勝とは言いにくいかな。
上から目線かも知れないけどお世辞ではなく、障子くんは決して弱くない。弱かったら最初に三つとも割れたはずだし。
改めてお互いの健闘を称え合い、舞台を後にした。
一回戦第二試合。轟くん対天哉くん。
『うっわ炎の精度すごい上がってる』
『エンデヴァーの焼き殺し方をエンデヴァーに習ったんですって』
『何その物騒すぎる職場体験』
衝撃や瞬間的な加熱(バクゴーの爆破とか)には耐えるみたいだけど、轟くんの火力を浴び続けるには訓練用の武器はヤワだったようだ。天哉くんは武器を二つとも燃やされてしまい、攻撃方法を喪ったため降参した。
一回戦第三試合。百対瀬呂くん。
『ナ、ナイスファイトですよ瀬呂くん』
『どーんまい!』
透が明るく言ったら皆でどんまいどんまい言い始めてしまった。鬼か。
百もね、私や被身子に勝てないってだけで格闘能力低くはないから……舐めてかかった瀬呂くんが迂闊。油断しなければここまで一方的にはならなかったはずだよ!
一回戦第四試合。バクゴー対梅雨ちゃん。
『こらぁバクゴー! 女の子に何すんだぁ!』
『あかんよ透ちゃん、二人とも真剣なんや』
まぁ……うん。勝ち目が薄くても諦められない梅雨ちゃんの気持ちは痛いほど分かるし、それを見てるのが辛いって透の言い分も頷ける。かといってバクゴーも長引かせて甚振ってるわけじゃなく油断してないだけだからお茶子も正しい。
最後は私と障子くんみたいな交錯になって──梅雨ちゃんが根性を見せた。最終スコアは二対〇。バクゴーは歯を食い縛りつつ、梅雨ちゃんを助け起こしていた。
一回戦第五試合。透対峰田くん──改めミネタ。
『しゅ、瞬殺や……』
『弁護不能だし弁護無用ですねー』
透だって私達と訓練してるしね。エロブドウ退治くらいは軽い軽い。
一回戦第六試合。緑谷くん対切島くん。
みんな職場体験で成長してるけど、特に見違えたのは彼だろう。
『まぁ! 緑谷さん“個性”の制御が?』
『なんですかアレ、派手ですね』
自爆砲台じゃなくなって、全身を薄っすらとスパークするような【超パワー】……うーん? シンプルな増強系にしては違和感が強いけど。
ともかく大いにパワーアップしてる。腕力と速度のどちらも切島くん以上だ。
「やるじゃねぇか緑谷ァ!!」
「切島くんも凄いけど! 僕だって負けられない!」
青春だなぁ。
結果は一対〇で緑谷くんの勝ち──付け加えると、緑谷くんが『割られた』ボールは一つだけ。もう一つの失点は“個性”の制御ミスで直接切島くんのボールを叩き割ったペナルティだ。
相手が彼じゃなかったら怪我させてたぞ。まだ不安定みたいだね。
一回戦第七試合。お茶子対芦戸さん。
かなり拮抗した接戦になった。格闘能力だけなら芦戸さんの方が一歩先を行くだろうか。けれど──
『このルールはちょっと芦戸さんに厳しいですね』
『下手に“個性”を使えませんものね……』
酸性液がお茶子自身やボールに触れたらペナルティなんだから、迂闊に発射できない。
縛りプレイみたいな状態では空中からの攻撃に対応できず、一対〇でお茶子の勝ち。誰がどう使うんだと思われた武器タイプ・靴が見事に活躍していた。
……後で踏んでくれとか言って来そうだな。
一回戦第八試合。被身子対常闇くん。
『実況は兵怜&葉隠です。よろしくね透』
『よろしくリナリナ! ところで常闇くんの武器は……なんで?』
本当に色んな形が用意されているもので、彼の【黒影】が握っている武器は──いや普通は武器じゃないんだけど──傘である。冗談みたいな絵面だな。
『開けば身体を隠せる範囲は大きいし、攻撃にも使える盾って言えば便利そうですけど』
『いやいや、代わりに重くて脆いとか使いにくいでしょ』
透の言う通り、傘はそういうピーキーな武器として作られていた。だけど彼が使うなら割と合理的だ。
『【
重さは苦にしてなさそうだし、被身子は力押しする方じゃないので脆さもさほど問題にならない──はずでしたし』
『力押しではないけどさぁ……』
『あんな戦い方するのは私も初めて見ます』
被身子のやつ、短剣は腰に挿したままで長剣一本しか使ってない。長剣というよりあの使い方は──刀だ。
「もしや“ヒーロー殺し”の剣術!?」
「真剣で試すわけにはいきませんから!」
「見よう見真似でこの鋭さとは!」
そりゃ常闇くんも驚くよ。天才肌って怖い。刃もついてないのになんで傘に穴が空くのさ。脆いって言っても処j────もとい、サ●ンラップじゃないんだよ?
「なぁ兵怜、渡我のアレどうやってんだ?」
『どうって聞かれると困りますけど……』
不甲斐ない解説でごめんよ切島くん。
スプリントを使い熟せるようになってから多少は動体視力が向上したけど、それでも被身子の動きは細かい部分まで捉えきれない。真似もできない。
『力の集中、ぐらいにしか言えません。場所とか角度とかタイミングとかを工夫して、力が分散してしまわないように、こう……』
『ぐっ!と』なんて説明はかろうじて飲み込む。いずれにせよふわっとした言い方が精一杯だ。
「
『私は正直怖いです』
常闇くんも傘での受け方を試行錯誤してるけど、被身子が突きを放つと三回に一つは穴が増えていく。それはつまり防具としての性能──カメラからボールを隠すことが許される範囲──が削れていくということで。
〈規定秒数ヲ超過。常闇踏陰、減点イチ〉
ロボット審判の宣告と共に、常闇くんのボールが一つ割れた。傘が穴だらけなのを補おうとして『身体で隠していた』と判定されたようだ。
「ちぃっ……ならば!!」
「む」
『お、傘畳んじゃったね』
『もう防具にはならないって判断ですかね。重めの大剣としてなら使えるでしょう』
『常闇くん自身は……槍?』
『【黒影】に防御させつつ遠間からチクチクするプランだったのかと』
防御&カウンター的な立ち回りには失敗したので挟撃狙いに切り替える常闇くん。
擬似的に二対一みたいな戦いを強いる【黒影】の運用はかなり脅威だ。このアドバンテージは傘を畳んだ今も失われていない。
……そのはずなんだけどねぇ。
《チョコマカ逃ゲンナァ!!》
「食らえ!」
「っと! ほっ!」
【黒影】からのやや大振りな攻撃は足捌きと身のこなしで躱す。常闇くんからのコンパクトな刺突は武器を使って往なし、逸らし、切り落とす。“ヒーロー殺し”がこんな戦い方してたかは知らないけど、これまでの被身子には無かった動きだ。
んで被身子って、こういう不慣れな動作を最適化するのが本っ当に得意なんだよね。
「そこ!」
「っ!?」
傘と槍が同時に流れた一瞬に腰から短剣を投げ放ち、これで三対一。
『えぇー……今の、常闇くん何かミスしたかなぁ?』
『ミスというほどのことは。【黒影】は細やかさ、常闇くん自身は筋力が少し足りなくて、そこを突かれた形ですね』
『つまりガミさんが凄い!』
実況するつもりのなさそうな透はともかく、常闇くんは強引な攻めに出てしまった。距離を詰めて押し潰そうとしたのだ。
『あーっと決着ぅ! 三対〇でガミさんの勝利です!』
『常闇くん、最後は焦りが出たでしょうか。その距離は被身子の独壇場ですよ』
「不覚の極み……ッ!!」
「いえ、いつかとは見違えました。ナイスファイトです」
「……そちらもな。今回も学ばせてもらった」
そういえば常闇くんは初めての戦闘訓練でも被身子に負けている。あの時は奇襲とはいえほぼ瞬殺されてたんだから、遠間でなら拮抗できた今回の方が明らかに差は詰まっていると言えるだろう。
さて、一回戦の八試合が終わった。
二回戦第一試合は私と轟くん。
「余裕そうじゃねえか、兵怜」
「そうですね、勝算はありますよ」
【半冷半燃】の制御は確かに細やかになっていて、氷で退路を制限された天哉くんは炎から逃げ切れなかった。でも私のスプリントモードは、トップスピードで天哉くんに劣るとしても加減速や方向転換の鋭さなら優っているつもりだ。
どんな火力だろうと避けてしまえば問題ないってこと。
「捕まえてごらんなさい、ってやつですね」
「やってやるよ……!!」
戦闘訓練の時みたいな混じり気はもう無い。純粋な戦意が圧を増す。
いいじゃないか、もちろんこっちだって負けるつもりはない!
耳郎ちゃん・尾白・口田・砂藤についてもどこかで少しくらいは出番を作りたい……今回はガヤ。