【完結】愛慾のヒーローもどき   作:土屋 四方

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 ちょっとだけ悪属性に寄ってきた透ちゃんの第一歩。


5. A組頂上決定戦 2 →残り四人

 多分、A組の半分以上が思ってるはずだ。決勝戦はリナリナ対ガミさんになるんだろうと。

 

 二人を押し退けて自分こそが優勝するんだって人ももちろんいる。例えば轟くんだけど──

 

〈勝負アリ! 二対〇デ兵怜カリナノ勝利!〉

「畜生……!!」

 

彼は二回戦でリナリナに敗退。

 

 ヤオモモとバクゴーはこれから直接対決だからどちらか片方は落ちる。

 緑谷くんは──私が落として見せる。

 私はガミさんに勝って決勝に行くつもりなんだから。や、準決勝の相手はお茶子ちゃんかも知れないんだけど。

 

 でも例えば、A組の皆に『葉隠透は渡我被身子に勝てると思うか』を訊ねたら……まぁ大半の答えはNOじゃない? それはお茶子ちゃんでも大差ないと思うんだ。

 つまりガミさんが凄い。

 

 そんな彼女に、A組の『最強(チャンピオン)』に、私は本気の本気で勝とうとしている。

 何人が信じてくれるだろう? 笑い飛ばされたりしないかな?

 

「(……透? 大丈夫?)」

 

 ヤオモモ達の対戦中、リナリナがこっそり話しかけてくれた。優しい。

 

「(肩がガチガチだよ。深呼吸しよっか)」

「(……ありがとね)」

 

 そうだ、まずは緑谷くんに勝たなきゃ始まらない。これだって私には大きな関門。あのバチバチする【超パワー】を見た後じゃ勝ち目は薄いように思えてしまう。

 

「(リナリナ……私、緑谷くんに勝てるかな……)」

 

 漏らすはずじゃなかった弱音が漏れた。私、この人には全面的に弱いので。そして私の王子様は、訊かれた以上ははぐらかしたりしない。

 

「(正面からじゃ勝てない)」

 

 うん。そう言ってくれると思ったよ。

 

「(……ズルい勝ち方したら引く?)」

「(ルール違反じゃないならどんな勝ち方も正当だよ)」

 

 立て続けに欲しい言葉を言わせてしまった。ありがとう。

 私はぶすっとむくれて冗談に走る。

 

「(私以外にも同じこと言うんでしょう?)」

「(今のは当たり前だよねぇ!?)」

「(……くすくす。ありがと、リナリナ)」

 

 どん、と少し乱暴に肩と肩をぶつけてくれた。

 困るなぁ、嬉しくてニヤけちゃう。周りにバレない透明人間で助かったよ。

 

〈勝負アリ! 一対〇デ爆豪勝己ノ勝利!〉

「…………ありがとう、ございました……!!」

「……ケッ」

 

 ヤオモモが悔し涙に濡れてる時に笑ってるってのは、流石にねぇ?

 

 


 

 

『二回戦第三試合、透対緑谷くん。解説よろしくねバクゴー』

『なんで俺がこんなことしなきゃなんねんだァ!?』

『持ち回りだって言ってたじゃないですか。透が見えるの私だけだし、緑谷くんに一番詳しいのバクゴーですよね』

『クソデクのことなんざ知ら──』

『はいポチッとなー』

『聞けやゴラァァ!!』

 

 バクゴーの解説なんか聞くまでもない。リナリナの言った通り、真正面からぶつかったら勝てるわけないんだ。誰かにズルいと言われても、ルールの枠内で一気に決めてやる。

 

「待って待ってタイム! 兵怜さん、葉隠さんのこれってアリなの!?」

 

 ちぇ。始まってたカウントダウン、止まっちゃった。

 

『なんですか緑谷くん、何が問題だと?』

「服! 葉隠さん何か服着てよ!」

 

 想定通りにテンパってくれてありがたいよ。でもそのクレームは通らない。リナリナは公平だ。

 

『服を着なきゃいけないなんてルールはありません。ボールを三つとヘッドギア、武器も二つ。サポートアイテムとか持ってるわけでもない。規定通りです』

「そんなこと言ったって……」

 

 観客の誰かが「てめぇ緑谷そこ代われぇ!!」とか言いかけて踏み潰されたっぽいけどきっと幻覚だからスルー。

 もちろん緑谷くんの要望はスルーせずしっかりブロックする。

 

「緑谷くんは私にだけ“個性”使うなって言うの?」

「そうじゃないけど!」

『そう言ってんのと同じだろうがクソナード』

「かっちゃん……! あぁうん、ごめん分かったよ!」

 

 バクゴーが味方してくれたのはびっくりだけど、ともかく再度カウントダウン。今度こそ始まる……五、四、三……。

 ブザーと同時、突っ込んでくる緑谷くんを遮るようにして正面に向けていた()を開く。彼はそれを殴って退けようとするけど──

 

「!?」

 

傘はその場で回転する。何の支えもないせいだ。

 だって私、こんな重いの振り回せないもん。開いてすぐに手放した。()()()()

 今、緑谷くんの間近で開いた傘が二本ふんわりしていて。そこに紛れて近づくと、彼が腕に嵌めた盾を両手で掴んで引き回す。

 私のボールは全部体幹につけてるから、両手の動きは全く視認されない。合気柔術の要領で彼の力を利用すれば投げ飛ばせるはずだ。残念なことに私の技術はまだちょっと足りてないけれど──

 

あんっ♡

「!!?!?!??」

 

囁き声で硬直した人を狙った方向へ引き倒す位は簡単。

 手放した傘にぶつけることで一つ目のボールを割る。そして間を空けず身を寄せた。

 

〈勝負アリ! 一対〇デ葉隠透ノ勝利!〉

「え、えぇっ!?」

「ごめんね、緑谷くん」

 

 意味が分からないという様子は流石にちょっと申し訳ない気分になる。武器を二つとも手放してた私にボールを割られたら驚くのも無理はない。

 だって『ボール同士を接触させると両方割れる』ってルールは多分ラフプレーによる怪我を防止する為のものだ。

 

 だからこそ利用させてもらったけど!

 

『透は謝ることないよー。緑谷くんの身体には触ってないんだから』

『あんなんに騙される方がマヌケなんだよクソザコデク』

『いやバクゴー、あれに無反応なのもどうかと思いますよ』

『てめぇら男をみんなバカだと思ってやがんなぁ!?』

 

 バクゴーはそう吠えるけど、リナリナが解説席からぐるりと首を巡らせると男子の半分以上が顔を背けている。ダメじゃん。

 

『まぁまぁ、緑谷くんがああいう刺激に殊更弱いのは事実でしょう? 透はそこを突いたわけで』

『勝てた試合だぞゴミカス。死んで反省しやがれ』

 

 『講評は次に繋げられる形で』と(たしな)められてもバクゴーはろくなことを言わない。見かねたリナリナに『バクゴーだっていずれ先輩ヒーローとして未熟な後輩にアドバイスとかするんですよ?』と言われてやっと真面目に考えている。

 

『つっても……戦闘中に動揺すんな、なんて当ったり前だろーが』

『それは同感。硬直しちゃった後のリカバリーも遅かったしね。緑谷くんの課題の一つです』

 

 この後、パワーのない私にとっての合気術の重要性とか練度の低さもがっつり指摘されたけど。

 何はともあれ二回戦突破! やったーーー!!

 

 

 

 二回戦第四試合は、大方の予想通り──って言ったら悪いんだけど──お茶子ちゃんが敗退。準決勝での私の相手はガミさんに決まった。

 

(流石に試合中にマゾ的な振る舞いはなかった……と思う。多分)

 

兵怜○ - ✕轟 

八百万✕ - ○爆豪 

葉隠○ - ✕緑谷

麗日✕ - ○渡我

 

 

 そして準決勝第一試合、リナリナ対バクゴー。

 

『実況解説は渡我と緑谷くんですー。よろしくねぇ』

『ぼぼぼぼボクなんかで良ければ頑張りますすす』

 

 この一戦をバクゴーは待ち望んでいた。

 それはきっと間違いないんだけど、正直ちょっと驚いてしまう。

 

 初めての戦闘訓練でバクゴーは轟くんと組んだ上で手も足も出なかった。何度も何度も実力の差を見せつけられてたし、リナリナが仕留めにかかってからは五秒と経たずに確保テープを巻かれてた。

 あれを体験してなお牙を剥けるなんて──具体的な勝算がある、ってことなんだろうか。

 

「出し惜しみなんざしやがったらブッ殺すからなァ!!」

「……できもしない脅しは滑稽ですよ?」

 

『血管が切れる音が聴こえた気がしますねー』

『かかかかっちゃんを煽るなんて危ないよ兵怜さん!』

「っせぇクソデクとっとと始めて死ねノロマァ!!」

 

 緑谷くんが慌ててボタンを押して、準決勝が始まった。

 ところがリナリナは、一・二回戦で見せたモードチェンジを使わない。素のままの体型で長い槍のような武器を構え、どっしりとバクゴーを待ち構える。

 

「ッッッ!! 舐めてんじゃ、ねえェェ!」

 

 ──そこからの攻防は、正直言って私の目では捉えきれなかった。実況がなかったらとてもついていけない。

 

『まっすぐ飛び込むバクゴー、突き出された槍を払い除けようとしますがその腕を避けられて逆にカウンター食ら──ちっ、ボールは守りましたか』

『あのかっちゃんが反射神経で負けるなんてブツブツブツ──

『リナちゃんは反射神経だけでも負けませんー! しかも今は長柄武器、手元の小さな動きが鋒先では大きくなるでしょ?』

『なるほど! あ、だからかっちゃんは左右じゃなく前後に避けるんだ』

『ですです、離れてる内の左右だと槍に追いつかれるので』

『そうは言ってもかっちゃんが近付けないなんて……!』

 

 む、緑谷くんは私よりついていけてるっぽくて悔しいな。

 ともかくバクゴーは槍の間合いから踏み込めずにいる。彼が選んだ武器は鈎爪と靴で*1 、どちらも防御には向かないから強引な突撃はやりづらい。どうにか接近してもリナリナは腰の細剣を抜くだろうし。

 さっきから大小の爆音が続いてるけど、くるくると弧を描く槍はバクゴーを離れた位置に縫い留める。

 

『【爆破】で(はじ)い──まただ、兵怜さんの槍捌きが速すぎる!』

『そりゃ廻すのに【爆破】の勢いも使ってますから。本物じゃないので刃先も石突きも同じですしね』

『それでも半回転させる間に踏み込めないものかな』

『リナちゃんだって後ろに下がれるんですよ?』

『そっか、どうすれば……』

 

 緑谷くんが完全にバクゴー推しで語るのは気になるけど、それはガミさんも大概だから何も言えないかな──と、ほんの瞬きの間に戦局が動いていた。

 

〈TIME!! 映像判定ヲ行イマス、試合ヲ中断シテ下サイ〉

 

 気付けば二人は近くに立っていて、ロボット審判が旗を立てて中断と繰り返している。

 ボールはバクゴーのものだけが一つ割れていて……にしてはリナリナの表情が優れない。

 

『渡我さん、今何が……?』

『スロー再生が出るみたいですけど、まずバクゴーが槍を掴みました。【爆破】は誘いでしたね』

 

 ガミさんが言うには、バクゴーが何度も槍を弾いてたのは『掌を向けられたら【爆破】されると刷り込む為』で、本当の狙いは槍を掴むこと。

 掴まれた側は槍を引いて崩すのがセオリーだけど、それを待ってたバクゴーは便乗して一気に接近。槍は掴んだまま、空いた腕の爪を振り上げつつ蹴りでも攻撃を狙う。映像が出たけど、この一瞬で空中姿勢をちゃんと安定させるのは素直にすごい。

 

 そこから(解説によると)色んなフェイントをかけあいながら距離が詰まって、リナリナは槍を手放して細剣を抜き、バクゴーはそれを避けるどころか迎えるように身を沈める。

 慌てて手首を返そうとしたリナリナだけど──

 

〈判定終了シマシタ。兵怜カリナノ反則ヲ確認、減点イチ〉

 

バクゴーのボールは『武器ではなく拳で割られたもの』と判断されてしまった。不正な攻撃なのでバクゴーのボールは補充されて三つに戻る。逆にリナリナのボールが一つ割れる。

 

 つまり二対三で……リードされた形。

 

 

「これで本気になったか? アァ?」

「……そうですね。お詫びしますよ。お詫びして、蹂躙します」

 

*1
いずれも片方で一つとカウントされる。片腕に爪、片足に靴を装備。




 形振り構わなくなったバクゴーの本気。
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