「これで本気になったか? アァ?」
「……そうですね。お詫びしますよ。お詫びして、蹂躙します」
試合再開。
リナリナも今度はすぐにモードチェンジを使った──ことは確かに使ったんだけど。
ぱっと見ただけだと最初と同じように、長槍を両手で構えて待ちの姿勢。違うのは摺り足で横移動してることだけで、それだって大した速さじゃない。
でもバクゴーは大いに顔をしかめて、踏み込めないまま間合いを測り続けている。
『え、あれ……? 渡我さん、見間違えじゃないよね』
『はい。リナちゃん、手足の長さとかを
『よく普通に動けるね!?』
『摺り足でしか動けないとは言ってましたけどね。あれ正面から見ると本当にやりづらいんですよ』
バクゴーからしたら細かい単位で距離を調節したいのに、一歩ごとに歩幅が変わる相手なんて堪ったものじゃないだろう。リナリナが槍の構え方を少し変えるだけでもバクゴーは過剰反応したり、飛び込もうとして後退ったりして──パパァン。え?
いつ突いたのかも分からないまま、スコアは逆転していた。二対一。
「っぐ……!!」
『速すぎてほとんど見えなかったよ!?』
『バクゴーは見えてたっぽいですが、避けられませんよね。重心が浮いた瞬間でしたから』
ただでさえ速い突きが、手脚の伸縮を利用してほぼノーモーションで襲い来る鬼畜仕様。
……ガミさんは普通に避けそうだけど。
これを受けてバクゴーは構えを変えた。
キックボクシング(ムエタイ?)みたいな小刻みなステップの跳ね際を狙い撃たれたから、今度は空手のようなべたりとした摺り足に。
そうするしかないとは思うけど靴は使いづらくなったようにも見える。じゃあ残った武器である鉤爪で攻めようとすれば、それは多分リナリナの思う壺なんだろうし……っと、流石にバクゴーも黙ってやられはしないか。
『かっちゃん飛んだー!』
『悪くない判断ですよ。長い槍で上を突くのは難しいですから』
『兵怜さんも槍を捨てて、爪で細剣を構えた!』
『爪でも扱い易いものを選びましたね』
早口の解説でも追いつかず、リナリナの爪が上方に伸びてバクゴーを襲う。でもそれはさっきまでの槍撃に比べたらずっと遅い。だからバクゴーは下向きに加速しながら避けて、
「死ぃねェェェ!」
「おバカですか」
撃墜された。一度躱した細剣で後頭部を押されて、想定外の速度で床に突っ込んだのだ。あー……下から爪伸ばした時は加減してたんだね。
当然、そんな隙を晒したらボールは割られている。二対〇で試合終了だ。
『リナちゃんの爪が初回訓練の時と同じ速さなわけないじゃないですかぁ』
『それは騙されるよ、元から凄い速かったんだから』
『騙される方が悪いんですよーププゥー!!』
「こらこら煽らないの」
思いっきり煽りにいってるガミさん(私も同じ気持ち)を窘めながら、リナリナは真面目に講評を始めた。
這いつくばったバクゴーの額を突っつきながらだけど。内容は真剣。そのアドバイスをバクゴーは──
「今のはらしくない判断ミスですよ勿体ない。さぁ立った立った」
「つんつんすんじゃネェ殺すぞ!」
「それブーメランでは……? いいですかバクゴー、今のは高く跳びすぎです。こっちに余計な時間を与えました」
「…………」
「私の真上、せいぜい三メートル。そこまで最短で行って──」
すぐさま実行する。
「──垂直に落ちてくれ
「
「講評中でしょうに頭バクゴーか!? バクゴーだったわ!!」
本気で慌てた様子のリナリナと、殺気を振り撒いて緑谷くんを怯えさせるガミさんと、一斉にブーイングするクラスメイトと。
対して私は、もちろんバクゴーを責める気持ちもありながら──それと同じくらいにスゴいと思ってしまった。
だってリナリナのアドバイスって、的確ではあるし簡単に言ってくれるけど無茶振りなことが多いんだもん。光曲げろとかTKG騙せとか*1 。
それをバクゴーは言われてすぐにやってのけた。
リナリナが見失うほどの速さで頭上を取り、減速なんかには少しも時間を使わずにカクンと真下へ方向転換──ううん、加速。更にボールを狙って爪を振り、避けられた後も両手両足で着地して隙が少ない。
横向きの速度がある空中で、しかもリナリナが言った三メートルより幾らか低い位置から、真下に加速しつつちゃんと着地……? 反射神経とかどうなってんの。あと身体にかかる
なにあれ才能マンかな。
このクラス才能マン多すぎじゃない?
……あんな超人の世界に、私もいつか追いつけるんだろうか。
バクゴーであれならリナリナやガミさんなんか私とは住む世界が違い過ぎるんじゃ──いや。
いーや。何を弱気になってる。
それでも勝ってやるって、負けないぞって、決めたんじゃないか。ここで意地を張らないでどうする私!
「ププゥー! 卑怯な上に避けられてバクゴーどーんまい!!」
「ンだと上等じゃねえかゲーミング裸族がァ!!」*3
──ええい、バクゴーのことなんかどーでもいいや。
準決勝第二試合。私の相手は、ガミさんだ。
中間試験の前、透が私達に“お披露目”した時のこと。
「そんなこと言われると意地でも驚かせたくなっちゃうね! 次の訓練でお披露目するつもりだったけど、ちら見せしちゃうんだから」
彼女が何も無い空間を撫でるようにしてから「そぉい!!」と気合いを入れると、
「……んんん?」
周りからぐるりと眺めたりしながら、みんなで首を傾げてしまった。
見た目上は光を全く通さない薄い布みたいに見える。でもそれは歪んだ形で空中に静止しているし、扇いでみても揺るぐことなく、手も突き抜けてしまう。透だけはそれを動かせるみたいだけど。
真っ黒な
「とうっ!」
次に透は腕を横に振って平らなエリアを指定し、『固体を通さない』空間にした……らしい。
「あんまり丈夫じゃないけど軽いものなら乗せられるんだよー」
目には──透を見えない方の目では──何も無いようにしか見えないのに、ひょいひょいとそこに乗せられた物はそのまま空中に静止して……って、ちょっとちょっと。
「手近にあるからって人の下着で試すのやめない?」
「普通の服だと割れそうな位ヤワなんだもん」
確かに下着を重ねていったらそれだけで効果が解けて床に落ちてしまったけれども*4 、その直前に面白いことに気がついた。
「……んんんんんん!?」
効果が解ける前から
私もだけど百の検証熱が再点火してしまった。だって色々応用が利きそうじゃないか。
「え、音を通さないとかもできるの? 透も忍者になるの?」
「海水から塩分だけ濾し取るということも?」
「ていうか酸素を遮断できたら人間なんてすぐ無力化できるよね」
「微生物や病原体を取り除けるかどうかも──」
などなど他にも。
「そんないっぺんに言われても分かんないよー!」
透自身も試行錯誤を始めたばかりだったわけで、それも当たり前だと百と一緒に頭を下げた。気にはなるけど焦っちゃダメだね。
焦らずじっくり時間を使って、透がまずしてたのは英和辞典をめくることだったけど。
偶然というか幸運なことに、相澤先生が指定したルールはとんでもなく私に有利なものだった。
「〔
光は通すけど固体を通さない防壁。これならガミさん側のカメラからボールを隠さないからロボット審判は反則を取らない。
もちろんガミさんはこれを叩き割ろうとするけれど──
「あー、そういう……嫌いじゃないですよ、透ちゃん」
「嫌われたってやるもんね!」
「んふ♡ リナちゃんも嫌いませんから安心してください!」
ガンガンと叩かれてもこの〔不透膜〕は解除されない。
下着を乗せただけで解けちゃったデモンストレーションは一番強度が低いヤツだ。リナリナやガミさんに食らいつこうと思ったら何もかも教えちゃうわけにはいかなかった。
どれだけ硬くできるかは誰も知らない。
……ていうか私も知らない。
今のところ割られてはいない、これを信じるだけだ。
『どんだけ硬いのアレ……? あ、被身子がしびれを切らしましたね』
私の周りをびゅんびゅん跳ね回っていたガミさんが少し離れて、助走をつけて体重を乗せてくる。これを防げるならこの〔不透膜〕は充分信用できるってこと。
パァン、と。
ボールが割れた音はひとつだけ。
『透、すごい……!』
『あの神速から先制点とは!』
この防壁の硬さを確かめるために、ガミさんはボールを一つ捨てたんだと思う。それくらい攻撃に全振りしてきた。
私は手堅くそれを拾わせてもらって、しかも〔不透膜〕は保ってくれている。これなら!!
『それにしてもあの面妖な護りは一体』
『えーと……目に見えない壁を使って防御してる、と思って下さい』
『む。その壁で完全に覆っていると?』
『そんな感じです。お陰で──透はもう防御を捨てて攻めまくってますね』
『それは……いや…………うむ、なんでもない』
ガミさんからは割りようが無いこの状況、解説の常闇くんは納得いかなそうな呻きを漏らした。ズルいような気がしたのかも知れない。
自己解決してくれた通り、審判が違反って判定しないことが全てなんだけど。
『あれほど堅牢とはな』
『さっきので割れないとなるとね……』
位置も輪郭も見えないから、常闇くんの傘を破ったようなテクは多分使えない、と思う。今は防御は考えない!
「やっ! はっ! たぁ!」
「ぐぬぬぬ……!」
『透が攻める! 被身子は防戦一方! 現在のスコアは二対三!』
ガミさんが何か打開策を思いつく前に、一気に決めちゃわないと!
お披露目の時に伏せた
次話、『渡我被身子:* i * ing』。