【完結】愛慾のヒーローもどき   作:土屋 四方

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 改めて危うし、【OFA】の秘密。


8. 緑谷くんの秘密(おかしなこせい)(真)

 中間試験後のある日のこと。

 

「二人ともごめん、今日はちょっとお父さんと話す間、席外してもらってもいいかな。他の人の“個性”で聞きたいことがあるから」

 

 カリナが実家と──特に父親(たろう)と──連絡を取る時は、性欲弾劾裁判の為であったり検証結果の報告であったりと、【自己再誕】にまつわることが多い。それはカリナ自身だけでなく被身子たちにも影響することだから、三人並んで通話するのが日常的だった。

 しかしこの日はカリナ一人で画面と向き合う。

 

 

「体育祭の時にした、他人の個性因子──“超常機能体”らしきものを視認してる可能性の話、覚えてる?」

『【高速発動】の影響と思われる件だね。何か変化があったのかい?』

「ううん、私に変化はない。気になる()()()()のことで意見が聞きたくて」

 

 被身子たちが今のカリナを見れば冷たい印象を抱くかも知れない。中学校に上がる以前、社交性にかなりの難があった頃のカリナは家族に対してもこんな具合だった。別に不機嫌などということはなく、他人の心情への気遣いがゼロなだけだが。

 また、周りに通じにくいという理由で普段は封印している超常生理学の用語も一般向けに言い換える必要が無いのでそのまま使っている*1

 

「何が視えてるのか分からなかったから、意識的に多くの人を観察してみた。そしたら一般化できそうな特徴が一つ見つかったんだ」

 

 “被身子や百は満遍なく全身が。太郎は内臓全般と中枢神経が。マーサは胃の辺りが”。

 体育祭の時はそのように報告していたが……これは正確ではなかった。

 

「“全身に均一に遍在”してる人は……基本的には、見つからない」

『被身子さんと百さんは均一と言っていなかったかい?』

「見えにくいだけで偏りはあった。被身子は外皮というか、外から見える場所。百は脂肪細胞」

『なるほど』

 

 被身子は口の中を覗かせてもらうと差異が見えやすかった。ある一本の歯でも、外側に因子が多く内側には少なかったのだ。

 他の誰に目を向けても、全身がぴったり同じということはない──ある一人を除いて。

 そして因子の偏りと“個性”の間には納得のいく因果関係が観察された。これも問題の一人を除いて。

 

『その一人というのは──』

「待って、“逆のもう一人”のことも先に話しておきたい」

『逆、というと……どこか一箇所に局在している?』

「そう。例外一名を除けば、ある程度は複数の器官に跨るのが一般的」

 

 分かりやすい例は相澤消太だろうか。彼の【抹消】は明らかに両目から放たれる“個性”だが、カリナの感覚では目の奥の視神経らしき部位まで含めて“超常を発動するための体組織”だ。

 峰田であれば髪の毛だけでなく頭皮や毛根を含めて【もぎもぎ】を構成しているし、口田の【生き物ボイス】も声帯だけが“超常器官”なわけではない。

 単一の器官が独立して成り立たせている“個性”など見つけられなかった──これもまた、一人の例外を除いて。

 

 あわせて二人の例外。

 あるはずの(かたよ)りが無い“不偏”の少年が発揮する“個性”は、不可解にも身体の一点から発せられる。

 

「塗り潰したようにのっぺりとムラがないのに()()()発射される【ネビル(青山)レーザー(優雅 )】。そして──」

 

 極端に偏った中心点、無いはずの極点がある“局在”の少年は、逆に全身に“個性”を行き渡らせる。

 

「──そして、()()()()()()()()以外は一切の“()()()()()()()()()のに全身で発揮される【超パワー(緑谷出久)】。

 この二つの事例(サンプル)をどう解釈したものかな、と」

 

 敵対的にも響く物言いだが、カリナは別に疑いのようなものは──緑谷が透に向けたようなものは──抱いていない。ただ不思議に思っていて、外に漏れない会話に不要な体裁(タテマエ)を省いてはいるが。

 

『うん? 聞き覚えのある名前だ』

「どちらも四月に──入学直後の“個性”把握テストの後に、『“個性”が濁ったような印象』として名前を挙げてる」

『あぁ。関連性が気になるところだけど』

「不明」

『それもそうだね』

 

 

 ……口には出さないものの、カリナと違い太郎には連想するものがあった。

 全身を塗り潰されたかのように均一というだけでも不自然で人為的な上、観察される作用(ヘソから)にも合致しない。となれば“不偏”の少年は──『与えられた』可能性がある、と。

 

 ただしもちろん太郎にも知らないことはある。

 

『じゃあ最後に、その“局在”について聞こうか』

「ん。とは言えはっきりは分からないんだけど。緑谷くんの“発動体”は胃の中にある。それも──鉤虫(こうちゅう)とか()()()とか、もしかしたら腫瘍か何かみたいに小さな何か。彼の中で、ソレ()()が超常なように見える」

『な……?』

 

 超常生理学においても──というよりこの名前自体が──『“個性”もまた身体機能には違いない』ことを原則としている。

 眼球だけでなく視神経、毛髪だけでなく毛根……複数の組織に跨って超常が宿っているとの見方は実に自然だ。対して胃の中の極小の組織()()とは何とも不可解な話。

 ならばその力はどうやって全身に運ばれるというのか?

 

 カリナが凍死しかけた後に聞いた、『他人の“個性”を奪い・使い・与える』という巨悪(AFO)の“個性”。あれもオールマイトの言葉でなければ信じ難かったが……その際も聖火(【OFA】)の秘密までは聞かされていない。

 流石に推測だけで解き明かすのは無理があった。

 

 

 

『まず最初に。カリナ、既知の事実から推測を組み立てるのは重要なことだけど、僕らが識っているのは事実の一部に過ぎない。決めつけは危険だよ』

「はい」

『よく、“個性”だって身体機能だなんて言われるけどね。そしてそれは実際に普遍的な原則だと僕も思っていたけれど。それに反して見える事例が、現に二つも見つかったわけだから』

「え…………うん」

 

 父親の言葉に、カリナは二重の意味で驚いた。

 一つには、【高速発動】の影響らしきあやふやな感覚をもっと疑われるだろうと思いきや『事例が二つも』と丸呑みにされたから。

 もう一つは『“個性”だって身体機能』という大原則を疑ったことがなかったから。

 

 ──仮に身体機能()()()()として、ではソレ("こせい")()()有する機能なのか? 実体は何処に在るのか?──そんなものは無いとでも?

 

『今言えることは多くない。できれば精密検査を受けて欲しいけど、カリナからそれを勧めるのも難しいだろうし、何か健康に害があると推測できる根拠も無い』

「ん、んー……そうだね」

 

 カリナは少し考えてから頷いた。【ネビルレーザー】にも【超パワー】にもあからさまなデメリットはあるが、強引に病院に連れて行くほどではないと考えたからだ。

 連続使用すれば一時的な痛み程度はありふれたものだし*2 、緑谷の負傷は激しかったもののフルカウルを身に着けた今では精力の制御不全だったと考えられる。

 

『その“局在”の緑谷くんについてだけどね。仮にそれが身体機能ではないとしたら、これは全く不可解だから何の予想も立たない。やはり身体機能であった場合の方が危険なように思える』

「…………超常器官じゃない体組織が、無理やり超常を発揮()()()()()()ってこと?」

『かも知れない。カリナの感覚で分かる範囲だけでも、異常がないか気を配ってあげられるかい?』

「……できる範囲で」

 

 真剣な答えにうんと頷きながら、太郎は軽く手を打ち合わせた。硬い話はそろそろ切り上げようという合図だ。

 

『ま、全然何の危険も無いかも知れないし。他の可能性も幾らでもありえるよ、超常なんだからね』

「超常なんだからかー…………」

 

 考えても無駄、という袋小路でもある。これがあるから多くの者は『“個性”とは何なのか』という問いに匙を投げる。

 カリナも諦め処というものは学んでいた。

 

 もちろん太郎も答えなど持ってはいない。

 ただ愚直に、実際に存在する人や起こっている現象をできるだけそのまま記録し/分類し/比較する──未来へ向けて。

 超常生理学などと名乗ってはいるが、実態としては超常博物学に近いことこそ、兵怜太郎のライフワークである。

 

 


 

 

 少し前、透からファザコン呼ばわりされた。百も以前から薄々そう感じていたらしい。

 私は否定するわけもなく、堂々と胸を張るタイプのファザコンだ。

 

「子供の頃にも何度か言われたの、忘れてるわけじゃないんだよ。ただどうもお父さんは“個性”のことなら何でも知ってそうな気がしちゃうっていうか」

『父親としては嬉しい限りだけど、自信過剰に喋り過ぎたのかなぁ……? 僕が知らないことは幾らでもあるし、それを知っている人だって──……』

「? お父さん?」

『……カリナももう高校生だし、伝えても大丈夫かな。僕が知らないことを知ってる人は、確実にいるんだよ』

「? そりゃ、居るんだろうけど……?」

 

 無知の知。悪魔の証明。統計上の暗数とか外れ値の扱いで起こる錯覚。

 そういうのを踏まえたら一人の人間が全てを識るなんてありえない。それは確かだ。

 でも今のお父さんの言葉はそういう一般論とは違う。もっと具体的に、“個性”の秘密を知る人物を想定しているような言い方だった。

 

 お父さんが師と仰ぐ──多くは故人なので一方的な尊敬──学者さんの内の誰かだろうか。

 そんなことを考えていた私の暢気な脳は、ハンマーのような驚愕に襲われる。

 

『これは彼の了承を取れているから言うんだけどね。根津くんは“()()()()”だったんだよ』

「──は……?」

 

 実験……()()………………?

 ──それは、確かに、言われてみれば。

 

 

 幼い頃から図鑑が絵本代わりで、ありとあらゆる──もちろん実際のバリエーションのほんの一部だけど──“異形型”の写真やイラストを見てきたせいなのかな。

 今この時まで、『根津校長がヒトではない』という意識さえ薄かった。もちろんヒトだって思い込んでたわけでもないけど……ヒトかヒト以外かと考えたこともなかったのだ。

 

 お父さんと校長先生の間に昔何かあったらしいのは察してたけど。大人同士の話だから特に興味なかったし、そんな深刻で物騒な過去は思いつくわけがない。

 

『僕は彼を実験に使()()なんてできなかった。だから脱走に手を貸して──職を失って、薬学の道を断たれたんだ』

「…………お父さん、薬学なんてやってたんだね」

『それは結果オーライなんだけどね。救急医になってなかったらマーサさんと知り合ってないだろうし』

「お父さん私に話してないことがかなりあるね???」

 

 先日の、被身子達の子宮検診の件といい。検査してるよってことくらいは一言くれてもいいじゃないか。

 ジト目で睨みつけてもあっさりと流されてしまう。『一から十まで話すのを大人しく聞いてくれるほど暇じゃないでしょ』って、そりゃそうだけどさぁ。

 

『とにかく、僕には()()()()()()んだ。でもあの方向へ進んでいたら、きっと今より多くのことを知れていただろうね』

「…………知らなくても良いよ、そんなの」

『さてね。たくさんの人の命を救えるような何かが見つかってたかも』

「お父さんは別のやり方を見つけて下さい」

『う、うん。頑張りはするけどね……?』

 

 


 

 

 電話を切ってから、一つ聞き忘れていたことを思い出した。

 …………まぁいいか。“個性”に関わることとも言い切れないし。

 

 『“個性”のことなら何でも知ってそう』とかいう期待だけでも充分に重いわけで、加えて無個性っぽい人のことまで相談しだしたらキリがない。

 第一気を配るとしたらお父さんに頼まれた緑谷くんの方だ。すっごくおかしなことではあるけど、超常器官が()()()()()()()()()()()()()には“個性”のせいで起こるワケ分かんないトラブルとかはありえないわけで。別に急ぐことはないだろう。

 

 

 ──でも、本当に不思議だな。

 何度探しても超常器官が見つからないオールマイト先生は、どうして“個性”が使えるんだろう?

 

*1
どんな学問にも、その分野の研究者以外にはほとんど通じない独自用語の類は発生しがち。

*2
これは例に挙げた【抹消】【もぎもぎ】【生き物ボイス】などでも起こりうる。





◆お知らせ◆

 カリナと恋人たちの関係や不穏な伏線を散りばめてきた本作は、ここまでが第一部(オープニング)です。

 第二部からは登場人物が増えたり雄英の外での出来事が増えたり黒霧がアレなことになったりしますが、今後とも楽しんで頂ければ嬉しい限りです。
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