【完結】愛慾のヒーローもどき   作:土屋 四方

52 / 202
 ※物価についてはふんわりとお考えください。


リナちゃんが縮んだので

 体育祭が終わった後のこと。

 百ちゃんの言葉にリナちゃんが首を傾げました。

 

「デザイナーを呼びましょう!」

「…………?」

 

 あ、これマジメに何の話か分かってませんね。私の方が察しが良いなんて珍しいことです。

 

「百ちゃん、普通はお店に買いに行く物なんですよ」

「それではサイズが合わないでしょう。こんなに筋肉質なお子さんはおりませんわよ」

「だからってフルオーダーの服なんて普段着にできませんって」

「えっ、あっ、服の話!?」

 

 リナちゃんが目を剥くのも無理はありません。だって百ちゃんの言う通りだとして、百歩……八百万(はっぴゃくまん)歩譲って人を呼びつけるとしても、それは仕立屋(テーラー)さんでしょう。なんでわざわざデザインから新しく起こすんですか。

 

「そんな時間のかかることしてないで、とりあえず今のサイズである程度は買わないと」

「その為の外出着さえないではありませんか。人を呼ぶしかございませんわ」

 

 ちなみにヒーローコスチュームはデザイン会社でお直し中。制服だけは『貧乏人の知恵やで!』とお茶子ちゃんが応急処置をしてくれて、新しいのが届くまではそれでしのいでいます。

 ──その仮制服で買いに出れば良いと思うんですけど。

 

「普段着までお茶子に頼むわけにはいかないしなぁ……」

「頼むも何も、半分ほどは既に処分しましたわよ」

「外に出られないの百のせいじゃん!?」

 

 判断が早ーい。

 リナちゃんの物を勝手に捨てるなんて普段なら許しませんけど、あのTシャツ群は止める気になりませんでした。お父様やお母様のお手製とかならともかく、既製品なのは知ってましたし。

 

「二人とも『TシャツとGパンでもカッコ良い』って褒めてくれてたのにぃ」

「別に嘘はついてないですよー」

「それはもちろん、わたくしもです」

 

 上背があって筋肉質で姿勢が良いので何を着ても大体カッコ良かったのは(多分ひいき目を抜きにしても)事実です。かつ、リナちゃんは着たいと思うような服を諦めてた面もあったのでしょう*1

 そのせいか、本当に着飾ることに注意を払わなくなってしまって。季節ごとに上に羽織るものは別として、その中は一年中をTシャツとジーンズで過ごしてましたよね。

 ──いえ、それ自体は構わないんですよ。問題はTシャツのチョイスというかセンスの方で。

 

「都合よく肝心の部分を忘れないでくださいまし。“ジャケットを羽織ってくださるなら”と申したはずです」

「え、そんなに本気でイヤだった?」

あれはない。……ですわ」

「ご…………ごめんなさい」

 

 これについては……はい。口には出しませんけど百ちゃんに同意です。

 どうなんですか、胸元に『ゆかた』とか書いてあるだけの白無地Tシャツ。それが冬になると『ダッフルコート』だったりするんですよ。別に生地が厚いとか袖が長いみたいな違いもなく、書いてある文字が違うだけ。

 流石にリナちゃんもカッコいいと思ってるわけじゃなくて、着心地は悪くないのに安くて大量に売ってたから──つまり全然売れてないんですね──まとめ買いしてあるだけとは言ってましたけど。

 

「まぁまぁ二人とも。ここは通販じゃないですか」

「「服を通販???」」

 

 二人から変な目で見られてしまいました。今回はズレたこと言ってないはずなのに。

 

 

 

 

 三人並んで、共用の大きめタブレットを覗き込んでいます。私が普段使ってるサイトにログインしてザッピングしながら。

 この二人に教えられるなんて珍しい。楽しいなぁ。

 

「へー、被身子に届いてたこのダンボール、試着したのを送り返しても良いものなんだ」

「そうなのです、私は一度も…………滅多にしませんけど」

「品数は流石ですわ」

「選び放題でいいでしょう?」

 

 服屋さんって苦手なんですよねぇ。色々話しかけられたりオススメされたりするより、サクサク決めるかじっくり悩むか自分のペースで買いたいですし。

 

「これならカリナさんが店員さんに色目を使うおそれもございませんわね……」

「ちょっと百さーん?」

 

 口には出しませんけど以下略。別に良いんですけどね、リナちゃんが本気で欲しがっても私が鎮めるだけなので。受け止めますし。

 ただそれだと多分服を買うどころではなくなります。最初から通販のが早いじゃないですか。

 

「さぁリナちゃん、どんなジャンルでもありますよ? こういうフリフリとか実は好きでしょう?」

「普段着だってば。……嫌いじゃないけど」

 

 リナちゃんの反応を見ながら、とりあえずセットになってるのを一つカートに投げ込みました。横からキャンセルされそうになるのを阻止します。

 

「ちょっと被身子?」

「さーせーまーせーんー♪」

 

 カンキキン、フェイント挟んで逆からホイ、ふふふふ読んでますよ。

 

「お二人とも、“個性”でのじゃれ合いはほどほどに」

「だって被身子が勝手に高いの選ぶんだもん」

「文句は言わせませんよ、これは私が買うんですから」

「被身子が?」

 

 ぐにゃぐにゃに伸ばしていた爪を戻して首を傾げたのは、それがSSサイズだからでしょう。もちろん私には着られません。

 

「プレゼントです♡」

「えっ、んー、あー…………」

「んふー、断りづらいでしょう?」

 

 リナちゃんは高いと言いましたが、所々ロリータ服にも近い──つまりフリルやレースが要所に使われた──この手のデザイン、上下にドレスソックスがついてコミコミ六万円はかなりお安い部類でしょう。

 デザインが工夫されてて、筋肉で角張ったシルエットも誤魔化してくれそうですしね。全くかぁいいんですから。

 

「では! わたくしからはそれに合わせたこちらのお靴を」

 

 はい来ました。

 私が選んだセットに靴は入ってないですし、このオシャレ着で足元がスニーカーとかありえないので、靴も欲しくさせちゃう目論見はありましたよ。

 そして百ちゃんが選んだ黒のエナメルチャンキーヒールは控えめながらも可愛らしく、流石のセンスだと思います。思いますが。

 

「ごめん百、六万越えの靴は受け取れない」

「基準が分かりませんわ!?」

「なかなか育ちませんねえ、百ちゃんの金銭感覚は」

 

 私やリナちゃんとの付き合いも随分長くなったはずなんですが。

 

 別にコンビニで売ってるアイスとかケーキとか食べられないわけではないんですよ。ただ実家で食べ慣れてきたスイーツとは別の、()()()()()()()()()と見てしまうようです。至ってふつーのモノなんですが。

 例えばショートサイズのケーキを三つ買おうとすると、彼女の指はまず五千円札に伸びて(多分これも成長の証ですが)、私達の視線に気付くとよーーく悩んでから千円札三枚に減らす、みたいな。正解は千円でお釣りが来ます。

 そのことに毎回新鮮に驚くんですよ百ちゃんて。かぁいいですけど危なっかしいです。相変わらず。

 

「うーん、被身子のチョイスしたようなのって、これでもかなり安い方だと思うから仕方ないかなってなるけど。百の靴はそうじゃないと思うんだよ、ほらこの辺とかさ」

合皮(ごうひ)ではございませんか」

「合成皮革? 別に構わないような」

 

 自分のプレゼントをそのまま受け取って欲しいと、百ちゃんは真剣に説き伏せようとしています。

 リナちゃんもその気持ちは受け止めていますが、品物は最初から断るつもりでしょう。百ちゃんからは()()()()()()ているので……これ以上もらうわけには。

 

本皮(ほんがわ)は長く使うほど味がでるものです。こういったものはそこまで長くもたないでしょう」

「それは、うん。そうだろうけど──」

 

 あぁ、リナちゃんが逆に説き伏せにかかるみたいです。説き伏せというか丸め込みって感じですけど。

 

「むしろ早く壊れてくれた方が、()()()()()()()()()を履けるじゃない?」

「っ! そそそそんな甘言でわたくしを喜ばせようと思っても無駄ですわよ、この八百万百、“個性”で国の経済を脅かすような真似は断じて──」

「えー? 百、私の靴を直してくれたらお金取るつもりでいたの? 私との関係ってそういうのだっけ?」

「そんなわけがないでしょう!?」

「なら経済とか関係ないよねえ?」

 

 いやー、横から見てると愉しい限りです。

 私もターゲットにされることありますけど、リナちゃんって『絶対ダメ』とか『とにかくイヤ』みたいな断り方はあんまりしなくて、こっちが喜んで他の選択肢に流れるように誘導するんですよ。ズルいひとです本当に。

 

「な、ならわたくしはカリナさんの専属修理師なのですか?」

「大切な恋人だよ」

「ですが先ほど……」

「靴なんか直してくれなくたっていいけど。百が私の為に何かしてくれて、それを身に着けて歩けたら素敵だと思ったんだよ」

 

 顔真っ赤ですね百ちゃん。かぁいくって思わずゴロゴロ転がりたくなりますけど、台無しなので頑張って気配を殺しています。

 そしてリナちゃん、幼くなった顔での上目遣いから、声だけ低いイケメンボイスとかいうギャップ技でトドメをさしました。

 

「…………百に頼みたいんだ」

「っ────」

 

 リナちゃんも愉しんでるでしょ絶対。

 必死で不満そうな表情を作っていた百ちゃんの方からキスしに行ってしまったのでKO負け。有耶無耶の内に夜の営みが始まります。

 うーん、今日はちょっとだけ二人にさせといてあげましょうかね。

 

 

♡♡

♡♡♡

 

 

「あっ服買ってない!」

「通販なら深夜でも頼めますよ〜」

 

 ふふふ、今回の私は冴えていましたね。先見の明ってやつなのです。

 

 ──え、なんですかリナちゃん?

 

「通販だとついついセクシーランジェリーを探しちゃって時間が溶けるのは悩みどころだよね」

「誰だってそーなるかのように仰らないで頂けません?」

「だってほら、オススメみたいなところに何度も挙がってくるからさ」

「…………これ、被身子さんの検索履歴ですわよ」

「えっ、被身子!?」

 

 バ、バレました。ぷらいばしーの侵害です。

 

「私こんなステキなもの着てるとこ見せてもらってないけど!!??」

「狼狽えすぎではございませんこと……?」

「だって被身子なら届いてすぐに見せて来そうだし……」

「や、あの、違うんです。買ってはいないのです」

 

 買ってないからバレやしないと思ったのに。チェックしただけの商品まで勝手に見せるとかなんなんですか。

 

「その…………サイズが…………」

「「???」」

 

 またしても二人揃って首を傾げられましたが。

 カリナちゃんはまだ良いですよ。おっぱいのサイズなんか星の数ほどある興奮材料の一つに過ぎないので、『どうしてそんなこと気にするの?』という意味なんでしょう。

 でも百ちゃんは。中学時代から更にどぱーんと大きくなった百ちゃんは。

 

「百ちゃんならこういうえっち下着似合うじゃないですかぁ!!!」

「着ませんわよ!? というかこれ、似合うとか似合わないとかあるんですの……?」

「確かに大きめのモデルさんが多いかもね。でも被身子だって小さくはないんだよ?」

「寄せたり上げたりしてコレですから。スケスケ下着、パワーなさすぎです」

 

 私が良いなと思ったのはワイヤーレスでカップ部分もレースだけという保持力ゼロなやつで。

 なんだかひどく悲しい気持ちになったものです。『これまで私が自分のおっぱいだと思ってたのは作られた山だったんだなぁ……』と実感させられたような。

 

「あ、これ一度買って返品したって印ついてる」

「あーはい、それです唯一の返品」*2

 

 もう隠しても仕方がないので観念します。願わくばリナちゃんにこういうの着て欲しいですが──

 

「じゃあこれ私が買うね」

「着てくれるんですか!?」

「え、被身子にお返しのつもりだったんだけど」

「えぇ……リナちゃんが言うなら着ますけど……」

 

 リナちゃんは自分の端末からサイトにログインして、私が諦めたランジェリーを既にカートに入れていました。

 

「あのね被身子、よく聞いて」

「はい」

「こういう頼りない下着はね、『恋人(あなた)の手で支えて欲しい♡』ってメッセージなんだよ」*3

 

 ──はっ。

 気がついたら購入完了画面になっていました。リナちゃんの手は人差し指だけ伸ばした状態で私に握られていて、どうやら操作したのは私のようですね。

 それにしてもそういうことでしたか。反省です。

 

「リナちゃんはなんでも知ってますね……♡」

「被身子の魅力はまだまだ教えて欲しいよ?」

 

 それは是非とも知ってもらわなければなりません!

 

♡♡

 

 ──なんだか百ちゃんが深刻に悩んでいると思ったら。

 さっきのランジェリーのお値段が不可解とのことでした。あー、アレはガチな勝負下着というよりコスプレグッズとして売られていたものですから。激安というか、下着の水準で比べるものではありません。

 こう考えると確かに、『金銭感覚』って学ぶのも教えるのも難しいですね?

 

 

♡♡♡

 

 

「結局! 服を! 買ってない!!!」

「不思議ですねぇ♡」

 

*1
34話『赤い涙を見た人は』

*2
※試着するまでもなく硬さゼロなことに気付いたため。

*3
諸説あり

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