オイラ、雄英高校一年A組の峰田実。
だけど今日は日曜日、学校を離れた今は出逢いを求める愛の
分かっていたこととは言え、雄英の授業ってやつはキツい。たまに拷問かと思うぜ。身体を休めることも大切とか言うくせにその間は頭を鍛えようとするし、何かってーとプルスウルトラだしよ。
つまり休日に心と体を休めることはメチャクチャ重要。そしてやって来たのは木椰区ショッピングモールだ。
デカい、新しい、人が多い! イコール
まぁ同じ狙いで競合するヤツも多いし、一度なんか上鳴の野郎とカチ合っちまったこともあるが。仲良くフラレて一緒にカラオケ行ったのもアレはアレで楽しかったからアリだろ。
そんなわけで、ナンパの成否はそれほど重要じゃないわけで──勝率とか訊くんじゃねーぞ──、キレイなお姉さんや可愛い女の子を眺めて心に潤いを取り戻せればいいっちゃいいわけだが。
その日、オイラはキレイな女子や可愛い女子のせいで逆に疲れちまったのさ。
それは悲鳴みてーにも聴こえたが、昂りから出た叫びなのはすぐに分かったし──
「んぎゃわ゛い゛い゛ぃ゛ぃ゛っっ!!」
「と、透ちゃん声おおきいよっ!」
──何よりそっちに目をやれば叫びたくなる気持ちも分かるから、周りもパニックになったりはしなかった。
まぁ葉隠のやつの声自体はビミョーに可愛くなかったが。
ともかく、一団の中心にいる
黒いサラサラセミロングはまぁウィッグか何かだとして。
私服がこういう系なのは意外だったぜ。いや、パイセンが何処か自慢げに見せびらかしてるっぽいから初お披露目なのかも知れねぇな。
カジュロリ──っつーほどロリロリはしてねーが、襟の立ったブラウスを上まで留めて首周りの肌は出さず、代わりにフリルとリボンで視線を集める。更にエプロンっつーかディアンドル*1 みてーな肩紐の傾きが肩幅を目立たせない。
ハイウエストに紐が組み合わされてて絞られてるように見えるが実際は逆にくびれを隠す腰回り。控え目に広がったロングスカートは落ち着いた深緑色で、さりげなくあしらわれた刺繍は華やかさと高級感を演出している。
長い? なら一言でまとめよう。
めちゃくちゃ品のある小学生、だ。わりーけど高校生にゃ見えねぇ。
本当に兵怜ちゃんかと疑うレベルだぜ。だが間違いない。
立てた人差し指を葉隠の顔に──たぶん唇に──押し当てるようにして黙らせながら、もう片方の手は恋人繋ぎにして、しかも軽く背伸びしながら上目遣いという“あざとさ”を分かってやってるあの表情。横から見てる麗日まで赤くなってんじゃねーか。オイラは寿命が伸びた。
そんな麗日を心配するようなそぶりで次のターゲットにする様子は普段よりもかなりハイテンションで、オシャレを楽しんでるように見える。オイラは寿命が伸びた。
──が。
あまりにもガン見し過ぎちまったのか。いや、かなり離れてるし他人も大勢いるから分かる方がおかしいと思うんだが。
兵怜ちゃんはオイラと目を合わせ、何ごとか呟いた。聴こえはしねーが恐らくこんなことを。
「あっ、ミネタじゃないですか」
(ちょっと前まで『峰田くん』だったはずなんだが、中間の後あたりから呼び方が変わった。たぶん心の距離が縮まったんだろーぜ)*2
オイラがいるの、広場を──たくさんの女子を──見下ろせる二階の回廊だぜ? その
などと狼狽えていたせいか、気づけば同級生女子に囲まれていた。オイラは寿命が縮んだ。
「はじめまして、実さん」
「やめてくれよバレバレなんだよ!」
「おや残念」
兵怜ちゃんは楽しそうっつーかフレンドリーなんだが。周りが怖えんだよ主にパイセンが。
「オイラは壁だからよ、壁でいさせてくれよ、百合が見られれば満足なんだよ」
「別にミネタを間に挟むつもりは無いです」
「じゃあ放っといてくんねーか?」
「気付いておいて無視するのも……それに」
ぽそりと小さく。お詫びもしたいですし、と。
──イカ臭さの件で?
──イカ臭さの件で。
目と目で通じ合っちまったよ。全然うれしくねぇ。
「お詫びったってどーすんだよ」
「…………ごめんなさい、よく考えるとミネタの喜びそうなことは提供したくないです」
「なに想像しやがったコラ。オイラにも見境くらいあるわい」
「説得力は無いですね」
と、兵怜ちゃんの言葉は演技っつーか茶番っつーか、まぁ本気で責めてはいない感じなんだが。
「しんぴょーせーも無いです」
「人権も無いよ」
パイセン真顔。葉隠そんな低い声だせたのか。
「みんな言い過ぎちゃう?」
「そうですわ皆さん」
麗日は心配してくれてありがてぇ。八百万は許さん。
「うーん、といっても男子が喜びそうなものなんて……あ、そうだ」
兵怜ちゃんは兵怜ちゃんでマジメに考えてくれてたっぽいんだが。結果でてきたアイデアがひでぇ。
「私たちの使ってるシャンプーとか知りたいです?」
「色んな
「えっ……!?」
「意外そうにすんなや!?」
「あっはっはー」
明るく笑うが、他の女子はぽかんと置いてけぼり……いや一人だけ理解ってるパイセンすげーよ。このお人なら兵怜ちゃんのシャンプーくらいは(商品名
「いえね、ちょっと事情があって良いトリートメントを探してるんです。ミネタの“個性”は髪の毛なので、詳しかったりしないかなと思って」
「そういうことなら……って、その話の枕にグルシャン持ってくんじゃねーよ」*3
「いやぁ男子にヘアケア用品聞くのも恥ずかしいかなと」
「羞恥心の方向性がおかしいんだわ」
オイラの言葉に、今度は四人がうんうんと頷いた。一人だけきょとんと首を傾げて──これどこまで冗談なのか分かりゃしねえな。
「つーかそんなの女子だって詳しいもんじゃねーの? あー、兵怜ちゃんは普段短めだからともかくよ」
「そもそもなんでトリートメントなんです?」
「リナリナ別に髪いたんでないよねえ?」
おいおい、パイセン達にも相談してねーことをオイラに持ち込むなや。ちゃんと百合々々しろ。
「カリナさんの髪ならわたくしにお任せ頂ければ」
「私の髪じゃないし、今回はとにっかく安いのを知りたいから百は守備範囲外だと思うよ?」
何やら八百万の金銭感覚がぶっ飛んでるみてーな話で盛り上がり始めた──飛び交う金額はともかくオイラの寿命は伸びた──が、ともかく兵怜ちゃんがどうしてトリートメントを探してるのか誰も知らないようだった。
……その理由をオイラが聞き出すっつーのもこえーな。さっさと用を済ませて退散すんべ。
確かに【もぎもぎ】は髪の毛だ。だから普通の髪よりはたぶんタフなんだが、速く伸びるように頭皮の脂をがっつり洗い落とすとさすがにちょいと傷む。んでそれは粘着力に直結するもんだから、まぁまぁ手間暇かけて手入れはしてんのよ。
ぱっと見がボールなほどの髪ってよ、量ヤバいんだぜ。シャンプーからトリートメントから、ボトル単位で消えてくんだわ。
だからまぁ、オイラに訊いたのは間違いじゃねーんだぜ。
幾つかのオススメを伝えると兵怜ちゃんはメモを取って、改めて頭を下げた。
「ありがとうございます。良かったらこれどうぞ」
差し出されたのは……あぁ、ここで買い物するともらえる福引きの券か。そこそこの枚数だ。
恐る恐る手を伸ばしながらパイセンの顔色を窺うと……『それなら認めましょう』的に頷かれる。赦されたらしい。
「どういたしましてだぜ。ありがたくもらっとくな」
ふぅ、これでやっと離れられる。こいつらがイチャイチャしてんの、見てる分には良いけど巻き込まれたくはねーや。上鳴辺りに愚痴ったら『自慢かこの野郎!』とか羨ましがられるんだろうが──
「で、グルシャンとはなんですの?」
「あとでね百、ここで話せるようなことじゃないから……」
「は? 彼はそんな単語を公共の場で口にしたのですか」
「待って待って私が言った冗談がもとだから!」
──こんなの好き好んで巻き込まれるほどオイラは